日本図書館研究会第324回研究例会「ウィキペディア・タウンによる図書館の郷土資料活用」に行ってきた。
こういうのに行ってきた。
2016年11月19日(土)
日本図書館研究会第324回研究例会「ウィキペディア・タウンによる図書館の郷土資料活用」
発表者:青木和人氏(Code for山城,オープンデータ京都実践会代表,立命館大学院公務研究科講師)
テーマ:ウィキペディア・タウンによる図書館の郷土資料活用
http://www.nal-lib.jp/events/reikai/2016/324invit.html
以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。当日の参加者は10名ちょっと。なお青木氏の活動については、カレントアウェアネスにご本人の書かれた記事*1がある。
- 自己紹介
- 自分は前は行政職。図書館の館長だった時もある。司書ではなかったが、当時図書館に対して思っていたことを、離れてからやっているような感じ。
- 仕事とは別に、市民活動的なことをやっている。その話をする。
- 図書館の課題
- ウィキペディア・タウン
- Wikipedia*5とは。
- 読んだことは誰でもある。「絶対正しいという訳ではないが、何かについてちょっと知るには便利」というイメージ。
- 実は自分で書くこともできる。会場で書いたことのある人は?(数名挙手)
- 書けると知っていても、実際に書いたことのある人は少ない。
- ウェブ上の百科事典だが、専門家が一人で書く百科事典と異なり、誰もが参加できることが特徴。
- 皆で作っているので、その成果は皆で使おうという思想のもとに作られている。オープンデータ。自由に使っていいライセンス。
- 各言語で展開。あまり使われていない言語でWikipediaを作ろうというプロジェクトもある。
- ITを使った地域活動。有名観光地でなくても、小さい寺社にも由来や歴史がある。
- これを皆で書けば面白いのでは、と考えたところで、ウィキペディア・タウンの取り組みを知った。
- ウィキペディア・タウンとは
- 2012年、英国のモンマスで初めて行われた*6。公共図書館や市民の持つ情報をWikipediaに載せていく試み。これは市民活動というより、予算をつけた事業的なもの。
- その頃、自分はちょうど公共図書館で勤務していて、日々の貸出・返却などのルーチンに追われる日々。
- 図書館でこんな面白そうなことをやっている、と思った。Wikipediaと図書館のつながり。でも自館では難しい、と思った。
- 2013年に横浜でウィキペディア・タウンが実施された。Open Data Dayにあわせたもの。
- そのあと、二子玉川でも。フィールドワークとWikipediaを組み合わせる試み。
- 地図はもともと自分の専門だった。Open Street Map*7とWikipediaを組み合わせる試みはいいのではないか、と思った。
- 2013年5月に京都で行われたオープンデータ勉強会*8に参加。ここで京都府立の是住さん*9と会って、図書館に関心が湧く。
- 2014年2月に、京都でウィキペディア・タウンを実施。
- どういうことをやっているか?
- 精華町ウィキペディア・タウン
- Code for 山城という団体がある。京都の南の方。ここと組んでウィキペディア・タウンを実施。
- 精華町の後援を得た。知人のつてをたどって協力をお願いしたもの。
- 自治体の規模の大きいところだと、なかなか協力してもらうのが難しい。精華町は比較的小さい自治体だったからか、すんなり協力してもらえた。
- 地域活動にあたっては、うまく協力してくれる自治体を見つけることが大事。
- 京都では若い人の参加が多いが、精華町ではもともと街歩きの団体があり、そこに所属するシニア層が加わってくれた。
- PCを使う活動なので心配していたが、これも町でPCの使い方を教える活動をしている人が参加者に加わってくれて、教えながら進めるような形に。
- ウィキペディア・タウン in 関西館
- 活動をやり始めて
- Wikipedia*5とは。
- いったん質疑
- フロア
- 精華町ではシニア層の参加があったということだが、PCを教えていたのはどういう人たちか。
- 発表者
- 街歩きの団体と、PCを教える団体が参加。そのどちらかに属している人が多かった。なので半分くらいはPCを使える人。
- PCに不慣れな人の横に、教える人がついてやってくれた。教えられるシニアがいたということが鍵。
- 精華町で実施することになったとき、町の方から団体に案内をしてくれた。地域でやるときは、そういう地元のPC教室的な団体が入ってくれるとやりやすい。
- フロア
- 自分の勤務する図書館のボランティアに、地元の写真を撮影して蓄積する活動を奨めようと思っている。一過性でなく続けていけるためには、どの程度のITスキルが必要か。
- 発表者
- ページ自体の編集は結構大変。
- Wikimedia commons*12というのがある。画像や音声等のデータをアップロードする、マルチメディア向けのWikipediaサイトみたいなもの。写真の入れ物がコモンズ。
- シニア層には、ITが苦手でも、写真は好きな人がいる。撮った写真をPCに取り込んで、ブラウザからアップしてみるところをやってもらう。これならマウスの操作くらいでできる。
- ページを書くのは、編集画面を出して打ち込んでいけばOK。見出しやリンクなどの修飾をつけるにはタグが必要になるが、サポートすれば大丈夫。
- 以上のように、イベントとしてやる分にはやれる。ただし、後から自分でずっと継続していけるかというと難しい。課題。
- フロア
- いつもどのくらいの規模でやっているのか。
- 発表者
- 30人くらい。
- 精華町の場合は町と連携していたので、町から声掛けをしてくれた。それ以外の場合はウェブでの広報など。
- 初心者とリピーターが半々くらい。1-2人にベテランが1人ついてレクチャーする感じ。
- 文章の作り方等は講習をやるが、それだけではできない。書くのは書けても、どこに何をアップするか、というところではサポートが要るので、それくらいつく必要がある。初心者がいきなりは難しい。
- 1回のイベントで、3つくらいテーマを立てて、うち新しいページを1つくらいは作るようにしている。
- フロア
- 郷土資料の活用
- 自分の意見ではなく、文献を調べて書く必要がある。ここに図書館が関わってくる。
- 図書館には地域資料コーナーというのがあるが、子どもが宿題に使うくらいで、あまり利用されていないことが多い。
- 図書館の場所を借りてウィキペディア・タウンをやることで色々とメリットがある。
- 司書の協力を得て、あらかじめテーマに関する資料をブックトラックに集めておいてもらう。いきなり行っても、一日の時間の中ではなかなか調べきれない。
- 辞典類等は貸出できないものが多いが、図書館内なのでその場で使える。
- 注意すること
- 文献の丸写しは駄目。事実情報を抜き出して箇条書きし、自分で編集する。
- 資料の出典を付すことで、検証可能性を担保する。これが図書館の資料への入口となる。
- 図書館には希少な地域資料があるが、利用のきっかけが少ない。Wikipediaに書くことで、資料に興味をもってもらえるきっかけになるのでは。
- 他地域への展開
- 高校生によるウィキペディア・タウン
- 南陽高校の生徒。サイエンス夏季プログラム社会実習という科目で、高校教育にウィキペディア・タウンを利用する取り組み。
- 学校の先生に聞くと、学校では「Wikipedia=信用できないもの」と教えることもあるらしい。しかしWikipediaに限らず、世の中の情報一般について、正しいかどうか判断する基準が必要という点は同じ。そのために必要なのが検証可能性であり、出典。
- 自分たちのまちを知ってもらう。南陽高校の付近は新興住宅地で、すぐ近くには昔からの集落があるのだが、知らない。街歩き団体との交流で、地域を新たに発見してもらう。
- 今後はどうすべきか。「学校の生徒なのだから、学校図書館と組むのがいいのでは?」という意見もひとからもらったが、学校図書館には公共図書館ほど地域資料は無いと思う。公共図書館の郷土コーナーとの連携ができるかも。
- まとめ
- 地域の再発見。普段通り過ぎている場所の魅力を、できれば住民自ら情報発信。
- 郷土資料を使うことで、公共図書館に市民が集まってくる。出典をつけて発信することで、資料への入口となる。
- 自らコンテンツを作ることで、検証可能性を高める。
- 今回は高校生だったが、小中学生でもやれるのでは、と思っている。
- 質疑
- フロア
- 組織として活動を続けられている理由は?
- 発表者
- スタッフが良い。それなりに積極的に参加してくれる。教え慣れている人もいる。人の力。
- フロア
- 参加してくるのはどのような人たちが多いか。
- 発表者
- フロア
メモは以上。あとはxiao-2の感想というか妄想。
- お話を聞きながら、先日目にした、自治体サイトの旧ドメインが怪しげなサイトに取得されて、閲覧者が違うコンテンツへ誘導されるというニュースを思い出した*13。このケースの場合はURLの文字列が一切変わっていないのに違う内容を見せられることになる訳で、書き手の誠実さとは別次元での、Web上の情報源ならではの問題点といえる。書き換えられることのない紙資料へのリンクを、Web上に作っておくことの意義が、今後ますます重要になるかもしれない。
- 郷土資料と言われる資料には、地元の人が地域の歴史を書いて自費出版したような類のものも多い。それらが紙で図書館に保存されていたお陰で、現代の人に参照されてWikipediaに載るというのは、エコシステムがうまく回っている感じで良い。
- 以前海外の人から「観光地以外の日本のまちの情報は、海外からだととても調べにくい」と聞いたことがある。ウィキペディア・タウンで作られる地元の情報が、もし日本語だけでなく英語でも書かれていたらどうだろう。日本でも特に有名でない小さな町の郷土情報が、なにかのきっかけで突然ワールドワイドに注目されたりしたら、面白いかもしれないなぁ。
*1:E1701 - 「ウィキペディア・タウン in 関西館」、E1852 - 「ウィキペディア・タウン by京都府立南陽高等学校」
*2:文部科学省ホームページ|平成17年1月28日図書館をハブとしたネットワークの在り方に関する研究会「地域の情報ハブとしての図書館(課題解決型の図書館を目指して)」
*6:Wikimedia blog|Welcome to the world’s first Wikipedia Town
*9:こちらを参照。CA1847 - ライブラリアンによるWikipedia Townへの支援 / 是住久美子
*11:参照。いごもり祭 - Wikipedia、精華町ホームページ、京都府観光ガイド
*13:2016年11月15日 11時42分 YOMIURI ONLINE「自治体サイトなりすまし、旧ドメイン取得し誘導」