大阪市立中央図書館「電子書籍はじめのいっぽ」に行ってきた。

 こういうのに行ってきた。

大阪市立図書館 2012年1月サービス開始記念!
講座 電子書籍はじめのいっぽ
・サービスご案内 (提供内容・利用方法など)    大阪市立中央図書館職員
eBook Collection (EBSCOhost)検索方法 基本から便利ワザまで    紀伊國屋書店電子書籍事業部 秋山直人氏

 大阪市立図書館では2012年の1月20日から、電子書籍サービスを開始している*1。使っているのはEBSCOhost。紀伊國屋書店の提供するNetlibraryというサービス。
 広報では定員50名とあったが、盛況で聴衆はもっと多かった。だいたい70名くらいか。座席が満杯で、横や後ろに椅子を増やして対応していた。男女比は、半々よりやや男性が多いくらい。年齢層は若干高め。40代から60代くらいの人が多そうで、一番下で30代か?という感じ。ざっと見た感じなので見積もりを誤っている可能性はある。

  • 概要

 話の内容は検索デモがメインだったので、詳細な記録はとっていない。配布された資料と合わせて、概要と印象に残ったところのみメモ。

    • 大阪市立図書館では、図書館向けの電子書籍サービス「eBook Collection(EBSCOhost)」を利用している。提供しているのは紀伊國屋書店のNetLibrary*2)。
    • EBSCOhost全体としては和書が3,400タイトル、洋書が22万タイトルほどある。大阪市で導入しているのはその1割程度。
    • 図書館に来なくても、自宅からインターネットを通じて電子書籍が読める。利用には図書館カードとパスワードが必要。図書館内であれば、利用者用検索端末「多機能OMLIS」を使って誰でも利用可能。
    • 印刷、ダウンロードも60ページまで可能。PDFファイルや書誌情報をメールで任意のアドレスに送付することもできる。
    • さらにMY EBSCOhostのアカウントを作れば、電子書籍にどこまで読んだかという記録やノート等を保存することができる。しおりや付箋をつけるように、再度アクセスすればノート等を見られる。個人アカウントの情報は大阪市立図書館ではなく、EBSCOhost上で保存される。
    • 貸出期間はない。1冊の電子書籍は一度に一人のみ閲覧可能。閲覧を終了するか、閲覧中何も操作しない状態が一定時間続くと、他の人が閲覧できるようになる。
  • 質疑

 説明の後、質疑の時間。これが結構活発で、次々質問が出ていて驚いた。以下はxiao-2が聞き取れて理解できてメモできて覚えていた、範囲のメモ。敬称は「さん」に統一。→以下は自分の感想。

    • 会場:NetLibraryでは和書が350タイトル、洋書が3,000タイトルという話だったが、紀伊國屋で扱っているタイトルがそれだけということか?
    • 秋山さん:上記は、大阪市立図書館で使えるタイトルということ。NetLibrary全体だと和書で3,400、洋書で22万タイトルある。図書館向けの電子書籍サービスとしてはタイトル数の多い方。
    • 会場:その340タイトルはどうやって選んだか?選考基準のようなものは?
    • 図書館の人:紀伊國屋さんからは専門書中心のリストを提示された。元々EBSCOhostはアメリカの大学図書館向けに作られたもので、そこに紀伊國屋が自社で選んで和書を入れている。その中から、図書館として提供の優先順位が高いものを選んだ。たとえば国史大辞典国史大系*3など。
    • 会場:EBSCOhostのシステムとしてはひとつの書籍をまるごとダウンロードできる機能もあるようだが、今回の大阪市のシステムではできないようだ。著作権との関係かと思う。プリントアウトやダウンロードの上限は60ページまでとのことだったが、実際使ってみた範囲では和書でダウンロードできるものがないようだった。どこで見分けられるのか。
    • 図書館の人:それは最近のことか(質問者「Yes」)。実はここ数日、EBSCOhost側の障害でダウンロードできるはずのものができなくなっている。それに遭遇されたのではないかと思う。障害の出る前に図書館で確認した限りでは、ダウンロードできないものはないようだった。
    • 会場:著作権の規定上、本のコピーは半分まで可能となっていたと思う。このシステムでは60ページまでとのことだが、なぜか。
    • 秋山さん:上限が60ページということ。ダウンロードの可能な範囲は、実際の本のページ数によって違う。60ページ以下の本があっても、丸ごとダウンロードできるわけではない。ただし現在載っているコンテンツは120ページよりもはるかに多いものばかりなので、60ページが半分に当たるということはない。
    • 図書館の人:厳密にいうと、法律の条文では本をコピーできる範囲は「一部分まで」と定められている*4。「一部分」をどこまでと解釈するかについては、過去の判例などから半分までという解釈がされてきており、図書館でもそういう運用にしているところが多い。
    • 図書館の人:コピーのことひとつとっても、これまでの紙の本と電子書籍とでは扱いがまったく変わる。たとえば紙の本には再販売価格維持制度というものがある。出版社が価格を決めて、個々の書店では勝手に値下げできなというもの。こうした流通上の運用でも、紙の本と電子書籍は違う。複写規定についても紙の本とは異なり、はっきり定められたものがある訳ではない。そういう状況で、各ベンダーの作ったサービスの中で規定を設けている。
    • 会場:洋書も使えるということだが、読み上げ機能はあるか?
    • 秋山さん:今はない。EBSCOの方でもそういう機能の要望は受けていて、検討はしているようだが。オーディオブックならば提供タイトルにある。
    • 会場:貸出期間がないということについて。たとえば問題集の場合、紙の本なら貸出期間のうちはいつでも見られる。この電子書籍サービスの場合、一度閲覧して問題をやって、閉じて、その後もう一度やろうとしたら他の人が使っていて見られないということもあるのか。
    • 秋山さん:ある。このサービスは、コンテンツがクラウド上にあって、使うときだけアクセスするというもの。たとえばどの問題までやったかといった情報は、必要ならMyEBSCOhostに登録すれば確認できる。
    • 会場:資料の種類によっては、貸出期間がある方が便利かもしれない。他の図書館の電子書籍サービスでは、貸出期間があって、2週間経つと自動的に見られなくなるというものもある。
    • 秋山さん:本の貸出という感覚から、その気持ちは分かる。だがアメリカの大学図書館の調査で、学生が調べ物に費やす時間は本1冊あたり5-8分という結果がある*5。欲しい情報を調べる時だけ使って、終わったらその本はもう要らないという使い方が圧倒的。学術的コンテンツの場合には、そのようにしてオープンにしておくと多くの人が使える。そういう使い方をする前提であれば、自分が見たいものが他の人に使われていたとしても、ちょっと経てば見られるようになる。
    • 図書館の人:60ページまでであれば、ダウンロードして自分のPCで見ることもできる。ダウンロードしたものはずっと使える。

→貸出期間がある=その期間は自分が占有できるという保証、なのだなと実感。通読したい読み物や、例に上がっていた問題集のような場合は、確かに困ることもあるだろう。ただ貸出モデル(2週間なら2週間、「借りた」人だけが使える方式)の電子書籍だと、自動的に返却されるという安心感のせいか、紙の本に比べて2週間いっぱいまで「返却」されない率が高いと聞いたこともある。占有できるのがいいか、今すぐ見られる可能性が高い方がいいか。一長一短だ。

    • 会場:ダウンロードは60ページまでとのことだが、繰り返しダウンロードすれば丸ごと手に入れることも可能なのか?
    • 秋山さん:館外からログインして使っている場合には、利用者を特定できるので、同じ利用者が同じコンテンツを上限を超えてダウンロードすることはできない。図書館内の環境だとログインなしで誰でも見られるので、特定はできない。どのくらいかは言えないが、ある程度の期間をおいて図書館内からアクセスすれば、すべてダウンロードすることも理論的には可能。ただそれは紙の本でも、何度も訪れて全体を複写することが理論上不可能でないのと同じ。
    • 会場:画面では1ページずつしか見られないが、見開きで表示はできないのか?
    • 秋山さん:このサービスではできない。
    • 会場:図書館の蔵書なら、欲しいものがあればリクエストして買ってもらうことができる。電子書籍について、市民から要望を出す余地はあるか。紙の本のように選書委員会のような組織を設けてオーソライズするのか、市民からも意見を言っていいのか。
    • 図書館の人:選書方法について。たとえば今回のシステムで国史大系などを選んだが、これは知識創造型図書館*6という当館の方針に基づいたもの。
    • 図書館の人:リクエスト自体は排除しないし、取り入れたいと思っている。ただ、翌年度に向けての予算の見通しが立っておらず、何とも言えない。
    • 図書館の人:そもそも現在、図書館向けの電子書籍の市場そのものが小さい。紙の本に対して電子書籍は1割以下、その中でも図書館向けの販売モデルは少ない。買いたいと思っても買うものの選択肢自体が少ないということはご了承いただきたい。
    • 会場:大阪市立図書館として、導入タイトル数を今後増やしていくつもりはあるか。またNetLibraryとして、今後扱うタイトル数を増やしていくつもりはあるか。
    • 図書館の人:先にも述べたとおり、来年度以降の予算は未定。増やしたいとは思っている。
    • 秋山さん:NetLibraryのコンテンツ数は現在3,400だが、今この瞬間にも増え続けている。来年には5,000件となる見通し。
    • 秋山さん:ただ電子書籍というのは、出版社で著作権の問題をクリアして、さらに電子化する作業が必要なもの。リクエストを受けても、扱うタイトルにそれが存在しないことがあり得る。また、電子書籍の配信インフラを整えるのはそれなりに時間がかかる。ユーザの要望も入れつつ、調整していく。昨今は出版社側も積極的になってきているので、今後早くなるかもしれないが。
    • 会場:大阪市立図書館で電子書籍サービスを導入してから1ヶ月程度だが、利用状況は?
    • 図書館の人:1月にEBSCO側から出された統計では、電子書籍の利用は6,900件だった。ただしこの「1月」はアメリカの1月なので、日本時間とは若干ずれる。図書館の電子書籍サービスのページへのアクセス数は、12,000件ほど。電子書籍サービスに興味を持ってそのページを見た人と、さらに実際ログインして使ってみた人との差があるので数字に開きがある。
  • 体験

 講座後、せっかくなので館内から実際使ってみる。
 電子書籍は、大阪市立中央図書館に38台設置された多機能OMLISから見られる。OMLISというのは大阪市立図書館の利用者用検索端末のことらしい。キーボードがなく蔵書検索のみのタッチパネル検索端末に対して、キーボードがあってオンラインデータベース等も使えるから「多機能」ということのようだ。
 画面から「電子書籍」を選択すると、基本検索画面が立ち上がる。画面の上の方にキーワード検索できる窓があり、左側にカテゴリ別の一覧があり、右側に例としていくつかのタイトルの表紙画像が出ている。全体に、画面の読み込みがちょっと重たい。画像だからか。
 カテゴリを見ると、「芸術と建築」「伝記および回想録」「ビジネスおよび経済」「コンピュータ・サイエンス」「教育」「工学および技術」「フィクション」「一般ノンフィクション」などなど。元々アメリカのシステムなのでカテゴリの分け方が日本のNDCと違うのでご注意ください、と講座で聞いていたが、そういうことなのだろう。試しに「一般向けノンフィクション」を選択してみる。
 出てきたのは以下の4件。

  • 中国・朝鮮地名異称辞典
  • 家政学事典
  • スポーツ基礎数理ハンドブック
  • 畜産食品の事典

 いや、確かにフィクションではないけどさ!と、ちょっと笑ってしまった。なんとも不思議なカテゴリ分けだが、図書館というより元々のシステムの問題なのだろうから仕方ない。
 いくつか読んでみた感想としては、やはり縦書きの本は難しい。本と同じ版面で1ページごとに表示されるのだが、PC画面は横長なので、全体を表示しようとするとサイズが小さくなりすぎる。拡大機能で画面を調整するが、次のページにいくとサイズがデフォルトに戻ってしまう。残念ながら通読は少々辛そうだ。調べもの向けの専門書タイトルを選んだとの話だったが、辞典などで必要な箇所だけ引っ張ってくる利用の方がしっくりくる。
 関係ないが、多機能OMLISが意外と空いているのに驚いた。データベースも電子書籍も使えるし、蔵書検索もできるのに、なぜか蔵書検索のみのタッチパネル端末ばかり使われている。一人の中年男性が端末のところまで来て、多機能OMLISであることに気付いてわざわざタッチパネルの方に回っていく場面も目撃。皆そんなにキーボードが嫌いなのか、「データベースを使いたい人のために空けておいてあげよう」という配慮なのか。せっかくあるのに、勿体ないなあ。


 ともあれ、新しいサービスに関心を持つ人がずいぶん多いことが分かった。まだまだ課題は多いだろうけれど、それもパイオニアならでは。応援。

*1:大阪市立図書館:電子書籍サービスを開始します

*2:EBSCOhostとNetLibraryと紀伊國屋書店の関係は、自分はいまいち理解できていない。(参考1紀伊國屋書店ホームページ:法人向け電子書籍サービスNetLibrary)、参考2「EBSCO Publishingホームページ:EBSCO PublishingによるNetLibraryの買収について」、参考3「インターネットコム:紀伊國屋書店と凸版印刷、図書館向け電子書籍配信サービス「NetLibrary」において協業

*3:2/19訂正

*4:著作権法第31条 図書館等における複製「国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるものにおいては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料を用いて著作物を複製することができる。一、図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個々の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合」

*5:後でソース確認要。

*6:大阪市立図書館の現状について、「大阪市立図書館のサービス展開〜知識創造型図書館をめざして〜」として取りまとめました