大阪府立中央図書館の指定管理

 こんな情報を見たので久々の更新。といっても公募開始は平成26年8月15日だから、自分が気付いたのはずいぶん遅い。

大阪府立中央図書館の指定管理者を募集します
http://www.pref.osaka.lg.jp/chikikyoiku/shitei_chuou/

 大阪府立図書館に指定管理が入るのかとびっくりしたが、内容は以下のとおり。

指定管理者には、中央図書館の機能、特性を十分に把握し、利用者が快適・安全に利用ができる水準で、施設の維持・保全を効率的に行っていただくとともに、ホール、会議室及び駐車場の利用率の向上を目指していただきます。
また、府民に親しまれる図書館づくりのため、くつろぎながら読書ができるカフェスペースの運営を行うとともに、図書館施設を活用した生涯学習事業やにぎわいづくり事業を行うことにより、利用者サービスの向上及び入館者数の増加を目指していただきます。なお、図書館奉仕にかかる業務(図書館資料の収集、保存、貸出、返却、市町村図書館等への支援、読書推進活動等)は、府が実施します。大阪府ホームページより引用、強調はxiao-2)

 読んでみると、なかなか詳しい条件が出ている。以下メモ。

  • 指定管理者の業務

 xiao-2の理解で要約すると、指定管理者は図書館業務はやらずに(1)図書館の建物の管理、(2)施設(ホール・会議室・駐車場)の利用受付と管理、(3)カフェスペース運営、(4)図書館施設を利用した各種イベント、(5)広報、を行うことになる。
 募集要項*1によれば、(1)(2)にあたる警備、清掃、建物設備保守管理、施設管理、総合案内・電話交換、ホールや会議室の受付・維持管理、その他各種点検などは、もともと個別の委託契約を行っていた。また、(3)にあたる現行の館内喫茶スペースも、建物の使用許可を出して業者が運営していた。
 という訳で(1)〜(3)については、もともと個別に委託していた業務を一括して指定管理者に任せる形になる。これ自体は一般的な話。図書館業務が含まれない点も別に珍しくはない。図書館を含む複合施設などで、ハコとしての施設の管理を指定管理にしつつ、その中にある図書館の運営は指定管理の範囲外にするという切り分けは時々ある。
 ただ、自分の目を引いたのは(4)(5)の部分。指定管理者はハコの管理をするだけでなく、各種のイベント企画・運営と広報を行う。イベントは自主事業だが、現在実施されている府民講座や展示などは必須*2。広報では図書館のページと別に指定管理者のホームページを立ち上げて管理することが求められている*3。これらにかかる経費は指定管理者の負担。

  • 指定管理者の収入

 指定管理者の収入は、府からの指定管理委託料、会議室やホールの管理収入、自主事業収入の3つに分かれる*4

    • 指定管理委託料

 指定管理委託料の参考価格は各年度182,777,000円で、指定管理者はこれ以下で提案しなくてはいけない*5。さらにこの委託料は自主事業にあててはいけない*6。なので、実質的にはこの金額が諸々の建物管理に使われる上限ということだろう。*7  
 募集要項に記載された、警備・清掃云々の委託契約の金額を合計すると98,776,000円。一方、25年度当初予算の施設管理費を見ると197,920,000円となっており*8、後者には前者を含む色々なコストが乗っているためと思われる*9。指定管理者のお仕事は後者のどのへんまでカバーするものになるのか分からないが、提示された参考価格から見ると後者に近いのだろうか。

    • 管理収入

 会議室やホールの利用料は指定管理者が決めてよいが、上限が定められている。別紙に掲げられた上限をざっと見る限り、現在の使用料金*10がそのまま掲げられているようだ*11。従って管理収入を増やすには、施設の利用率を上げるしかない。

    • 自主事業

 「募集要項3p 4(2)自主事業等の実施」によれば、図書館利用者へのサービスをそこなわない範囲で、自主的に収益事業を行うことができる。講座などの実施には参加費や協賛金を見込んでよい。また物販も可能なようなので、そのあたりが収入源となるのだろうか。

    • カフェスペースの収入(?)

 カフェスペースでの利益は当然指定管理者の収入だろうが、管理収入にあたるのか自主事業収入に当たるのか、それ以外なのか、よく分からなかった。常識なのか、自分の読み落としなのか。

    • 納付金

 さらにこれらの収入の総額が総支出を上回った場合、利益の一定割合を府に納める。収入総額における委託料の割合が低いほど府に納める割合が低く設定されている。言い換えると施設利用収入や自主事業収入で儲けた割合が高いほど指定管理者の取り分が増えるというインセンティブが設定されている*12

  • 感想
    • 運営・広報主体が複数になること

 直営・指定管理問わず、図書館施設内でイベントをやるのはそれほど珍しくなくなりつつある。ただ、人集めの事業を行う主体と、図書館サービスを行う主体が別になるというのは珍しい。
 そうすると気になるのは、それぞれの評価がどのように関わるかだ。たとえばイベントのやり方によっては、入館者数は増えるけれども、通常の図書館サービスを受けたい人が来なくなるという可能性が考えられる。実施主体が同じであれば、一部ヘビーユーザ(図書館資料を利用する人)を失ってでも新規ライトユーザ(とりあえず足を運ぶ人)を獲得するという戦略もありだろう。しかし前者の数字で評価される人と、後者の数字で評価される人が分かれている場合、その利益調整はどうすべきか。ちなみに府議会ではこのへんについて一度質疑がなされているようだ*13が、xiao-2の気になるポイントとは若干違う。
 広報についても、図書館本体の情報発信(おはなし会などのイベントも含むだろう)と、指定管理者主催のイベント情報を発信するホームページが別々になることになる。うまく連携していないと、見る人は戸惑うかもしれない。

    • 法規に関わる課題

 図書館の開館時間および休館日の変更について指定管理者は提案が可能*14。ただ実施にあたっては大阪府立図書館条例及び同条例施行規則の改正が必要だとのことで、当然ながら府議会での議決を経なくてはいけない。従って通らない可能性もあるだろう。もちろん指定管理者が提案したからといって何でもかんでも通るようだったら、それはそれで議会としての機能を疑われるので当然だが。府民、図書館ユーザ、図書館、行政に加えて、新たなステークホルダーが増えることになる。それがどう働くのかはよく分からない。調整がめんどくさそう、とは思う。

    • カフェ運営について

 大阪府立中央図書館内には、現在も喫茶コーナーがある。xiao-2も利用したことがあるが、良くも悪くもごく普通の公的機関の食堂という感じ。600円くらいでカレーやらオムライスやら食べられる。しかし募集要項では一貫して「カフェスペース」と呼び、さきに挙げた議会でのやりとり*15でも「ライブラリーカフェ」と言っているので、なにかしら現在と違うものにしたいのだろう。
 ドキュメントではっきり示される違いとしては、現在の厨房・喫茶設備に加えて、グループ読書エリアをカフェゾーンにあてるという点*16。現在は飲食禁止、会話OKで机といすのあるスペースだ。確かに広々して眺めのいい空間なので、カフェになったら快適かもしれない。ただ水回りなどの設備はなさそうだから、喫茶コーナーで販売したものを飲食できるようにするのだろうか。位置的に喫茶コーナーからはまったく見えないので、管理をどうするかも気になる。あと、カフェになっても無料で座れるのかどうかも。
 なおスタバが入ることはないだろうと勝手に予測している。理由は、図書館の真向かいのショッピングセンターにスタバがあるから。スタバはもう充分(笑)

    • 余談の余談

 どうでもいいことだが、25年度の警備の受注業者はメイハンコーポレーション。なんかこの社名見たことあるよ?と思ってググッたら、これだった。

朝日新聞デジタル三重県施設、県職員自ら清掃・警備 委託業者が突然廃業(2014年7月30日)
http://www.asahi.com/articles/ASG7Y6HHXG7YONFB01X.html

 …あー(慨嘆)。

*1:大阪府立中央図書館指定管理者募集要項(以下「募集要項」)p29「5 外部委託の状況」

*2:業務仕様水準書(以下、仕様書)p52〜

*3:仕様書p53「43.広報業務」

*4:募集要項p5「5(1)指定管理者の収入及び納付金」

*5:募集要項p5

*6:募集要項p3「4(2)自主事業等の実施」

*7:自主事業での収入をハコの管理に回すことは自由だが、見込みでしかない収入を固定費用にあてる計画を立てるひとはあまりいないと思う。

*8:大阪府立中央図書館要覧2013 平成25年度当初予算

*9:大阪府のホームページにもう少し細かい内訳もあった。きちんと項目を比較すればより正確なことが分かるのかもしれない。|大阪府予算編成過程公表サイト 平成25年度当初予算部長後調整 予算要求課:中央図書館

*10:大阪府立中央図書館 ホール・会議室の使用料一覧

*11:募集要項p2 「(2)3利用料金制」および「別紙2」

*12:募集要項p5「5 指定管理者の収入及び納付金並びに会計区分」

*13:大阪府議会会議録検索システム【平成26年2月定例会教育常任委員会-03月11日−01号】より一部引用。「◎地域教育振興課長(吉原孝君) 委員御指摘の指定管理者の成果をアップさせるインセンティブにつきましては、指定管理者からあらかじめ提案をされましたホール等の収入金額を上回った額の一定割合は指定管理者の収入とし、ホール等の稼働率向上に連動して指定管理者の利益がふえる仕組みを考えているところでございます。◆(永藤英機君) ホールの稼働率に連動してということですが、図書館本来の目的を考えるのであれば、図書館を実際に訪れた人、利用した人、本の貸出数に応じてインセンティブを設けるべきではないかと考えます。これらを指標にすることについて、いかがお考えでしょうか。◎地域教育振興課長(吉原孝君) 資料の貸出業務は府立図書館の直営でございますが、中央図書館のホールの運営や図書館資料を活用した展示等の業務は指定管理者に委任をいたしまして、民間のノウハウを生かして、これまでにない新しい企画を期待しているところでございます。これらの業務は、図書館のにぎわいの創出につながり、入館者数とも連動すると考えているところでございます。」

*14:募集要項p2

*15:大阪府議会会議録検索システム【平成26年2月定例会教育常任委員会-03月11日−01号】

*16:募集要項p20「4 カフェスペースの運営に関する提案」、仕様書p51「41 カフェスペースの運営業務」