続続・平成24年度近畿公共図書館協議会研究集会「地域資料とMLA連携〜地域資料を集める・提供する・伝える〜」に行ってきた。

 飽きもせず、前回のイベントレポートの続き。例によってxiao-2が聞きとれてメモできて理解できてかつ覚えていた範囲、のメモ。誤記・誤解はたぶんあり(ついでに言うと、そろそろ記憶が曖昧になりつつある)。敬称は「さん」に統一。→以下は自分の感想。項目立ては適当。

  • 事例発表2「聖徳太子歴史資料室を開室して−町立図書館での地域資料の収集・公開・レファレンス−」(斑鳩町立図書館 磯田真理さん)
    • 歴史資料室を開室してから変わったこと
      • 歴史資料室を開室してから、利用者の問合せの仕方が変わってきた。以前は質問するにも遠慮がち、聞く方も答える方も時間に追われていた。だが開室後は、利用者が質問の背景を落ち着いて話せるようになり、レファレンスでもよりニーズに合った情報を提供できるようになった。レファレンスだけでなく、利用者から情報が入ることによって、資料構築にも良い効果が出た。
      • レファレンスを受ける側も変わった。以前は書籍中心で調査していたのが、他の図書館やデジタル情報も案内することができるようになった。新たに気付いた情報源としては、他の利用者から得た情報というのもある。書籍だけでなく論文単位の情報も提供できるようになった。
      • 利用者と図書館の関係。じっくり質問できるようになったことで目的が共有化できるようになった。利用者も情報を受け取るだけでなく、自分が調べたことや受けたセミナーなどの情報を図書館に教えてくれるようになった。
      • 職員の取り組み。回答できなかった情報は記録に残して追跡調査する、担当者個人でなくグループで取り組む、など。
    • 利用者の変化
      • レファレンスの内容が深いものになるにつれて、利用者自身が歴史資料室を自分の場所として意識してくれるようになった。
      • たとえば、資料の寄贈が増えた。またその内容も、以前は自分が要らなくなった古い本を持ってこられていたのが、歴史資料室に相応しい本を選んで持ってきてくれる。お陰で、選書方針に合わない本を持ち込まれてお断りすることが少なくなった。
      • 地図資料の利用が増えた。
      • レファレンスの件数自体も増えた。23年度は、一年間435件。わずかな数かもしれないが、開室以前には100〜150件だった。
      • インターネットなどの外部情報源を活用することも増えた。たとえば国立国会図書館サーチ*1奈良県立図書情報館の公文書・古文書・絵図検索*2など。PCの苦手な利用者が多いので、一緒に調べていく。「こうやって、ここをクリックして…」という感じで説明して、使い方を覚えてもらえば、家でも調べる習慣につながる。
      • さらに、実際に資料を使って調べものをしたりすることによって、資料保存の重要性について利用者の理解が得られるようになった。これにより、資料室そのものの必要性や、資料デジタル化の必要性が認識され、予算獲得につながりやすくなる。
      • 郷土関係のレファレンスを受けられる機関は、他にもいくつもある。だが、やはり町立図書館という身近な機関でそれをやることは必要。町史に触るのも嫌だったような人が、通ううちに自ら調査をできるようになる。言わば自立していく。それを手伝うのが、身近な図書館の役割。
    • 今後の課題
      • 高度なレファレンスに対応できる職員の研修。これは奈良県立図書情報館などにも期待している。
      • その他の課題としては、資料の保存体制の確立、地域資料データベースの共同構築、資料のデジタル化、他機関との連携など。
    • 町立図書館で特色あるサービスを行う意義
      • 当館の取り組みは、行政理解という点ではかなり恵まれた条件であることは分かっている。
      • 1Fの相談カウンターでは片手間での対応にならざるを得ず、地域資料に関するレファレンスに充分対応することは無理だった。たとえば「平城京の発掘調査の資料を見たい」と言ってきた利用者がいたとする。こちらとしては所蔵資料だけでなく、インターネット上の情報源や、他機関の所蔵まで調べて案内したい。が、その人のすぐ後ろには「かいけつゾロリの本はどこですか」という利用者が待っていたりする。
      • サービス対象・範囲を限定し、そこに資源を集中配分する必要がある。これによって、司書は情報資源の質の評価ができるようになる。
      • 質の評価は、司書の一番大切な能力。「親切に」「早く」というだけとは異なる信頼を得ることができる。質の評価に関する信頼を得られれば、利用者からもその司書は図書館に必要である、残すべきであると思ってもらえるようになる。そうすれば、職員が不本意な異動をさせられなくなるのでは。
      • ただ、すべての分野についてきちんと質の評価ができるレベルになるというのは無理。したがってそれぞれの館が、自館の得意分野で協力していければよい。
    • MLA連携の時代に
      • L-L:自治体を超えてのつながり。
      • L-M:文化財センターや、他の自治体の学芸員との連携。
      • L-A:奈良県立図書情報館では、行政文書のデジタル化も行っている。こうしたところや、鵤文庫、国立国会図書館とのつながり。
      • 町立のような小規模な図書館としては、MLA連携でデジタル化資料を作る立場というより、作られたものを使う立場。ある意味では利用者のようなもの。連携でなくても、接触をとって協力していくことから始めるとよい。
      • 学芸員さんの知識はすごい。もっと活用すべき。利用者の問合せを学芸員さんにつなげたら、後は放りっぱなしでなく、どんな情報を提供したのか?その背景は?といったことについて丁寧に調べる。それによって司書の能力も上がる。

→配布資料に、実際に使っているレファレンスの記録表がついていた。ずいぶん難しそうな質問もあって、さすがだなぁ、と面白い。

  • 質疑応答
    • 会場:NPO法人「知的資源イニシアティブ」とは、どういう団体か。また、MLA連携について中小規模の図書館はどのように関わるべきか。
    • 福島さん:ちょっと補足。MALUI連携とした理由として、MLAというと公共機関の連携と思われがち。そこにU(大学)とI(企業)を入れることで、ムーブメントにしたかった。これに加えて現実的な問題もある。MLAという公共機関だけで連携しても、お金の出所は同じ。公共機関の外部からお金を引っ張ってこなくてはならない。
    • 福島さん:「知的資源イニシアティブ」は、国レベルの機関が中心。MLAをどのように発展させるかについて、政策レベルで話し合っている。分野横断的に意見交換をしたり、ウェブ系の研究開発をしたりしている。
    • 福島さん:中小規模の図書館の関わり方としては、斑鳩町さんの取り組みが一つのモデル。レファレンスを通じて地域資料を発掘するという意味もある。
    • 会場:斑鳩町立図書館さんでは、外部の人との深い関係を築いていられることが分かった。そうした連携の始まりはどのようなものだったのか。
    • 磯田さん:観光ボランティアの方とのつながりは、元々図書館の利用者として来て調べ物をされていたことがきっかけ。何度かやりとりするうちに、「なぜこういうことを調べているのですか?」と聞いてみたら、実はボランティアに必要な情報を探していたということが分かった。その後、その人に実際に法隆寺を案内してもらう機会があった。法隆寺に行ったのは初めてではなかったが、ボランティアの説明を聞くと目から鱗だった。その時「本だけではあかん、現物見て学ばなあかん」ということを言われた。
    • 磯田さん:図書館の開館時には法隆寺から資料の寄贈を受けたが、歴史資料室の開室時には法隆寺高田良信さんから資料寄贈を受けた。これもボランティアからの情報提供により寄贈につながったもの。
    • 磯田さん:学芸員とのつながりについて。奈良県には学芸員さんはたくさんいるが、発掘担当の人が多くて、近世文書を担当される方は比較的少ない。かといって、他地域の人には聞きにくい。そのような訳で学芸員さんとつながるのはなかなか難しかったが、近隣の自治体でも、たとえば平群町の方には伝手があって聞けるようになった。
    • 会場:佐々木秀彦さんの提唱されたという、資料の分類図が興味深かった。分類と価値判断は別という考え方。もう少し詳しく知りたい。
    • 福島:デジタル的に情報管理ができるようになるという前提のもとに、これからは資料を把握する方法がその形態に基づくのでなく、その内包する情報に基づくようになるという考え方。これからの理論の基礎になると思っている。
    • 会場:京都府立総合資料館と京都府立図書館、また総合資料館と京都文化博物館の関係は。
    • 福島さん:文化博物館にある資料の多くは、総合資料館の資料を管理委託している。ただ文化博物館は巡回展の方が多く、委託した資料についての学芸員の研究活動を充分に展示に反映できているとは言えない現状。総合資料館の新館オープンに合わせ、所蔵資料のメタデータだけでも公開していく。
    • 福島さん:府立図書館と総合資料館の関係はたいへん密。府立図書館のOPACに総合資料館のデータが載っているというくらい。これからそれをどう再構築していくかが課題。府立図書館の方が、たとえば市町村支援等についてはノウハウを持っている。
    • 会場:自分のいる自治体では、市史編纂室が閉室になり、そこで蓄積していた資料が図書館にドカンと来た。書庫にはそれだけのスペースがないので、すべて開架にしている。中には近世の文書などもあり、資料管理上デジタル化したい。予算がないので、国の補助金を活用するにはどうしたらいいか。
    • 福島さん:自分の知っている例。滋賀県の日野町というところでは、デジタル化の際、近世史料であれば高精細の画像はなくていいと割り切って実施した。デジタルカメラで撮影するだけ。10万コマくらいか。これであれば緊急雇用の補助金*3でもできる。マニュアルがしっかりしていれば、撮影は比較的誰でもできる。ただ、デジタル化後のデータ管理やバックアップには別途費用が要るが。


 メモは以上。以下、自分の感想。
 どの人の話でも、予算のことがちらほら出てきた。特に事例報告の兵庫県立図書館は重点分野雇用創造事業基金斑鳩町立図書館は地域活性化・経済危機対策臨時交付金と、いずれも国の補助金でデジタル化なり地域資料室設置なりを実施したということが印象に残った。地域資料を残すための仕組みが、地域ではなく国の予算に基づいているというのは興味深い現象だ。
 ただしいずれも一時的な予算だから、今後デジタル化した資料の運用にかかる費用をどう継続していくかが腕のみせどころとなるのだろう。そういう視点で考えると、福島さんが繰り返し提唱された「設置組織へのプレゼンス」「評価基準」「存在を知らせる」「公開する」といったキーワードが、なんとなく一本の線でつながって見えてくる。一般のユーザや設置組織に価値を認めてもらい、必要な予算をつけてもらう、ということなしには、継続できるはずがないから。磯田さんのお話で出てきた、ユーザを巻き込むことによって組織や資料の価値を実感してもらい、社会的な支持の獲得につなげるという考え方とも関わる。
 考えるべきポイントはまだまだあるような気がするが、もう眠いのでおしまい。