日本図書館研究会第324回研究例会「ウィキペディア・タウンによる図書館の郷土資料活用」に行ってきた。

 こういうのに行ってきた。

2016年11月19日(土)
日本図書館研究会第324回研究例会「ウィキペディア・タウンによる図書館の郷土資料活用」
発表者:青木和人氏(Code for山城,オープンデータ京都実践会代表,立命館大学院公務研究科講師)
テーマ:ウィキペディア・タウンによる図書館の郷土資料活用
http://www.nal-lib.jp/events/reikai/2016/324invit.html

 以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。当日の参加者は10名ちょっと。なお青木氏の活動については、カレントアウェアネスにご本人の書かれた記事*1がある。

  • 自己紹介
    • 自分は前は行政職。図書館の館長だった時もある。司書ではなかったが、当時図書館に対して思っていたことを、離れてからやっているような感じ。
    • 仕事とは別に、市民活動的なことをやっている。その話をする。
  • 図書館の課題
    • 図書館は本を借りに来るところというイメージ。一方でそれ以外のこともやっていこうという動きがある。
    • 代表的なのが「地域の情報ハブとしての図書館*2」。自分がこれを知ったのはかなり後からだったが。市民が集い、情報を蓄積・発信する拠点になる。
    • デジタルアーカイブの取り組み。事例としては瀬戸内市のデジタルフォトマップ*3北摂アーカイブ*4等。
    • 自分の活動はこれらと似ている部分も、違う部分もある。これらを意識して、違うことをやろうとしたという訳ではない。結果としてそうなっていた。
  • ウィキペディア・タウン
    • Wikipedia*5とは。
      • 読んだことは誰でもある。「絶対正しいという訳ではないが、何かについてちょっと知るには便利」というイメージ。
      • 実は自分で書くこともできる。会場で書いたことのある人は?(数名挙手)
      • 書けると知っていても、実際に書いたことのある人は少ない。
      • ウェブ上の百科事典だが、専門家が一人で書く百科事典と異なり、誰もが参加できることが特徴。
      • 皆で作っているので、その成果は皆で使おうという思想のもとに作られている。オープンデータ。自由に使っていいライセンス。
      • 各言語で展開。あまり使われていない言語でWikipediaを作ろうというプロジェクトもある。
      • ITを使った地域活動。有名観光地でなくても、小さい寺社にも由来や歴史がある。
      • これを皆で書けば面白いのでは、と考えたところで、ウィキペディア・タウンの取り組みを知った。
    • ウィキペディア・タウンとは
      • 2012年、英国のモンマスで初めて行われた*6公共図書館や市民の持つ情報をWikipediaに載せていく試み。これは市民活動というより、予算をつけた事業的なもの。
      • その頃、自分はちょうど公共図書館で勤務していて、日々の貸出・返却などのルーチンに追われる日々。
      • 図書館でこんな面白そうなことをやっている、と思った。Wikipediaと図書館のつながり。でも自館では難しい、と思った。
      • 2013年に横浜でウィキペディア・タウンが実施された。Open Data Dayにあわせたもの。
      • そのあと、二子玉川でも。フィールドワークとWikipediaを組み合わせる試み。
      • 地図はもともと自分の専門だった。Open Street Map*7Wikipediaを組み合わせる試みはいいのではないか、と思った。
      • 2013年5月に京都で行われたオープンデータ勉強会*8に参加。ここで京都府立の是住さん*9と会って、図書館に関心が湧く。
      • 2014年2月に、京都でウィキペディア・タウンを実施。
    • どういうことをやっているか?
      • 京都市内で街歩きをする。普段気に留めない場所に実は古い石造りの橋があるなど、発見がある。
      • それで知ったことを、今度は調べる。調べた内容をWikipediaに書く。
      • 独断で書かれている記事もあるというのが、Wikipediaの批判されがちな点。だから個人の考えでなく、出典を示す。
      • 初めてだと書き方も分からないので、講習会などを行う。司書に参考図書を教えてもらったりする。
      • 一日コース。10時くらいから開始して、12頃に街歩きをしつつお昼をみんなで食べ、14時頃から編集を開始して、16時頃に作成したページを発表して終わる。
    • 精華町ウィキペディア・タウン
      • Code for 山城という団体がある。京都の南の方。ここと組んでウィキペディア・タウンを実施。
      • 精華町の後援を得た。知人のつてをたどって協力をお願いしたもの。
      • 自治体の規模の大きいところだと、なかなか協力してもらうのが難しい。精華町は比較的小さい自治体だったからか、すんなり協力してもらえた。
      • 地域活動にあたっては、うまく協力してくれる自治体を見つけることが大事。
      • 京都では若い人の参加が多いが、精華町ではもともと街歩きの団体があり、そこに所属するシニア層が加わってくれた。
      • PCを使う活動なので心配していたが、これも町でPCの使い方を教える活動をしている人が参加者に加わってくれて、教えながら進めるような形に。
    • ウィキペディア・タウン in 関西館
      • 精華町には国会図書館*10がある。知人がいたので、精華町での活動のときに来てもらって講習をした。
      • 次のイベントは国会図書館で実施した。国の施設が協力してくれないだろうと思っていたが、実現できた。
      • 関西一円の地域活動をやっている人が来てくれた。
    • 活動をやり始めて
      • 精華町での実施はターニングポイントになった。それまでは京都市内なので、観光地として有名な場所を取り上げていた。
      • 精華町では「ここには何があるのか?」というところから始まる。それで調べてみると、色々出てくる。いごもり祭*11など。
      • 住んでいる人自身、その地域には何もないと思っている。しかし調べていけばそれなりに希少なものがある。
      • そうした地域の情報は、普通だと市町村のホームページに多少書いてある程度。Wikipediaに書かれていれば、見てもらえる。
      • 基本的に街歩きは楽しい。調べることは面白い。知ったことを皆に知ってもらえるようにする。
  • いったん質疑
    • フロア
      • 精華町ではシニア層の参加があったということだが、PCを教えていたのはどういう人たちか。
    • 発表者
      • 街歩きの団体と、PCを教える団体が参加。そのどちらかに属している人が多かった。なので半分くらいはPCを使える人。
      • PCに不慣れな人の横に、教える人がついてやってくれた。教えられるシニアがいたということが鍵。
      • 精華町で実施することになったとき、町の方から団体に案内をしてくれた。地域でやるときは、そういう地元のPC教室的な団体が入ってくれるとやりやすい。
    • フロア
      • 自分の勤務する図書館のボランティアに、地元の写真を撮影して蓄積する活動を奨めようと思っている。一過性でなく続けていけるためには、どの程度のITスキルが必要か。
    • 発表者
      • ページ自体の編集は結構大変。
      • Wikimedia commons*12というのがある。画像や音声等のデータをアップロードする、マルチメディア向けのWikipediaサイトみたいなもの。写真の入れ物がコモンズ。
      • シニア層には、ITが苦手でも、写真は好きな人がいる。撮った写真をPCに取り込んで、ブラウザからアップしてみるところをやってもらう。これならマウスの操作くらいでできる。
      • ページを書くのは、編集画面を出して打ち込んでいけばOK。見出しやリンクなどの修飾をつけるにはタグが必要になるが、サポートすれば大丈夫。
      • 以上のように、イベントとしてやる分にはやれる。ただし、後から自分でずっと継続していけるかというと難しい。課題。
    • フロア
      • いつもどのくらいの規模でやっているのか。
    • 発表者
      • 30人くらい。
      • 精華町の場合は町と連携していたので、町から声掛けをしてくれた。それ以外の場合はウェブでの広報など。
      • 初心者とリピーターが半々くらい。1-2人にベテランが1人ついてレクチャーする感じ。
      • 文章の作り方等は講習をやるが、それだけではできない。書くのは書けても、どこに何をアップするか、というところではサポートが要るので、それくらいつく必要がある。初心者がいきなりは難しい。
      • 1回のイベントで、3つくらいテーマを立てて、うち新しいページを1つくらいは作るようにしている。
  • 郷土資料の活用
    • 自分の意見ではなく、文献を調べて書く必要がある。ここに図書館が関わってくる。
    • 図書館には地域資料コーナーというのがあるが、子どもが宿題に使うくらいで、あまり利用されていないことが多い。
    • 図書館の場所を借りてウィキペディア・タウンをやることで色々とメリットがある。
      • 司書の協力を得て、あらかじめテーマに関する資料をブックトラックに集めておいてもらう。いきなり行っても、一日の時間の中ではなかなか調べきれない。
      • 辞典類等は貸出できないものが多いが、図書館内なのでその場で使える。
  • 注意すること
    • 文献の丸写しは駄目。事実情報を抜き出して箇条書きし、自分で編集する。
    • 資料の出典を付すことで、検証可能性を担保する。これが図書館の資料への入口となる。
    • 図書館には希少な地域資料があるが、利用のきっかけが少ない。Wikipediaに書くことで、資料に興味をもってもらえるきっかけになるのでは。
  • 他地域への展開
    • 岡山県笠岡市北木島和歌山県橋本市伊丹市ことば蔵などでも実施。
    • 岡山の上道公民館というところでもやった。これは初めての試み。参加者はシニア層、地域の公民館サークルの人。PCを教える人はいなかったので心配だったが、なんとかなった。岡山は公民館活動が盛んであることが、うまくいった要因か。
    • 公民館の人は熱心だったが、図書館とはうまく連携できなかった。公民館というのは社会教育で、図書館とは別世界なので、なかなか難しいようだ。
  • 高校生によるウィキペディア・タウン
    • 南陽高校の生徒。サイエンス夏季プログラム社会実習という科目で、高校教育にウィキペディア・タウンを利用する取り組み。
    • 学校の先生に聞くと、学校では「Wikipedia=信用できないもの」と教えることもあるらしい。しかしWikipediaに限らず、世の中の情報一般について、正しいかどうか判断する基準が必要という点は同じ。そのために必要なのが検証可能性であり、出典。
    • 自分たちのまちを知ってもらう。南陽高校の付近は新興住宅地で、すぐ近くには昔からの集落があるのだが、知らない。街歩き団体との交流で、地域を新たに発見してもらう。
    • 今後はどうすべきか。「学校の生徒なのだから、学校図書館と組むのがいいのでは?」という意見もひとからもらったが、学校図書館には公共図書館ほど地域資料は無いと思う。公共図書館の郷土コーナーとの連携ができるかも。
  • まとめ
    • 地域の再発見。普段通り過ぎている場所の魅力を、できれば住民自ら情報発信。
    • 郷土資料を使うことで、公共図書館に市民が集まってくる。出典をつけて発信することで、資料への入口となる。
    • 自らコンテンツを作ることで、検証可能性を高める。
    • 今回は高校生だったが、小中学生でもやれるのでは、と思っている。
  • 質疑
    • フロア
      • 組織として活動を続けられている理由は?
    • 発表者
      • スタッフが良い。それなりに積極的に参加してくれる。教え慣れている人もいる。人の力。
    • フロア
      • 参加してくるのはどのような人たちが多いか。
    • 発表者
      • 来る人の雰囲気は、開催場所によって違う。
        • 京都は行政がタッチしていないので、広報はWebのみ。従って参加者もIT寄りや、図書館の人が多い。20-40代くらいで、割と若い。
        • 精華町では行政と連携したので、地域団体の人たち。年齢層高め。
        • 北木島ではITに疎めの方が多かった。参加してくれるが、「自分で作るのまでは、いい」という感じで、モノを作るのは笠岡市の人やスタッフ。成果発表は見てくれた。
        • 橋本市では市が共催。市の人や図書館の人でページを書いた。
      • 行政が協力しているか、図書館でやるか、公民館でやるか、といったことで、来る人たちの感じも違う。

 メモは以上。あとはxiao-2の感想というか妄想。

  • お話を聞きながら、先日目にした、自治体サイトの旧ドメインが怪しげなサイトに取得されて、閲覧者が違うコンテンツへ誘導されるというニュースを思い出した*13。このケースの場合はURLの文字列が一切変わっていないのに違う内容を見せられることになる訳で、書き手の誠実さとは別次元での、Web上の情報源ならではの問題点といえる。書き換えられることのない紙資料へのリンクを、Web上に作っておくことの意義が、今後ますます重要になるかもしれない。
  • 郷土資料と言われる資料には、地元の人が地域の歴史を書いて自費出版したような類のものも多い。それらが紙で図書館に保存されていたお陰で、現代の人に参照されてWikipediaに載るというのは、エコシステムがうまく回っている感じで良い。
  • 以前海外の人から「観光地以外の日本のまちの情報は、海外からだととても調べにくい」と聞いたことがある。ウィキペディア・タウンで作られる地元の情報が、もし日本語だけでなく英語でも書かれていたらどうだろう。日本でも特に有名でない小さな町の郷土情報が、なにかのきっかけで突然ワールドワイドに注目されたりしたら、面白いかもしれないなぁ。

日本図書館研究会図書館資料保存研究グループ例会「大日本教育会による図書館設立活動」に行ってきた。

 こういうのに行ってきた。

2016年11月19日(土)
日本図書館研究会図書館資料保存研究グループ例会
発表者:嶋崎さや香氏(大阪樟蔭女子大学
テーマ:大日本教育会による図書館設立活動

 最初に司会による講師紹介。嶋崎氏は、教育界による図書館経営を研究されていて、2015年度の日本図書館研究会で図書館研究奨励賞を受賞されたそうだ*1

 という訳で、以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。誤記・誤解があると思うので、きちんと知りたい人はご本人の論文などを読まれることをお勧めする。当日の参加者は10名ちょっと。

  • はじめに
    • これまで滋賀県の八幡文庫、信濃教育会の図書館などを研究テーマとしてきた。
    • 明治30〜40年代は、全国で図書館の数が一気に増加。教育会によって作られたものが多い。日本の公共図書館の発展を考えるうえで重要な要素。
    • 教育会図書館の模範とされたのが大日本教育会付属書籍館*2竹林熊彦の詳細な研究がある。
    • 竹林の研究を見直し、以下の4点について検討する。
      • 教育会図書館の数
      • 海外の図書館情報の収集・発信
      • 国内の図書館情報の収集・発信
      • 寄付された本
  • 竹林熊彦論文の確認
    • 竹林論文「大日本教育会書籍館」(『図書館雑誌』1937.6.7)の章立てをまず確認。12章にわたる。
      • 依拠した資料は『官報』『文部省年報』その他。
      • このうち付属書籍館の設立過程を取り上げているのは1-3章。「教育的意義を有する図書館」「模範的通俗図書館」と定義。東京に東京図書館しかない明治20年に設立した付属書籍館の意義を指摘。
      • 付属書籍館の規則や規模にも言及。
    • 新たに検討すべき課題。
      • 1、同時代の他の教育会図書館との比較。
      • 2、大日本教育会の、書籍館関連情報の収集と発信の様子。機関誌をもとに。
      • 3、竹林論文で取り上げられた人物以外の、書籍館への関与。
  • 教育会が設立した図書館数
    • 『近代日本公共図書館年表』から、明治18(1885)〜大正元(1912)年の、全国の教育会図書館の設立数をまとめる。
    • 明治20(1887)年、大日本教育会付属書籍館ができた。この年を初めに、全国で教育会図書館が増加。特に1900年頃からペースアップ。
    • ただし、全国の図書館数における教育会図書館の割合は未確認。
  • 『大日本教育会誌』『大日本教育会雑誌*3』に見る書籍館関連情報の収集
    • 日本教育会の機関誌から「書籍館」「図書館」「文庫」「縦覧所」などの言葉を含む記事を収集した。
    • さらに内容から4種類に分類。
      • A:付属書籍館に関するもの
      • B:海外の書籍館に関するもの
      • C:国内の書籍館に関するもの。
      • D:書籍の寄付に関するもの。これはほぼ毎月載っている。
    • A:付属書籍館設立の前年である明治19年にようやく載る。件数も6件と少なく、書籍館について話し合ったということが書いてある程度。設立過程についての情報は少ない。
    • B:欧米の学校図書館や、欧米のそれ以外の種類の図書館に関する情報。年を追って見ると内容に変化がある。初めは学校付属の書籍館に関する記事。のちに教員の研究に資する書籍館や、公立の一般向けの書籍館に関する情報になる。
  • C:国内の書籍館情報
    • 文部省による、図書館管理や経営に関する情報が中心。東京図書館の求覧人数の統計なども。
    • 教育会からの書籍館設立呼びかけ。
  • 寄付者の構成
    • 付属書籍館の目録は、現在確認されていない。しかし蔵書内容を知りたい。なんとかできないかということで、Dの寄付情報を検討してみることに。
    • 書籍館の開館時には2万の蔵書があったとされる。
    • 『大日本教育会雑誌』明治20年4月によれば、その内訳は以下のとおり。
      • A:「辻新次会長寄贈書」1,346冊
      • B:「東京図書館借用書」14,760冊
      • C:「会員諸君ノ寄贈」冊数不明
      • D:「本会蔵書」冊数不明
    • A、B、Dについてはタイトルレベルの目録がない。東京図書館からの借用は、蔵書のうちで「学芸参考に供すべき」本以外のものを貸したとされている*4
    • 設立当初から、本の寄付の呼びかけは行われていた。寄付された本を報告する欄もあった。
    • 『雑誌』の明治16(1883)年9月から明治20(1887)年3月までの寄付欄を集計。タイトルは495、冊数は2,865、寄付者は160人。
    • 寄付したタイトル数上位30人の名前を並べてみる。なおトップは辻新次だが、これはタイトルが分からないので除外。
      • 30人中、来歴が分かる人が23人。文部省関係の人や、出版社、教科書の著者など。
      • 出版社や書誌からの寄付数が上位。
      • 会員以外からの寄付もある。
      • 在住地でいうと東京に集中。
      • ただし寄付された本が実際に書籍館資料になっていたか不明。また蔵書に占める割合が少ないので注意。
  • 質疑(メモしたもののみ)
    • フロア
      • 付属書籍館の蔵書は、いまどこかの図書館に残っているのか。
    • 発表者
    • フロア
      • 『雑誌』に海外の書籍館に関する記事があったというが、当時海外の情報を手に入れるのは困難だったはず。どのような人が書いているのか。
    • 発表者
      • 海外の教育雑誌に載った記事を翻訳したもの。書いた人が自ら海外で見聞してきたものではない。
    • フロア
      • 「図書館」などの言葉を含む記事を『雑誌』からピックアップする時は、見出しを見たのか、本文まで読んだのか。
    • 発表者
      • 本文まで読んだ。見出しだけだと、ほとんど拾えない。
    • フロア
      • レジュメ内では旧字を新字に改めて句読点を付しているが、表記にこだわりを持つひともいる。こうした扱いには神経質であるべき。
    • フロア
      • 教育会図書館というのは、学校図書館のようなものか。
    • 発表者
      • 明治後半には、基本的に通俗図書館としての役割。
      • 教育会とは、近代の始まりにあって、教育とはそもそも何をすべきか、なんとかしなければと考えた学校の先生や、地元の教育行政の関係者などによる活動。
      • 当初は会員向けに書籍を提供していたが、次第に一般の人にも提供するようになった。
    • フロア
    • 発表者
      • 日本教育会は、文部省官僚なども多く参加しており、国の教育行政とつながりがあった。
      • 東京図書館は当時利用者が非常に多く、学術的な蔵書に絞って参考図書館にしたいという意向があった。そこで学術的でない本、通俗書は付属書籍館に回してもいいということになったよう。ただし実際のタイトルは不明。
    • フロア
      • 10年後、実際に返したのか?
    • 発表者
      • 返したらしい。実際、その時に蔵書の数は減っている。
    • フロア
      • 日本教育会の、団体としての性格は。自然発生的なものか、官が絡んでいるのか。
      • なぜ図書館設立にかかわったのか。
    • 発表者
      • 国の教育の増進を図ること、各府県に教育施設を作ることを目的としている。
      • 文部官僚が有力メンバー。地元でも、学校長や地元有力者、教育行政のトップなどが入っている。草の根的運動というより、かなり組織だったもの。
      • 日本の教育が団体のテーマ。全国大会を開催したり、日本の教育課題について議論したり、文部省の諮問に答えたり。
      • 今の教育委員会とはまったく違う性質の団体。
      • 信濃の場合は、県内の教育会がまだある。ただし戦前のものとは断絶がある。戦前は満蒙開拓に積極的にかかわるなどしていた。
    • フロア
      • 竹林は付属書籍館を評価していたのか*5
    • 発表者
      • 評価していた。「その真価をはかれ」という言い方をしている。
    • 司会
      • 教育会は決して図書館のための団体ではなく、教育のための団体。その図書館活動に着目し続けるのは、図書館の人だからこそ。

 以下、xiao-2の感想。

  • 教育会図書館の話ということで、津島市の園田氏のご発表*6を思い出しながら聞いた。地域の教育会図書館についてはまだ分からないことが多いようだが、同じような研究があちこちでなされると、そのうち同時代の全貌が浮かび上がってくるのかもしれない。
  • 東京図書館の蔵書を1万冊も借りていたという話が興味深かった。官がモノを貸すなら当然書類を取り交わすだろうし、貸した本の目録くらい添えていそうなものだが、行政文書に蔵書タイトルが残っていたりはしないだろうか。…って、震災のせいで無いんだろうなぁ。
  • 内容とあまり関係のない感想。質疑で、旧字体を改めたり句読点を付すことの是非についてフロアから発言があった。どこまで元の表記を尊重するか、特にPCで作るレジュメなどではフォントの関係もあり悩むところだろう。だが元になった資料はデジタルコレクションのお陰で版面を簡単に確認できる訳で*7、古典籍だけでなく近代資料についても、翻刻で迷ったら版面をそのまま示せるというのはなかなか画期的なことなのかもしれない。

*1:詳細はこちら。日本図書館研究会ホームページ|2015年度図書館研究奨励賞授賞報告

*2:以下、この記事中では「付属書籍館」とする。

*3:以下、『雑誌』とする。ちなみに国立国会図書館デジタルコレクションで見られるらしい。残念ながら図書館へ足を運ぶ必要があるが。『大日本教育会雑誌

*4:NDLサーチで検索していたら、関係する説明が出ている資料にたどり着いた。『東京図書館一覧』p53(27コマ目)。ちなみに、この資料を紹介していたのはこちらの雑誌記事:鈴木 宏宗. 国立国会図書館の和図書. 国立国会図書館月報.. (600) 2011.3.

*5:2016/11/23補足。質問者と思われる方からのコメントがありました。コメント欄参照。

*6:2016-06-05 日本図書館研究会第320回研究例会「図書館史料の間歇に関する一検討」に行ってきた。

*7:インターネット公開になっていないのは残念なところだが。

岡山市立中央図書館へ行ってきた。〜岡山図書館旅行その1

 機会があって、岡山の図書館を見てきた。一つめは、岡山市立中央図書館*1
 以下は2016年8月、いち利用者としてのレポート。

  • アクセス・周辺環境

 最寄り駅のJR岡山駅から路面電車に乗り、清輝橋(せいきばし)で下車。近くの交番で道を尋ねたところ、市立中央図書館だと言っているのに「県立図書館?」と聞き返されたのがちょっとおかしかった。地元の人はわざわざ道を尋ねないし、道を知らないようなよそ者は県立図書館の方に行くという認識なのだろう。
 住宅街の中を流れる西川沿いに南下して10分少し歩くと、図書館の裏側に出た。裏側は車庫になっていて、立派な移動図書館車がちょうどフタを開けて本を露わにした状態で停まっていた。これを右手に見ながら建物の北側に回り込むと駐車場。なかなか広い。
さらにぐるりと回ると、同じ敷地内に明治風のしゃれた建物がある。八角園舎*2といい、現在は幼児向けの施設らしい。
 南側が図書館の正面。前庭は植え込みや石のオブジェなどがあり、ちょっとした広場のようになっている。建物は2階建て。断面でいうと、四角形に半円を接着したような形になっている。半円の突き出た側が南側になる。

  • 入口

 建物に足を踏み入れた第一印象は「広い」。
 入って左側が児童コーナー、右側が一般コーナー。角にカウンターがある。カウンターの前あたりに広めのスペースがあり、ブックトラックや机等で展示がされている。このあたりの上が一部分吹き抜けになっていて、天井から明るい光が降りてくる。広いと感じたのはこのスペースのためだ。閲覧室の案内図は修正されているから、もともとは別のものが置いてあったのかもしれない。

  • 一般コーナー(1F)
    • 全体

 書架は木製。足元のカーペットは、なんというか表現のしがたい色だ。壁際や書架の際は黄緑っぽく見え、真ん中あたりは赤っぽく見える。さきに紹介した図書館のホームページの写真だと赤にしか見えないが、実際歩くと印象が異なるので、毛足とか素材の関係だろうか。ソファは深い青色や青緑。

    • 展示、レイアウト

 カウンター前の展示は何種類かあった。地元らしく「岡山の本」という展示もある。
 目立っていたのが「ベストセラーを読もう!」とポップの出た平机。村上春樹湊かなえ宮部みゆき有川浩など、ベストセラー作家の、それも2010年あたりのちょっと古めの単行本が平積みになっている。穿った見方をすれば流行った頃にたくさん買ってだぶついているのかも知れないが、人気作家でも10年近く前の本なら、かえって宣伝になっているという見方もできそうだ。
 また、雑誌コーナー寄りには「子育て支援コーナー」というのがあった。案内図にも出ているから、これは展示というより常設なのだろう。育児関係の資料が並んでいる*3

 展示の後ろにOPAC端末10台が固めて置いてある。その周りにマンガ、DVDやCD、道路地図など特殊な資料がそれぞれコーナーになっている。マンガコーナーは定番の愛蔵版マンガが中心で、図書館っぽい品揃え。
 道路地図の横に面白いものを発見。引き出しのたくさんついた書類整理キャビネで、中には48都道府県の観光パンフレットが入っている。都道府県の作ったものだと、ガイド本と違って情報が絞り込まれているので、かえってざっと見たい時には便利そうだ。それにしてもどうやって集めているのだろう。

 奥の方に、PC関係の図書コーナーがある。壁面の書架にはWord、Excelなどの本。最新の2016から、古い版まで色々ある。手前の机には、iPhoneFacebookiPadなどの本が平置きで展示されている。図書館のPC図書コーナーは古いとよく言われるが、実際のところ古いバージョンを使い続けている人というのは案外多い。全体として、PCに精通した人というより、苦手だが使いたいので調べようという人向けの雰囲気を感じる。詳しくないユーザ向けと考えると、文字だけの背表紙よりも、表紙を見せる展示の方が効果的そうだ。
 PCコーナーの隣は大活字本コーナー。

    • 書架

 部屋全体の書架は、壁面と、高い方の書架が7段で200センチ程度。低い方の書架は150センチ程度で4段、文庫本の棚は6段に区切っている。ただし文庫だけ別置なのは読み物類だけで、新書は普通の本と一緒に置いてある。低書架、高書架とも、下2段が少し斜めになっているタイプ。
 スペースが足りないのだろう、ほとんど低書架の天板の上には資料が1段分並んでいる。従って実際は5段として使われている。しかし本の上に横積みになっているようなのは見なかった。きちんと手入れされている。
 書架の間はかなり広い。書架の横に小さい机があり、配布用の案内図が置いてある。カウンターで案内図を手にしてから書架の前へ進む人だけでなく、とりあえず飛び込んでから探すという人は多いだろうから、これはありがたい。

    • 座席、その他

 書架の近辺に椅子はほとんどない。部屋の真ん中あたりに大机と椅子が2組、壁際にソファが3つほど。
 図書館の入口を入ってすぐ右側に新聞・雑誌コーナーがある。ここには壁際に寄せて深い青のソファがたくさんある。館内でゆっくり読みたい人はここまで持ってくるのだろう。壁際といってもガラス窓なので光が入り、明るい。
 書架の間でしばしばスタッフに出くわす。スタッフは空色をベースにしたお揃いのエプロンを着けている。ローソンとか佐川急便のユニフォームの色に似ている。図書館名が刺繍されているところを見ると支給品だろうか。
 1Fのトイレは和式2、洋式1。おむつかえは、男女とも多目的トイレを使う方式のようだ。

  • 児童コーナー(1F)
    • 全体

 図書館の入口から左側、南に向かって突き出た半円の部分が児童コーナーになっている。半円はガラス張りで明るい。外周が円形なので、そちら側に面した書架は放射状になっており、若干ランダムな並びにも見える。しかし、こちらも書架の間の通路が広めにとってあり、狭苦しい感じはしない。こちらでは書架の上にもう1段並べる使い方はしていない。絵本などが面陳されている。
 書架の並べ方は、読み物系とそれ以外を分けている。読み物以外は、NDCで並ぶ。天井から「スポーツ」「こうさく」「くらし」などのサインが吊るしてある。
 児童コーナーによくあるじゅうたんスペースがない。代わりに、子どもサイズのソファやベンチが割と多く置かれている。ソファは、色々な形のものがある。柱を囲む形で設置されたソファ、高さが低くて面積の広い円柱型ソファ。後者の上では子どもが這っていて、じゅうたんスペースと同じような感覚だ。
 書架の横にも座席がある。スツール、一人掛けソファ、椅子など種類は色々。後から増やしたのかもしれない。

    • 絵本コーナー

 カウンターに一番近いところに絵本コーナーがある。
 側の低い台の上に、紙芝居の枠が据え付けになっていたのが面白かった。見ていると、子ども連れの親が紙芝居を読んであげたり、子ども同士で紙芝居を読みあったりしている。また、親と一緒に座れるような割と大きめのソファがある。青緑色で、図書館というより家庭にあるようなひじかけ付きの形。上にはぬいぐるみがいくつか。お行儀よく並んでいるのでなくとっ散らかされて置いてあるあたり、飾りではなく「ホスト」役なのだろうと思われる。
 絵本コーナーのすぐ横に子ども用トイレがあった。この配置は工夫されているなぁ、と思った。ぎりぎりまでトイレを我慢して絵本を読む子どもがすぐ駆け込めるし、カウンターから割と目の届きやすい範囲で、かつ一般コーナーから見ると距離があるので、不審者対策にもなる。

  • 2F
    • 全体

 階段を上がり、2Fへ向かう。足元を見ると、例の表現しがたい色のカーペットが、階段から2階にかけては緑っぽさが強くなっているのに気づく。階段から1Fを見下ろしてみると、歩いていた時以上に赤みが強く見える。読書を楽しむことがメインの1Fは華やかな暖色、静かに調べものをする2Fは穏やかな寒色で、フロアの機能の違いを色合いで表しているのかもしれない。ゾーニングのうまい方法だ。
 階段を上がった右側は、ホールや展示スペースらしい。手前に休憩スペースらしいソファがあり、1Fに通じる吹き抜けスペースのぐるりには、壁に作り付けのガラスケースがある。自分が行った時にはなにもやっていなかったので、閑散としていた*4
 階段のおおむね正面にカウンターがある。左側には郷土資料コーナーと参考資料コーナー。階段近辺には検索用端末がまとまって設置されていたり、電話帳、特別展示コーナーなどがある。そういえば1Fになかった目録カードボックスが、こちらには鎮座していた。郷土資料だとまだOPACで引けないものがあるのかもしれない。特別展示コーナーは、坪田譲治展示コーナー*5。ゆかりの資料やモノなどが置いてある。

  本のある方へ進む。カウンターのすぐ左に、縁側つきの畳の空間がある。閲覧室に向かって縁側があり、壁際に床の間や違い棚がある。古い木造住宅の壁をとっぱらった感じだ。館内案内図によると「岡山の部屋」というらしい。坪田譲治愛用と掲示のある文机や、屏風、由緒ありげな什器などがある。一方で段ボール箱など、よく分からないモノも置いてある。部屋自体は図書館ができた時からあるのだろうが、催し物などの時だけ使うのかもしれない。

    • 郷土資料コーナー

 図書館の他の箇所に比べて、やや薄暗い。実際照明が暗いのか、外光が入りにくい空間にあるためなのか分からない。参考資料コーナーとの間は書架で区切られていて、カウンターの前を通らないと出入りできない。貴重なものも多いからだろう。古い資料が多いので古書らしい匂いがして、古書店っぽい雰囲気。
 メモを細かくとっていなかったので記憶がはっきりしないが、なかなか色々なものがあって面白かった。また、こちらには椅子が見当たらなかったように思う。
 壁面に、鍵のかかるガラスケースの書架がある。燕々文庫というそうだ。帙入りの和本や、巻子本も少しある。特別文庫の案内*6を見ると、他にも貴重書があるようだ。

    • 参考図書コーナー

 こちらは児童コーナーの上にあたり、外に面した壁がガラスドームになっている。外光が入って明るい。書架は1Fと同じく4段だが、入っているものが辞書・参考図書類ばかりのためか、なんとなく見た目が重そうだ。通路は1Fと同様に広い。書架脇に、立ったまま資料を広げられるテーブルがある。
 閲覧席は主に壁際にあり、そのほかに書架の横に一人掛けの椅子がいくつかある。一人がけの机つき座席が6つ×4つの島になっていて、24席。また6人がけのテーブルが2、4人がけのテーブルが3。カウンター前あたりには、数名がけのテーブルがいくつかあった。
 一人がけの椅子は青緑のビロードのような布地で、座面に比べると背もたれが少し長い不思議なデザイン。特別に発注したものかもしれない。

 岡山市立中央図書館のレポートは以上。続きはまた気が向いたら。

*1:図書館の基本情報はこちら。岡山市立中央図書館のご案内

*2:詳細はこちら。八角園舎|岡山市|施設案内

*3:ところで図書館のせいではないが、育児関係の本というのはピンクやパステル系の装丁がやたら多かったり「ママの〜」を強調したタイトルのものが多くて、それだけ集めると「男子禁制」感が漂ってしまうのはどうにかならないだろうか。

*4:自分の訪問する少し前の時期まで、こういうのをやっていた。|カレントアウェアネス-R 2016年7月25日「岡山市立中央図書館で、「岡山市立図書館設立100周年記念 戦災前に疎開できた岡山市立図書館の蔵書・再現」展を開催中:蔵書印や目録を手掛かりとした調査の成果」本当はこれに合わせて行きたかったのだが…。

*5:岡山市立図書館ホームページ|坪田譲治(岡山人物往来)

*6:特別文庫(貴重資料)|岡山市

シンポジウム「日本の大学図書館員の論じる世界の大学と図書館 〜6/25開催のシンポジウムを振りかえりつつ〜」に行ってきた。

こういうのに行ってきた。

2016年7月1日(金)18:25〜20:00
「日本の大学図書館員の論じる世界の大学と図書館 〜6/25開催のシンポジウムを振りかえりつつ〜」
http://www.slis.doshisha.ac.jp/event/20160701.html
パネリスト

 という訳で、以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。誤記・誤解もあるだろう。議論がかみ合ってないように見えるところはxiao-2の腕のせいなので、そのうち記録とか動画とか出ることに期待。なお今回は、構成上全面的に敬称略とする。

  • 導入
    • 江上
      • 6/25のシンポジウム*1では、アメリカの日本研究ライブラリアンにお話をしていただいた。
      • これに対して、日本を代表する大学図書館の図書館員がどう感じたか。アンサーソングならぬアンサーシンポジウム。
      • (この後30分くらいで、パネリストの自己紹介と前回のシンポジウムの振り返り。ここは割愛)
      • 本日は3つのテーマを設定したい。
        • 学生はなぜ図書館に来るのか。
        • ディスカバリ慣れしたユーザを前に、司書は何ができるか。
        • 日本のデジタルアーカイブ、電子資料は何が駄目か。
      • まずは、前回のシンポジウムで聞いた話への感想を一人ずつ。
    • 久保山
      • ピッツバーグ大学で開架資料を遠隔地の書庫送りにして座席数を増やした話が出ていたが、本だけでなくスタッフも遠隔地へ移し、事務室も移動させている。
      • アメリカの大学図書館とは、共通点と相違点があると感じた。環境や前提の違いがあり、同じように論じられない部分もある。
    • 今野
      • 共通点と相違点というのは同意。共通点としては、資料が紙から電子に移行していく傾向。日本はまだ紙寄りだが、全体の傾向は同じだろう。
      • 共通しない点としては、図書館員が学部生のサポートにあれほど関わるというのは新鮮だった。
    • 長坂
      • アメリカの大学図書館員と日本の大学図書館員では、そもそもの立ち位置が大きく違うと感じた。バゼル氏の話で、図書館員が教授会議に参加するという話があった。日本の大学図書館の感覚からするとかなり驚き。学べることがたくさんあるだろう。
    • 飯野
      • 相違点がある一方で、ピッツバーグ大学の事例で示された利用行動には共感する部分があった。コンテンツの違いがあっても、同じ行動をとる。
  • テーマ1:学生はなぜ図書館やラーニング・コモンズ*2に来るのか?そもそも来るべきなのか?
    • 江上
      • ピッツバーグ大学の事例で示されたように、学生の来館は増えているという声もある。彼らはなぜ図書館に来るのか。また来館が増えるのは望ましいことなのか。
      • A4の紙をパネリストに配ってあるので、書けた人から発言を。
    • 飯野
      • 「『紙』の貸出+α」。
      • 佛教大学にはラーニング・コモンズはない。その中で見ていると、紙資料の貸出がやはり圧倒的。
      • 2009年以降の統計を見ると、入館者数は減っているが、貸出冊数は2014年まで毎年増えている(2015年には微減、との補足)。自習などの利用はもちろんあるが、紙資料があって、それを借りに来るという利用が多い。
    • 江上
      • それだけ聞くと、では電子化を進めないままでいる方が図書館にとっては良いのか?という見方もできるが。
    • 飯野
      • 一方で電子資料の利用も増加している。検索回数*3でいうと2010年に比べて2015年は2倍。
    • 今野
      • 「自習と資料入手」。学生は「来なくてもいい」。
      • いまは理系図書館に勤務しているが、前は文学部の図書館に居た。
      • 体験からすると自習と資料入手というのが図書館利用のメイン目的で、グループ学習や司書に質問するというのはあまり期待されていない。学生にとっては公共図書館学校図書館で図書館のイメージができていて、そこから外れた利用はあまり想定されていない。
      • 必要がなければ来館しなくてもいいのでは。だからといって図書館の仕事がなくなるということはない。非来館サービスへのシフト。必要な資料をPDFでウェブに掲載するなど。
    • 久保山
      • 「勉強場所」であり「学部生のサポートを行う場所」。
      • 貸出冊数というのは便利な数だが、それだけで評価を行うのはあまり適切でない。
      • 勉強場所としての役割を数値化できるとしたら、これが一番大きな利用だろう。これに加えて、諸々の環境変化に対応して学生サポートも考えなければならない。
      • 前回のシンポジウムで年間500人が来館するという数字が出ていた。これは凄い数ではある。図書館の数や環境など、条件が色々異なるので単純に比較はできないが。
    • 長坂
      • 「来館者数は減らすべき、減らしたうえで増やすべき」。
      • 忙しい学生や研究者を、本来来なくてもいい目的のために来させるのは駄目。来なくていいサービスは来ないで使えるようにしたい。
      • 一方で、たとえば学部生サポート。これは図書館がどうこうというより、大学全体として手厚くしていこうという流れがある。そういう中で求められる新しい役割をきちんとやっていくことで、結果として来館者が増えるのは良い。
    • 久保山
      • 自分は同志社の学生でもあるが、ラーニング・コモンズでレポートを書いていて、欲しい資料がネットでは入手できなかったので図書館まで歩いて行ったという経験がある。
      • 勉強場所として考えるにも、キャンパス内で勉強できる場所は図書館だけだろうか。学生が家で勉強できるなら、図書館に投資することは必要なのだろうか、という問いもある。
    • 江上
      • フロアに同志社のラーニング・コモンズを作られた方がいるので、なにかご発言を。
    • フロア
      • 学習、学びというのがどういうものか見極めたい。本をラーニング・コモンズに持ってくると、学びの本質が分からない。
      • 図書館で勉強している人を見ると、必ずしも図書館資料を使っているとは限らない。ハンドアウト等を手元に置いている人も多い。コンテンツが必ずしも側になくてもいい、という思想で作った。
      • ラーニング・コモンズの利用状況を見ると、ひとりで来て自習しているという人は1割程度。デジタル化が進んでいく中で、重要度は増していくだろう。
    • 江上
      • しかし、文献を参照せずに行う学びというのはどうだろう。それはscienceではないのでは。
    • 長坂
      • 文献はPCから見るという前提だろう。
    • 飯野
      • 佛教大学では通信教育の課程もあり、そうした学生は来館できない。その人々向けに、必要な本を送るというサービスはやっている。その意味では現在でも非来館での利用は可能であり、今後電子化が進んでいくと加速するだろう。
    • 江上
      • 来館者が減ったあとで、いかに図書館の評価を行うか。
    • 久保山
      • 図書館で資料を使っている人が少ないという指摘だが、自学のラーニング・コモンズで利用者にインタビューしてみたところ、2-3割の人が「本が近くにあるから」という理由だった。
      • キャンパス内に学習場所はあった方がいい。その場所のデザインを、特に学生さんには意識してほしい。机はなぜこの色、この素材なのか、といったことから。
  • テーマ2:ディスカバリ慣れしたユーザを前に、司書は何をすべきなのか?
    • 江上
      • 各自の回答を聞く前に、ディスカバリについて飯野さんから解説を。
    • 飯野
      • ディスカバリとは、Discovery service。自分が長く関わってきているのはウェブスケールディスカバリ*4。たくさんのデータベースを横断的に検索するもの。
      • ディスカバリサービスは、横断先のデータベースのデータをあらかじめもらってきている。Googleの学術情報版みたいなもの*5
    • 長坂
      • 「ディスカバリのデータ元としての目録」。既存の目録はディスカバリサービスが読みやすいデータになっているとは限らない。
      • 昔のCinii*6の画面を見たとき、これからは著者名典拠*7が必須になっていくなと感じた。
      • 代表的なものとして、ファセット分類*8。元の目録にサブジェクトがなければこの機能が使えない。
      • 大学図書館員はあまりサブジェクトが得意でない。いまきちんとしたサブジェクトのデータを作れるのはNDLかTRCだろう。
      • 技術の変化により必要な項目が変わるのであれば、ライブラリアンとしてはユーザが使いやすいように対応すべき。
    • 久保山
      • 「わかりやすいデザイン」「スタッフの多様性」。
      • 見た目で使いやすいデザインにすることが必要。図書館リテラシー教育はツールの使い方が中心だが、検索窓の位置などデザインを工夫することで説明がなくても使いやすくなる。
    • 今野
      • 「ディスカバリで検索できない情報の探し方」。ディスカバリも万能ではなくて、出てこない情報がある。特に歴史分野などでは多い。一次史料やオーラルヒストリーも。
      • ヒットしない資料がある一方で、ヒットしすぎて、欲しい情報が埋もれるので、単独のデータベースを使う方が合理的な場合もある。ディスカバリ外の合理的な検索手段。
      • 知人の18歳の子にディスカバリの感想を聞いたら「気持ち悪い」といっていた。OPAC等で、所蔵しているものがヒットすることに慣れている。所蔵していないものが出てくるのに違和感があるようだ。
    • 飯野
      • 「利用者支援」「キュレーション」。
      • ユーザはディスカバリに幻想を抱くことがある。なんでも探せて、欲しいものがピンポイントで一番上に出てくると思ってしまう。
      • 実はディスカバリは簡単なサービスではない。ファセットにしても、Googleには無いもので、件名で絞り込むという発想が出てこない。利用者に対してはそれを教えることが必要。
      • 一方で情報に対しては、キュレーションが必要。必要な情報が含まれて表示されるよう、情報自体をデザインする。
      • 要求に応じてもっと多くのデータベースを横断検索できるようにするとか、もっと多くの項目を入れるなど。
      • ところで同志社の学生は、同志社のディスカバリサービス*9を使っているのか。(フロア挙手:ほとんどなし)
      • 佛教大学では、OPACとディスカバリの比が3:1くらい。割と使われている。
      • 佛教大学のディスカバリは「お気軽検索*10」という名前にした。図書館に来ている人を見ると、けっこう使われている。
    • 長坂
      • 京都大学の蔵書検索*11はタブで切り替えできるようになっている。「蔵書・論文+」というタブがディスカバリ検索だが、「論文検索」というタブもある。これはディスカバリの中から論文だけがヒットするようにURLを工夫したもの。ディスカバリの本質とは逆行だが。
    • 飯野
      • ディスカバリサービスは、文字通りディスカバーさせるためのもの。アクセスやサーチでなく、ディスカバリ。見つけたものからどのように新たな発見にたどりつくかを手伝うこと、ディスカバリに適した情報をデザインすること。
  • テーマ3:日本のデジタルアーカイブ、電子資料はどこが駄目なのか?
    • 江上
      • 日本では色々なデジタルアーカイブが作られているが、ウェブでの存在感がなかなか大きくならない。どこがいけないのか、どうしたらいいのか。
    • 今野
      • 「電子化されない」「見つけにくい」こと。紙資料のデジタル化だけでなく、ボーンデジタル資料も。
    • 江上
      • 国際日本文化研究センターでは色々なデジタルアーカイブを作っているが、問合せがよく来るものと、来ないものがある。問合せが来るのは、Googleで直接ヒットするもの。それまでGoogleでヒットしない構成になっていたものを改造してヒットするようにしたら、反応が全然違う。
    • 飯野
      • 「持続可能性」「データ流通」。
      • 図書館や公的機関で作ったデジタルアーカイブで、アクセスしてみたら明らかに更新されていない、打ち捨てられているというものがある。
      • データ流通については、佛教大学でもデジタルアーカイブGoogleでヒットするように変えたら反応が増えた。こういうものを持っているというのが分かると、転載や貸出の依頼が来る。広報の役にも立つ。
      • 研究者にアプローチできないというのは損失。
    • 江上
    • 久保山
      • 「図書館システム(web)上での扱い」。図書館員は電子資料の扱いについての知識が豊富でないし、電子書籍の扱いについて業界のスタンダードもない。
    • 江上
      • 発行されている資料がうまく扱えないというだけでなく、電子書籍に日本語コンテンツが少ない、電子ジャーナルのメタデータの収録がないといった問題も。
    • 久保山
      • 電子ジャーナルのデータはあまり流れていないのか。
    • 飯野
      • 流れているけれど不十分な場合が多い。アブストラクトがない、等。
      • 日本語のメタデータを観察していると、ディスカバリ検索の際に上位に表示されない。全文URLがないとか。
      • あとは人文系ジャーナルの有償版がほしい。無償だと、スイッチを入れないと表示されない*12
    • 江上
      • オープンアクセスといっても、アクセスされやすさと、オープンになっているかどうかは別の問題。
    • 長坂
      • 「和書の電子書籍を、日本の図書館が買っていない」。特にカレントのものを大学図書館が買っていない。これではユーザに提供できないという問題はもちろん、市場として成立しない。大学図書館が買わないのでは、誰も電子書籍を作らない。特に日本の出版の仕組み上、電子書籍化には新たなお金がかかる。
    • 少し前のカレントアウェアネスで、電子書籍PDAに関する記事が出ていた*13。ニーズに先立つ形で積極的に入れる必要がある。
    • 久保山
      • それには反論が予想される。電子書籍は使われるエビデンスがまだなく、しかも紙より高い。
      • ポスター等で周知しても学生の行動はなかなか変わらない。とはいえ、アプローチはしていくべき。
    • 江上
      • フロアに書店の方もいらっしゃるので、発言をどうぞ。
    • フロア(書店の方)
      • 数年前にデジタルコンテンツを担当していた。普及しない−買ってもらえないという構図は2009年くらいからずっと続いている。
      • 質の高いメタデータを作るのはコストが高い。それを価格に転嫁すると売れない、ということになる。
      • 日本語のコンテンツが日本で売れないことには話にならない。出版流通全体が疲弊している中で、なんとかしなくては、とは思う。
    • 江上
      • フロアに先日のシンポジウム登壇者である田中あずささんがいらっしゃる。アンサーシンポジウムへのアンサーを。
    • 田中
      • 学生はなぜ図書館に来るか。図書館の役割は、物理的資料ではなくキュレーションにある。
      • 最近注目されているデジタルヒューマニティーズのサポートなど。図書館がどうサポートするかといえば、大学のどのセンターに何があるか把握している。この調査に使えそうなプログラムを、大学のどのセンターが作っている、など。交通整理が役割となっていく。
      • 日本のデジタルアーカイブについて、駄目なところがテーマになっていたが、よいところがもちろんある。探しにくくても制限があっても、デジタル化されているということがまずはありがたい。
      • デジタルヒューマニティーズの観点だけでなく、日本語が得意でない人にも辞書が引きやすい。

 メモは以上。以下はxiao-2の感想、というか聞きながら思ったあれこれ。

  • 「ディスカバリサービスに慣れたユーザ」というテーマでの各パネリストの話から、どちらかというと必ずしもディスカバリの特質を把握できず、充分に使いこなせないユーザ像が浮かんできた。慣れることと使いこなすことは別なのだ、と発見。
    • たとえばGoogleに慣れるというのはとりあえずググることだが、使いこなすというのはユーザによって検索結果の並び順が違うことを知ったり、他の情報源と組み合わせてGoogleから得られない情報を得るなど、Googleの意図したデザインの外に出ること。
    • と考えると、ディスカバリのデザイン(データ自体を含む)をよりよくするという方向とは別に、どんなにディスカバリが洗練されても、ユーザのサポートという方向での仕事は必要なのかもしれない。
  • 非来館型サービスへシフトする中で、ユーザのサポートをいかに行うか。
  • フロアの書店さんからの「質の良いメタデータを整備するとコストがかかる」という発言が印象に残った。コンテンツを自前で作るにしても買うにしても、コストがかかるところにはかかる。コストを負担するには根拠が必要。となると、結局評価基準の話になってくるのかなぁ。

*1:前回の記事:2016-06-26 シンポジウム「ライブラリアンの見た世界の大学と図書館〜図書館利用行動を中心に〜」に行ってきた。

*2:文部科学省ホームページより:「ラーニング・コモンズ・・・複数の学生が集まって、電子情報も印刷物も含めた様々な情報資源から得られる情報を用いて議論を進めていく学習スタイルを可能にする「場」を提供するもの。その際、コンピュータ設備や印刷物を提供するだけでなく、それらを使った学生の自学自習を支援する図書館職員によるサービスも提供する。」

*3:何の検索か、きちんと説明されていたのだが、書き洩らした。

*4:参考記事:CA1772 - 動向レビュー:ウェブスケールディスカバリの衝撃 / 飯野勝則

*5:さらに詳しく知るには、この本とか読むといいんじゃないかと思う。

*6:xiao-2注:NACSIS-CAT

*7:参考:NACSIS-CAT WebUIP利用マニュアル(図書編)7.2.1「著者名典拠登録の概要」

*8:辞書的には「ランガナータンが、コロン分類法において採用した原理に基づく分類法。主題分析と合成をその基本原理としている(後略)(『図書館情報学用語辞典』第2版より)」となるが、NDLサーチの検索結果一覧で画面の左側に出てくるアレ、という認識。

*9:DOGS plus

*10:お気軽検索

*11:京都大学KULINE

*12:この部分、メモが追い付かなくてよく理解できず…

*13:CA1874 - 大学図書館における電子書籍PDA実験報告〜千葉大学・お茶の水女子大学・横浜国立大学の三大学連携による取組み〜 / 山本和雄、杉田茂樹、大山努、森いづみ

シンポジウム「ライブラリアンの見た世界の大学と図書館〜図書館利用行動を中心に〜」に行ってきた。

こういうのに行ってきた。

2016年 6月25日(土)15:00〜17:00
2016年度 科学研究費によるシンポジウム「ライブラリアンの見た世界の大学と図書館〜図書館利用行動を中心に〜」
http://www.slis.doshisha.ac.jp/event/20160625.html

 という訳で、以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。敬称は「氏」に統一。誤記・誤解もあるだろう。そのうち記録とか動画とか出るんじゃないかなと思う*1ので、きちんと知りたい人はそういったものを見ることをお勧めする。

  • Kuniko Yamada McVey マクヴェイ山田久仁子氏(Harvard University ハーバード・イェンチン図書館)
    • 図書館紹介
      • ハーバード大学全体には73の図書館がある。分散型。総合図書館であるワイドナー図書館の他、ほとんどは専門図書館
      • 自分のいるイェンチン図書館は大きい方で、紙の資料が140万冊、雑誌が1万1千タイトル。中国・日本・コリアの東アジアコレクションがほとんど。加えて満州語チベット語ベトナム語の資料も少し。
      • 源流は1928年設立のイェンチン研究所附属図書館。当時からハーバードのキャンパス内にあり、初代所長もハーバード大学の研究者だったりと縁が深い*2
      • 研究所設立前には、日本から受け入れた研究者の姉崎正治や服部宇之吉により日本コレクションが収集された。
      • 初代のライブラリアンは中国人で、イェンチン分類という方法を作った。これは長く使われていたが、現在は議会図書館分類(LCC)を採用。
      • ハーバード大学全体としては図書館は大所帯、現在のスタッフは800名程度。
    • やっている仕事
      • Librarian for Japanese collection。蔵書構築がメインの業務。
      • 蔵書構築はかつてはライブラリアンの仕事の大きな柱だったが、現在はレファレンスも重視されるように。Libguides*3の作成など。
      • 日本研究という分野自体が人文・社会科学主体なので、蔵書構築もその傾向。
    • ライブラリアンになった経緯
      • 最初に就職したのは日本近代文学館。ここは博物館的な要素のある施設で、原稿や書簡なども扱った。ここで7年。
      • そのあと製本技術を学ぶためボストンへ。ここでハーバード大学現代日本研究資料センターと関わりをもち、お手伝いから業務を引き継ぐに至った*4
      • 通常アメリカでライブラリアンになるには図書館情報学の学位がいるが、それまでの実務で認められた。学位はあとから取得。
      • (司会の質問に応え)ハーバードで日本資料を扱っている施設としては、美術図書館とイェンチン図書館、ロースクール東アジア図書館がメイン。これらと別に政治やビジネスなど文書を扱うセンターがあった。
  • Hiroyuki Nagahashi Good : グッド長橋広行氏(University of Pittsburgh ピッツバーグ大学図書館
    • 図書館紹介
      • ピッツバーグ大学は学部生25,000名、院生9,700名。アメリカでは中規模の大学。
      • 社会・人文・自然科学のすべての分野をカバーする総合図書館に600万の蔵書。ヒルマン図書館、9つの専門図書館アーカイブ、さらに法学図書館・医学図書館。
      • これらに加えて電子書籍があり、毎日増えている。蔵書が少ないので電子に頼っている。
      • 日本語資料は東アジア図書館にある。中国・日本・コリア資料40万冊。うち日本資料13万冊。購入継続中のもので雑誌が80タイトル。電子化とともに減っている。
      • 電子書籍は少し前に200冊くらいテストで購入。そのあと最近になってからDDA*5を導入。これは購入していない資料も目録に上がってきて、学生がクリックすると買うことになるという仕組み。英語の資料だと3回クリックされたら買うことになっている。
      • 日本語資料については電子書籍の方が紙より高いため利用が少ない。
    • やっている仕事
      • 蔵書構築。最近はリエゾンライブラリアンといって、ビブリオグラファーだった人が先生とコミュニケートして仕事する傾向。
      • 英語資料についてはDDAが進んでいるため、選書におけるライブラリアンの役割が低下している。engineeringの担当者などはインストラクションやレファレンスがメインの業務。
      • 日本研究については書籍の存在感がまだ大きい。
      • 日本研究といってもひとつの学科ではない。様々な学科の先生が、その中で日本を扱う。なのであらゆる分野の資料が必要。年間の予算600万で、新刊リスト等から選ぶ。
      • 先生のテーマが狭ければ、その分野は徹底収集。たとえば宗教学の先生が内観療法*6の資料が必要になれば、その方面の雑誌収集や道場への問合せまで行う。
      • 他に、北米全体のライブラリアン組織の委員や、学内の司書委員会で勉強会などもしている。
      • 社史の研究会もやっている。北米にある社史のデータベースを作った*7
    • ライブラリアンになった経緯
      • いまの仕事は10年くらいやっているが、その前は商社マンやテレビ局、博物館の通訳などいろいろやった。
      • その中で、UCLAの司書と出会い、蔵書構築の面白さに惹かれた。それで図書館の学位を取るために大学にいき、卒業した時にピッツバーグ大学のポジションに空きがあったため。
  • Azusa Tanaka : 田中あずさ氏(University of Washington ワシントン大学図書館)
    • 図書館紹介
      • ワシントン大学は、西海岸にあるワシントン州シアトルの大学。ワシントンD.C.にあるのではない。
      • 学生は4万人程度。
      • UWLibraryのミッションは「人と知識を結ぶことで、知的発見を促し生活の質を向上する*8」。
      • 大切にしているのはUser-Centericということ。図書館はキャンパス内に16あり、年間500万人の利用者がある。京都府の人口の倍くらい。
      • 多様性。人種や年齢、ジェンダーなど様々な利用者に対応する。
      • アセスメント。図書館の家具ひとつ買うにもアンケートを取り、利用者の要望を反映。「図書館はライブラリアンではなく利用者の夢を叶える場所」と考えている。
      • 24時間サービス。24時間開いている図書館もある。またオンラインレファレンスは24時間利用可能。なぜこんなことができるかというと、OCLCのチャットレファレンス*9に加盟しているため。時差を利用し、夜間など時間外の質問に対しては、いま昼間の国の図書館から回答してくれるというもの。
      • Collaboration。学生によるライティングの指導や、協力して勉強のできるコモンズもある。
      • Hathi Trust*10Orbis cascade alliance*11にも参加。
      • 東アジア図書館には68万のアイテムがあり、東アジア地域研究をサポート。うち日本関係資料は16万。文学や歴史などが多い。
    • やっている仕事
      • コレクション構築、レファレンス、ファンド探し(予算をとってくる)など。
    • ライブラリアンになった経緯
      • 日本の大学を出た後、韓国学修士としてワシントン大学で学んだ。色々と苦労した中でライブラリアンに助けてもらい、これが天職と感じた。ライブラリースクールに通って学位をとり、ミズーリ州で日本研究司書となったあと、現在の地位へ。
      • 図書館員になるまでの就職活動について紹介したい。
        • まずは履歴書を送り、書類審査を受ける。
        • 次に電話でインタビュー審査。この時点で5名くらいまで絞り込まれている。30分程度。きちんと答えられるよう、電話周辺にメモを貼って臨んだ。
        • 最後にキャンパスでの面接。2日くらい。この時には同僚たちが集められて、お題を与えられて皆の前でプレゼンするというのもあった。サブジェクトライブラリアンとしての知識を問われるという意味もあるし、人前で話す能力を問われるという意味もある。
  • Tokiko Yamamoto Bazzell : バゼル山本登紀子氏(University of Hawaii at Manoa ハワイ大学マノア校図書館)
    • 図書館紹介
      • ハワイは5つの島があり、ハワイ大学はそれぞれ分校を持っている。マノア校は一番大きいキャンパス。大学全体では5万人の学生のいる中で、2万人がいる。
      • マノア校には50人近くの専門ライブラリアンがいる。教授と同じFacultyでテニュアトラック。初め4年間雇用されて、その時点で査定を受け、実績が充分であればテニュアがもらえる。かなり厳しい。
      • 全体の蔵書は400万、その中のAsia Collection部を担当。中国・日本・コリアの他、東南アジア、南アジア、ロシア、沖縄、フィリピンなども。それぞれの部に専門ライブラリアンがいる。
      • 日本研究をやっている研究者による教授会がある。この会のメンバーにライブラリアンも入っていて、相談や企画など。
      • 組合が強く、各司書のステータスが厳密。図書館情報学修士号は必須、これだけだとアシスタント。ダブルマスターだとAssociate librarian。博士号があっても図書館情報学の学位がないと駄目。
      • ハワイ大学の歴史。1920年同志社大学を退職した原田助氏が、ハワイ大学の蔵書構築に貢献した。これが日本研究の下地に。
      • 当時は空の便がない。船で日本から欧米に行くときにはホノルルを経由。なので日本人の要人が滞在することも多く、蔵書構築に尽力。また現地に多かった日系人からの尽力もあった。
    • やっている仕事は、他の方とおおむね同じなので省略。
    • ライブラリアンになった経緯
      • もともと高校の英語の先生をしていた。研究者になりたくなってアメリカのイリノイへ留学し、言語学を学んだ。ところが結婚したので帰国しないことに。
      • ワシントンDCのとある企業の研究所に就職。ここで日本からの資料取り寄せなど行う。その中で情報を扱うことについての日米の差を感じた。たとえば政府刊行物の集めにくさなどへの疑問。
      • 会社が学費を出してくれてライブラリースクールへ。そこから大学図書館に就職し、ビジネスライブラリアンとして活動。パートナーの転勤に合わせてハワイへ。

 以下、各パネリストからテーマによる発表。

  • グッド氏:学生の利用行動
    • ピッツバーグ大学で2013-2014年に行った調査に基づく*12
    • 来館頻度は「毎日」という人が50%超。以前に論文に書いた時*13には来館者が減っていたのが、2012年あたりから増加に転じてきた。
    • ヒルマン図書館のどこをよく利用するか?という質問では、1階(長方形テーブル)と2階(丸テーブル、グループ学習用)が多い一方で、5階(ついたてのある自習席)も人気。ちなみに1・2階は喋ってもいいゾーンで、うるさい。
    • 来館目的を見ると、個人で静かに自習すること、図書館の設備(PCやプリンタ)を使うことの需要が高い。グループ活用が多いという訳ではなさそう。
    • 図書館サービスの認知度では、ディスカバリーサービス、電子ジャーナルがよく使われている。それ以外、たとえば文献管理ツールやLibguideはあまり認知されていない。
    • 図書館資料への満足度はかなり高い。電子ジャーナルがよく利用されている一方で、書籍については電子より紙の需要が少し高い。
    • 2年前から、1週間のうち5日間は24時間オープンするようになった。それで23-6時に使った回数を聞くと、結構使われている。アメリカの大学生はキャンパス近隣の寮やシェアハウスに住んでいることが多く、バスも夜中まであるため。図書館の隣に飲食店もあり、夕食を食べてからくることもできる。
    • 40%くらいの学生はPCよりスマホから検索をしている。OPAC等もスマホ対応が必須。
  • バゼル氏:研究者の利用行動
    • Ithaka S+Rの調査*14による。これはアメリカの非営利団体で、2000年以降3年ごとに高等教育機関の研究者を対象に行っている調査。
    • 研究の出発点。2003年から2015年にかけて「図書館内でのリサーチ」という回答が減っている。研究者は図書館に来て研究を始めるのではない、という傾向がはっきりしている。
    • 一方で、図書館のウェブサイトや目録が出発点になるという回答は、2015年初めて上向きとなった。ディスカバリーサービスやウェブツールの発展によるものか。
    • 学問分野で見ると、人文科学>社会科学>自然科学>医学、の順に、頼るものが図書館の目録等>電子ジャーナルやデータベース。
    • 特定の文献を探す時には、特定の学術データベースを利用することが一番多い。図書館のウェブやカタログを利用するのは20パーセント。図書館員に尋ねるというのがほとんどないのは残念なところ。
    • 資料へのアクセス。「紙での購入をやめて電子書籍にしてもいいか?」という質問にOKと答えたのは、もっとも高い医学系で80%、低い人文系で50%。上昇傾向。
      • ちなみに、ハワイ大学のアジア研究者にインタビューしてみた結果では「紙の資料と電子資料を選べるならどちらがいいか?」という質問に対し、紙が40%、電子が15%、どちらでもいいという人も。
      • その内容をよく聞くと、「自分がじっくり研究したい時は紙がいいが、学生に教えるなどの時は本文検索のできる電子がよい」という傾向。
    • 図書館に期待する役割は、BuyerやRepositoryが上位。これに加えて学部生のサポートを期待する傾向が顕著。
    • curation、management、preservation等は、図書館としては自分たちの役割としてアピールしたいが、研究者の90%は管理は自分でやりたいと考えており、ギャップがある。
  • 田中氏:学生の様子
    • 2010年-2014年のワシントン大学での留学生数を比較。2010年には日本からの留学生が150名程度に対して、中国が3,000名程度。
    • 各国の留学生数ランキングを見ると、2008年にはトップの中国が600名ほどだったのが、2014年には中国がトップは同じだが、人数は3,800名になっている。日本は2008年も2014年もランキングは6位で、人数もそれほど変わらない。普段の体感からすると日本人留学生が減っているように思ったが、数として減っているというより相対的なもの。
    • 図書館から留学生へのサポート。各国語での図書館使い方案内。日本語セッションは自分が担当。
    • どんな学習をしているか。近代日本の歴史を扱った講義のシラバスを紹介。
      • 課題がかなり多い。参考図書を読んで考察し、ディスカッション。さらにディスカッションでファシリテータを務めるという課題も。レポートはまずプロポーザルを行い、その後に内容発表。出席状況も評価になるが、ディスカッションに参加するなど役割を果たすことが求められる。
    • こうした課題をこなすため、学期の最初に図書館の使い方を教え、レポートのアイディアを一緒に考える。
    • レポート発表の練習の場もセッティング。各学部から日本をテーマにしている学生を集める。学部の壁を越えることで思わぬ視点が得られる。
  • マクヴェイ氏:学生の様子
    • 今回のために学部生3名にインタビューをした。適当に捕まえたので理系の学生ばかり。
      • 理系の学生にも基本教養という形で論文を書く講義は課されるので、その過程で必ず図書館資料は利用する。
      • 場としての図書館というのは好評。グループよりは一人で、個室の方が好まれる。
    • 院生は日本研究の人にインタビューした。
      • 21世紀においてブラウジングにはどういう意味があるのか。アメリカの大学図書館では開架スペースを伝統的に重視してきた。だがバゼルさんが発表されたとおり、いまや図書館の棚のブラウジングは研究の出発点にならない。
      • 日本研究については紙資料がまだ中心という特性があるが、学部生等では既に期待値が違う。必要な資料が図書館になければ、オンラインにあるものでなんとかする。
    • スキャン&デリバリーというサービスも行っているが、学部生となるとこれでももはや遅いと感じる。即時性を求める。
  • フロア質問への応答(以下、敬称略)
    • フロア
      • 日本の電子書籍は、どんなプラットフォームで読まれているか。
    • マクヴェイ
      • ハーバードはNetlibrary*15。本文検索が便利。国史大系など。
    • グッド
      • Netlibrary。現代史叢書など。
    • 田中
    • バゼル
    • グッド
      • 単体の書籍として買うのはEBSCOなりNetlibraryになるが、Japan Knowledge*16を通して色々な電子書籍をセット購入しているケースは多い。
    • フロア
      • 電子ジャーナルの印刷に関わる著作権との関係は。
    • グッド
      • アメリカにはフェアユース規定があり、教育目的の場合はかなり緩やかに運用。スキャナを使って取り込み、PDFで送信もできる。
    • フロア
    • マクヴェイ
      • 良いコンテンツが色々あるが、知られていない。
    • 江上
      • たとえば日文研のデータベースでも、機関のホームページに行っていろいろ見ればアクセスできるが、一般の欧米の人が使っているところになかなか見えるようにならない。
    • マクヴェイ
    • フロア
      • ピッツバーグ大学で、2014年以降来館者が増えたというが、理由に心当たりは?
    • グッド
      • 不明。グループ学習がしやすいように設備を整えたのでそのためかと思ったが、実態はグループ学習用の部屋も一人で使っていたりする。
      • 2013年の調査では、図書館への要望の1位がスペース増、2位が開館時間延長だった。これに応じて2014年には雑誌や参考図書を書庫へ送るなど、開架資料を減らして座席を増やした。
    • フロア
    • 田中
      • たとえばジェンダーについて。まずは図書館員の認識を変えるということで、図書館員向けのワークショップ。safe spaceといって、「この人のところに行けば自分のアイデンティティに関して適切な相談ができる」という表示を出す*17
    • フロア
      • 大学の役割が変化する中、図書館員の意識に変化はあるか。
    • バゼル
      • 大学全体が、院生だけでなく学部生の教育を重視する傾向になってきている。
      • 先生の教え方も変わっている。一度セミナーに出席してみたら、必要な資料を先生が既に探して案内してあるということがあった。資料探しよりその分討論に時間をかけたいという理由だったが、資料探しも学生にさせるよう働きかけた。教員と連携し、図書館を授業の中に入れてもらう。
    • フロア
      • パネリストの経歴を聞くと、転職してライブラリアンになった人が多い。そのパターンが多いのか。
    • 田中
      • そもそもアメリカでは転職自体が多いということもある。
      • ライブラリアンには、強みのある主題知識がないといけない。たとえば弁護士の資格を取った人が、裁判実務ではなくlaw librarianになるなど。また教える能力が求められるということで教員が転職したり、IT系からの転職もある。
    • グッド
      • 日本人がMLIS(図書館情報学修士号)を取っただけではだめで、さらに専門分野を持っている必要がある。
      • 一方MLISがなくてもなれるケースもある。IT系は人気。
      • 最近は博士号を持ったアメリカ人が、日本研究司書をやるケースが多い。以前は日本語能力重視だったが、言葉はあとから勉強してもいいということで、研究方法を学んだ人が求められる傾向。MLISも同じ、あとからでいい。
    • 江上
      • 図書館に求められるものが変化し、高度化、専門化している。その中で、今後どんな将来像を目指したいか。
    • グッド
      • 自分の館では1階にDigital scholarship commonsを作った。情報学の学位を持ったサポータ等が常駐している。ここでビッグデータ、リサーチデータのマネジメントやGIS分析ソフトの使い方などをサポートしている。
      • 学生にinformation literacyが身についているかどうかが、教員の評価につながる仕組みがある。Teaching facultyの先生と組んでサービスを行いたい。
    • 田中
      • アカデミアとは多様な考え方の存在を許すもの。図書館は多様性を受入れ、発信できる場所となりたい。
    • 非白人の学生が増えている一方で、司書は白人・女性・中年というステロタイプがまだ健在。これを崩したい。
    • バゼル
      • 研究者が深くひとつの分野を追求しているのに対し、ライブラリアンである自分は広く全体を見ることができる。深く追求するひとはすぐ隣の分野が見えないこともある。色々な分野の先生と接することで、共通の関心などが分かる。つなげる役割。
    • マクヴェイ
      • 個人的には、special collectionの構築。出版物は比較的アクセスが容易なのに対し、一次史料をアクセスできるように。GLAM、資料を持つ機関がゆるやかに連携していくこと。
      • 全体的には、digital scholarshipのサポート。

 メモは以上。大急ぎで書いたため、注の書き方等まちまちなのはご容赦。注記とかはあとから足す…かも(遠い目)。とりあえず、以下の2冊を読み返そう。

書物の日米関係―リテラシー史に向けて

書物の日米関係―リテラシー史に向けて

*1:特に根拠はないけど。

*2:参考になりそうな文献:「アーカイヴス紹介 ハーバード・イェンチン図書館の歴史および日本語コレクションの特質

*3:Libguidesとは何ぞや?という向きはこちらを参照:E1410 - つながるLibGuides:パスファインダーを超えて

*4:参考:日本研究者への情報提供--ハーバード大学現代日本研究資料センターの場合を中心に

*5:Document-driven acquisitions

*6:司会とパネリストのやりとりから補足。お坊さんの修行方法のひとつで、心理療法にも応用されているらしい。

*7:Shashi: the Journal of Japanese Business and Company History

*8:うろ覚えなので表現は不正確かも

*9:Question Point

*10:Hathi Trust

*11:Orbis cascade alliance

*12:この調査結果は全文Webで見られるとのことだ。そのうち見つけたら追記。→2016/7/3追記。http://www.library.pitt.edu/other/files/pdf/assessment/mydayathillmansurveyresults.pdf

*13:[http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I9504325-00:title=グッド長橋広行. ウェブのユーザビリティ調査事例--ピッツバーグ大学. 情報の科学と技術 / 情報科学技術協会 [編].. 58(6) 2008]

*14:カレントアウェアネス-R:米・ITHAKA S+R、英国の研究者に関する調査報告(2015年版)を公開

*15:紀伊國屋書店の図書館向け電子書籍サービス。NetLibrary

*16:Japan Knowledge

*17:このへん予備知識がないのであまりよく理解していない。参考:Wikipedia|safe space

貸出密度を調べてみた。

  • はじめに

 ちょっと前に、こんなニュースを見た。

毎日新聞2016年4月18日地方版
加東市立図書館 貸出密度、日本一V10 14年度は15.8冊 /兵庫
加東市立図書館の2014年度の「貸出密度」が、人口規模別で10年連続の日本一となった」

 そこで加東市立図書館のホームページ*1を見ていたところ、こんな記述に気づいた。

(xiao-2補記:図書館を)利用できる方
加東市内にお住まいまたは通勤・通学の方
東播磨地域(小野市・加西市西脇市・多可町・三木市稲美町高砂市播磨町加古川市明石市)に、お住まいの方

 ここで書かれている「利用できる」は「貸出利用可能」の意味だろう。ということは、図書館は確かに加東市の図書館だが、貸出可能な地域はものすごく広いということになる。
 一方で、「貸出密度」の定義を手元の辞典でみるとこのとおり。

ある期間における貸出延べ冊数をサービス人口で割った値。すなわち、住民1人あたりの貸出延べ冊数であり、この場合、サービス人口としては、通常、定住人口が用いられる。(『図書館情報学用語辞典』第2版)

 さきのニュースでの「貸出密度」は、この定義に基づいて、貸出数を自治体の人口で割ることで計算されたもののようだ*2。しかし加東市のように広域利用を行っている図書館の場合、貸出対象となりうる住民数は、設置母体である自治体の住民数よりだいぶ多いはずだ。
 では、広域利用も含めた奉仕人口を分母として計算し直したら、貸出密度の順位はどうなるだろう?ということでちょっと調べてみた。なお後述のとおり留保条件が非常に多いので、数値の信ぴょう性はネタ程度で。

  • 方法
    • 前掲のニュース記事の元ネタとなった『日本の図書館*3』2015年版から、加東市を含む「人口4万人以上6万人未満の市立図書館」に掲載された164自治体の図書館を対象とする。
    • 各図書館のホームページで利用条件を確認し、「どこの自治体の住人が貸出可能か」をピックアップ。
      • 以下のような記述がある場合、貸出可能と見なす:「利用者登録可能」「カードを作れる人」「利用可能*4
      • 「在住」を条件とする場合のみ。在勤在学は確認のしようがないので無視。
      • 「隣接する自治体」とある場合は、Wikipediaで隣接する自治体を調べてピックアップ。「近隣の自治体」等、限定できない場合は算出不可と見なす。
    • 貸出可能な範囲の自治体を特定できたら、それらの人口を足し合わせる。これを「広域奉仕人口」と見なす。
      • 人口の数値は、『全国市町村要覧*5平成26年版による*6
      • A市図書館で、近隣のB町・C市在住者も貸出可能なら、A+B+Cを合わせた人口が広域奉仕人口となる。
    • 『日本の図書館』2015年版に掲載された各図書館の貸出数を、広域奉仕人口で割る。これを「広域貸出密度」と見なす。
  • 結果
    • 164図書館のうち、広域奉仕人口を算出できたのは124。
    • 124館を、広域貸出密度で並べると以下のとおり。

自治体名 広域奉仕人口 貸出数 広域貸出密度
1 高島市 52116 731000 14.03
2 赤磐市 44984 459000 10.20
3 下松市 56395 556000 9.86
4 湖南市 54893 446000 8.12
5 南島原市 50444 405000 8.03
6 阪南市 57435 446000 7.77
7 菊川市 47941 340000 7.09
8 阿波市 40184 253000 6.30
9 岩出市 53426 334000 6.25
10 篠山市 43793 269000 6.14
11 さくら市 44369 258000 5.81
12 向日市 54319 315000 5.80
13 沼田市 51430 287000 5.58
14 糸魚川市 46525 256000 5.50
15 嘉麻市 41999 223000 5.31
16 東松島市 40221 212000 5.27
17 宇佐市 59485 304000 5.11
18 石垣市 48816 243000 4.98
19 美濃加茂市 55240 271000 4.91
20 つくばみらい市 47918 231000 4.82
21 山鹿市 55565 259000 4.66
22 日置市 50809 226000 4.45
23 高石市 58887 253000 4.30
24 亀山市 50073 214000 4.27
25 坂出市 74071 314000 4.24
26 伊万里市 84393 354000 4.19
27 黒部市 42356 174000 4.11
28 出水市 89699 350000 3.90
29 中野市 46413 174000 3.75
30 大網白里市 50869 189000 3.72
31 田川市 50113 182000 3.63
32 大洲市 46911 170000 3.62
33 寒河江市 42558 154000 3.62
34 須坂市 71081 255000 3.59
35 指宿市 43925 154000 3.51
36 宮古市 57459 200000 3.48
37 益田市 49846 170000 3.41
38 糸満市 88838 300000 3.38
39 五島市 40395 125000 3.09
40 合志市 181637 559000 3.08
41 宮古島市 55006 163000 2.96
42 さぬき市 52024 154000 2.96
43 氷見市 51335 141000 2.75
44 富岡市 76106 193000 2.54
45 小林市 48484 120000 2.48
46 南城市 41803 102000 2.44
47 赤穂市 135169 319000 2.36
48 京丹後市 145950 318000 2.18
49 野洲市 325124 676000 2.08
50 浜田市 145027 293000 2.02
51 喜多方市 61779 123000 1.99
52 かすみがうら市 43940 84000 1.91
53 洲本市 144305 273000 1.89
54 能美市 278052 495000 1.78
55 志摩市 90595 161000 1.78
56 能代市 88458 148000 1.67
57 筑後市 151522 238000 1.57
58 淡路市 144305 215000 1.49
59 萩市 251554 363000 1.44
60 五所川原市 59043 84000 1.42
61 茅野市 204687 282000 1.38
62 常陸大宮市 86063 114000 1.32
63 諏訪市 204687 268000 1.31
64 二本松市 97772 123000 1.26
65 福生市 507263 625000 1.23
66 田村市 40052 48000 1.20
67 湯沢市 69309 82000 1.18
68 羽生市 257196 239000 0.93
69 稲敷市 118917 108000 0.91
70 下妻市 244163 218000 0.89
71 みやま市 232735 207000 0.89
72 羽村市 394358 346000 0.88
73 島原市 286624 241000 0.84
74 見附市 365842 288000 0.79
75 坂東市 238017 186000 0.78
76 三次市 391978 286000 0.73
77 南あわじ市 144305 95000 0.66
78 那珂市 732895 481000 0.66
79 加東市 962083 630000 0.65
80 朝倉市 501268 326000 0.65
81 荒尾市 204769 129000 0.63
82 小野市 962083 585000 0.61
83 菊池市 181637 109000 0.60
84 小郡市 744160 389000 0.52
85 古賀市 805137 410000 0.51
86 幸手市 402939 204000 0.51
87 井原市 516275 260000 0.50
88 三沢市 209190 98000 0.47
89 みどり市 1066836 484000 0.45
90 西予市 251905 109000 0.43
91 長久手市 1105509 466000 0.42
92 伊豆の国市 439515 181000 0.41
93 弥富市 343163 141000 0.41
94 富里市 652602 263000 0.40
95 笠岡市 525364 198000 0.38
96 鉾田市 262882 92000 0.35
97 日高市 728283 249000 0.34
98 高浜市 570486 180000 0.32
99 四条畷市 1182738 353000 0.30
100 白岡市 641902 185000 0.29
101 魚津市 1091612 311000 0.28
102 南足柄市 520098 142000 0.27
103 常陸太田市 660394 179000 0.27
104 府中市 726382 194000 0.27
105 福津市 2445753 623000 0.25
106 雲仙市 286624 73000 0.25
107 岩沼市 1497326 375000 0.25
108 小松島市 380750 91000 0.24
109 五泉市 931475 213000 0.23
110 加西市 1823605 372000 0.20
111 西脇市 1030335 186000 0.18
112 小城市 338102 59000 0.17
113 瑞穂市 2098176 357000 0.17
114 海南市 1012236 169000 0.17
115 直方市 1474296 228000 0.15
116 野々市市 615641 92000 0.15
117 小美玉市 900893 128000 0.14
118 桜井市 1403034 186000 0.13
119 中間市 1392357 155000 0.11
120 大阪狭山市 4104952 406000 0.10
121 宍粟市 1289985 108000 0.08
122 新城市 2237440 166000 0.07
123 三浦市 739859 49000 0.07
124 阿賀野 1020437 59000 0.06

  • 考察
    • 加東市は79番目。また小野市、加西市西脇市宍粟市など、兵庫県のいくつかの市がずいぶん下の方に来てしまった。このあたりの地域は広域利用が非常に進んでいるらしく、加東市同様に広範囲の自治体住民が貸出を受けられる。これにより分母が膨れ上がる形となるためだ。
    • 他にも同じような現象が見られるのが大阪狭山市大阪府内10市の住民が貸出対象となっており*7、しかもその中に270万人の人口を抱える大阪市を含んでいるため、広域奉仕人口で見るとここに挙げた124館のうちトップになっている。その結果、貸出数はかなり多いのに、広域貸出密度だと120番目になってしまう。
    • その一方、トップになった高島市には注目される。ここは広域利用を行わず、図書利用カードが作れる対象を市民のみに限っている*8にも関わらずぶっちぎりの貸出数で、したがって貸出密度も群を抜いている。これはどういう理由だろう。
  • 感想
    • この数字出すの、凄く大変。
      • 164館中、算出不可となったものが40館。
      • ホームページ等の利用資格に、住所に関する記述がない図書館もいくつかあった。制限がないのかもしれないが、単に近隣住民以外へのサービスを想定していなくてホームページに書いていないのかもしれない。故にすべて算出不可とした。
      • 一方で「日本国内に居住されている方は、どなたでも利用カードを作ることができます。*9」「期限内に資料返却のために来館可能な方(結城市内・市外を問いません)*10」といったように、居住自治体による制限がないことを明記している館もあった。さすがに日本全体の人口で割る訳にもいかないし、じゃあ書いてないけど国外在住者はどうなるのか、等とややこしくなるので、算出不可とした。
      • そもそも、在住と並んで条件となっていることの多い在勤在学を無視している時点であまり正確とは言えない。大きな事業所や大学でもあればだいぶ数字が変わってくるだろう。が、在勤在学を外部の人間が正確に測定するすべはない。
    • 利用条件は多様。
      • 貸出の条件にも「市外の方はご相談ください」「近隣市町村在住であれば、世帯で1枚のカードを作れる」「自治体住民以外は開架のみ貸出可」等、色々のバリエーションがあった。この調査ではとりあえずこれらはすべて無視し、市民と同じ条件で登録ができる・同じ範囲の資料を借りられる地域だけを対象としたつもり。
      • 「近隣市町村の公共図書館カードで借りられる」という条件もあった。これは悩んだ挙句、市町村名が明記されている場合は上記の広域利用に入れた。
    • 地域ならではの特色が面白い。
      • たとえば淡路島。淡路市洲本市南あわじ市の3市があるが、3市の図書館とも他の2市住民の貸出を認めているので、実質的には島内どこの図書館でも借りられる。
      • 他にも「観光等で一時滞在している人も滞在先が分かれば登録可能」としているところもあった。どこの自治体だったかメモを取り忘れてしまったが、別荘地として名の知られる地域だったので、そういう利用を想定しているのだろう。
  • 結論

 上記のように山ほど留保条件をつけて広域貸出密度を算出してみたが、その過程で、この数値だけで良し悪しを評価するのは難しいと実感した。
 広域利用をすれば貸出数が増えるだろうから、「貸出数÷住民数」の貸出密度は上がる。一方で、貸出数に占める住民の割合は下がるかもしれない。それが良いことかどうかは、結局地域の状況を踏まえて判断するしかない。自治体の境を越えて移動する人の多い地域ならば広域利用のできる方が便利だし、特にそういう生活パターンのない地域ならば自治体住民に限るとすることも合理的だ。また当然ながら図書館の性格や、蔵書の傾向、近隣に他に図書館があるかどうか、等によっても異なるだろう。
 …というわけで、ここまでやってきたものの、結論は以下。「個々の地域や図書館の状況を無視して「貸出密度」で一律に比較するのは、あんまり意味ないかも」

*1:加東市立図書館

*2:ちなみに「実質貸出密度」という語もあり、これは登録利用者数を分母としたもの。

*3:日本の図書館:統計と名簿

*4:厳密に言えば利用=貸出とは限らないが、住民以外は立ち入りも閲覧も認めない公共図書館というのはちょっと考えにくいだろう。

*5:全国市町村要覧

*6:『日本の図書館』2015年版は、この資料に拠って各図書館の奉仕人口を記載している。

*7:大阪狭山市立図書館

*8:高島市立図書館

*9:武雄市図書館

*10:ゆうき図書館

日本図書館研究会第320回研究例会「図書館史料の間歇に関する一検討」に行ってきた。

こういうのに行ってきた。

2016年5月28日(土)日本図書館研究会第320回研究例会
発表者:園田俊介氏(津島市立図書館)
テーマ:図書館史料の間歇に関する一検討
http://nal-lib.jp/events/reikai/2016/320invit.html

 という訳で、以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。誤記・誤解があると思うので、きちんと知りたい人はご本人の論文などを読まれることをお勧めする。当日の参加者は10名ちょっと。

  • はじめに
    • 図書館で郷土資料の構築・収集に携わる中で、自分の図書館の史料はどうなっているのだろうと疑問に思ったのがきっかけ。
    • 日本図書館研究会の大会で、明治・大正期の図書館について一度発表した*1。今回はそれより前の時代を扱う。
    • 図書館は、現在は教育機関としてある程度の地位を確立していると思うが、一方で予算に左右されやすい存在でもある。
    • 明治頃、それまでに作られた公立図書館が全国で一斉に閉鎖した時期。この時期の史料集めは、先行研究でも苦心しているようだ。
    • これまでの成果など
      • 調べ始めてから、いくつか新聞記事で取り上げられた*2
      • 津島市立図書館編年資料集成*3』という刊行物も作成した。図書館史の基本資料の一つになればと思い、各地の図書館に寄贈した。是非手に取ってみてほしい。
    • 明治初期に公立書籍館が誕生した。この時期は教育制度がころころ変わり、図書館は翻弄される。閉鎖に追い込まれたところも多く、図書館史上「衰退の時期」とされる。
    • 一方で、教育会による私立図書館が設立された。これは学校の先生の団体。これらの一つが津島市立図書館の由来となっている。
    • 先行研究レビュー
      • 明治頃の図書館の様子を知る基本資料として『文部省年報』*4がある。「衰退期」には、この資料の図書館に関する記事が減り、資料が少ない時期。
      • 先行研究ではこの時期について「自由民権運動とのかかわりで、政府が恐れて図書館を衰退させた」としている。史料に基づくというよりやや観念的な説明。こういう論じ方は実情に合わないのでは、と思う。
      • 先行研究一覧を表示*5
  • 図書館史を調べる上で、どのような史料があるか
    • 明治初期の図書館的な施設は、4つに分類することができる。
    • この他、たとえば師範学校に併設の書籍館もある。
    • もちろん書店も読書施設といえる。(明治7年の丸善名古屋支店の写真を表示)
    • 今回は4つのうち、1.の図書館に限定して紹介する。
    • 『文部省年報』
      • 文部省が発行していた基本資料。
      • 明治8(1875)年に文部大臣田中不二麿の上奏により、編纂が始まった。第1〜128年報まで出た。
      • 図書館については、第1年報から記述がある。第3年報からは府県立図書館の情報を掲載。
      • 書籍館一覧表が含まれ、開館日数なども載っていて便利。
      • 第14年報からは、これが簡略化。一覧表がなくなったり、あっても簡易な項目しかない。
      • これにより史料間歇、衰退期。
    • 『文部省年報』を補いうるものとして、各府県で作られた学事年報*6がある。
      • 文部省年報に準じて作られたもの。摘要は官報にも掲載される。
      • 先行研究では注目されていない。これらを使うことで、ネガティブなイメージのある時期の史料を補うことができる。
  • 明治期の図書館の実態
    • 明治前期の公私立図書館の設置年表。43館を確認できる。
    • また、設置されてから廃止になるまでの設置期間表。明治19年前後、学校令*9あたりで閉鎖されている。学校令に理由があったのか。
    • これらの図書館の実態はどうだったか。
      • まず小規模。
      • そして利用は低調。たとえば栃木県書籍縦覧所では来館者が少なすぎて、空欄になっている。福山中学校附属書籍館では、10年間、来館者が一人も来ない状況が続いて、ついに県から予算をゼロにされた。公益性があったといえるのか分からない状況。
      • なお明治14(1881)年に、長崎県に県立書籍館があったらしいが、実態はまったく分からない。
    • 官報や文部省年報は国の作ったもので、中央政府からの目線。府県など、各地に残る史料の方が量的に多い。そういった史料も見ないといけないとは思う。今後の課題。
    • これらの43館の中には、基本資料である『近代日本図書館の歩み*10』『近代日本公共図書館年表 : 1867〜2005*11』に載っていないものも多数ある。
  • 愛知県師範学校附属書籍室
    • 単に事例を紹介するだけでなく、ある程度類型として見ていきたい。
    • 愛知県師範学校は、今の愛知教育大学
    • 明治初期の公立図書館では、学校に附設されているケースが多い。島根や大阪などもそうだった。
    • この背景は明治10(1877)年の西南戦争。政府は戦争にお金がかかるため、経費節減を迫られた。その結果官立の師範学校は6校廃止。廃止になった学校の備品や書籍は、県の師範学校に引き取られた。それで書籍室ができた。
    • 新潟も同じような経緯をたどっている。
    • この頃の「文部省年報」は記述が詳しく、精査するだけでも色々な情報が得られる。
    • 愛知では、明治12(1879)年に学校附設の書籍縦覧所を設置した。一般公開したいが、そのためにはお金がいる。非常に人気なので独立館を作りたいと考えていた。
    • が、同じ時期に発足してきた県会と対立。これも全国的傾向。
    • 県会側は、インフラ整備や農民の生活などを重視し、教育費を削りたい意向。一方で知事の方は政府の意向を受けて、百年の大計ということで教育を大事にする。秋田県などではかなり激しい対立があった。
    • 愛知の場合も、書籍館の予算は何度も差し戻しされた挙句、明治13(1880)年から師範学校の図書室を使うことで妥結。予算は100円。当時のお金として少なくはないが、独立館を新設できる金額ではない。
    • 明治15(1882)年、再び県会と知事が対立。書籍室の予算が100円から80円にされた。知事側がこれに不服で再議したところ、議論がヒートアップして今度は予算をゼロにされた。こうした激しいやりとりがされている。
    • 県会側は予算削減の理由として「民力困弊」を挙げ、地方税を少しでも下げるためであるとしていた。
      • ここで、実際に当時の県の財政状況を見てみる。
      • 明治12(1879)年から明治20(1887)年頃の歳出・入を見ると、住民一人あたりの負担は50銭を下回っている。
      • 歳入が歳出を上回り、デフレ型の予算になっている。
      • 当時は松方財政のデフレ政策下だった。が、それにしても極端。知事側からの県会批判の根拠はこのあたりにあったものか。
  • 廃館
    • 明治15(1882)年以降、閲覧者の減少が問題視された。
      • 開室直後は多くの利用を想定していたが、実際には少なかった。図書館側は、場所が不便だからと考え、独立館を求める根拠として「位置が良くなれば人も来る」と主張したりしている。
      • 明治18(1885)年には、来館者数は1日1名に満たない。明治19(1886)年の廃館直前には、3日に1名という数。
    • 明治19(1886)年に、学校令の一つである師範学校令が出された。これは学校制度を大きく変えるもので、施設の充実等を含んでいた。この政府の方針には県会も賛同し、学校の新築などを行った。
      • 一方で、不要とみなされたものは大幅に整理された。整理の対象となったのは図書館のほか、各種学校。愛知県内に55校あったものが2校になった。学校令が図書館に大きな影響を与えたといえる。
    • 明治20(1887)年に廃館。
      • この時期の県会の議事録を見れば色々書いてあるはずだが、愛知県ではこの時期の議事録が紛失している。調べたところ、なんらかの事情で当時の書記が持ち逃げしたらしい。
      • このため愛知県の事情は分からないが、他の県でもこの時期の議事録では大事なことを書いている可能性がある。
    • 明治20(1887)年の愛知県学事年報を見ると「監督を厳にする」とある。学校設備の充実が最優先で、学校併設図書館は閉館。10館中2館しか残らなかった。
    • ここまでの経緯をまとめると、以下のとおり。
      • 官立学校の蔵書でオープン。
      • 県会による予算削減に遭い、学校費から捻出。
      • 利用者が少なく、公益性の低さから廃館に至る。
  • 図書館の廃止事由
    • 廃止というネガティブな話題は、これまであまり研究されていないように思う。文部省年報や府県の学事年報から廃止事由を拾い、一覧にしてみた。
    • 全国的に見ると、やはり来館者の少なさなどが理由にされているケースが多い。中にはいくつか興味深いものもある。
      • 鹿児島の書器局。これは独立の図書館だった。名前も「局」となっていて、組織上重い位置づけ。興味深い。ここは西南戦争での敗北が廃止理由。
      • 福岡博物館は「無用の長物」とまで言われている。
      • 五戸書籍館は、もともと小学校の教育研究のためにつくられた機関だったが、明治13(1880)年の教育令改正により民間での研究が不要となったため。
      • 岩手にあった信成書籍館は、館主の篤志により運営されていたが、その人が牧場経営をやるため館の運営をやめたという理由。
  • 東京図書館の統計との比較
    • これだけ利用が少なかったが、では当時の人はどんな本を好んでいたのか。
      • 東京図書館の利用状況を見ると、和漢新洋の分類のうち、新書(明治維新後に国内で出版された書籍)が多い。特に文学など。愛知師範学校の図書館では予算がないので、こうした本をなかなか買えなかった。
    • 明治39(1906)年10月の、愛知県津島町出身者の書簡に、当時の帝国図書館に行った時の感想が書かれている。これは津島市立図書館の郷土史料として持っているもの。
      • 「さすがに日本第一の図書館」「あらゆる分野の本が揃っている」「入館料は1回2銭、10回で12銭と非常に安い」「今後も是非行きたい」といったことが書かれている。
      • 当時の入館の回数券である求覧券の使いかけのものもある。
      • 東京図書館は利用者の希望に応えるものになっていたのだろう。
    • 文部省年報の、明治15(1882)年の新潟の状況を書いた部分にも、「通俗書が増えれば人が来るのに…」という趣旨の記述があった。
  • 学校令と図書館
    • 法令面から見ると、学校令は師範学校の図書館を衰退させ、教育会図書館を活発化させた。
    • なぜ教育会図書館が活発化したかというと、学校令により制度が大きく変わり、教員側では体系的な研究の必要が生じたため。
    • 全国に作られた教育会は、大日本教育会の下部に入っていく。大日本教育会の規則には書籍館設置を定めた規則があり、各地の教育会もこれに倣って規則を作った。これにより図書館活動が盛んになった。
  • まとめ
    • 設置から廃止までの経緯には類型的な流れがある。
    • 衰退の要因は、蔵書構成があまり魅力的でなかったこと、県会との駆け引きなど。
    • 教育行政との影響。図書館の隆盛も衰退も、単独ではなく制度の一環と考えるべき。制度史の観点から見ていく必要がある。
  • 質疑
    • フロア
    • 園田氏
      • 実は中之島図書館と津島は縁がある。初代館長の今井貫一は、もとは津島の校長先生。
      • 理想が勝ちすぎて地元と対立し、がっかりして、大阪の方で図書館長の募集があったときにそちらへ行ってしまった。そのためその後地元は大混乱になったという話が残っている。
    • フロア
      • 発表内で引かれていた津島市民の書簡は、津島市立図書館へ行けば見られるのか。
      • 見られる。個人が大量に寄贈してくれたもので、現物は返したがデータは閲覧可能。
    • フロア
      • 津島市民の書簡を書いたのはどのような人物か。高等教育を受けたような人だったのか。
    • 園田氏
      • 津島で初めて帝大に行った人。地元では神童と言われたが、家の事情で大学をやめて戻ってきた。勉学に対する意識が非常に高い。残念ながら地元の図書館は一顧だにされなかったようだ。
    • フロア
      • 古い図書館では自館史を持っていると思うが、そういったものはどのくらい見たか。
    • 園田氏
      • 政府にある資料と地元にある資料の2種類があり、後者の方が圧倒的な厚みがある。
      • 調査は大変。いくつかの図書館には電話で聞いたが、まとめた自館史を持っていないところもある。
      • 図書館に蓄積された資料が大量にあるのは間違いない。
    • フロア
      • 附設図書館が閉鎖された際、蓄積された蔵書はどうなったのか。
    • 園田氏
      • 閉鎖というのは一般公開をやめたということで、たいていは資料はそのまま残る。現在でも蔵書印の残った図書があったりする。
    • 園田氏
      • 赴任当初は、図書館史のことはほとんど知らなかった。
      • これからどう図書館を運営していくか考える時に、そもそもの設立の根拠を考えなければならない。
      • 今の仕事は今の仕事として頑張らないといけないが、それだけでなく、根源を振り返ることが必要。

 以下、xiao-2の感想。

  • データが豊富で、非常に充実した発表だった。スライドでは古写真などの図版も多く表示され、見ていても楽しかった。
  • 郷土資料の書簡から、東京図書館に関する感想が出てきたくだりも面白かった。昔の利用者の素直な感想というのはなかなか見る機会がないものだが、地方に残るこうした資料には案外残っているのかもしれない。
  • 最後のフロアからの発言では、質問というより感想を述べる人が多かった。個人的な話などもあったのでここでは省略しているが、数値目標や図書館経営体制など、歴史系テーマの学習会としては意外なほど生々しい話と結びつく感想も出てきた。これは質疑の最後に挙げたような、発表者の問題意識に誘発されたものかもしれない。これからを考えるために歴史を学ぶことが必要、という姿勢には深く同意。