日本図書館研究会図書館資料保存研究グループ例会「大日本教育会による図書館設立活動」に行ってきた。

 こういうのに行ってきた。

2016年11月19日(土)
日本図書館研究会図書館資料保存研究グループ例会
発表者:嶋崎さや香氏(大阪樟蔭女子大学
テーマ:大日本教育会による図書館設立活動

 最初に司会による講師紹介。嶋崎氏は、教育界による図書館経営を研究されていて、2015年度の日本図書館研究会で図書館研究奨励賞を受賞されたそうだ*1

 という訳で、以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。誤記・誤解があると思うので、きちんと知りたい人はご本人の論文などを読まれることをお勧めする。当日の参加者は10名ちょっと。

  • はじめに
    • これまで滋賀県の八幡文庫、信濃教育会の図書館などを研究テーマとしてきた。
    • 明治30〜40年代は、全国で図書館の数が一気に増加。教育会によって作られたものが多い。日本の公共図書館の発展を考えるうえで重要な要素。
    • 教育会図書館の模範とされたのが大日本教育会付属書籍館*2竹林熊彦の詳細な研究がある。
    • 竹林の研究を見直し、以下の4点について検討する。
      • 教育会図書館の数
      • 海外の図書館情報の収集・発信
      • 国内の図書館情報の収集・発信
      • 寄付された本
  • 竹林熊彦論文の確認
    • 竹林論文「大日本教育会書籍館」(『図書館雑誌』1937.6.7)の章立てをまず確認。12章にわたる。
      • 依拠した資料は『官報』『文部省年報』その他。
      • このうち付属書籍館の設立過程を取り上げているのは1-3章。「教育的意義を有する図書館」「模範的通俗図書館」と定義。東京に東京図書館しかない明治20年に設立した付属書籍館の意義を指摘。
      • 付属書籍館の規則や規模にも言及。
    • 新たに検討すべき課題。
      • 1、同時代の他の教育会図書館との比較。
      • 2、大日本教育会の、書籍館関連情報の収集と発信の様子。機関誌をもとに。
      • 3、竹林論文で取り上げられた人物以外の、書籍館への関与。
  • 教育会が設立した図書館数
    • 『近代日本公共図書館年表』から、明治18(1885)〜大正元(1912)年の、全国の教育会図書館の設立数をまとめる。
    • 明治20(1887)年、大日本教育会付属書籍館ができた。この年を初めに、全国で教育会図書館が増加。特に1900年頃からペースアップ。
    • ただし、全国の図書館数における教育会図書館の割合は未確認。
  • 『大日本教育会誌』『大日本教育会雑誌*3』に見る書籍館関連情報の収集
    • 日本教育会の機関誌から「書籍館」「図書館」「文庫」「縦覧所」などの言葉を含む記事を収集した。
    • さらに内容から4種類に分類。
      • A:付属書籍館に関するもの
      • B:海外の書籍館に関するもの
      • C:国内の書籍館に関するもの。
      • D:書籍の寄付に関するもの。これはほぼ毎月載っている。
    • A:付属書籍館設立の前年である明治19年にようやく載る。件数も6件と少なく、書籍館について話し合ったということが書いてある程度。設立過程についての情報は少ない。
    • B:欧米の学校図書館や、欧米のそれ以外の種類の図書館に関する情報。年を追って見ると内容に変化がある。初めは学校付属の書籍館に関する記事。のちに教員の研究に資する書籍館や、公立の一般向けの書籍館に関する情報になる。
  • C:国内の書籍館情報
    • 文部省による、図書館管理や経営に関する情報が中心。東京図書館の求覧人数の統計なども。
    • 教育会からの書籍館設立呼びかけ。
  • 寄付者の構成
    • 付属書籍館の目録は、現在確認されていない。しかし蔵書内容を知りたい。なんとかできないかということで、Dの寄付情報を検討してみることに。
    • 書籍館の開館時には2万の蔵書があったとされる。
    • 『大日本教育会雑誌』明治20年4月によれば、その内訳は以下のとおり。
      • A:「辻新次会長寄贈書」1,346冊
      • B:「東京図書館借用書」14,760冊
      • C:「会員諸君ノ寄贈」冊数不明
      • D:「本会蔵書」冊数不明
    • A、B、Dについてはタイトルレベルの目録がない。東京図書館からの借用は、蔵書のうちで「学芸参考に供すべき」本以外のものを貸したとされている*4
    • 設立当初から、本の寄付の呼びかけは行われていた。寄付された本を報告する欄もあった。
    • 『雑誌』の明治16(1883)年9月から明治20(1887)年3月までの寄付欄を集計。タイトルは495、冊数は2,865、寄付者は160人。
    • 寄付したタイトル数上位30人の名前を並べてみる。なおトップは辻新次だが、これはタイトルが分からないので除外。
      • 30人中、来歴が分かる人が23人。文部省関係の人や、出版社、教科書の著者など。
      • 出版社や書誌からの寄付数が上位。
      • 会員以外からの寄付もある。
      • 在住地でいうと東京に集中。
      • ただし寄付された本が実際に書籍館資料になっていたか不明。また蔵書に占める割合が少ないので注意。
  • 質疑(メモしたもののみ)
    • フロア
      • 付属書籍館の蔵書は、いまどこかの図書館に残っているのか。
    • 発表者
    • フロア
      • 『雑誌』に海外の書籍館に関する記事があったというが、当時海外の情報を手に入れるのは困難だったはず。どのような人が書いているのか。
    • 発表者
      • 海外の教育雑誌に載った記事を翻訳したもの。書いた人が自ら海外で見聞してきたものではない。
    • フロア
      • 「図書館」などの言葉を含む記事を『雑誌』からピックアップする時は、見出しを見たのか、本文まで読んだのか。
    • 発表者
      • 本文まで読んだ。見出しだけだと、ほとんど拾えない。
    • フロア
      • レジュメ内では旧字を新字に改めて句読点を付しているが、表記にこだわりを持つひともいる。こうした扱いには神経質であるべき。
    • フロア
      • 教育会図書館というのは、学校図書館のようなものか。
    • 発表者
      • 明治後半には、基本的に通俗図書館としての役割。
      • 教育会とは、近代の始まりにあって、教育とはそもそも何をすべきか、なんとかしなければと考えた学校の先生や、地元の教育行政の関係者などによる活動。
      • 当初は会員向けに書籍を提供していたが、次第に一般の人にも提供するようになった。
    • フロア
    • 発表者
      • 日本教育会は、文部省官僚なども多く参加しており、国の教育行政とつながりがあった。
      • 東京図書館は当時利用者が非常に多く、学術的な蔵書に絞って参考図書館にしたいという意向があった。そこで学術的でない本、通俗書は付属書籍館に回してもいいということになったよう。ただし実際のタイトルは不明。
    • フロア
      • 10年後、実際に返したのか?
    • 発表者
      • 返したらしい。実際、その時に蔵書の数は減っている。
    • フロア
      • 日本教育会の、団体としての性格は。自然発生的なものか、官が絡んでいるのか。
      • なぜ図書館設立にかかわったのか。
    • 発表者
      • 国の教育の増進を図ること、各府県に教育施設を作ることを目的としている。
      • 文部官僚が有力メンバー。地元でも、学校長や地元有力者、教育行政のトップなどが入っている。草の根的運動というより、かなり組織だったもの。
      • 日本の教育が団体のテーマ。全国大会を開催したり、日本の教育課題について議論したり、文部省の諮問に答えたり。
      • 今の教育委員会とはまったく違う性質の団体。
      • 信濃の場合は、県内の教育会がまだある。ただし戦前のものとは断絶がある。戦前は満蒙開拓に積極的にかかわるなどしていた。
    • フロア
      • 竹林は付属書籍館を評価していたのか*5
    • 発表者
      • 評価していた。「その真価をはかれ」という言い方をしている。
    • 司会
      • 教育会は決して図書館のための団体ではなく、教育のための団体。その図書館活動に着目し続けるのは、図書館の人だからこそ。

 以下、xiao-2の感想。

  • 教育会図書館の話ということで、津島市の園田氏のご発表*6を思い出しながら聞いた。地域の教育会図書館についてはまだ分からないことが多いようだが、同じような研究があちこちでなされると、そのうち同時代の全貌が浮かび上がってくるのかもしれない。
  • 東京図書館の蔵書を1万冊も借りていたという話が興味深かった。官がモノを貸すなら当然書類を取り交わすだろうし、貸した本の目録くらい添えていそうなものだが、行政文書に蔵書タイトルが残っていたりはしないだろうか。…って、震災のせいで無いんだろうなぁ。
  • 内容とあまり関係のない感想。質疑で、旧字体を改めたり句読点を付すことの是非についてフロアから発言があった。どこまで元の表記を尊重するか、特にPCで作るレジュメなどではフォントの関係もあり悩むところだろう。だが元になった資料はデジタルコレクションのお陰で版面を簡単に確認できる訳で*7、古典籍だけでなく近代資料についても、翻刻で迷ったら版面をそのまま示せるというのはなかなか画期的なことなのかもしれない。

*1:詳細はこちら。日本図書館研究会ホームページ|2015年度図書館研究奨励賞授賞報告

*2:以下、この記事中では「付属書籍館」とする。

*3:以下、『雑誌』とする。ちなみに国立国会図書館デジタルコレクションで見られるらしい。残念ながら図書館へ足を運ぶ必要があるが。『大日本教育会雑誌

*4:NDLサーチで検索していたら、関係する説明が出ている資料にたどり着いた。『東京図書館一覧』p53(27コマ目)。ちなみに、この資料を紹介していたのはこちらの雑誌記事:鈴木 宏宗. 国立国会図書館の和図書. 国立国会図書館月報.. (600) 2011.3.

*5:2016/11/23補足。質問者と思われる方からのコメントがありました。コメント欄参照。

*6:2016-06-05 日本図書館研究会第320回研究例会「図書館史料の間歇に関する一検討」に行ってきた。

*7:インターネット公開になっていないのは残念なところだが。