シンポジウム「アクセスの再定義 : 日本におけるアクセス、アーカイブ、著作権をめぐる諸問題」に行ってきた。〜第3部
第一部、第二部に続く第三部。
以下、xiao-2が聞きとれた/理解できた/メモできた/(一週間以上経っても)覚えていた範囲でのメモ。敬称は「氏」に統一。登壇者の発言の意味が不明瞭な個所、議論がつながっていないように見える個所は、ひとえにxiao-2の力不足。特にTPPについては現在進行形で動いている問題なので、このメモを当てにしてはいけません。
- 福井健策氏(弁護士・日本大学芸術学部客員教授)「TPP知財条項と知の創造・アクセス」
- TPP*1については現在、米国の強い知的財産権に途上国が反発して難航しているという状況。
- なぜ米国がこれほどこだわるか。知的財産権は米国の最大の輸出産業。15.6兆円。内容は特許や著作権の使用料。
- TPPの交渉は秘密だが、米国側の出してきている条項はだいたい明らかになっている。大きなポイントのひとつはジェネリック薬品、もうひとつが著作権保護期間の延長。
- もともと米国の著作権保護期間は死後50年間で、その後はパブリックドメインに移行するということになっていた。これを1990年代に20年延長したので大激論となった。ディズニーの著作権を保護するための「ミッキーマウス保護法*2」と批判されたりもした。
- そもそも著作権法が作られた当初は、公表から14年とされていた。それがどんどん伸びている。
- 著作権規定については日本でも2006年頃から激論になっている。理由は、国際収支を害するということ。日本は、特許利用料については黒字だが、著作権は年に8000億円もの赤字になっている。これは貿易赤字全体の6-7%。
- 著作者の死後50年経ったものは、既に市場にない場合がほとんど。古い作品のハードルが上がることになり、それだけ忘れられやすくなる。
- 著作権とデジタルアーカイブに関連する話題。
- 課題。著作権というのは、従来は数の限られた「売れる」コンテンツだけに関連する話だった。デジタルになると、下は何十点から上は何千万点という規模の話。
- 孤児著作物*7。これが多い。全作品の50%くらい。著作権保護期間を延ばすと孤児著作物も増える。アメリカの著作権局長Maria Pallanteが「登録しない作品の著作権保護期間は50年に戻すべき」という議論をするほど*8。
- TPPのもう一つのポイントは、非親告罪化。現在著作権法違反の罰則は最高で懲役10年*9。大麻取引と同じ。路上で大麻を売ったことのある人は参加者の中にはいないと思うが、著作権法違反をしたことのない人はいない。
- アメリカでは非親告罪でも、一方でフェアユースという抜け道があり、また訴訟が簡単に行われることでバランスをとっている。
- 日本ではそういった部分がなく、なんとなくバランスがとれている。この「なんとなく」部分が親告罪というひとつの仕組み。
- 非親告罪化により懸念されるのは表現者側の委縮。
- 国の外で、密室の中で権利が決められている。決まるまで意見も言えない。
- 日本モデルの模索。登録された作品のみに有効とする、あるいは累犯のみを罪とするといったセーフガードが必要。
- いまがTPP成立・非成立の正念場。TPA(trade promotion authority)*11が妥結されるとTPPが進むとみられる*12。日本政府は既に知的財産条項を半分は呑んでいるとも言われる。
- こうした背景の中、自分の関わるフォーラムでthink TPP声明*13を出している。広く知ってほしい。
- 植野淳子氏(株式会社アーイメージ)
- アーイメージという会社は、アニメのアーカイブを行っている会社。自分はそこでコーディネータをやっている。
- 東京都の産業振興ビジョン*14に携わる中で、アニメの著作権が多層にわたっていることを知る。
- 2002年の*15東京国際アニメフェア*16の議論でも人材育成が課題となる。その中でもアーカイブがポイント。
- なぜか。1917-2015年でアニメはタイトル数で1万1千件、作品数で15万件が作られている。これだけの規模がある中で、アーカイブにあたっては、何を残すか、何を選ぶかが大きな問題。
- 平成23年度メディア芸術デジタルアーカイブ事業報告書*17の71ページに、所蔵館別の資料保管状況調査が載っている。書誌の付け方が機関によって違うので数の取り方に違いがある。
- 媒体別でいうと、1950年代はフィルム、それからVHS、DVD、現在はHDDが中心。
- 媒体のままでの保存はコストが高い。フィルムセンター*18はデジタルで保管されていく。
- アニメはひとつの作品を制作するまでに、3千〜8千枚程度の紙資料が作られる。これらを紐付けながら残していくことが必要。いつか再生するためには、絵コンテや原動画が必要。
- アニメやデジタルのものを埋蔵文化にしてしまうと、発掘が大変。
- デジタル化したあとの維持費を考えなくてはならない。そのままでは消えていくもの。商業作品も個人制作も。また、ボーンデジタルのコンテンツ消失を防ぐ必要もある。
- アニメは「産業=文化」で発達してきているので、フェアユースの考え方を適用するのが難しい。
- 構想。日本アニメーションアーカイブズマネジメントセンター。作品にアクセスするにはレファレンスが必要。その役割を担うべき総務系の人については、こういう機関だと定着率が悪い。
- オープンにするデータとしないデータを分ける。モノを囲い込むのでなく、どこに何があるか、誰が関わっているか。
- 誰が保管のコストを負担するのか。見せることは、どこまで無償で行うべきか。
- 小塚荘一郎*19(学習院大学法学部)「アクセスの未来における可能性」
- 自分の専門は商法。色々な商取引に関心がある。そういった文脈でコンテンツ事業にも関わっている。
- アクセスの例。
- アクセスの変化は、産業構造を変化させる。LCCであれば航空業界の産業構造を変えることで、運航者-空港-航空会社-乗客という関係を変えた。コンビニであればサプライヤー-コンビニ-消費者という関係を変えた。
- コンテンツ業界にも同じようなことが起きる。書く人-出版者-読者という構造がデジタル化時代の中で変化している。その中で誰がイニシアティブをとるか。
- コンテンツ流通促進法制。デジタルコンテンツの保護、流通に関する調査研究委員会の議論が2008年に注目を集めた*21。
- 色々な人が拒否権を持っている。コンテンツ流通促進法制のポイントはこれを同意ベースで処理して、窓口を一つにすること。既存の産業構造がベースになっている。
- たとえば、iPhoneにおいてAppleは何をしているのか。モノをつくるのはメーカー、通信はキャリア、itunesで配信される中身はレコード会社。これらをつないだコンセプトを作ったのがApple。
- 平成26年に著作権法が改正され、電子出版権が創設された*22。
- 背景には、Amazon(サジェスト機能やコメント)。メタデータを誰がコントロールすべきかという話。
- 地理空間情報活用推進基本法*23。プライバシーの問題。情報利用の自由。
- ディスカッション
- 小塚
- 福井さんのお話で日本の著作権使用料が赤字だという話が出ていたが、どこに原因があるのか?
- 小塚
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- フロア
- 「図書館での複写」というのは主体がややこしい。図書館が業者にデジタル化を依頼するのはよいのか。
- フロア
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- 福井
- 各自が私的にやるのは、31条でなく30条で可能*26。その場合は全面複写してもよい。
- 一方、図書館が利用者のために複写させる場合は31条の適用による。
- 30条については基本的に代行不可。31条は代行については明記されていない。
- 福井
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- フロア
- 歴史文書の所有者と出版者が契約して復刻版を出す場合など、所有者が出版者に対して持つ権利とは何か。何をコントロールできるのか。
- フロア
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- 小塚
- 肖像権やプライバシー権にかかわるものについて、「勝手に使われると嫌」と感じる感覚は分かりやすい。個人の問題なので、軽々しく使われたくないと感じるもの。一方で情報を蓄積して社会のために使うことについて、議論が必要。
- 小塚
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- フロア
- TPPが実施されると、3ヶ国内での著作権に関わる利用条件は同じになるのか?
- フロア
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- 福井
- 同じではないが、かなり平準化されるだろう。
- TPPが合意に至って妥結されると、そのあと議会(国会)で承認されて、国内法を制定して、さらにそれが施行されるという順序で反映されていく。
- 福井
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- フロア
- 植野さんに。アニメのアーカイブではどういうユーズを想定しているのか。海外からのユーザによるアクセスで起こり得る法的トラブルは?
- フロア
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- 福井
- 各国の著作権制度が違う。保護期間の長さ、フェアユースの有無。こうしたルールを共通化するのがTPPの知的財産条項のそもそもの動機。
- しかし共通化するときには大体権利の強い方向に引っ張られる。死後50年の規定が70年になったのも、EU統合の際、70年規定だったドイツに他の国が合わせたため。
- ルールを共通にするとかえって知の流通を阻害することもある。困っていないなら共通化しなくてもいいかもしれない。
- 権利をどう管理するかの問題。一番顕著なのが映画。映画は複数の会社が一緒に、製作委員会という形式で作ることが多い。メジャー流通作品はだいたい8社くらいで著作権を共有している。そのうち中には潰れる会社が出てきて、権利処理が不可能になったりする。権利を管理する団体を作るべき。
- 福井
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- フロア
- フェアユースはなぜ日本では導入されないのか。導入される可能性はあるのか。
- また、コンテンツの利用に対して制作会社はクレームする権利があるのか。
- フロア
ここまでで第3部終わり。最後はクロージングセッション。気が向いたら書くかも*27。
*2:参考:Gigazine2015年06月10日付け記事「「ミッキーマウス」の著作権を守るため、これまでどのような著作権法の変更が行われてきたのか?」
*7:Internet Watch 2013年3月12日付け記事|福井弁護士のネット著作権ここがポイント「そろそろ本気で「孤児作品」問題を考えよう」
*8:出典がうまく見つからなかった。
*9:著作権法(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)「第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(中略)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」
*10:この問題について、福井氏がもっと詳しく説明されている記事。VOYAGER SPEAKING SESSIONS 第1回 福井健策「誰のための著作権か」
*12:この件について、このメモを書いている時点での最新ニュース。毎日新聞2015年06月27日付け記事「TPA成立へ:TPP、各国妥協が焦点 知財・関税で難航」
*13:TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム|TPP著作権条項に関する緊急声明
*14:という風にメモしたのだが、正確な名前が不明。たぶんこれだろうと思うものを引いておく。2012年3月東京都報道発表資料|東京都産業振興基本戦略(2011-2020)の策定について
*15:と聞こえたのだが、その頃のホームページ等はすぐには見つからなかった。2003年のなら、国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)で見られるらしい(ただしネットからは閲覧不可)。
*17:メディア芸術デジタルアーカイブ事業報告書 平成23年度
*18:手元のメモに「フィルムセンター」とだけ残っていたのだが、一応ここかと思う。国立近代美術館フィルムセンター
*21:関係ありそうな書籍があったので挙げておく。
*22:文部科学省ホームページ:著作権法の一部を改正する法律について(通知)
*23:地理空間情報活用推進基本法(平成十九年五月三十日法律第六十三号)
*24:著作権法31条(図書館等における複製等)「国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるものにおいては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料を用いて著作物を複製することができる。」
*26:著作権法30条(私的使用のための複製)「著作権の目的となつている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。」
*27:別に引っ張ってる訳ではないが、なにしろ充実したシンポジウムだったのでメモ書くのも消耗するのです。…と言い訳。