新刊本が値引される場面って?

 こんなニュースを見た。

ネット通販大手のアマゾンが大学生などに対し、書籍の価格の10%をポイント還元しているサービスが、「事実上の大幅値引きで再販契約違反にあたる」として、緑風出版晩成書房水声社など中小の出版社が、アマゾンへの出荷停止を相次いで決めた。
2014-4-18 朝日新聞デジタル:アマゾンに抗議、出荷取りやめへ 中小出版社

 ブックマークを見ると「大学生協だって値引きしているのに、どう違うのか?」という指摘がいくつかあった。そう言えば大学生協に限らず、定価以下で新刊本が売買される場面というのは目にしない訳でもない。それぞれどんな仕組みになっているのか、ちょっと調べてみた(以下、素人なので誤解があるかもしれない)。

出版社が書籍・雑誌の定価を決定し、小売書店等で定価販売ができる制度です。独占禁止法は、再販売価格の拘束を禁止していますが、1953年の独占禁止法の改正により著作物再販制度が認められています。
日本書籍出版協会ホームページ*1より引用)

 ふむふむ。つまり大元の根拠は独占禁止法*2で、「原則的には再販売価格の拘束はNG→著作物については例外的にOK」という仕組みらしい。具体的な条文は第23条。

第二十三条  この法律の規定は、公正取引委員会の指定する商品であつて、その品質が一様であることを容易に識別することができるものを生産し、又は販売する事業者が、当該商品の販売の相手方たる事業者とその商品の再販売価格(その相手方たる事業者又はその相手方たる事業者の販売する当該商品を買い受けて販売する事業者がその商品を販売する価格をいう。以下同じ。)を決定し、これを維持するためにする正当な行為については、これを適用しない。

 以上を頭におきつつ、各種の値引きについて考える。

 上に述べたように再販制度自体が独占禁止法の例外規定によるものだが、実はこの例外にはさらに例外があるらしい。同条5項で

第一項又は前項に規定する販売の相手方たる事業者には、次に掲げる法律の規定に基づいて設立された団体を含まないものとする。

とあり、生協の根拠規定である消費生活協同組合法*3が挙がっている*4。つまり生協は「例外の例外の例外」だから再販売価格決定に従わなくてOK、ということのようだ。げにややこし。

  • バーゲンブック

 料理本などが格安で売られているのを見ることがある。書店よりも、ショッピングセンター内などで多い。これは「バーゲンブック」というものらしい。出版者の許諾によって成立しているもののようだ。

発売時から定価販売してきた書籍、雑誌について出版者が非再販と決め、値づけを流通側に任せることを時限再販という。時限再販本は、バーゲンブック、自由価格本、謝恩価格本などと店頭やインターネット上で表示されている。
kotobank掲載の「知恵蔵2014」解説より一部引用*5

  • 図書館での購入契約

 年度替わり近くになると、各地の図書館で資料購入に関わる入札のお知らせが多く出る。どこで買っても同じ価格であるはずの図書購入について入札を行うというのは何を競争させるのか、一見不思議に見える。しかし仕様書の中身を見てみると、価格そのものの代わりに値引率で競争することになっているようだ。たとえばこんな具合。

入札書記載に関しては、図書等の本体価格に対する値引額の割合を入札金額とし、小数点以下第1位まで、「〇〇.〇%」のように記載すること。
※値引後の額には、別紙に定める付帯装備に要する経費も含むこと。*6

 上記の場合、本を図書館の資料とするための装備*7の経費も含める形式となっている。その分も値引と言えば値引だろう。
 これはいちいち出版者に断っている訳ではないだろう*8から、大口顧客である図書館との契約を取り付けるために、販売者側がサービスすることで成立していると思われる。

  • 著者割引

 自分の書いた本を安く買える「著者割引」というものがあるらしい、と聞いたことがある。xiao-2は本を書いたことがないのでよく分からないが、一応世の中にあることはあるようだ。

Yahoo!知恵袋「先日、とある本屋さんでバイトしていたところ、お客様に 「著者割引はしていない...」
岩田書院ホームページ:【著者割引の新方式】

 オフィシャルな規定があるものではなさそうで、定義も含め実態ははっきりしない。おそらくは出版者がサービスすることで成立しているのだろうけれども。

 改めて調べてみるとなかなか興味深い。他にはどんなケースがあるだろう。

*1:日本書籍出版協会ホームページ:書籍・雑誌の再販制度(定価販売制度)とは?

*2:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

*3:消費生活協同組合法

*4:ちなみにこれは自分で見つけたのではなく、たまたま引っかかったこのブログによる。THE KINGDOM POST:大学生協の本はなぜ安い? 〜書籍の再販制度を問い直す〜

*5:kotobank.「バーゲンブック」の項

*6:ネットで見つけた入札仕様書いくつかから要約。いちいちの出典は書かないが、Googleで「図書購入 契約」等で検索すれば似たようなのが色々出てきます。

*7:具体的な作業内容は、『図書館情報学用語辞典』第2版によれば「装備 preparation 所蔵を表すために蔵書印、登録印などを押す。請求記号を示す図書ラベルの貼付、表紙の薄いペーパーバックや児童図書など利用頻度の高い図書を補強するフィルムの貼付、返却期限票やバーコードの貼付作業など」。

*8:そもそも入札の時点ではまだ買う本も決まっていない訳で、事前に断ることは不可能