シンポジウム「日本の大学図書館員の論じる世界の大学と図書館 〜6/25開催のシンポジウムを振りかえりつつ〜」に行ってきた。

こういうのに行ってきた。

2016年7月1日(金)18:25〜20:00
「日本の大学図書館員の論じる世界の大学と図書館 〜6/25開催のシンポジウムを振りかえりつつ〜」
http://www.slis.doshisha.ac.jp/event/20160701.html
パネリスト

 という訳で、以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。誤記・誤解もあるだろう。議論がかみ合ってないように見えるところはxiao-2の腕のせいなので、そのうち記録とか動画とか出ることに期待。なお今回は、構成上全面的に敬称略とする。

  • 導入
    • 江上
      • 6/25のシンポジウム*1では、アメリカの日本研究ライブラリアンにお話をしていただいた。
      • これに対して、日本を代表する大学図書館の図書館員がどう感じたか。アンサーソングならぬアンサーシンポジウム。
      • (この後30分くらいで、パネリストの自己紹介と前回のシンポジウムの振り返り。ここは割愛)
      • 本日は3つのテーマを設定したい。
        • 学生はなぜ図書館に来るのか。
        • ディスカバリ慣れしたユーザを前に、司書は何ができるか。
        • 日本のデジタルアーカイブ、電子資料は何が駄目か。
      • まずは、前回のシンポジウムで聞いた話への感想を一人ずつ。
    • 久保山
      • ピッツバーグ大学で開架資料を遠隔地の書庫送りにして座席数を増やした話が出ていたが、本だけでなくスタッフも遠隔地へ移し、事務室も移動させている。
      • アメリカの大学図書館とは、共通点と相違点があると感じた。環境や前提の違いがあり、同じように論じられない部分もある。
    • 今野
      • 共通点と相違点というのは同意。共通点としては、資料が紙から電子に移行していく傾向。日本はまだ紙寄りだが、全体の傾向は同じだろう。
      • 共通しない点としては、図書館員が学部生のサポートにあれほど関わるというのは新鮮だった。
    • 長坂
      • アメリカの大学図書館員と日本の大学図書館員では、そもそもの立ち位置が大きく違うと感じた。バゼル氏の話で、図書館員が教授会議に参加するという話があった。日本の大学図書館の感覚からするとかなり驚き。学べることがたくさんあるだろう。
    • 飯野
      • 相違点がある一方で、ピッツバーグ大学の事例で示された利用行動には共感する部分があった。コンテンツの違いがあっても、同じ行動をとる。
  • テーマ1:学生はなぜ図書館やラーニング・コモンズ*2に来るのか?そもそも来るべきなのか?
    • 江上
      • ピッツバーグ大学の事例で示されたように、学生の来館は増えているという声もある。彼らはなぜ図書館に来るのか。また来館が増えるのは望ましいことなのか。
      • A4の紙をパネリストに配ってあるので、書けた人から発言を。
    • 飯野
      • 「『紙』の貸出+α」。
      • 佛教大学にはラーニング・コモンズはない。その中で見ていると、紙資料の貸出がやはり圧倒的。
      • 2009年以降の統計を見ると、入館者数は減っているが、貸出冊数は2014年まで毎年増えている(2015年には微減、との補足)。自習などの利用はもちろんあるが、紙資料があって、それを借りに来るという利用が多い。
    • 江上
      • それだけ聞くと、では電子化を進めないままでいる方が図書館にとっては良いのか?という見方もできるが。
    • 飯野
      • 一方で電子資料の利用も増加している。検索回数*3でいうと2010年に比べて2015年は2倍。
    • 今野
      • 「自習と資料入手」。学生は「来なくてもいい」。
      • いまは理系図書館に勤務しているが、前は文学部の図書館に居た。
      • 体験からすると自習と資料入手というのが図書館利用のメイン目的で、グループ学習や司書に質問するというのはあまり期待されていない。学生にとっては公共図書館学校図書館で図書館のイメージができていて、そこから外れた利用はあまり想定されていない。
      • 必要がなければ来館しなくてもいいのでは。だからといって図書館の仕事がなくなるということはない。非来館サービスへのシフト。必要な資料をPDFでウェブに掲載するなど。
    • 久保山
      • 「勉強場所」であり「学部生のサポートを行う場所」。
      • 貸出冊数というのは便利な数だが、それだけで評価を行うのはあまり適切でない。
      • 勉強場所としての役割を数値化できるとしたら、これが一番大きな利用だろう。これに加えて、諸々の環境変化に対応して学生サポートも考えなければならない。
      • 前回のシンポジウムで年間500人が来館するという数字が出ていた。これは凄い数ではある。図書館の数や環境など、条件が色々異なるので単純に比較はできないが。
    • 長坂
      • 「来館者数は減らすべき、減らしたうえで増やすべき」。
      • 忙しい学生や研究者を、本来来なくてもいい目的のために来させるのは駄目。来なくていいサービスは来ないで使えるようにしたい。
      • 一方で、たとえば学部生サポート。これは図書館がどうこうというより、大学全体として手厚くしていこうという流れがある。そういう中で求められる新しい役割をきちんとやっていくことで、結果として来館者が増えるのは良い。
    • 久保山
      • 自分は同志社の学生でもあるが、ラーニング・コモンズでレポートを書いていて、欲しい資料がネットでは入手できなかったので図書館まで歩いて行ったという経験がある。
      • 勉強場所として考えるにも、キャンパス内で勉強できる場所は図書館だけだろうか。学生が家で勉強できるなら、図書館に投資することは必要なのだろうか、という問いもある。
    • 江上
      • フロアに同志社のラーニング・コモンズを作られた方がいるので、なにかご発言を。
    • フロア
      • 学習、学びというのがどういうものか見極めたい。本をラーニング・コモンズに持ってくると、学びの本質が分からない。
      • 図書館で勉強している人を見ると、必ずしも図書館資料を使っているとは限らない。ハンドアウト等を手元に置いている人も多い。コンテンツが必ずしも側になくてもいい、という思想で作った。
      • ラーニング・コモンズの利用状況を見ると、ひとりで来て自習しているという人は1割程度。デジタル化が進んでいく中で、重要度は増していくだろう。
    • 江上
      • しかし、文献を参照せずに行う学びというのはどうだろう。それはscienceではないのでは。
    • 長坂
      • 文献はPCから見るという前提だろう。
    • 飯野
      • 佛教大学では通信教育の課程もあり、そうした学生は来館できない。その人々向けに、必要な本を送るというサービスはやっている。その意味では現在でも非来館での利用は可能であり、今後電子化が進んでいくと加速するだろう。
    • 江上
      • 来館者が減ったあとで、いかに図書館の評価を行うか。
    • 久保山
      • 図書館で資料を使っている人が少ないという指摘だが、自学のラーニング・コモンズで利用者にインタビューしてみたところ、2-3割の人が「本が近くにあるから」という理由だった。
      • キャンパス内に学習場所はあった方がいい。その場所のデザインを、特に学生さんには意識してほしい。机はなぜこの色、この素材なのか、といったことから。
  • テーマ2:ディスカバリ慣れしたユーザを前に、司書は何をすべきなのか?
    • 江上
      • 各自の回答を聞く前に、ディスカバリについて飯野さんから解説を。
    • 飯野
      • ディスカバリとは、Discovery service。自分が長く関わってきているのはウェブスケールディスカバリ*4。たくさんのデータベースを横断的に検索するもの。
      • ディスカバリサービスは、横断先のデータベースのデータをあらかじめもらってきている。Googleの学術情報版みたいなもの*5
    • 長坂
      • 「ディスカバリのデータ元としての目録」。既存の目録はディスカバリサービスが読みやすいデータになっているとは限らない。
      • 昔のCinii*6の画面を見たとき、これからは著者名典拠*7が必須になっていくなと感じた。
      • 代表的なものとして、ファセット分類*8。元の目録にサブジェクトがなければこの機能が使えない。
      • 大学図書館員はあまりサブジェクトが得意でない。いまきちんとしたサブジェクトのデータを作れるのはNDLかTRCだろう。
      • 技術の変化により必要な項目が変わるのであれば、ライブラリアンとしてはユーザが使いやすいように対応すべき。
    • 久保山
      • 「わかりやすいデザイン」「スタッフの多様性」。
      • 見た目で使いやすいデザインにすることが必要。図書館リテラシー教育はツールの使い方が中心だが、検索窓の位置などデザインを工夫することで説明がなくても使いやすくなる。
    • 今野
      • 「ディスカバリで検索できない情報の探し方」。ディスカバリも万能ではなくて、出てこない情報がある。特に歴史分野などでは多い。一次史料やオーラルヒストリーも。
      • ヒットしない資料がある一方で、ヒットしすぎて、欲しい情報が埋もれるので、単独のデータベースを使う方が合理的な場合もある。ディスカバリ外の合理的な検索手段。
      • 知人の18歳の子にディスカバリの感想を聞いたら「気持ち悪い」といっていた。OPAC等で、所蔵しているものがヒットすることに慣れている。所蔵していないものが出てくるのに違和感があるようだ。
    • 飯野
      • 「利用者支援」「キュレーション」。
      • ユーザはディスカバリに幻想を抱くことがある。なんでも探せて、欲しいものがピンポイントで一番上に出てくると思ってしまう。
      • 実はディスカバリは簡単なサービスではない。ファセットにしても、Googleには無いもので、件名で絞り込むという発想が出てこない。利用者に対してはそれを教えることが必要。
      • 一方で情報に対しては、キュレーションが必要。必要な情報が含まれて表示されるよう、情報自体をデザインする。
      • 要求に応じてもっと多くのデータベースを横断検索できるようにするとか、もっと多くの項目を入れるなど。
      • ところで同志社の学生は、同志社のディスカバリサービス*9を使っているのか。(フロア挙手:ほとんどなし)
      • 佛教大学では、OPACとディスカバリの比が3:1くらい。割と使われている。
      • 佛教大学のディスカバリは「お気軽検索*10」という名前にした。図書館に来ている人を見ると、けっこう使われている。
    • 長坂
      • 京都大学の蔵書検索*11はタブで切り替えできるようになっている。「蔵書・論文+」というタブがディスカバリ検索だが、「論文検索」というタブもある。これはディスカバリの中から論文だけがヒットするようにURLを工夫したもの。ディスカバリの本質とは逆行だが。
    • 飯野
      • ディスカバリサービスは、文字通りディスカバーさせるためのもの。アクセスやサーチでなく、ディスカバリ。見つけたものからどのように新たな発見にたどりつくかを手伝うこと、ディスカバリに適した情報をデザインすること。
  • テーマ3:日本のデジタルアーカイブ、電子資料はどこが駄目なのか?
    • 江上
      • 日本では色々なデジタルアーカイブが作られているが、ウェブでの存在感がなかなか大きくならない。どこがいけないのか、どうしたらいいのか。
    • 今野
      • 「電子化されない」「見つけにくい」こと。紙資料のデジタル化だけでなく、ボーンデジタル資料も。
    • 江上
      • 国際日本文化研究センターでは色々なデジタルアーカイブを作っているが、問合せがよく来るものと、来ないものがある。問合せが来るのは、Googleで直接ヒットするもの。それまでGoogleでヒットしない構成になっていたものを改造してヒットするようにしたら、反応が全然違う。
    • 飯野
      • 「持続可能性」「データ流通」。
      • 図書館や公的機関で作ったデジタルアーカイブで、アクセスしてみたら明らかに更新されていない、打ち捨てられているというものがある。
      • データ流通については、佛教大学でもデジタルアーカイブGoogleでヒットするように変えたら反応が増えた。こういうものを持っているというのが分かると、転載や貸出の依頼が来る。広報の役にも立つ。
      • 研究者にアプローチできないというのは損失。
    • 江上
    • 久保山
      • 「図書館システム(web)上での扱い」。図書館員は電子資料の扱いについての知識が豊富でないし、電子書籍の扱いについて業界のスタンダードもない。
    • 江上
      • 発行されている資料がうまく扱えないというだけでなく、電子書籍に日本語コンテンツが少ない、電子ジャーナルのメタデータの収録がないといった問題も。
    • 久保山
      • 電子ジャーナルのデータはあまり流れていないのか。
    • 飯野
      • 流れているけれど不十分な場合が多い。アブストラクトがない、等。
      • 日本語のメタデータを観察していると、ディスカバリ検索の際に上位に表示されない。全文URLがないとか。
      • あとは人文系ジャーナルの有償版がほしい。無償だと、スイッチを入れないと表示されない*12
    • 江上
      • オープンアクセスといっても、アクセスされやすさと、オープンになっているかどうかは別の問題。
    • 長坂
      • 「和書の電子書籍を、日本の図書館が買っていない」。特にカレントのものを大学図書館が買っていない。これではユーザに提供できないという問題はもちろん、市場として成立しない。大学図書館が買わないのでは、誰も電子書籍を作らない。特に日本の出版の仕組み上、電子書籍化には新たなお金がかかる。
    • 少し前のカレントアウェアネスで、電子書籍PDAに関する記事が出ていた*13。ニーズに先立つ形で積極的に入れる必要がある。
    • 久保山
      • それには反論が予想される。電子書籍は使われるエビデンスがまだなく、しかも紙より高い。
      • ポスター等で周知しても学生の行動はなかなか変わらない。とはいえ、アプローチはしていくべき。
    • 江上
      • フロアに書店の方もいらっしゃるので、発言をどうぞ。
    • フロア(書店の方)
      • 数年前にデジタルコンテンツを担当していた。普及しない−買ってもらえないという構図は2009年くらいからずっと続いている。
      • 質の高いメタデータを作るのはコストが高い。それを価格に転嫁すると売れない、ということになる。
      • 日本語のコンテンツが日本で売れないことには話にならない。出版流通全体が疲弊している中で、なんとかしなくては、とは思う。
    • 江上
      • フロアに先日のシンポジウム登壇者である田中あずささんがいらっしゃる。アンサーシンポジウムへのアンサーを。
    • 田中
      • 学生はなぜ図書館に来るか。図書館の役割は、物理的資料ではなくキュレーションにある。
      • 最近注目されているデジタルヒューマニティーズのサポートなど。図書館がどうサポートするかといえば、大学のどのセンターに何があるか把握している。この調査に使えそうなプログラムを、大学のどのセンターが作っている、など。交通整理が役割となっていく。
      • 日本のデジタルアーカイブについて、駄目なところがテーマになっていたが、よいところがもちろんある。探しにくくても制限があっても、デジタル化されているということがまずはありがたい。
      • デジタルヒューマニティーズの観点だけでなく、日本語が得意でない人にも辞書が引きやすい。

 メモは以上。以下はxiao-2の感想、というか聞きながら思ったあれこれ。

  • 「ディスカバリサービスに慣れたユーザ」というテーマでの各パネリストの話から、どちらかというと必ずしもディスカバリの特質を把握できず、充分に使いこなせないユーザ像が浮かんできた。慣れることと使いこなすことは別なのだ、と発見。
    • たとえばGoogleに慣れるというのはとりあえずググることだが、使いこなすというのはユーザによって検索結果の並び順が違うことを知ったり、他の情報源と組み合わせてGoogleから得られない情報を得るなど、Googleの意図したデザインの外に出ること。
    • と考えると、ディスカバリのデザイン(データ自体を含む)をよりよくするという方向とは別に、どんなにディスカバリが洗練されても、ユーザのサポートという方向での仕事は必要なのかもしれない。
  • 非来館型サービスへシフトする中で、ユーザのサポートをいかに行うか。
  • フロアの書店さんからの「質の良いメタデータを整備するとコストがかかる」という発言が印象に残った。コンテンツを自前で作るにしても買うにしても、コストがかかるところにはかかる。コストを負担するには根拠が必要。となると、結局評価基準の話になってくるのかなぁ。

*1:前回の記事:2016-06-26 シンポジウム「ライブラリアンの見た世界の大学と図書館〜図書館利用行動を中心に〜」に行ってきた。

*2:文部科学省ホームページより:「ラーニング・コモンズ・・・複数の学生が集まって、電子情報も印刷物も含めた様々な情報資源から得られる情報を用いて議論を進めていく学習スタイルを可能にする「場」を提供するもの。その際、コンピュータ設備や印刷物を提供するだけでなく、それらを使った学生の自学自習を支援する図書館職員によるサービスも提供する。」

*3:何の検索か、きちんと説明されていたのだが、書き洩らした。

*4:参考記事:CA1772 - 動向レビュー:ウェブスケールディスカバリの衝撃 / 飯野勝則

*5:さらに詳しく知るには、この本とか読むといいんじゃないかと思う。

*6:xiao-2注:NACSIS-CAT

*7:参考:NACSIS-CAT WebUIP利用マニュアル(図書編)7.2.1「著者名典拠登録の概要」

*8:辞書的には「ランガナータンが、コロン分類法において採用した原理に基づく分類法。主題分析と合成をその基本原理としている(後略)(『図書館情報学用語辞典』第2版より)」となるが、NDLサーチの検索結果一覧で画面の左側に出てくるアレ、という認識。

*9:DOGS plus

*10:お気軽検索

*11:京都大学KULINE

*12:この部分、メモが追い付かなくてよく理解できず…

*13:CA1874 - 大学図書館における電子書籍PDA実験報告〜千葉大学・お茶の水女子大学・横浜国立大学の三大学連携による取組み〜 / 山本和雄、杉田茂樹、大山努、森いづみ