続・日本図書館協会図書館学教育部会 2012年度第1回研究集会に行ってきた。

 前回のイベントレポートの続き。例によってxiao-2が聞きとれてメモできて理解できてかつ「一週間経っても」覚えていた範囲、のメモ。誤記・誤解はたぶんあり。敬称は「さん」に統一。→以下は自分の感想。項目立ては適当。

  • 「図書館に求められる情報技術:三重県律図書館の場合」(三重県立図書館 井戸本吉紀さん)
    • 図書館に求められる情報技術として、現場の声を話す。
    • 三重県立図書館*1について
      • 本日の参加者の中で、昨日の日本図書館情報学会での当館職員の発表*2を聞いた方は?(2-3人挙手)それとほぼ同じ内容になるが、当館の改革実行計画「明日の県立図書館」というものがある*3。「明日の『県立』図書館」、というのがポイント。単なる「明日の図書館」ではない。H23年度から4年間の取り組み方針をまとめたもの。
      • 「明日の県立図書館」について。まず、2つの約束。1つ目は、全県域・全関心層へのサービス。南北に長い三重県のすべての地域に、というのと、県民に限らず三重県に関心のあるすべての人に、という意味がある。2つ目は、先進的サービス。県立が積極的に調査研究を行って、その成果を市町村立図書館と共有しながら実現していく。調査研究をして、結果が駄目なら県立だけで被る。良い結果なら共有する。
      • 2つの約束を実現するために、3つの活動。資料・情報の創造的活用、三重県図書館体制づくり、特色ある資料の充実。
      • 3つの活動を行う方法として、5つの方策。プロモーション、連携・協働、スキルアップ、ネットワーク、マネジメント。これは今年開催した「明日の県立図書館フォーラム*4」でも目標として報告した。またそこに至るまでに、職員間や図書館協議会での報告も経ている。
    • 現場が考える、情報技術を利用する目的。
      • 目的は3つ。プロモーション、コスト削減、利便性向上。先に述べた5つの方策にも対応する。
      • ただしコスト削減自体が目的ではない。図書館のリソースをサービス向上に振り向けるためのコスト削減。言い換えれば、利便性向上が前提。
    • 目的1:プロモーションについて。
      • 当館のWebサイトは積極的に新しい情報を発信しており、ユーザからすると見る度に少しずつ変わっているという印象を持たれるようにしている。イベントが終了した時には必ず報告を載せるし、RSS配信もする。
      • イベントでのアンケートによれば、イベントの開催情報をホームページで知った人が22名。ネットで情報を得た人の内訳を見ると、ホームページで知った人よりもTwitterFacebookといった口コミで知った人の方が多い。
      • こうした観点から職員に求められるものは、情報発信の重要性を認識していること。良いことをやっていれば黙っていても報われるという訳にはいかない、知らせてなんぼ。ITによる情報発信の利点としては、コストが安いこと、スピードが速いこと。たとえば紙でチラシを作ると、1,500枚で3-4万かかったりする。印刷する時間も要る。ITならばPDFにして載せるだけでよい。すぐできる。そういったITを使うことの利点を認識しているということが、職員に求められる。
      • 知識としては、CMS*5SNS*6の利用経験。JavascriptやHTML読解ができると良い。
    • 目的2:コスト削減について。
      • 三重県では、三重県総合情報システムというものを運用している。これは業務システムと、三重県図書館情報ネットワークシステム*7という2種類のシステム。何が効率化できるのか。
      • 現場にとって一番のチャンスは、システム更新。いちから仕様書を書ける。平成22年12月に、業務システムとMILAIが連動を強化した。MILAIのデータ収集を自動化した。以前はデータを集めてくる集中型だったのが、横断型になった。サーバをブレードサーバ化し、図書館の外に出した。
      • こうした観点から職員に求められるものは、個人情報保護の重要性を認識していること。また、ルーチンワークに対して効率化できる部分がないかという問題意識を持つこと。さらに、システムカスタマイズのリスクを認識していること。パッケージで動くように作られているシステムは、カスタマイズすればするほど不安定になる。更新するのに、更新前のシステムの仕様に無理に合わせる必要はない。
      • 知識としては、ネットワークに関する知識。ただしこれは最低限でよい。それから、サーバクライアントシステム、クラウドサービスに関する知識。それぞれのリスクも知っているとよい。
    • 目的3:利便性向上について。
      • MILAIのシステム更新によって利便性の良くなった部分。データベースが集中型から横断型に変わったことで、資料の最新情報が入るようになった。ただし横断検索のレスポンスはかなり遅いし、横断検索先の各図書館のシステムの違いから、検索できる項目は絞らざるを得ない。その意味では不便。
      • ネットによるサービス。オンライン配送サービスと、オンライン予約取り寄せサービスがある。前者は県立図書館のカードを持っている人が、近くの図書館で県立図書館の資料を受け取れるもの。後者は自分で県立図書館資料の予約取り寄せを行うもので、図書館間貸出を自分で直接申し込むものと思えばよい。
      • 動画の試験放送。イベントを開催すると、Ustream等でその様子を流す。ライブの方が良いに決まっているが、来られない遠方の方のため。
      • 貴重書の電子化公開。これはMLA連携の一環として取り組んでいるもので、今月中に公開する想定。「県民ではないが、三重県に関心がある人」へのアプローチ。
      • こうした観点から職員に求められるものは、ユーザの要望やニーズを把握しようという意欲。見せたいものを見せる、やりたいものをやる、というのではない。お客さんが望んでいるものをやることが必要。また、分かりやすい見せ方を考える意識。
      • 知識として必要なのは、最新のWebサービスに関する知識。たとえば国立国会図書館サーチカーリルなど。
      • 資料の電子化に関する知識。実際に作業を行うのはベンダーだとしても、知らなくては作業管理できない。
      • 電子書籍電子図書館の動向に関する知識。最新の状況はどんどん変わっていく。これは仕方ない。そうした状況を情報としてある程度仕入れた上で、では自館ではどうするということを考えられなくてはいけない。
    • 司書の役割とは。
      • かつては資料を分類・保管することが司書の役割だった。本という固定されたメディアは、今も大事。それに加えて、人の話など色々な情報の付加価値をつけて提供できる能力が必要。そのための情報技術リテラシー。司書課程を担当する先生方には、是非そのことを伝えてほしい。
  • 質疑

 ※休憩時間に質問を紙に書いてもらって、司会が読みあげつつ講師に振っていくというスタイル。一枚に複数の質問があったりして時系列だけで並べると錯綜するので、順番は多少入れ替えている。

    • 会場:図書館情報技術論の中で、PCに触れる時間はどの程度取っているか。講義と演習のバランス。
    • 河島さん:自分の授業では講義が中心。小規模だが、2011年卒業生でいうと70名程度が履修していた。それだけの人数だと、コンピュータ室に入りきらない。それでも分けるなどして、1コマはPCに触らせるようにしている。
    • 河島さん:ただ、講義だけで1日5コマは学生の集中力が持たない。事前に課題を出しておいて、授業で実際にPCを使ってやってみるといったことをしている。
    • 福永さん:現時点の計画では、講義室での授業・演習室での授業を1対1の割合で考えている。本学の最大のコンピュータ室は96名収容可能。それ以上受講生がいたら、2コマ開講することになる。
    • 会場:情報資源組織論との関係はどのように考えているか。
    • 河島さん:情報サービス演習、情報資源組織論との住み分け。たとえばひとつのデータベースについて、図書館情報技術論はそのメカニズムをやる。情報サービス演習は利用面を中心。情報資源組織演習は、文字通り組織化。ダブる部分があるのは仕方ない。むしろダブるということは、重要な部分なので繰り返しやるべき。
    • 福永さん:検索・データベースについて知るのが情報サービス演習。15コマだったのが、必要な単位が増えた。情報資源組織論と被るのは、機関リポジトリメタデータの話くらい。
    • 会場:履修者の人数制限はあるか。
    • 河島さん:人数制限はしていない。
    • 会場:新卒採用された図書館員に、どの程度の情報技術スキルを求めるか。
    • 井戸本さん:具体的にどこまでという例は思いつかない。ただ、知識は就職後からでも付けられる。まずは言ったような認識の部分。これが基礎。
    • 井戸本さん:その上で特に必要な要素と言えば、できればCMSやCNCを触ったことがあること。また、セキュリティや個人情報に関する知識。後者は特に、後から知識をつけると言っていると大変なことになる可能性があるため。「マルウェア」という言葉を聞いたことがある、という程度でよい。県立クラスの図書館だと、県の主催するセキュリティ研修などがあるので、そういう場で勉強できる。ただ市町村の場合には難しいかもしれない。
    • 会場:正職員として採用された場合、自身でプログラムを書くというよりベンダーへの発注が業務の中心になることがあると思われる。そういう場合に必要な能力は。
    • 井戸本さん:仕様書を書くときに必要なものということか。
      • 実際自分も仕様書は書いているが、パッケージに対してあまり書きこんでカスタマイズが多くなるとリスクが増える。まずはパッケージをベースにして考える方がよい。
      • 一方セキュリティ等については、県や市町村など自治体の情報担当者がいる。そういう人の助言を仰ぐ。
      • パッケージをベースに、県の担当者の助言をもらう。それに加えて、当館なら事業計画「2つの約束」に合わせてどうしても必要な、譲れない部分だけをカスタマイズした。たとえば全県域へのサービスという観点からネット予約が必須だったので加えた、など。各図書館の事情に合わせることが必要。
    • 会場:いまパッケージベースでという話をされたが、図書館の人として考える「標準的パッケージ」とはどのようなものか。図書館ならばこういう機能くらいあってしかるべきという理念がないと、学生にどう伝えたらよいか分からない。イメージを持ってもらえればいいのか。
    • 井戸本さん:図書館の業務に必要な機能。国立国会図書館サーチはひとつのメルクマールになると思う。「図書館ならばこれぐらいはあるべき」という標準を国会図書館が示したものと思っている。基本があって、応用がある。最低限のことは書いていないと。
    • 会場:学生のITスキルに格差がある場合、どのような対応や配慮が可能か。
    • 河島さん:自分の場合、図書館情報技術論は講義が中心で、スキルを身につける場ではない。司書課程と別に「情報リテラシー」という全学科共通の科目があるので、そこで底上げをする形。発展的なことまで知りたい場合は、別の科目があるので紹介する。
    • 福永さん:実際に本学でも、文化情報学部生以外から「難しすぎてついていけない」というクレームが来たことはある。文化情報学部生のレベル、つまり難しい方に合わせて講義を組み立て、他の学部生には別の枠でサポートする形をとっている。これから演習が多くなるので、「ついていけない」と言われたら対応していく。
    • 司会:受講生のITスキルに格差がある場合の対策としては、演習課題を与えた時、スキルの高い学生にTA的な役割をさせることがある。教員よりは聞きやすく、教える側にも教えられる側にも有効。

(報告者への質疑でなく、会場にいた人同士でのやりとり)

    • 会場1:自分は新カリキュラムの検討に関わった者だが、科目の性格として「基礎」と思われてしまってるのは誤解かもしれないと思う。科目を作った時には、必ずしも基礎でなく、応用の部分も入るのでは。
    • 会場2:自分も新カリキュラム検討に関わった。やはり「基礎」というのが正しい。ただ、この「基礎」は、「応用」に対置する意味での「基礎」ではない。他の科目にとっても基礎であり、横断的に必要な基礎的スキル。PCを触りながら演習形式の方がよく分かる。講義だけだと、どの程度理解が深まるか。
    • 会場1:これをやったら次に他の科目をやる、という意味での「基礎」ではなく、他の科目を理解する上でも基礎になるということか。それなら分かる。
    • 河島さん:文部科学省の文書別添に「必要があれば」演習をやること、と書いてある。この解釈から、ひとまず講座中心の授業としている。設備的に演習を行うのは大変。コンピュータ室の予約が取れない。図書館基礎特論ではAPIを取り上げたいと考えているが、これだと他の部屋が使える。
    • 福永さん:今お話を伺っていて、演習に重点を置いた方がよいのかなという気がしてきた。既にコンピュータ室は取ってあるので、授業を担当する非常勤講師さんと相談してみる。講義と演習は5:5でなく、7:3くらいでもよかったのかもしれない。
    • 司会:設備の問題は大きい。他大学での事例などあるか。自分自身、来年度からどうしたらいいかと困っている。進めながら、現実と突き合わせてよりよい形を模索していくことになるだろう。
    • 会場:情報社会における図書館の役割について考えさせるとの話だったが、どんなことを教えるのか。
    • 河島さん:ガイダンスを含む内容にしている。
      • つかみで「三つのリンゴ」の話をする。人類の歴史の中で大きな役割を果たしてきた三つのリンゴ。一つめがアダムとイブのリンゴ、楽園から追放された。二つめがニュートンのリンゴ、科学革命のきっかけとなった。三つめがApple社のリンゴ。そういう話から入って、興味を持ってもらう。
      • それから天気予報や路線の調べ方の話を経て、収集・組織化・保存といった話をする。
      • 昔はWebOPACが無かったんだよ、といった話もする。学生の年齢だと、WebOPACはまるで遥か昔から存在していたように思いこんでいたりする。
      • そういった話で、図書館のあり方について考えていく。
    • 会場1:新カリキュラムを検討された方が会場にいるのでお尋ねするが、この科目についてはどういう位置づけなのか。
    • 会場2:科目名に「基礎」と入っていたりするので、最初にやる科目のように思われている。実際には「基礎」ではなく「基盤」と思ってもらえるとちょうどよい。他の科目には該当しない、でも大事なことだという位置づけ。最初にやらなくてもいい。1年次でやってもいいし、2年次以降でやってもいい。
    • 会場2:情報技術がどう図書館に結び付くのか、という話が中心。その上で、応用部分について話しても構わない。各大学で決めてもらえばよい。
    • 会場?*8:自分の持っている司書課程だと、日本文学科の学生もいる。本に興味はあるが、PCの話は一番遠いタイプの子たち。そういう場合は本の方から興味を持たせるようにする。図書館のやっているのと同じことをコンピュータでもやっているんだよ、怖くないよ、という具合に。そういった形で授業を進めるために、コンピュータ室での演習のコマを無理して確保した。
    • 司会:情報技術自体が、図書館全体に関わるもの。
    • 会場:本学では来年度開講する。司書と、ドキュメンテーション学科。4学科で140名ほど受講。そうなると2コマ確保するのは難しい。学生全員に回るだけのPCもないし、教室がそもそも収容不可。演習の実施が難しいので、「現場図書館でどういうものが導入されて、どう使っているか」という点を中心にした方がよいのでは。データベース、検索エンジンについては情報サービス演習で取り上げる。
    • 河島さん:実践は盛り込む。自分としては、文科省の示した項目に則って講義するつもり。
    • 福永さん:本学では、司書養成課程を担当するのが非常勤の情報工学の先生。どこまでやってもらえるか。
      • 本学で機関リポジトリを作ったので、その課程を赤裸々に話してもらうのもありか。他大学の人からずいぶん助けを得たと聞いている。大学図書館システムの更新があったら、担当を読んできて話をしてもらうのもいい。
      • 機関リポジトリ担当の司書と話していたが、皆熱心だ。若い人がどんどん提案をしていけるような柔軟な空気があうと感じる。現場の人に来てもらって授業で話をしてもらえるとよいが、なかなかそうもいかない。自分のような専任教員の講義の部分でカバーする。
    • 会場:図書館情報技術論という科目に、図書館の中の人として期待するところは。
    • 井戸本さん:かなり幅広い。あらゆることを教えておいてもらう方がありがたいが、物理的に無理。とりあえず、アレルギーを除いておいてもらえればよい。情報技術というものが図書館にとって武器であって、サービス向上に使えるのだと理解してもらえれば。
    • 井戸本さん:「どんな活用例があるか」の紹介をしてもらえるのは、良い。色々なWebサービスを始めている館がある。図書館の人間が話すと、どうしても業務システムの話になりがち。利用者が見るのは業務システムでなくWebなので、こちらを分かりやすくするのが大事。技術+感性が必要。良い活用例を見て、「あれをやりたい」と思ってくれるとよい。
    • 井戸本さん:技術的なところではCMS、あとは標準化技術。たとえば国立国会図書館サーチのハーベスティングに対応した標準仕様が市町村立図書館のシステムに実装されれば、サーチでの検索結果が劇的に良くなると思う。だがなかなか浸透しないのは、現場の図書館員が標準化の重要性を分かっていないからでは。図書館システムパッケージに採用されれば、クラウドに載っているものが一気に良くなる。
    • 司会:SNSは学生は既に活用している。教員が考えるより良いものが作れるかもしれない。
    • 会場:図書館が利用者にどんなサービスをしているかということを学生が理解しないまま、技術だけ教えても駄目。司書課程でも、図書館のことを知らない学生は多い。
    • 司会:「図書館の」情報技術、といったことを意識しつつ展開する必要があるかも。
    • 河島さん:図書館情報技術論でも、閲覧、貸出等について最初に説明する予定。図書館概論が司書課程の最初に来るようになっていればいいのだが、カリキュラム上必ずしもそういう順番になるとは限らない。図書館情報技術が最初の授業になる可能性もある。


 メモは以上。
 自分は司書課程を教える人ではないので、こういう話題もあるのね、という程度の感想。だが、実際教える立場の人にとってみれば切実な問題なのだろう。コマ数や設備についてたくさん質問が出ていたのも、皆さんの頭の痛いポイントをよく示している。担当が非常勤の先生だという話も印象に残った。「こういうことを教えなさい」という注文は降ってくるけれど、それに対応するための人・設備・時間は教育現場で捻出しなくてはならない。教育の場に限らない話ではある。
 また、育成された人を受け入れる現場側の声として、三重県立図書館の人に出てもらうという視点も良かった。図書館の人と司書課程を教える人、もっと交流の場所があるとよいなぁ。