日本図書館協会図書館学教育部会 2012年度第1回研究集会に行ってきた。

 こういうのに行ってきた。

日本図書館協会図書館学教育部会 2012年度総会・第1回研究集会
テーマ:司書課程で情報技術の何をどう教えるか
趣旨:新カリキュラムの必須科目として、図書館情報技術論という科目が新設されます。図書館業務とICTが不即不離の関係にある状況を踏まえ、本科目にはICTに関わる技術・知識が教授内容として盛り込まれています。ただ、図書館員に求められるICTの技術・知識と言っても、その解釈には非常に幅があるように思います。本研究集会では、科目内容について科目を担当する教員の方や図書館の現場の方からお話を伺うことを通じて、図書館情報技術論に期待する内容についての共通理解をはかることを目指します。

 以下、例によってxiao-2が聞きとれてメモできて理解できてかつ覚えていた範囲、のメモ。誤記・誤解はたぶんあり。敬称は「さん」に統一。→以下は自分の感想。項目立ては適当。

  • 講演(1)「図書館を動かす情報技術の学び:情報技術を使う心構えの養成」(聖学院大学 河島茂生さん)
    • 司書講習で「図書館情報技術論」を初めて受け持つことになった*1。学部では来年から始まる。どう教えていくべきか。
    • 「図書館情報技術論」とはどういうものか。平成21年4月に文部科学省から出された公式見解をまず確認。
      • 科目新設を定めているのは「図書館法施行規則の一部を改正する省令及び博物館法施行規則の一部を改正する省令等」*2。この別添2「司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目一覧」*3には、このようにある。

図書館業務に必要な基礎的な情報技術を修得するために、コンピュータ等の基礎、図書館業務システム、データベース、検索エンジン、電子資料、コンピュータシステム等について解説し、必要に応じて演習を行う。

      • また文部科学省ホームページの「改正司書養成科目に関するQ&A」*4には、このようにある。

Q34 新科目「図書館情報技術論」の内容には,具体的にどのようなものが含まれるのか。
A34 図書館業務に必要な,ネットワークに関わるサービスに携わる際の前提となる最低限の用語や概念の理解を図る,ウェブページの構成・評価,個人情報の流出やウェブサイトの改ざんを防ぐための最低限の必要な知識等が考えられます。

      • つまり、求められているのは基礎的な情報技術。
    • これを踏まえて、どう授業計画を立てるか。以下では自分の場合を紹介。ポイントは3つ。
      • 1.大まかに、体系的に。
      • 2.詳しく学びたい人には、関連科目を紹介する。
      • 3.最新技術を追い求めるのではなく、図書館の意義やありようについて考えさせる。
    • 1.大まかに、体系的に。
      • 司書課程を受講する学生は本好きが多い。一方で、情報技術に興味がある人は少ない。むしろアレルギーを持っている。「図書館情報技術論」は「基礎科目」なので、1-2学年で受けることが多い。この中で細かいところまでやると、却ってアレルギーを引き起こす。
      • 演習をやれるならやる方がいいが、その場合でも直観的、視覚的、ゲーム感覚でできるものがよい。
    • 2.詳しく学びたい人には、関連科目を紹介する。
      • 授業時間の制約がある。15コマ30時間*5。この「図書館情報技術論」の時間だけで掘り下げるのは難しい。
      • とはいえ「図書館情報技術論」の授業をきっかけに情報技術に興味を持つ人はいる。そういう人には、情報技術系の他の科目を紹介する。そのためにシラバスで大学の情報系科目をチェックしておく。
      • 司書課程はカリキュラムポリシーが省令で定められているが、それ以外に情報系の科目は色々ある。聖学院大学の場合、コミュニティ政策学科情報コースでは15科目49単位。
      • たとえば「図書館情報技術論」のセキュリティに該当するものは、情報コースの「情報リスク論」。Excelの使い方なら「コンピューター応用実習」。プログラミングなら「情報システム論」。
      • 同じ大学内で情報系の科目が整備されていないようなら、本を紹介する。ブクログを使っている*6。書誌だけだと興味を持ってくれない。書影まで見せるのが効果的。
    • 3.最新技術を追い求めるのではなく、図書館の意義やありようについて考えさせる。
      • 「図書館情報技術論」の中で教えるべきことは、図書館はなぜあるのか、ということ。最新技術を教える場、技術好きを育てる場ではない。
      • たとえばGoogleページランク*7。ただ技術を教えるのではなく、「その仕組みだけで知を左右されていいのか」と問いかける。サーチエンジンで検索できないものもあると説明し、その代表である本、その本を抱える図書館、といったように考えさせる。
      • あるいは、レコメンド機能。これも技術だけでなく、意義を考える。2006に論文に書いたことだが、レコメンド機能導入により、情報探索行動は減ることが分かっている*8。カスタマイズされることにより共通の話題がなくなり、民主主義を脅かすとも言われている*9
      • あるいは、電子媒体の耐用年数の短さなど。
    • これらを踏まえて、授業項目を決めた。
      • 初めに概論。
      • 閲覧、貸出に使われる情報技術。図書館サービスの一環としてのICTについて。
      • 目録に使われる技術。自動化されていく時間的な奥行きなども理解してほしい。
      • PCの使い方。動作が重くなるのはなぜか、ネットワーク技術など。
      • 検索エンジンや、データベースの仕組み。内的メカニズムを知ることで、翻弄されずにすむ。
      • ネット上の情報発信。HTML、CMSアクセシビリティなど。実際に触れさせることで、ブラックボックス化しなくなる。またアクセシビリティは、障害者サービスの一環としての意味も。
      • コンピュータ・セキュリティ。Librahack事件についても話す。
      • 最新の情報技術紹介。これは毎年内容を変える想定。今年はディスカバリーサービス、OPACのレコメンド機能など。
  • 講演(2)「司書課程における情報技術教育:椙山女学園大学の事例」(椙山女学園大学 福永智子さん)
    • 椙山女学園大学について
      • 名古屋市にある地元密着型の女子大学。学部は7学部あり、このうち5学部で司書課程を開講。開講していない2学部は生活科学部と看護学部。それぞれ理系寄りの内容であったり、最近設置された学部なので開講されていない。教育学部は5-6年前に設置された。
      • 本学では司書を毎年送り出している。司書になる人は、以前は多かった。現在は採用自体が減っている。本学の学生でも、合格したのは数名いるかどうか、という状況。嘱託として、近くの市からは毎年採用の相談がある。本学でも卒業生4人がそちらで就職。
      • 専任教員は2名。自分と山本昭和先生*10という方。この方は市立図書館に勤務されていた。同じく、非常勤講師が2名。
    • 司書課程の現状
      • 司書課程は文化情報学部内に置かれていて、他の学部から聞きに来るという形。文化情報学部ではデジタルアーカイブ論なども開講。
      • 文化情報学部は人文系の情報学部。2011年度から2学科制になっている。文化情報学科とメディア情報学科。コンテンツ作成などに力を入れていて、マスコミから講師を招いて話をしてもらったりする。名古屋市東山動物園と共同で動画コンテンツを作ったこともある*11
      • 情報工学の教員が多いのが特徴。従って、学生にも情報技術へのアレルギーは比較的ない。どちらかというと本が好きというより、小説やマンガ、ブログを書いたりするような人が多い。文化情報学部の学生はIT系の資格取得にも熱心。就職先としてSEや、それ以外にもIT系のところが多い。
      • ただし、情報技術に熱心なのは文化情報学部くらい。他の学部の学生はそうでもない。だが司書課程で一緒に学んでいるうちに、学生同士が仲良くなる。キャンパスが離れていても、ITに強い学生を中心に空気感染のようにして影響を受けている面はある。その他の学部だと、たとえば表現文化学科は比較的文系寄りだし、教育学部からだと司書教諭を入り口に興味を持って受講しにくる人もいる。
      • 司書課程の中の文化情報学部生は4割程度で、ITスキルは割合ある。他の学部とのギャップがあり、学内でのデジタルデバイドが存在する。情報検索演習でも、文化情報学部生に合わせると難易度が高くなってしまう。その差をどう埋めていくか。
    • 情報技術教育についての基本方針
      • 図書館情報技術論はまだ開講していない。25年度から非常勤講師の方にやってもらう予定。「現場に入ってから学べることは教えなくていい」という意見も出ていたが、それもどうかと思う。一方で、テクニカルな部分に重点を置きすぎるのもどうか。図書館司書として最低ここまでは要るという内容を押さえておくことが大事。では「最低ここまで」とはどこまでか。
      • 当初は専任教員とのオムニバス形式で開講することになっていた。それがなぜ非常勤講師の担当になったかというと、持ちコマ数の関係。非常勤で情報工学系の先生が多いため、内容や得意分野に合わせて選べる。
      • 内容等は文部科学省の求める図書館情報技術論をほぼそのまま実現した形。シラバス文部科学省の資料どおり。
      • 内容を考えるにあたり、手掛かりとしてLibrahack事件について授業で取り上げた。この話を聞いた受講生は、授業の後に情報セキュリティの先生やプログラミングの先生のところに自分から「クローラとは?」等と質問しにいく。その結果学部内で話題になり、質問された先生から司書課程担当の先生の方に話が来たりする。
      • そうして聞ける先があるということで、文化情報学部の学生は恵まれている。他学部の学生については、その部分も自分がカバーしている。本来は図書館情報技術に含めるべき内容だが、授業時間等の制約上無理。他のところでカバーしつつ進めている。
      • もし卒業生が大学図書館で機関リポジトリ*12担当者になったら?と想定。メタデータ関連の部分はなんとかカバーできるようにしたい。
      • 本学でもリポジトリをオープンした*13。その担当者に話を聞いてみると、担当の図書館員は嘱託であと2年しかいないという人もいた。大学図書館員はスキルアップが求められていると感じる。リポジトリも、基本的に自力でやらなくてはならない。就職一年目で、今年からリポジトリ担当をやってくださいということもあり得る。そうした場合にも対応できるよう、基礎的なところはなんとかやりたい。

 お二人のお話はここまで。またしても途中だが、眠くなったのでおしまい。次回は、三重県立図書館の人の報告と質疑応答の記事をアップする。…気が向けば。

*1:参考:聖学院大学司書講習

*2:図書館法施行規則の一部を改正する省令及び博物館法施行規則の一部を改正する省令等(平成21年4月)

*3:別添2「司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目一覧

*4:改正司書養成科目に関するQ&A

*5:参考:聖学院大学司書講習科目一覧

*6:ブクログ|河島茂生研究室の基本資料

*7:ページランク - Wikipedia

*8:松井 聡. 河島 茂生. Webパーソナライゼーション機能の有無にともなう利用行動の比較--音楽サイト「MuZicJam」における調査研究. 情報社会試論.. 11 2006. 21〜35

*9:そういやこの本で、そういった主張を読んだ気がする。

インターネットは民主主義の敵か

インターネットは民主主義の敵か

*10:教員紹介:山本昭和

*11:バーチャルひがしやま動物園

*12:慶応義塾大学:MediaNet>>No.13 2006>>機関リポジトリとは何か

*13:椙山女学園大学 学術機関リポジトリ