図書館総合展「教育委員会制度改革を問う ─図書館は「教育」にとどまるのか?─」に行ってきた。〜前篇

 図書館総合展の私的レポート第二弾。前の記事と順番が前後したが、こういうのを聞いてきた。

教育委員会制度改革を問う ─図書館は「教育」にとどまるのか?─
第1部(13:00〜14:30):〈教育委員会制度改革の現状と展望〉
第2部(14:50〜16:30):〈首長からみた図書館行政/パネルディスカッション〉
発表者:
講師:水畑順作(文部科学省生涯学習政策局企画官)
講師:猪谷千香(ハフィントンポスト日本版記者/文筆家)
講師:大木 哲(神奈川県 大和市長)
講師:関 幸子(ローカルファースト研究所所長)
講師:嶋津隆文(田原市教育委員会教育長)
司会:糸賀雅児(慶應義塾大学教授)
http://2014.libraryfair.jp/node/2084

 実況中継Togetter*1と参加した人のブログ*2が既にある。公式の録画・レポートサービス*3はまだ出ていないようだ*4が、アップされたら皆そちらを見るといいよ。
 という訳で、xiao-2は聞きとれた/理解できた/メモできた/(20日以上経っても)覚えていた範囲でのメモ。当然ヌケモレがある。敬称は適当。

 まずは第1部。

  • 糸賀雅児(慶應義塾大学教授)
    • 社会教育に伴う図書館のあり方について、問題提起したい。
    • 先週は全国図書館大会があり、今週は図書館総合展。またテレビでもここしばらく図書館が取り上げられる番組が続いている*5。社会的に図書館への注目度が高まっている今、基本的な制度設計の話をしていきたい。
    • 第一部では教育制度改革に関する報告2本。第二部ではそれを踏まえたパネルディスカッションを行う。
  • 水畑順作さん(文部科学省生涯学習政策局企画官)
    • 図書館を含む社会教育行政の現状と展望について。
    • 自分は文科省政策局で、図書館や博物館など制度や箱ものを対象とする部署。先週の図書館大会では、先輩である神代浩さんが始めた図書館海援隊に関する報告もあった*6
    • 社会教育行政の状況
      • 平成25年に中央教育審議会生涯学習分科会*7で、今後の社会教育行政について方針が出された。自前でなく、ネットワーク型行政への移行を推進。自前とは、社会教育に携わる人たちが自分たちだけで講座などを考えて実施するような状況。
      • 社会教育はハブとなるべきもの。社会の、社会による、社会のための教育。教育というと上から目線、支援というべき。地域課題に対応するための支援。地域の課題に対応するために他の部署が色々な取り組みを行うように、社会教育もその役割を果たす。
      • 社会教育とは、趣味のようなものと思われがち。しかしまちづくりなど、他のことと連携しうる。
    • 地方教育行政法*8の改正
      • 地方教育行政法改正によって変わる新しい制度の中で、社会教育をどう役立てるか。
      • 法改正により、総合教育会議が設置される。教育に関する重要事項を話し合う場。首長部局と教育委員会の連携がうまくいきにくい現状を変える。会議だけでなく、教育委員会と首長がコラボする。首長にも教育について考えてほしい。来年4月からスタート。
      • 図書館も社会教育施設も色々取り組みをしている。しかしPRが少ない、理解されていない。
      • 社会教育行政全体の課題として、待っているだけではハブになれない。
      • 昔は公民館しか学びの場がなかった。今は色々な場がある。その中で社会教育行政がなすべきは「学習支援力」。
      • 社会教育主事にはネットワーク力やコミュニケーション力が必要と言われるが、これは社会教育主事に限らず、公務員一般に必要なもの。その中で社会教育に独自性があるとすれば、それは学習支援力。ユニークネスとして世間にPRしていく必要がある。文科省でもバックアップしていく。
    • 学習支援力とは何か。
      • 間接的に気づきのきっかけを提供すること。それが行動の変容につながること。そのためには教育行政のみでなく、他の分野との連携が必要。
      • 連携とよく言うが、まずは社会教育と生涯学習事業の中での連携が必要。先日、図書館の実践事例集*9を出した。調査の過程であちこちの図書館に足を運んだが、連携は進んでいない。自前でできることは進んでいるが、外との連携が進んでいない。
      • 図書館なら図書館だけでやる、ということではなく、まずは自分の自治体の教育行政の部署を窓口にして、そこを利用して広げていってほしい。
      • 鳥取県立図書館のビジネス支援*10。入口にパンフレットなどを置いたラックがある。あれはラック自体が並べてあることが凄いのではない。パンフレットを置くだけでなく、実際にそれらを出している他機関との連携があることが凄い。
      • 市町村の教育委員会だと、職員が少ないので、他の部署で色々やった人が教育委員会にも来ているケースが多い。都道府県では、もともと教育畑だけを歩んできた人が多いので連携がより難しい。
      • どうやれば実質的解決ができるか。営業、御用聞きに回ること。文科省も他の省庁に聞きにいっている。社会教育をどういう観点から役立てるか。他省と共同で通知を出すようなことも出来ればいいと思っている。
      • 『図書館実践事例集』の各事例についてもより掘り下げて、どうやって実現したか、どこが難しいか、どう克服したいかといった情報を出していきたい。
      • 市民協働。市民の意見を聞くことが大事。利用者アンケートだけでは不十分。
      • 公民館などでは、ニーズを調べずに講座などを開催していた。フタを開けてみると、来るのは特定の年齢層ばかりだったりする。あらかじめ市民のニーズをきちんと調べることで、市民は自ら関わった「自分たちの講座である」という意識を持つ。口コミのエージェントとなりうる。
      • 地方創生の動きは、社会教育行政にとっては追い風ともいえる。地域が元気にならないといけない。そのために「学び」を役立てることができる。
      • 図書館には地域資料、行政資料が蓄積されている。これは使える、地方創生に役立つ、とアピールする必要がある。しかし、話してみると図書館の人自身もその資料の使い方が分かっていないこともある。
    • 子どもにも大人にも、地域アイデンティティを確立するために役立てられる。なぜ地域を大切にするのか?という根拠。情報の集積こそが図書館のユニークネス。
    • 効果のある行政にするためには、目標を明確にすることが必要。貸出数といったことだけでなく、たとえば「地元の歴史を知っている人の割合」といったことでもいい。目標を立てて、これを達成できたとき、首長などに図書館がわかってもらえる。
    • 図書館、公民館、社会教育行政の人と一緒にやってゆくべく、文部科学省でも検討している。
  • 猪谷千香さん(ハフィントンポスト日本版記者/文筆家)
    • 教育委員会制度の中の図書館、現地レポート。
    • 現地レポートを作るにあたり、図書館の人と話す機会が多かった。実感としては、今回の教育委員会制度改革について皆ピンときていない。どういうことが行われているか、その問題点は?といったことを話す。
    • 教育委員会制度改革の背景。きっかけは2011年の大津いじめ自殺事件*11。この事件について教育委員会の対応だけでなく、教育委員会制度そのものについても批判が出た。
    • そもそも教育委員会アメリカの制度をモデルに作ったもの。もともとの仕組みでは委員の公募、議案や予算に関わる権限を持つなどの特徴があった。しかしうまくいかないことがあり、1956年に現行制度となった。
    • 現行制度のもとでよく指摘される問題としては、教育委員長と教育長のどちらが責任者なのか不明確であること、審議の形骸化、住民の民意が反映されづらいこと、縦割りの弊害。
    • 図書館はどうか。教育委員会制度としては学校教育がメインストリームで、図書館はそれほど注目されていない。
    • 教育委員会から首長部局に移管される図書館が増えている。現在は170館くらい。県立では、愛知、三重、奈良、佐賀など。状況はLRG8号*12に詳しい。
    • 事例紹介
      • 事例1:千代田区立図書館*13。開館後1年で100万人来館を突破。区民生活部文化スポーツ課*14。区長の強い意志によって実現。
      • 事例2:江戸川区立篠崎図書館*15。もともと子ども未来館と子ども図書館が併設されており、2008年に区長部局となった。江戸川区は23区内で2番目に平均年齢が若く、「子育てに強い区」を打ち出している*16。両館のスタッフが連携し、昆虫観察などの企画を実施。部長が同じなので企画の相談がしやすい。
      • 事例3:紫波町図書館*17。官民連携のオガールプロジェクト*18。塩漬けの町有地があったので、補助金を使わずに地元の銀行等からの融資で中核施設をオープン。その中心が図書館。他に産直マルシェ、バレーボール専用体育館など。
        • 余談。バレーボール専用の体育館というのは珍しいと思ったが、野球やサッカーほどではないがある一定の利用者層がいるスポーツ。特化することでニッチながら確実な利用。
      • 図書館が農業支援サービス。マルシェで米を売り、図書館でレシピ本を紹介するなど。また農薬等の最新情報が得られるルーラル電子図書館*19も導入し、農家の人に講習会。農家向けのコミュニティ機能。町の戦略と一体化。
      • 事例4:田原市図書館*20。国の制度改革に先立ち、緊急課題対応プランを制定*21
        • このプランで「打って出る」教育委員会を目指す。図書館は貸出数トップクラス。教育長の嶋津さんはもともと教育の出身ではない。教育委員室を開設、会議フリーパス制度*22。地域や管轄の差にこだわらない問題解決型の運営、図書館と学校教育と博物館等が一体になる。
    • 教育委員会のもとで活躍している図書館もあれば、首長部局で活躍している図書館もある。どこにポイントがあるか。
    • 神奈川県立図書館問題。神奈川県立川崎図書館を閲覧停止にするという話が出たとき、外部からそれは図書館法違反であるという批判が出た*23。それに対して県の教育委員会が、館を図書館法の適用範囲から外す方針を示したケースもあった。
    • 政治的中立性。どこに属するにしても、どうやって保つのか。
    • 地域に根ざす教育委員会と図書館のガバナンスのあり方。

 この後お二人の報告を受けて、糸賀先生から論点整理。…だが、キーワード山盛りのマシンガントーク過ぎてxiao-2の頭がパンクしたので、ほとんどメモできていない。

    • 教育委員会と首長の関係。学校教育は何をやっているか分かりやすいし、中立性についても納得しやすい。一方社会教育は、受ける側の年齢も内容も、やるかやらないかということも含めてバラバラ。
    • 社会教育は教育委員会がやらなければならない理由は何か。
    • 社会教育主事のあり方。司書、学芸員と並べられることが多い。社会教育主事だけは社会教育法で必置となっているが、置かないところが増えている。必置にする必要性は何か。
    • ネットワーク型行政。図書館同士でなく、行政の他の部署と。
    • 自前主義から出前主義へ。
    • 行政と渡り合える図書館職員の必要性。

 というところで、第1部終了。続きは気が向いたら。

*1:図書館総合展フォーラム「教育委員会制度改革を問う」-Togetterまとめ

*2:図書館小町 2014-11-07「第16回図書館総合展フォーラム「教育委員会制度改革を問う−図書館は「教育」にとどまるのか?」(第1部)」

*3:第16回 図書館総合展 放送局&レポートサービス

*4:2014/11/26確認

*5:たとえば、NHKあさイチ11月5日【本の世界読書有川浩http://放送内容.blog.so-net.ne.jp/2014-11-05-1サキどり!2014年11月9日放送「来たゾ!図書館の逆襲!?」

*6:関連書籍

困ったときには図書館へ―図書館海援隊の挑戦

困ったときには図書館へ―図書館海援隊の挑戦

*7:文部科学省ホームページ:中央教育審議会生涯学習分科会における議論の整理

*8:地方教育行政の組織及び運営に関する法律

*9:図書館実践事例集 〜人・まち・社会を育む情報拠点を目指して〜

*10:鳥取県立図書館ホームページ:ビジネス支援

*11:Wikipedia:大津中2いじめ自殺事件

*12:ライブラリー・リソース・ガイド(LRG) 第8号/2014年 夏号

*13:千代田区立図書館

*14:文化スポーツ課

*15:江戸川区立篠崎図書館

*16:ググッたら参考になりそうな記事が出てきた。ダイヤモンドオンライン: 2010年10月5日江戸川区――「陸の孤島」と言われる水の街は、なぜ子どもの数が最も多い?

*17:紫波町図書館

*18:参考。ハフィントンポスト2014年9月10日付け記事:猪谷千香「岩手県紫波町「オガールプロジェクト」 補助金に頼らない新しい公民連携の未来予想図」

*19:ルーラル電子図書館

*20:田原市図書館

*21:田原市緊急課題対応プラン【田原市教育振興基本計画】(PDF)

*22:「教育委員の情報把握に問題が生じないよう、庁内外の教育関係会議への参加フリーパス制度を導入することとします。すなわちすべての教育委員は教育委員会事務局でのすべての会議はもとより、学校や地域で開催される会議に出席できるようにするものです」(田原市教育振興基本計画「緊急課題対応プラン」より該当項目を抜粋)

*23:関連記事。ささくれ:2013-02-26「図書館法が適用されることのメリット」