日本図書館研究会第57回(2015年度)研究大会に行ってきた。〜その1

 こういうのに行ってきた。

日本図書館研究会第57回(2015年度)研究大会(1日目)
2016年2月21日(日)立命館大学朱雀キャンパス
http://nal-lib.jp/events/taikai/2015/invit.html

 自分にとって面白い発表が多くて、非常に充実していた。充実しすぎてレポートにするのは大変なので、印象に残った数点だけメモ。誤記、誤解ご容赦。ちゃんと知りたい人は、後日出る報告集論文集*1を待つといいよ。

  • 「中世期世界の図書館史再評価 −イスラムの図書館−」原田安啓氏(近大姫路大学
    • 中世ヨーロッパには、資料を広く集めて組織化し、不特定多数の利用に供するという意味での図書館がなかった。このミッシングリンクイスラムの図書館。
    • コーランを普及させるために図書館が発達。「知恵の館」60-70万冊の大図書館が出現し、写本をたくさん作った。
    • ワクフ(喜捨*2による運営。ワクフは宗教的な裏付けのある厚意なので、権力者の意向に左右されなかった。
    • 質疑
      • フロア:イスラムで栄えた図書館は、いかにして西洋に再度リンクしたか。
      • 発表者:いったんアラビア語にされた自然科学の本などが、トレド、コルドバ等でラテン語に翻訳されて再度輸入された。
    • xiao-2の感想:そういえばイスラム圏では美しい写本文化が発達しすぎていたために、活字印刷の発達が遅れたという話を読んだことがあるなぁ。
  • 「総合的な学習の時間における学校図書館活用」大平睦美氏(京都産業大学
    • 学校図書館活用のために、学校の強化学習を巻き込むプログラムの作り方。
    • 教材、学ぶ人、教える人の3要素。図書館やICTは教材に該当し、従来は学ぶ人・教える人に対して情報提供する立場。これからは一方的でなく、情報共有。
    • 京都市学校図書館では、平成24年から地域学習の充実。地域学習は資料数が少なく、一般書が多い。また教師より子ども自身や、地域の大人の方が知っている知識もある。
    • 島根・福島の小学生と双方向通信で、自分の地域の良さを伝えるCM作成などを実践。
    • 今後の課題は、自分が関わらなくても各校で実現できるように、最適なプログラムを研究すること。
    • 質疑
      • フロア:地域と子どもとつなぐ役割、ICTを管理する役割は誰が担っているか。
      • 発表者:担当教員。教育委員会がバックアップ。
      • フロア:公共図書館は関わっているか。
      • 発表者:調べるには図書館が必須、というプログラム。学校図書館も、そこから紹介されて公共図書館も使っている。
    • xiao-2感想:図書館が必要になるようなプログラムを作ることで、図書館利用を増やすというアプローチもある。あと「自分が関わらなくても実現できるように」という考え方はとても大事。
  • 「明治・大正期における中小規模図書館の管理形態とその変遷〜愛知県津島市立図書館の事例を中心として〜」園田俊介氏(津島市立図書館)
    • 津島市立図書館で、過去の史料がたくさん発掘された。これを読み解くと、行政に翻弄された中規模図書館の様子がよく分かる。
    • 120周年記念として資料集*3を作った。研究者に使ってもらえるよう、あまり解釈は加えず資料中心。
    • 津島市立図書館が公共図書館として認可されたのは明治30(1897)年。
    • 日本では明治から大正にかけて図書館が増えた。しかしこの時期を取り上げた研究は、府県立図書館などの大図書館に集中しがち。ひとつは史料の不足、ひとつは戦前の図書館のあり方が批判されてきた歴史による。しかし中小規模の図書館にも注目すべき。
    • 津島市立図書館は、明治から昭和にかけて何度も管理者が変わっている。教育会図書館だったものが行政区分の分裂に伴い分裂した。
    • さらに財政の苦しさから、教育会から公立に移管。そののちも学校組合の解散、郡制廃止などにより変遷してきた。
    • 津島市に限らず、多くの図書館がたどった状況の類型と思われる。図書館単独でなく、行政の一組織として見る必要。
    • 質疑
      • フロア:現代も似た状況があるが、当時から日本の社会の仕組みに図書館が根付かなかった理由は。
      • 発表者:利益にならないこと。明治30年頃に、行政にとっては荷物であり、民間企業にとっても儲けにならないといわれている。
      • フロア:当時の行政の教育関係予算は、教員費の割合が大半。行政だけでなく、大字や地域団体による文庫経営など、地域の中での位置づけに目を向けることが必要。
    • xiao-2感想:利益にならないと言われ、翻弄されながらも120年続いてきたのは、逆に凄いことじゃなかろうか。
  • 公共図書館での高齢者サービス−瀬戸内市立図書館での試み−」嶋田学氏(瀬戸内市立新図書館開設準備室)
    • 現在65歳以上の人口比率は26パーセント。高齢者のためのサービスではなく、高齢化社会におけるサービスを考える必要がある。大活字本や録音図書提供など、現在行われている以上の意図的なサービス設計を考えるべき。
    • 体感から、高齢者を2つに分けて考えてみた。戦前世代と戦後世代。
    • 戦前世代は戦後復興を生き抜いてきた人たち。支援サービスを受けている人も、そうでない人も。自己有用感があり、その反面体の衰えが自尊心を衰えにつながりやすい。勇気づけのための文芸や写真集、加齢をアジャストするサービスとしての大活字資料、音読教室、モノ資料による回想法。
    • 戦後世代は高度経済成長期を生きてきた人たち。基本的人権や民主主義の考え方が身に付き、主体的思考。学び直しや、自分がこれまでやってきたことのない分野への渇望がある。
    • 生活環境への配慮、まちづくり部署との連携など。
    • 質疑
      • フロア:自分の図書館では高齢者サービスは障碍者サービスの一部と位置付けている。障碍者サービスは何かやっているか。
      • 発表者:センターと連携など。
      • 放送大学MOOCsなどをグループで一緒に視聴する活動の可能性。
    • xiao-2の感想:高齢者を、年齢でなく「世代」でセグメンテーションするのは興味深い。老眼や難聴、移動の不便などの物理的サポートの面から考えれば障碍者サービスと通じるが、一方、どういうサービス指向を持つかという面から考えれば、今の70歳と10年後の70歳はずいぶん違うかもしれない。

 というわけで、個人発表についてのメモは以上。続きは…気が向いたら書くかも(書かないかも)。

*1:2016/2/24修正。2016/2/22記事コメント欄でのご指摘による。

*2:Wikipedia|ワクフ

*3:津島市立図書館編年資料集成