日本図書館研究会第299回研究例会「図書館システムの調達の方法と課題〜成田市立図書館第六次システムの経験から」に行ってきた。〜前篇

 こういうのに行ってきた。

日本図書館研究会第299回研究例会
発表者:米田渉氏(成田市立図書館)
テーマ:図書館システムの調達の方法と課題:成田市立図書館第六次システムの経験から
http://www.nal-lib.jp/events/reikai/2013/299invit.html

 成田市立図書館*1のシステム調達については、過去の記事で触れたことがある*2。今回はその調達の立役者?であった方のお話*3
 会場は30名程度。年齢層は様々。男性がやや多め。図書館系の講演会では珍しい。
 以下はいつものとおりメモ。xiao-2が聞きとれて理解できてメモできて、かつ思い出せた範囲。項目立ては適当。なお講演では各ベンダーの社名が出てきて、生々しく興味深かったのだが、ここでは社名は出さないことにする*4
 また今回、皆さんの関心が特に高い話題だったためか、講師のお話の途中でもどんどん質問が出ていた。読みにくくなるが話の流れ通りに書く。

  • はじめに
    • 2012年に第6次の図書館システムを導入した。その経験から、分かったことなどをお話したい。
    • 本日来られている方のうち、公共図書館の方は何名くらい?(10名程度挙手)大学図書館の方は?(7〜8名程度挙手)ベンダーの方は?(3〜4名挙手)
    • 本日の話の構成。第一に、第6次システムで何をやりたかったか。第二に、仕様書作成や業者選定などの進め方。第三に、実際のリプレースとその後の展開。
  • 第6次システムで何をやりたかったか
    • 成田市について
      • ご存知のとおり空港のある市。人口は12万人。1984年に開館し、29年目になる。これまでは市内1館でサービスを行ってきたが、7月に8万冊程度を所蔵する公津の杜分館という分館ができた。
      • 貸出件数が年間130万件。同規模の自治体図書館のうちでは悪くない数字。ただ予約件数が年間7.5万件と少なめ。なぜ伸びないのか知りたい。
    • 新図書館システム導入の目的
      • 業務システムを数値分析できるシステムにしたかった。感覚だけでの図書館運営を脱したい。たとえば選書にしても、どの資料がどれだけ利用されているかといったデータは本来システムに入っている数字であって、一度excelに落として統計を出しなおさないといけないというのはナンセンス。
      • インターネット時代にあって、ナレッジを共有したい。
      • MARCを徹底的に利用したい。成田市ではTRC-MARCを使っている。このMARCにはたくさん情報が入っているが、充分に活用できていない。たとえば件名からの再検索などは、業務システム・OPACのどちらからも可能であってほしい。
      • 蔵書検索だけでない、+αのデータを埋め込みたい。たとえばレファレンス事例データベースのデータやパスファインダー、成田のむかし、など。「成田のむかし」とは成田の歴史を物語り形式にまとめたもので、地域学習する子どもと資料を結びつけるためのもの*5
      • また県立図書館から、相互貸借可能な資料のISBNリストをもらい、システムに投入する。これを成田市の所蔵資料とあわせて検索対象にすることで、成田市に所蔵がなかった場合、直接県立図書館の資料を予約できるようにする。
      • 職員にとっても、県立図書館に所蔵がある資料は除籍の優先度が上がるという意味で、資料状況が一覧できることが望ましい。ある資料が県立図書館に所蔵されているか、レファレンスでどのくらい参照されているか、といったデータを見られるように。
    • ハードウェア
      • 自動貸出機。導入は第5次、2007年から。バーコードとタトルテープ*6で管理するもので、貸出の6割で使われている。
      • 予約した資料を受け取れる、予約受け取りコーナー。これは第6次から導入した。予約受け取りに関わる作業の時間を節約するために、利用者が自分でやれるセルフ化を進めた。
      • ICタグを使わずに、バーコードとタトルテープで管理しているのは費用の問題。当館の蔵書は約80万冊、ICタグを導入しようとすると1億くらいかかる*7。そのくらいならバーコードで効率化すればいいと考えた。2007年時点ではとにかく機械化することが目標だった。
      • 自動返却仕分け機。将来的にはICタグを入れることもできる仕様にしたが、タトルテープで処理できるメーカーは1社しかなかったのでそれを使っている。
      • 座席管理システム。館内のインターネット端末を管理する。昔はカウンターで席の予約を受け付けていた。当館は1階が一般書、2階が参考図書という、80年代頃に流行った構成。インターネット端末は最初2階に導入したが、利用が多く、カウンターが座席の予約に忙殺されてレファレンス業務に支障をきたした。2007年にはインターネット端末を1階に移し、予約受付機を導入した。その時点では予約受付と業務システムは連携していなかったため、やはりカウンターが予約コーナー化して忙殺された。自動的にできた方がいいということで、システム連携した。
    • OPAC
      • 書誌画面へのパーマリンクを付与したい。ホームページ等に埋め込めるように。
      • CTI*8。コンピュータで電話をかけるシステム。これにより予約の連絡や、延滞の督促ができる。予約の連絡の方には2007年時点からCTIを導入していた。督促の方は第6次システムで実現。
      • これと同時に、新規利用者登録・更新時にWebサービス用のパスワードとCTIの暗証番号が必ず発行されるようにした。
    • 基本的な方針
      • これらの仕組みによって、職員の時間を確保したいというのが目的だった。
      • 当館の職員がどのくらい忙しいか、というのは、他館と比べてどうかとは分からないが、たとえば資料展示にしてもルーチンのみで新しい取り組みに手が回らない、レファレンスの記録を付ける時間がない、といった状況。
      • 当館は資料費については恵まれていて、8,000万程度、毎年5万冊くらい購入できている。5万冊買うということは、5万冊除籍しなくてはならないということ。職員数で割ると、一人あたり月に250冊程度は除籍作業をしなくてはいけない。皆なかなか手が回らず、滞りがち。今でも配架スペースはきつい。本来返却された資料を置くはずのスペースに、ブックトラックが常設化されたような状態になっていたりする。
      • そういった状況を踏まえて、2007年のシステム更新に当たっては「情報提供システム2007」という基本的な構想を出した。文部科学省の「地域の情報ハブとしての図書館*9」を取り入れて「情報提供システム」とした。資料の情報に、件名などの付加価値をつけること。また資料だけでなく、調べ方などのナレッジを利用者にも共有できるようになることを目指した。
      • 2013年のリプレース時には、「図書館情報の提供システム2013」という基本構想。横断検索と、「成田市地域の事典」というのが新たに加わった。
      • 地域の事典とは、地方史*10。なおこれは当初出版予定がなかったので、ホームページに載せるようにWebデータで作っていた。そうしたら出版できることになったのだが、印刷の際に元データのExcel打ち出しに手書きで赤を入れて校正したりしたため、原版が存在しなくなった。現在改めて打ちこみ作業中。
      • 2013年の構想でさらに求めたのは、横断検索。千葉県内の横断検索*11と、NDLサーチ*12との連携。県内横断検索は2012年にリニューアルしクラウドになったが、残念ながら外部から機械的にアクセスすることができない仕組みで、横断検索の対象にもできない。
      • いずれにしても、OPACでなんらかのキーワードを入れれば、資料でも調べ方でも、諸々の情報がまとまって出てくるというシステムを目指していた。
  • 仕様書と調達
    • 基本的な姿勢
      • 2007年、第5次システムに変わった。その前の第4次システムは某社(以下、甲社とする)のシステムだったが、第4次システムの導入時にはベンダーと打合せしながら仕様を作って、けっこう出来が良かった。従って「業務システムはもう大体OK」という意識があったので、第5次ではOPACを改善したいと思っていた。が、上層部の方針によりリース延長を前提とすることに。ベンダーは第4次システムと同じ社で、パッケージAからパッケージBへ移行。
      • その反省があったので、第6次はフラットな形でやりたかった。ちょうど2010年に起きたLibahack事件*13の教訓もあり、ベンダーと適切な距離を保つことが必要だと考えた。
      • そこで事前に、来てくれそうなすべてのベンダーにプレ仕様書を送り、興味があるかどうか確認した。興味を持ってくれた会社と情報をやりとりしていくに当たっても、各社に同じ情報が共有されるよう注意した。
      • 問題はデータ移行費。データ移行も含む形で見積もりしてもらったら、現行業者が有利になり情報が平等にならない。市の情報担当部門に相談して、移行費だけ切り離して別建てで契約することにした。
      • それで甲社に見積もり依頼したら、不思議なことが起きた。その前にもらっていた見積もりではまあ妥当そうな金額が出てきていたのに、移行費だけにすると急に金額が3掛けくらい膨れた。何故?
    • 調達方法
      • 千葉県立図書館では、新システムの調達を総合評価方式でしていた。大学の先生等に選定委員に入ってもらうもの。市では体制や費用的にそこまでやれないので、プロポーザル*14で実施。
      • 念のために総合評価とプロポーザルの違いを言うと、プロポーザルは随意契約であり、総合評価は違う、ということ*15
      • プロポーザルでは1次選考が書類審査、2次選考は実機検証とプレゼンテーション。
      • 選定委員を誰にするかが悩ましかった。市の職員は1000人ほどいるが、電算担当は少人数で、専任の人はいない。たとえば課長クラスの人に入ってもらおうとすると、その世代の人はシステムに詳しくない場合が多いといったこともある。成田市ではたまたま教育委員会に電算経験のある職員がいたので、入ってもらった。それでも人数は少なく、提案があまりにたくさん来たら内容を見きれない。図書館側である程度下調査をせざるを得なかった。
      • 選定基準。審査項目は以下のとおり。重みづけをしたらけっこう複雑になってしまった。が、これより簡易にしてもきちんと審査できないと思う。

(1) 要求仕様書への達成度(40%)
(2) 企画提案の内容(30%)
(3) 予約棚および自動返却仕分け機の提案内容(10%)
(4) 実機の捜査機能(10%)
(5) プロジェクトマネジメント・品質管理体制(5%)
(6) 5年後データ抽出返還費(5%)
(7) 上記評価が同点の場合、費用による評価を行う。

      • 第5次システムの導入時にはデータ移行に失敗し、デスマーチになってしまった。開発部分の打ち合わせの日程調整などはベンダー側から働きかけてくれないと始まらないが、いつまでも連絡が来ず始められなかった。3月1日に新システムで開館の予定であったが、2月20日の時点でデータコンバートに失敗していたという状況。
  • 会場より質問
    • フロア
    • 米田さん
      • 死の行軍。いつまで経っても終わらない状況。
    • フロア
      • 第4次システムから第5次システムへの移行は同じベンダーだったとのことだが、それでもうまくいかなかったのか?カスタマイズしたのか?
    • 米田さん
      • パッケージは違うが、同じベンダーの製品。データベースの根本的な部分については特に要求していない。
      • データ移行の失敗が、色々と悪い影響を及ぼした。データのタグが置き変わってしまい、第6次システムへの移行の時に空タグが残っていてデータが倍になっていたりした。
    • フロア
      • 同じベンダーなのにうまくいかなかったのは何故か?
    • 米田さん
      • まずデータコンバートの仕様書がなかった。これは大反省の点。データの崩れは3年かけて直した。
      • またベンダー側でも、経営体制に変革がありゴタゴタした時期でもあった。ベテランが多く辞めた、などの事情もあったようだ。
  • 講師のお話続き
    • 前回の経験から、第6次システムの導入にあたってはプロジェクト管理を重視することにした。
      • 4次から5次への移行の時は同じベンダーだったし、4次で使っていたパッケージシステムAはそれほど複雑なシステムではなかった。にも関わらず、パッケージAとBのチームで連携が取れていない。打合せでもBのみを取り上げて「さてどうしましょう」という具合で、Aも自社のシステムなのに知らないのだろうかと不思議だった。またパッケージBは当時新しいバージョンが出た所で、若くてバグも多かったのかもしれない。
  • 実際の調達過程
    • 第6次システムの導入ではそれだけ調達方法に気を使ったが、結果はどうか。
    • 仕様書の内容を実現できるかどうかという点については、どの社も○をつけてくる。差はつかない。採点も基本的に○になる。採点方法はなるべく○か×かの二択で、あれもこれも△にならないように、きちんと差がつくように設計したのだったが。これは情報推進室のアドバイスによるもの。
    • 同じ機能をパッケージで実現できるか、カスタマイズで実現するかという点で若干の差はあった。
    • 実機操作
      • 実機操作の評価は重要だった。この審査で落ちたところが1社ある。他の図書館であまり採用されていないベンダーのものだったが、実際使ってみたら自分の館での実用には堪えなかった。評価する職員を決めて、貸出フローや予約フローなど実際の使い方の流れに沿って操作して点数をつけた。
  • ここでまた質問
    • フロア
      • ○の意味は?
    • 米田さん
      • 求めた機能を実現できるかどうか、というつもりで設定した。「パッケージで実現できるか、カスタマイズで実現できるか、実現できないか」の三択のつもりだった。だが実際には、どの社も×はしてこない。調達の前段階で、求める機能についての説明をしていたからかもしれない。しかし事前には実際の要求仕様を見せた訳ではないので、こちらとしては差が出ると思っていたのだが。
  • 再び講師のお話
    • キックオフ以降の進め方
    • キックオフミーティングでは、このプロジェクトのゴールは何か、打合せの仕方、コミュニケーション方法などを決めた。
    • 以前ホームページの調達をした時、そこのベンダーのやり方が上手だったので、取り入れたもの。このベンダーは、選定の段階でも見せ方が上手かった。現行のホームページを分析して改良点を示したり、プロジェクトのゴールを確認したり、求める数値的目標をはっきりさせたり。「ホームページだと具体的なアクセス数やサイト滞在時間をこんなにきちんと考えるんだな」と感心した。
    • それで第6次システムでは、そういった目標をなるべく要求仕様書に掲げることにした。たとえば「ホームページの滞在時間を2倍にする」など。でも、第6次の図書館システムのベンダーさんは興味がなさそうだった。
    • 自分は図書館に入ってからずっと電算担当で、就職した最初の年にシステム更新も経験した。その見てきた経験からも、ベンダーによって色々とスタイルが違う。今回のベンダーは、打合せで伝えたことの議事録はきちんと作ってくれる。でもそれを設計書レベルに落としてもらうところはやや弱かった。
  • ここでまた質問
    • フロア
      • 「設定書」「設計書」とはどういうものか、イメージが分からない。
    • 米田さん
      • たとえば、OPACで表示される予約受け取り館の館名をどう表記するか、といったこと。「設計」はインタフェース。「設定」はコードの並び順や、メッセージの順序。このボタンを押すと何が出るか、といったこと*16
      • どこの図書館でも、今はバイトさんが多い。システムのマニュアルを作らなくてはいけない。「なんでこんなメッセージが出るの?」「こんなメッセージが出るなんて聞いてない」というのでは困る。
    • フロア
    • 米田さん
      • 本来はそう。だが結局間にあわず、3/1の時点では参照できるドキュメントが議事録だけだった。PDFの議事録で、分からないことがあったらテキスト検索するという状態。


 …まだまだ途中だが、眠くなったので本日はここまで。

*1:成田市立図書館ホームページ

*2:2012-01-27 成田市立図書館でプロポーズ、じゃなく、プロポーザル

*3:なお、同じ方が別の場所でも発表なさっている。公開されている資料

*4:社名がなくても理解に問題はないと思う。また、講師はあくまでクライアントとしてご自身の体験したことを話されていた訳だが、当事者でない人間がブログで一方的に名指しするのは余りフェアでない気がするので。

*5:「成田のむかし」は成田市立図書館OPACでタイトルで検索すると出てくる。一例

*6:図書館の本を無断持ち出しできないようにするための磁気テープ。詳細はこちら:3Mタトルテープ感知マーカー(一般的な例として挙げたもので、講演でこの商品が紹介されていた訳ではありません)

*7:過去の関係記事:2012-04-23 ICタグ導入のお値段。

*8:CTIとは|IT用語辞典

*9:平成17年1月28日「地域の情報ハブとしての図書館(課題解決型の図書館を目指して)」

*10:これのことだろうか。成田の地名と歴史‐大字別地域の事典‐

*11:千葉県内図書館横断検索

*12:国立国会図書館サーチ

*13:過去の記事「第277回日本図書館研究会 研究例会「岡崎市立図書館Librahack事件から見えてきたもの」に行ってきた。」を参照。

*14:正確には「公募型プロポーザル」というらしい

*15:参考:千葉県ホームページ「総合評価方式について(建設工事)」。また自治体ではなく経済産業省の資料だが、以下も参考になりそうだ。「総合評価落札方式ガイドブック(PDF)

*16:この部分、講師の方もかなり迷いながら言葉を選んでおられたし、xiao-2が充分理解できていないので、説明として不正確になっているかもしれない。手元のシステム系教科書では「設定書」の項目が見当たらず。ググッたらこういうのは出てきた。|OS設計書、OS設定書、パラメータシートの違いって? - Yahoo!知恵袋