指定管理についての質問を眺める。

 平成15(2003)年の地方自治法改正により、図書館を含む公共の施設に指定管理者制度が導入されてから10年。
 5年ほどの期間で導入する場合が多いため、ここ数年でちょうど更新を迎えるタイミングらしく、自治体のホームページで次期の指定管理者の公募をちょこちょこ見かける。募集要項や仕様書をPDF化してホームページに載せている自治体も多い。
 公募のお知らせが出てしばらくすると、「質問回答」というものが同じくPDFで追加掲載されることがある。これは最初に出された募集要項や仕様書の内容について、受託候補の企業から受けた質問に自治体が回答した文書。これがなかなか興味深い。指定管理を引き受けるかどうか検討している企業の出す質問だけあって目の付けどころが実際的で、費用や責任分担で曖昧になりやすい点が分かる。

 で、いくつかの自治体の質問回答を眺めて、個人的に印象深かったポイントをいくつかメモしてみた。一番多いのはもちろん費用負担に関する切り分けだが、それ以外。質問と回答の中身は超要約している上、素人の感想ゆえ見当外れなこと言ってるかもしれない。

  • 指定管理者が調達するもの

現行の指定管理者と同じ単価でMARC*1を購入させてもらえるよう、MARC販売会社に自治体から要請してもらえないか?

 MARCや資料の購入費が指定管理費に積まれている場合、当然これらを安い単価で買える会社は有利。そのハンディを克服したい新規参入会社からの質問だろう。対する回答は「その交渉は指定管理者が自分ですべきこと、自治体は介入しない」。ちなみに現行のMARC単価も、各事業者が負担する部分だから開示できないとあった。

仕様で現行のMARCの継続使用を定めているが、データの内容は減らないようにするので他のMARCに変えては駄目か?

 当然ながら、自社に有利なMARCを選びたいという希望も出てくる。対する回答は「自治体内の他の機関とシステム連携してデータを共有しているから駄目」。システムやMARCなど、すぐ変えられないものと結び付いていると、現行の指定管理者に優位性がありそうだ。

専門の業者に委託する部分の業務について、現行の委託先と契約金額は?

 業務システムの賃貸借に保守、施設の点検など、専門の業者に委託することの必要な業務は、指定管理者と他の会社との契約になる。自社の努力で減らすことが難しいためか、現行の契約内容に関する質問はわりと見かけた。対する回答は様々だが、「現行の指定管理者の意向により開示できない」としたケースが多い。安くやってくれる委託先を見つけることも指定管理者の創意工夫、ということか。

  • 人員の配置

現行の体制や勤務シフトを教えてほしい。

 これがあれば業務の規模をずいぶん見積もりやすいだろう。が、対する回答は「詳しいシフトについては、現行の指定管理者の創意工夫が含まれているから開示できない」というものがほとんど。創意工夫もあるし、詳しさによっては現在働いているスタッフの個人情報にも触れかねないことだから、なかなか開示が難しいのかもしれない。
 自治体側もこれではあんまりだと思うのか、指定管理者制度導入前に直雇いの職員だけで運営していた時の数字を代わりに提示しているケースがあった。目安にはなる。が、指定管理に移行してから年数が経てば経つほど、過去の数字には意味がなくなっていくのだろう。

仕様書によると、館長には司書資格と公共図書館等での10年勤務実績を求めている。大学・学校・専門図書館での勤務は実績に含めていいか?

 これへの回答は「不可」。理由は、公共図書館は不特定多数の人に利用を供する施設であり、ユーザが限定されている大学・学校・専門図書館とは役割が違うから、代わりにならないとのこと。
 本当に代わりにならないかどうかは、やり方と考え方次第かもしれない。とは言え、自治体として公共図書館に求めているものがはっきりあるということなので、それはそれで筋の通った姿勢だと思う。

  • 非ビジネスな範囲への対応

寄贈で受け入れる資料の量と受入工程は?

 なるほど、と思った。購入する資料と違って、寄贈される資料の量はコントロールが難しい。しかも普通に新刊で購入する資料と比べれば装備やデータ整備の手間がかかることが予想される訳で、その受入れが業務に含まれているのであれば、せめて実績だけでも知っておきたいという質問が出るのはもっとも。自治体の側からは例年の実績を回答していた。

ボランティアが実施するのはどういうイベントなのか?ボランティアのなり手が少なくなった場合、自治体が紹介してくれるのか?ボランティアには謝礼を出すのか?ボランティア保険への加入はどうするのか?

 仕様書で図書館ボランティアと連携した活動を求めているところでは、既存のボランティア団体との関係についてたくさん質問が出ていた。相手がボランティアとなると、業務の切り分けやどこまで当てにしていいのかについて、お金を払う契約とはまた違った難しさがあるのだろう。なお目にしたすべてのケース*2で、ボランティア保険への加入は指定管理者の負担となっていた。

災害時に市民の受け入れを想定しているか?

 公的施設は災害時に避難所になることがある。その時指定管理者は市民を保護する義務を負うのだろうか。食糧や毛布、簡易トイレの備蓄もするのだろうか。受け入れが長引くなどして思わぬ費用がかかったら、それは誰が負担するのだろう。まさに「公共」ならではの問題と言えるかもしれない。

消費税の税率が変更されたら、指定管理料の算定はどうなるのか?

 長期ゆえに、こんな視点もある。全体の金額が大きいから、3%増でも大変な差になる訳だ。回答としては「募集要項で定めたリスク対応方針に基づいて協議する」。…ということは、今ごろ各地の指定管理導入館では、来年度のお金の見積もりにてんやわんやしているのか。指定管理に限らず、長期契約につきもののリスクではあるが。

  色々眺めて、感想。指定管理者制度を導入すると、現在かかっている費用の内訳が見えにくくなるのだなぁ。そこがまさに各社の創意工夫で、そのために導入するのだといえばその通り。しかし外からの見積もりがしづらくなる分、新規参入しようと思う企業にとってはリスクを感じるかもしれない。当の自治体にとっても、内訳が見えにくいのは不便なこともありそうだ。
 なるほど、うーん、と唸ったところで、眠くなったのでこれにて終了。

*1:MAchine-Readable Cataloging=機械可読目録。詳しくはこちら

*2:といってもたった3件