前向きな委託の話をしよう。

 最近、図書館の業務委託についての本などを読んで、ふと気づいたことがある。
 それは、どうやって良い委託をするか、という議論をあまり見かけないということだ。せいぜい実際に導入した機関での現状分析に留まっている。委託は是か非か?の議論はずいぶん色々な場でされているというのに。

 漠然と考えてみても、業務委託というのは難しいことだ。自分のやっている仕事を分析し、ドキュメントに落としこんで他人に任せるのはたいへんな作業だ。限られた予算の中でどこまでをやってもらうか。どの程度のレベルを求めるか。どう管理し評価するか。委託したあとも難しい。委託スタッフと正職員の関係がうまくいかないとか、待遇の悪い会社と契約したところスタッフが居着かなくて結局苦労した、なんて話も聞く。
 すべてきっぱり解決できる能力があったら、たぶんコンサルタントで飯が食える。それを日常業務と並行してやらなくてはいけないのだから、並大抵の苦労ではないだろう。

 そんな難しいことをやるのだから、うまくいくためのノウハウはとても必要とされているのじゃないか。たとえば図書館業務に合わせた業務分析のやり方や、仕様書のモデル、日頃起こりがちなトラブルのQ&A、そんなものがあればずいぶん助かるだろう。「失敗しない指定管理者の選び方」なんて本が、ぼつぼつ出されてもいい頃だと思う。


 一方で、ちょっと苦い記憶を思い出す。
 数年前、とある図書館系の集まりに行った。テーマは指定管理者。最近制度を導入した図書館の職員さんが事例報告をされていた。その図書館では利用者アンケートの結果、導入後の方がサービスの評価が上がったという。
 すると質疑応答で、他の図書館の人が挙手して「評価が上がったというけれど、以前のサービスのレベルがよほど低かったからじゃないか」という趣旨の発言をされた。
 確かにそういう見方もできる。きっとその人は自分の図書館のサービスにとても自信があって、こんなに頑張っているのに委託なんかされてたまるか!と思っていたのだろう。
 だけど、それって何だかなぁ、としらけた。せっかく当事者の話を聞けるんだから、どうせなら情報収集して帰ればいいのに。成功の秘訣とか苦労とか、いくらでも聞くべきことはあるのじゃないか。第一、反論するにも相手が違うでしょう。


 自分が見た集まりがたまたまそうだったのかもしれない。むしろそう思いたい。
 けれど、そうして頭から否定して聞く耳持たないような雰囲気があったために、委託の中身が議論されず、委託でスタッフとして働く人や利用者の意見も聞かれず、ノウハウが蓄積されないままにきたのだとしたら。それはとても不幸なことだ。
 業務委託自体が良いか悪いかは、多分やり方によるとしかいえない。だったら、より良い委託ができるようにする方法を考えてもいいと思う。それは裏返せば委託を選ばないための理論武装にもなりうるし、委託に限らず、より良い仕事をする方法とも共通するはずだから。


 だからさ。そろそろ、前向きな「委託の話」をしようよ。
 そんなことを考えながら、今こんな本を読んでいる。

PFI神話の崩壊

PFI神話の崩壊

(書いた後で、委託とPFIは違うだろ、ということに気付いた…所詮付け焼き刃はこの程度。汗)