図書館総合展「教育委員会制度改革を問う ─図書館は「教育」にとどまるのか?─」に行ってきた。〜後篇

 前の記事の続き。相変わらずxiao-2が聞きとれた/理解できた/メモできた/(ひと月経っても)覚えていた範囲でのメモ。当然ヌケモレ誤りもあろう。敬称は適当。
 第2部はパネルディスカッション。

  • 糸賀雅児先生(慶應義塾大学教授)
    • 登壇者の皆さんから、第1部での報告を聞いた感想や疑問点など。
  • 大木哲さん(神奈川県 大和市長)
    • 貴重な情報だとは思う。ただ首長として最前線でやっている立場からすると、やはり現場で直面する苦労話とはやや違うこともある。
  • 関幸子さん(ローカルファースト研究所所長)
    • 自分は三鷹市役所で、図書館司書を10年間やった。図書館を経営という観点で見ている。
    • キーワードがいくつか出ていた。ネットワーク、ハブ。図書館から打って出る、つながる。
    • 社会教育と、学校教育と、図書館。それを社会の中でどう着地させるか。教育委員会、首長部局という立場をこえて考えていく問題。
  • 嶋津隆文さん(田原市教育委員会教育長)
    • 自分は田原市の前は、大学や都庁で勤務。都庁にいた間にはニューヨークの市役所に行かせてもらった。そういう経験から、基礎自治体こそ中心というスタンス。
    • 田原市では教育委員会について、文科省より前に改革プランを出した。地域にこそ課題がある。国より早く、いま何が田原市で問題になっているのか。
    • 教育制度改革には良いこともあるが、違和感を感じることもある。たとえば教育長の研修。地方で信任を得て選ばれた人間に、わざわざ国が何かを教える必要はない。意見交換や交流の場の方がよい。
    • 前半の報告を踏まえると、「社会教育は首長部局で担当している方がいい」という方向に流れている気がする。実際のところ、大多数の自治体では両者の関係はうまくいっている。ただしうまくいっていない例がわずかにある。その特殊な例を取り上げて議論するのは生産的でない。
    • 一方で中立性のことを考えると、一種の安全装置という意味で教育は教育委員会の主管である方がよい。
  • 糸賀
    • 図書館は今後、地域社会でどういう役割を果たすべきか。そのためにどんな制度設計をすべきか。教育委員会制度改革はどのようなものであるべきか。
  • 大木
    • 大和市のことを話したい。
    • 人口約23万、横浜市の西側。人口増加中で、学校の生徒数が1000人を超えるところもある。70カ国の人が住む。厚木基地がある。経済的に豊かなエリアとそうでないエリアに分かれている。小さい市だが、社会現象は色々。
    • 市内に8つ駅がある。鉄道のカバー率はトップ。利便性。
    • ひと・まちの健康都市をキーワード*1に。市立病院の経営も黒字化。
  • 大木
    • ルールとして教育委員会の管轄になっているので、それでよいと思う。ルールは守りつつ、必要な時には首長が補助執行。
    • 図書館には力を入れていきたい。大和市では学校図書室を変えた*2。以前は学校内で一番お金のかかっていない設備だったが、リニューアルの上人員を配置。
    • 図書館が存続する、と思わない方がよい。
    • 地域経営の中で、1万人や5万人未満の地方は消滅していく。図書館があるかないかではなく、自治体があるかないかという次元。
    • 図書館の人は図書館がユニバースと考えがち。考え方を変えなくてはいけない。
    • 日本はかつて若くて貧しい国で、人口が増えていた。いまはそれらが逆転。2100年には1900年並みの人口に戻る。人口は都市部に集中し、高齢化が課題*3
    • 5万人未満の自治体が68%。自分はどの自治体の図書館を経営しているのか、を意識する。地域ごとに異なる戦略があり得る。
    • 図書館や学校も含めた公共施設の統廃合が行われていく。あるいはIT化により、図書館の建物がなくても機能が残る。運営も直営から、民間との連携に移る。
    • 図書館も行政サービスの一部。
    • 新たな図書館の役割。たとえば武雄市図書館*4は、人口減を食い止める装置として作られた。富山市立図書館*5は、市街地に客を呼ぶため。武蔵野プレイス*6は地域コミュニティの核となるため、など。
    • なぜ図書館自ら改革できないのか。時代が変わっていくのに対応していかなくてはならない。
    • 多機能施設となること。図書館と病院は集客力が高い。
    • シティプロポーションの中で考えていく必要がある。VFM*7を意識する必要性。さらには、どう稼ぐかといったことも。
    • 図書館はこれから地域の中心になる。図書館員自身のイノベーションが必要。
  • 嶋津
    • 「決して図書館は世界の中心ではない」と言われた。自分にもそういう意識はある。が、図書館は地域の中心ではあると思っている。
    • 病院と図書館の重要性については同意。かつて病院はお年寄りのサロン化されていたが、その場が図書館にシフトしつつある。図書館は知的な場としても暇つぶしとしても使える。稼げるように、とまでは思わないが。
    • 統廃合はまた別の問題。田原市では学校を5つ統合。批判もあったが、断行した。図書館も削らないといけない。
    • なぜ?という声は必ずある。地元に入って、反対者に怒鳴られても、膝づめで話して分かってもらう。
    • 学校と図書館と博物館を一体化して、ふるさとの特性を学ぶ施設に。図書館も今のままでは棄てられる。少子化・高齢化の中でどうあるべきか。
  • 糸賀
    • 図書館と病院が重要という話が出たが、使い方が違うと考えている。病院は病気やけがを治すという決まった目的があって来る。図書館は決まった目的がなくてもいいゆるさがある。懐が広い。
    • 図書館は地域の顔が見える施設。病院はお年寄りが多いが、図書館は年齢層が幅広い。出会う人が多い。それが図書館ならではの良さで、いつの間にか人が育っていく。
    • 図書館をどういう制度の中におくか?それぞれに目指す方向があると思うが、伺いたい。
  • 大木
    • 大和市は健康都市。ベッド数400を越える市立病院があり、ドクターの数も増やした。
    • 病院は高齢者が多い。それを考えると、図書館は増やしたいくらい。リタイアした人が居場所として図書館に行っている。
    • 統廃合はやむを得ない。小さい自治体の財政状況はそこまできている。
    • 都市型の地域では高齢者が増え、図書館の存在も目立ってくるだろう。
    • アメリカのシアトルに行ってきた。そこでは図書館とジョブセンターが一緒。本、PC、ハローワークの端末があって、図書館員が探してくれる。
    • 図書館法に定められた行政目的に加え、担うべき機能が増えてくる。
    • 社会教育法は、これこれを「できる」という法律。図書館法も市長の権限で決めていい。「地域で決めればいい」ということになっている。その地域の課題を解決していくのがよい。
    • 所管はどの部署でもいいが、運用をうまくやる必要がある。
    • 公立でなく民営でいいのでは。この場合の民はNPOでもいい。
  • 糸賀
    • 現実には図書館の居場所は?
    • 5万人や1万人以下の自治体では教育委員会自体いらない、義務教育を首長のもとで行うという方向になるかもしれない。思ったより地方行政改革は一気にいく。
  • 嶋津
    • 教育委員会をなくす話には違和感。たとえばある地域の教育委員会長は、その地域に非常に関わりが深い家の人。そうやって、形式と、地域の実質のバランスを取っている。
    • 地域性を無視しているのではないか。それぞれの自治体が自分の判断でやめるのはあっていいが、国からというのは×。
    • どこが図書館に責任を持つべきか。私としては教育委員会と思う。知事が変わったら、その人の意見と異なる思想性の図書館を経営してきた財団が解散させられたというケースもある。首長にそういう人が出たらどうなるか。中立性を担保する必要がある。
    • 不安定さと過激さにワンクッションおくための教育委員会ポピュリズム先行しがちな中で機能を果たすべき。
  • 大木
    • 教育委員会が学校教育を所管するのは分かる。しかし社会教育はまた別では。
    • サラリーマンを退職した大人が生涯学習に向かう時、学校と同じようにその面倒を見られるのか。高齢化率は5%から30-40%になる時代に、社会教育の考え方だけが同じでいいのか。
    • 社会教育は幅広い。タテだけでなくヨコも必要。ヨコも見据えてやっていけるのは首長部局。
    • 中立性に関しては、社会人経験もしてきた大人が生涯学習の場である思想に晒されたとしても、(子どもと違って)当人の思想形成への影響は限定的と思う。
    • 図書館とスポーツセンターの連携の仕組み。内閣府で取り組んでいる。社会教育の中のスポーツと図書館。
    • 運営にはPFI、指定管理というやり方がある。機能をどう考えるか。
    • 司書資格を持つ人が図書館にいるか?公務員だといろいろな職をローテーションするので専門性が担保されるとは限らず、能力と場所のミスマッチが起きる。委託した方が司書資格保持者の割合が増える。現実とのマッチング。
    • スポーツセンターに関して言えば、スポーツセンター運営の企業の方が運営がうまい。公共サービスの質が向上させられる仕組み。
    • 教育委員会の所管だと自由度の担保が難しい。
    • サービス向上については、公務員でない方が効果が上がる。公務員で実施しようと思うと人員配置に影響するためやりにくい。
    • 法律的な建前でなく、サービス向上のためには首長部局が所管する方がよい。首長の偏向については、図書館以外のことにもリスクはある。それらは地域にあるオンブズマン等で対応していくもの。
  • 嶋津
    • 本音で言えば、社会教育が首長部局にある方が予算や改革のスピードでは有利。しかし中立性という問題。
    • 民間企業にやらせるかどうかという点は、首長部局でも教育委員会でも可能。どれだけ有効に住民の意向を汲めるか。資格がある人の雇用とは別の話。古い設計と合わせる必要はない。
  • 糸賀
    • 教育委員会か、首長部局かを選べるようにしようというのが中央教育審議会で出た方針。
    • 中立性について。学習する主体がある時、その学習の中身に首長が手を突っ込むというのは良くない。主権者が色んな情報にアクセスできるようにすべき。
    • 首長部局だと、首長の考えと反対のことを学ぶ人にプレッシャーがかかる可能性がある。
    • では教育委員会ならOKなのか。船橋市西図書館の蔵書廃棄問題*8も、公民館だよりへの俳句掲載拒否事件*9教育委員会のもとでのこと。オンブズマン制度などを活用して管理していくべき。
  • 大木
    • 生涯学習は幅広い。政治的なことを学ぶよりは、歴史や健康について調べたい人の方が多い。それらを提供する上で教育委員会と首長部局とどちらが有効かといえば、後者と思う。中立性はそれほど問題ではないのでは。スピード感などは首長部局が勝る。
    • 教育委員会は委員による議論。首長部局では、他の部署で仕事をしたことがあるなど、それぞれの人が背景を持っているので、より議論が慎重になる。
    • 立ち位置どうするか。地方経営の方向に沿って、地域で議論したうえで決めていく。
    • 自分は必ずしも委託に賛成というわけではないが、現状として人事ローテで図書館のことを分かっていない職員があてがわれることがある。
    • 三鷹市では図書館システムも自分たちで作っている。CCCに新しい図書館がやれて、公務員ができない理由はない。
    • 地方行政の健全化。多様性、多重性についてきっちり議論。
  • 嶋津
    • 首長部局と教育委員会。どちらが良いという選び方ではなく、どちらの方がより悪くないか。現実的選択。
    • たいていの場合、首長部局と教育委員会はうまくいっている。うまくいかないケースは、図書館の人事配置に政治的な事情などが絡んでいるとき。
    • 新しい組織をわざわざ作るよりは、教育委員会によってバランスを保っていく方がまし。色々な視点を維持できる。
  • 糸賀
    • 図書館の今後果たすべき役割について、3人の意見は共通している。しかりやり方が違う。どれも長所と短所がある。
    • 国の教育行政トップは政治家。その意味では、そもそも教育基本法が改正された時点で中立性には影響を受けているともいえる。
    • 教育委員会自体が変化している。ガバナンス。住民・ユーザの意見を牽制しあう仕組み。それが出来た時に、図書館のあり方が出来ていく。意思形成、図書館のガバナンスについて。
  • 嶋津
    • 田原市のアクションプランを決めた時、あらかじめパブリックコメント募集して議決にかけるといった通常の方法を取らなかった。
    • 代わりに市内の300の組織に投げて、意見を集約し議論。生のことばで聞く。市民のニーズを把握するのによい。「自分たちの図書館はこうありたい」という希望が出てくる。
  • 糸賀
    • 嶋津さんは9割以上のケースはうまくいっていると言われた。うまくいっているのではなく、首長は無関心なだけなのではないか。
    • 首長の前に出ていく。それをしないと司書は鍛えられない。教育委員会にとっても社会教育は隅っこの隅っこ。ガバナンスはうまくいっているのか?
  • 嶋津
    • 予算と人事で首長は判断する。教育委員会に投げっぱなしということはない。
    • 自分は30年間公務員をやってきた。10年図書館にいて、企画業務に5年、産業政策に5年。外に出て戻ってきたので、冷静に図書館を見ることができた。
    • 働く本人にとっても図書館にとっても良い、色々な人が携われるやり方は?トップリーダーはどう考えてリードするか。
    • 色々な人が携われる多様性、地域接点。地域資源をどう活かすか。
  • 大木
    • 市民の意見を聞きながら、教育委員会を効果的に活用していく。
    • シンプルに考える。市民が集まる図書館と集まらない図書館がある場合、後者には何かが欠けているということ。たくさんの図書館を見て、検証していくこと。

 メモは以上。たくさんのトピックが出た上に、糸賀先生のマシンガントーク司会に時々頭がフリーズして、色々取りこぼしている気がする。ちゃんと知りたい人は公式の録画を見るなり、ライブラリー・リソース・ガイドの第7号・第8号を読むといいよ。
 感想ももやもや浮かぶが、もう眠さの限界なのでここまで。