大阪市立図書館×映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』トークイベントに行ってきた。

 こういうのに行ってきた。

大阪市立図書館×映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』トークイベント「借りるだけではもったいない!『もっと』使える!図書館」
【内容】
1.映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』予告編とダイジェスト上映
2.トーク:菅谷明子さん *スカイプ出演(在米ジャーナリスト/『未来をつくる図書館~ニューヨークからの報告』著者)
3.トーク:嶋田学さん(奈良大学教授/前瀬戸内市民図書館館長)、澤谷晃子(大阪市立中央図書館職員 / 日本図書館協会認定司書)
[終了]【中央】映画『ニューヨーク公共図書館』トークイベント 6月16日 - 大阪市立図書館

 開始時刻が10:30で定員300名。日曜の朝っぱらからそんなに来る人もあるまいと高をくくって開始5分前くらいに行ったら、なんとほぼ満員。舐めててすみません。参加者は老若男女。図書館のイベントだと、年配の人に偏っていたり、男女比が偏っていたりすることが多いので、働き盛りっぽい年代の人も割と来ているのは興味深い。
 イベントの概要は、前掲のURLに終了報告が出ている*1。以下はxiao-2が聞きとれた/理解できた/書き留められた/覚えていた範囲のメモ。いつものことながら、今回特にざっくり。

  • 館長挨拶
    • 『エクス・リブリス』配給会社との共催でこのイベントが実現した。
    • 大阪市立図書館は、蔵書420万冊、貸出冊数は年1,200万冊、入館者は年間600万人。貸出冊数は全国一。
    • 読書推進活動等にも力を入れている。
  • 映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』予告編とダイジェスト上映

 映画は全体で3時間にも及ぶらしいが、20分ほどのダイジェスト上映。解説するのは映画会社の関西宣伝担当者ヤベさん*2。以下、紹介された場面と、解説と、xiao-2の感想をごっちゃに。なお、ニューヨーク公共図書館*3はNYPLと略記する。

    • リチャード・ドーキンスによるトークイベント。正午の人気企画。無神論者はアメリカ社会の中で無視されがちであると熱弁。
    • 鳴り響く電話のベルと、ヘッドセットで電話に答えるスタッフ。人力グーグルと呼ばれる文献調査サービス。「ユニコーンは架空の動物か?」という質問に、中世の文献まで参照して答えるスタッフ。他の場面で「スペイン語の話せる者に代わります」とさらっと言っているのが流石アメリカ。
    • 建物は1911年にできた。石造りで天井の高い堂々とした建築。
    • デジタル化作業の様子。本を開いて固定し、フットスイッチで撮影。あとで補足された解説によれば、2014年の映像なので、現在はもっと進んでいるそう。
    • Wifi機器貸出を行っている。貸出ルールを説明するセミナーの様子。貸出期間が短くなった、と言っている。やはり世知辛いのだろうか。
    • 障碍者サービス。視覚障碍のあるスタッフもいるらしい。点字の読み方を教える場面。中途失明者だろうか、成人女性の手をとって点字をなぞらせている。
    • ピクチャーコレクション。ビニールに入れたりしないで、自由に利用できると説明するスタッフ。
    • 就職応援セミナー。消防士が、自分の仕事を説明している。図書館でネクタイ等も貸すそうだ。
    • イノベーションラボ。子どもがロボット工作に取り組んでいる。臨時の嘱託専門家が指導に当たる。
    • 幹部会議。「民間資金をもっと獲得すべきだ」「継続性はどうなのか」「寄付こそは我々の企画への反応であるから重視すべき」「電子書籍に力を入れるべき」「教育が本来の使命」等々、議論が続けられる。ダイジェスト版でも長いのだがら、実際はもっと長いのだろう。
    • 人気著者によるトークライブ。これは唯一有料のプログラム。これがあるからNYを離れられないと言う人もいるほどの人気企画。
    • 分館建築の説明会。建築家みずからスタッフに図書館の在り方を説く。
      • 個人的に気づいたこと。幹部会議の場面に映っていたのは、男女とも白人ばかりに見えた。他の場面では、利用者も、分館建築の説明会に列席するスタッフも多種多様。アメリカらしい風景だなと勝手に納得していたので、なんとなく印象に残った。これは映画本体を見る時に注視してみよう。
  • 菅谷明子さんインタビュー(11:00-11:30)

 聴き手はヤベさん。なんとボストンから、Skypeでの生中継。向こうは夜だという。試しに調べてみたら22時。トークイベントが午前中に開催された理由はこれかと納得した。午後の開催だと、先方にとっては辛い時刻になる。図書館のイベントで海外の人への生インタビューができるなんて凄い時代だ。
 ただ残念ながら、中継の音声は終始けっこう辛いものがあった。ネット中継だから遅延や音割れ等は仕方ないものの、ダイバーの喋る音声のようにしょっちゅう音が飛び、途切れる。話の中身が面白いだけに「今いいとこだったのに…キーッ」という感じになる。スタッフも絶えず機器調整していたし、話の方は聴き手側のヤベさんがずいぶんフォローされていたが、やはりネット中継というのは難しいものだ。

    • NYPLに関心を持ったきっかけは?
      • 色々な人が公共図書館を使っている。調べてみたいと思った。
    • 菅谷さんの著書『未来をつくる図書館*4』と映画との視点の違いは?
      • 映画ではナレーションや説明がなく、見る人が自ら何かを読み取る。自分の本でも、自分が見た、体験したものを共有するという形で、あまり描き込まず空白を残すようにした。その意味で似たスタイル。
      • 違い。NYは格差が大きい。地域密着型の分館で、支援を必要とする人、力を持てない人を支える取り組みを行っている。映画ではそういう部分にフォーカス。
      • 自分が目指したのは図書館イメージへの創造的破壊。メディア研究者なので、情報社会における知のインフラとして着目。
      • 日本では出版されたものを保管、提供するイメージ。NYPLは情報を自ら作る。たとえば舞台芸術。本に残すのが難しい。図書館自らが撮影してコレクション。既にある情報でなく、新しい世代にとって何が大切か。次の創造に結びつくサポート。そういう点に自分は着目。
      • 一方ワイズマン監督のフォーカスは、暮らしを立てていかに生活するかという点。民主主義の基本。情報って何だろう?
    • 映画が多くの人に観られ、多くの人がNYPLに関心を持っていることをどう思うか。
      • ここまで多く、幅広い人に観られることは意外だった。
      • 図書館というのは非常に馴染みのある施設。しかし異なるコンセプトの取り組みが行われているということが驚き、前向きな意味でのセンセーショナルだったのだろう。違う取り組み、新鮮な驚きが魅力。
      • NYPLは公共図書館だが公立ではない。Public、民主主義の根幹。
      • アメリカの政治情勢。トランプ政権の下で、NYPLが長く取り組んできたことと対極にある動きがある。そのような中で、100年やってきた図書館サービスへの信頼。
      • 映画を観た人の感想で「こういうNYPLの活動を知るとアメリカを信頼できる」といった趣旨のものがあった。社会不安の増大、受けられるはずの支援が受けられなくなるという不安がある中で、安心感を得られる。
    • 図書館関係者、図書館好きな人にとっての見どころは。
      • ナレーションがなく、大勢の人物を平等に扱っているが、なかなか文脈が分かりにくい。『未来をつくる図書館』を読んでから臨むと分かりやすくなる(笑)。またパンフレットにも登場人物の説明等が載っている。
      • 映画を観た人の感想「健やかな好奇心」。

 トークイベント準備の間に、NYPLの予算削減反対キャンペーンの紹介。6月末に予算が最終決定するそうだ。続いて檀上に上がったのは前瀬戸内市民図書館館長の嶋田学さん、大阪市立中央図書館の澤谷晃子さん。以下、お二人のトーク

    • 映画で印象に残ったのは幹部会議。「寄付は我々の企画への反応」という発言。自分も図書館でいろいろ企画をやってきた。市の意向に沿うものをやることも多いが、それとは独立して何かをやるということ。
    • キラキラした事業の数々。日本の図書館でも結構同じような取り組みはやっている。が、NYPLはそれを徹底してやっている。日本だと「予算の範囲でここまで」となるところを、これだけやるためにお金がなければどう獲得するか、という姿勢。
    • NYと大阪の比較。NYの人口は850万、奉仕対象人口は330万。図書館は89館。大阪府全体だと人口は882万、図書館は152館。人口10万人あたりの数字だとそんなに負けていない。
    • 一方、ユネスコのデータ(1999)で国際的に比較すると、日本の図書館は館数、貸出数ともランキング下位。
    • 数の比較はやりやすいが、借りられている内容や使われ方を知りたいところ。
    • ユーザ本人にとっては数はどうでもいい。自分の知りたいことがどのくらい分かるか。一人の物語を次に進めるために、情報がどのような役割を果たせるか。
    • 日本の図書館自体数が少ない。そういう現状を良くしていくために、市民に支えてもらう。政策決定者の判断とともに、市民の支持。新聞記事等で可視化され、プレゼンスを高める。そういうアピールを上手くできていない。
    • 図書館のミッションとは何か。自分が昔先輩に教わったのは「資料・情報を提供すること」。それ以上、たとえばまちづくりとか経済発展といったことへの関わりは禁欲的であるべきという考え方だった。戦時中に図書館も戦争協力したという反省に基づくものだっただろうが、それだけでいいのか。NYの場合、情報提供に留まらず、どういう人に対して何をやるかというところまで踏み込んでいる。
    • 日本の図書館法*5は1950年にできた。その目的として「社会教育法の精神に基き、図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定め、その健全な発達を図り、もつて国民の教育と文化の発展に寄与」を挙げている。出版に限らず、情報を求める人がコミュニティを形成する手伝いをすることも必要。
    • 情報や文化へのアクセス保障が徹底している。Wifiルータの貸出はそのひとつ。資金だけでなく、NYPLはネットワーク環境提供について企業と掛け合うこともした。
    • 瀬戸内市民図書館ではWifi環境がある。iPadも館内限定だが10台程度貸出している。一度中学生が二人で来て、一人はPCを持参し、もう一人はiPadを借りて、二人でネットサーフィンしながら話していた。そういう場を作り出せた。
    • 先日県立長野図書館に行った。最近リニューアルして、Wifi環境を導入したらしい。
    • 図書館にネットワーク環境が整っていることで、たとえばウィキペディアタウン*6のような取り組みも可能になる。
    • 情報を作って発信する。地域の課題を話し合う。2005-2006年頃、平成の大合併。その時、退職後の団塊世代の男性の居場所が話題になった。図書館に来られたその世代の男性が『主人在宅ストレス症候群*7』という本を借りていった。やはり気にしている人も多いのかなと思い、保健師さんとも相談してその本の著者を招いた講演会をやった。62人も人が来て、男性は2割くらい。実際そういう状況でストレスを抱えて、その後受診に繋がった人もいた。男性にアプローチすることだけでなく、夫婦ともども支援に繋がる機会。
    • 別の経験。男性に子育てに関わってもらおうというイベントで、絵本講座をやった。お母さんは別でリラクゼーションを受けてもらい、お父さんと子どもで参加するプログラム。終了後、お父さん同士がLINEを交換している場面が。女性に比べそういう形でのつながりが作りにくい。場を提供できてよかった。
    • 第三の場。職場等と違った、自分が繋がりたいテーマでつながること。
    • 電子書籍について、NYPLの状況を調べてみた。アメリカのベストセラー"Where the Crawdads Sing*8"の、電子・紙・オーディオブック等の利用状況。紙の本でも1,000件以上予約がついているが、オーディオブックや電子の方が強い。紙でも複本が346冊もある。アメリカの図書館でもベストセラーはたくさん買っているということが分かる。
    • 紙か電子か。電子について、NYPLは版元と交渉したりしている。日本では電子書籍の販売は増えているが、図書館用はなかなかタイトルが増えない。数え方にもよるが5万くらい。
    • 瀬戸内図書館は市民と協働で進めたので、市民にも「自分の図書館」という意識がある。昔遊びのイベントで高齢者と子どもが交流できる場を作ったり、市民グループが郷土の知識を集めたかるたを作成したりした。
    • 大阪市ではデジタルアーカイブに力を入れている。オープンデータ化の取り組み*9。これは大阪市としての施策に沿ってやったもので、評価された。資料の画像を使った和紙ファイルが販売されたりしている。これは障碍者の就労支援事業にもなっている。
    • また大阪市では、えほん広場という取り組みも。これは個人の方がショッピングセンターの一角に絵本コーナーを設けるもので、図書館から絵本を貸し出した。
    • 今年の4月9日に、日比谷で『エクス・リブリス』のイベントがあった。NYPLのキャリーさんの印象に残る発言。ネイバーフッド=コミュニティーセンターとしての機能を果たすこと、その人が持っている最高の自分を引き出すこと*10
    • サッチャー政権下でイギリスの社会は疲弊し、ブレア政権になった時には社会的包摂ということが注目された。日本も20年遅れて同様の状況ではないかと思っている。平田オリザさんが図書館のイベントで「ひきこもりの人も、コンビニと図書館だけは行けるという人がいる」と指摘している。そういう人に適したプログラムを受けられる場。もちろん図書館だけでは駄目で、色々なプレイヤーと協働する必要がある。図書館の側から仕掛けていくべき。
    • ある図書館の人に聞いた話。20代くらいの女性で、毎日図書館に来る人。様子から見てひきこもり的な状況。ある時絵本を紹介して、それがきっかけで彼女は子ども向けの読み聞かせをやることに。その後職業関連の本を紹介。最終的には資格を取って就職した。
    • 大阪市では、住之江図書館発で「思い出のこし*11」という取り組みをしている。若者のひきこもりだけでなく、高齢者も閉じこもりがち。そういう人も出かけやすい。本だけでなく、認知症サポート講座なども。
    • アドボカシーの必要性。政策提言、権利擁護。NYPLの活動を見て、市民が自らできることは何か。図書館で自分の暮らしが良くなる、良くなるにはどうしたらいいか。それを口に出し、語り合うこと。図書館としては来る人のストーリー、情報を求める背景を考えること。ひとつの情報を提供したら、その後に何が要るか。図書館員同士、あるいは住民との語り合い。
    • 最後に菅谷さんのトークイベントでのコメントを引用。

 なかなか面白いイベントだった。話題もさることながら、Skype中継、映画とのコラボなど、運営面でも結構新しい試みではなかろうか。終了後に会場を去る聴衆が、それぞれの連れと図書館について語り合っている様子が耳に入り、なんらかの形で「図書館」に関心を持つ人がこれだけいるのだなぁと感銘を受けた。『エクス・リブリス』早く観たい。