貸出密度を調べてみた。

  • はじめに

 ちょっと前に、こんなニュースを見た。

毎日新聞2016年4月18日地方版
加東市立図書館 貸出密度、日本一V10 14年度は15.8冊 /兵庫
加東市立図書館の2014年度の「貸出密度」が、人口規模別で10年連続の日本一となった」

 そこで加東市立図書館のホームページ*1を見ていたところ、こんな記述に気づいた。

(xiao-2補記:図書館を)利用できる方
加東市内にお住まいまたは通勤・通学の方
東播磨地域(小野市・加西市西脇市・多可町・三木市稲美町高砂市播磨町加古川市明石市)に、お住まいの方

 ここで書かれている「利用できる」は「貸出利用可能」の意味だろう。ということは、図書館は確かに加東市の図書館だが、貸出可能な地域はものすごく広いということになる。
 一方で、「貸出密度」の定義を手元の辞典でみるとこのとおり。

ある期間における貸出延べ冊数をサービス人口で割った値。すなわち、住民1人あたりの貸出延べ冊数であり、この場合、サービス人口としては、通常、定住人口が用いられる。(『図書館情報学用語辞典』第2版)

 さきのニュースでの「貸出密度」は、この定義に基づいて、貸出数を自治体の人口で割ることで計算されたもののようだ*2。しかし加東市のように広域利用を行っている図書館の場合、貸出対象となりうる住民数は、設置母体である自治体の住民数よりだいぶ多いはずだ。
 では、広域利用も含めた奉仕人口を分母として計算し直したら、貸出密度の順位はどうなるだろう?ということでちょっと調べてみた。なお後述のとおり留保条件が非常に多いので、数値の信ぴょう性はネタ程度で。

  • 方法
    • 前掲のニュース記事の元ネタとなった『日本の図書館*3』2015年版から、加東市を含む「人口4万人以上6万人未満の市立図書館」に掲載された164自治体の図書館を対象とする。
    • 各図書館のホームページで利用条件を確認し、「どこの自治体の住人が貸出可能か」をピックアップ。
      • 以下のような記述がある場合、貸出可能と見なす:「利用者登録可能」「カードを作れる人」「利用可能*4
      • 「在住」を条件とする場合のみ。在勤在学は確認のしようがないので無視。
      • 「隣接する自治体」とある場合は、Wikipediaで隣接する自治体を調べてピックアップ。「近隣の自治体」等、限定できない場合は算出不可と見なす。
    • 貸出可能な範囲の自治体を特定できたら、それらの人口を足し合わせる。これを「広域奉仕人口」と見なす。
      • 人口の数値は、『全国市町村要覧*5平成26年版による*6
      • A市図書館で、近隣のB町・C市在住者も貸出可能なら、A+B+Cを合わせた人口が広域奉仕人口となる。
    • 『日本の図書館』2015年版に掲載された各図書館の貸出数を、広域奉仕人口で割る。これを「広域貸出密度」と見なす。
  • 結果
    • 164図書館のうち、広域奉仕人口を算出できたのは124。
    • 124館を、広域貸出密度で並べると以下のとおり。

自治体名 広域奉仕人口 貸出数 広域貸出密度
1 高島市 52116 731000 14.03
2 赤磐市 44984 459000 10.20
3 下松市 56395 556000 9.86
4 湖南市 54893 446000 8.12
5 南島原市 50444 405000 8.03
6 阪南市 57435 446000 7.77
7 菊川市 47941 340000 7.09
8 阿波市 40184 253000 6.30
9 岩出市 53426 334000 6.25
10 篠山市 43793 269000 6.14
11 さくら市 44369 258000 5.81
12 向日市 54319 315000 5.80
13 沼田市 51430 287000 5.58
14 糸魚川市 46525 256000 5.50
15 嘉麻市 41999 223000 5.31
16 東松島市 40221 212000 5.27
17 宇佐市 59485 304000 5.11
18 石垣市 48816 243000 4.98
19 美濃加茂市 55240 271000 4.91
20 つくばみらい市 47918 231000 4.82
21 山鹿市 55565 259000 4.66
22 日置市 50809 226000 4.45
23 高石市 58887 253000 4.30
24 亀山市 50073 214000 4.27
25 坂出市 74071 314000 4.24
26 伊万里市 84393 354000 4.19
27 黒部市 42356 174000 4.11
28 出水市 89699 350000 3.90
29 中野市 46413 174000 3.75
30 大網白里市 50869 189000 3.72
31 田川市 50113 182000 3.63
32 大洲市 46911 170000 3.62
33 寒河江市 42558 154000 3.62
34 須坂市 71081 255000 3.59
35 指宿市 43925 154000 3.51
36 宮古市 57459 200000 3.48
37 益田市 49846 170000 3.41
38 糸満市 88838 300000 3.38
39 五島市 40395 125000 3.09
40 合志市 181637 559000 3.08
41 宮古島市 55006 163000 2.96
42 さぬき市 52024 154000 2.96
43 氷見市 51335 141000 2.75
44 富岡市 76106 193000 2.54
45 小林市 48484 120000 2.48
46 南城市 41803 102000 2.44
47 赤穂市 135169 319000 2.36
48 京丹後市 145950 318000 2.18
49 野洲市 325124 676000 2.08
50 浜田市 145027 293000 2.02
51 喜多方市 61779 123000 1.99
52 かすみがうら市 43940 84000 1.91
53 洲本市 144305 273000 1.89
54 能美市 278052 495000 1.78
55 志摩市 90595 161000 1.78
56 能代市 88458 148000 1.67
57 筑後市 151522 238000 1.57
58 淡路市 144305 215000 1.49
59 萩市 251554 363000 1.44
60 五所川原市 59043 84000 1.42
61 茅野市 204687 282000 1.38
62 常陸大宮市 86063 114000 1.32
63 諏訪市 204687 268000 1.31
64 二本松市 97772 123000 1.26
65 福生市 507263 625000 1.23
66 田村市 40052 48000 1.20
67 湯沢市 69309 82000 1.18
68 羽生市 257196 239000 0.93
69 稲敷市 118917 108000 0.91
70 下妻市 244163 218000 0.89
71 みやま市 232735 207000 0.89
72 羽村市 394358 346000 0.88
73 島原市 286624 241000 0.84
74 見附市 365842 288000 0.79
75 坂東市 238017 186000 0.78
76 三次市 391978 286000 0.73
77 南あわじ市 144305 95000 0.66
78 那珂市 732895 481000 0.66
79 加東市 962083 630000 0.65
80 朝倉市 501268 326000 0.65
81 荒尾市 204769 129000 0.63
82 小野市 962083 585000 0.61
83 菊池市 181637 109000 0.60
84 小郡市 744160 389000 0.52
85 古賀市 805137 410000 0.51
86 幸手市 402939 204000 0.51
87 井原市 516275 260000 0.50
88 三沢市 209190 98000 0.47
89 みどり市 1066836 484000 0.45
90 西予市 251905 109000 0.43
91 長久手市 1105509 466000 0.42
92 伊豆の国市 439515 181000 0.41
93 弥富市 343163 141000 0.41
94 富里市 652602 263000 0.40
95 笠岡市 525364 198000 0.38
96 鉾田市 262882 92000 0.35
97 日高市 728283 249000 0.34
98 高浜市 570486 180000 0.32
99 四条畷市 1182738 353000 0.30
100 白岡市 641902 185000 0.29
101 魚津市 1091612 311000 0.28
102 南足柄市 520098 142000 0.27
103 常陸太田市 660394 179000 0.27
104 府中市 726382 194000 0.27
105 福津市 2445753 623000 0.25
106 雲仙市 286624 73000 0.25
107 岩沼市 1497326 375000 0.25
108 小松島市 380750 91000 0.24
109 五泉市 931475 213000 0.23
110 加西市 1823605 372000 0.20
111 西脇市 1030335 186000 0.18
112 小城市 338102 59000 0.17
113 瑞穂市 2098176 357000 0.17
114 海南市 1012236 169000 0.17
115 直方市 1474296 228000 0.15
116 野々市市 615641 92000 0.15
117 小美玉市 900893 128000 0.14
118 桜井市 1403034 186000 0.13
119 中間市 1392357 155000 0.11
120 大阪狭山市 4104952 406000 0.10
121 宍粟市 1289985 108000 0.08
122 新城市 2237440 166000 0.07
123 三浦市 739859 49000 0.07
124 阿賀野 1020437 59000 0.06

  • 考察
    • 加東市は79番目。また小野市、加西市西脇市宍粟市など、兵庫県のいくつかの市がずいぶん下の方に来てしまった。このあたりの地域は広域利用が非常に進んでいるらしく、加東市同様に広範囲の自治体住民が貸出を受けられる。これにより分母が膨れ上がる形となるためだ。
    • 他にも同じような現象が見られるのが大阪狭山市大阪府内10市の住民が貸出対象となっており*7、しかもその中に270万人の人口を抱える大阪市を含んでいるため、広域奉仕人口で見るとここに挙げた124館のうちトップになっている。その結果、貸出数はかなり多いのに、広域貸出密度だと120番目になってしまう。
    • その一方、トップになった高島市には注目される。ここは広域利用を行わず、図書利用カードが作れる対象を市民のみに限っている*8にも関わらずぶっちぎりの貸出数で、したがって貸出密度も群を抜いている。これはどういう理由だろう。
  • 感想
    • この数字出すの、凄く大変。
      • 164館中、算出不可となったものが40館。
      • ホームページ等の利用資格に、住所に関する記述がない図書館もいくつかあった。制限がないのかもしれないが、単に近隣住民以外へのサービスを想定していなくてホームページに書いていないのかもしれない。故にすべて算出不可とした。
      • 一方で「日本国内に居住されている方は、どなたでも利用カードを作ることができます。*9」「期限内に資料返却のために来館可能な方(結城市内・市外を問いません)*10」といったように、居住自治体による制限がないことを明記している館もあった。さすがに日本全体の人口で割る訳にもいかないし、じゃあ書いてないけど国外在住者はどうなるのか、等とややこしくなるので、算出不可とした。
      • そもそも、在住と並んで条件となっていることの多い在勤在学を無視している時点であまり正確とは言えない。大きな事業所や大学でもあればだいぶ数字が変わってくるだろう。が、在勤在学を外部の人間が正確に測定するすべはない。
    • 利用条件は多様。
      • 貸出の条件にも「市外の方はご相談ください」「近隣市町村在住であれば、世帯で1枚のカードを作れる」「自治体住民以外は開架のみ貸出可」等、色々のバリエーションがあった。この調査ではとりあえずこれらはすべて無視し、市民と同じ条件で登録ができる・同じ範囲の資料を借りられる地域だけを対象としたつもり。
      • 「近隣市町村の公共図書館カードで借りられる」という条件もあった。これは悩んだ挙句、市町村名が明記されている場合は上記の広域利用に入れた。
    • 地域ならではの特色が面白い。
      • たとえば淡路島。淡路市洲本市南あわじ市の3市があるが、3市の図書館とも他の2市住民の貸出を認めているので、実質的には島内どこの図書館でも借りられる。
      • 他にも「観光等で一時滞在している人も滞在先が分かれば登録可能」としているところもあった。どこの自治体だったかメモを取り忘れてしまったが、別荘地として名の知られる地域だったので、そういう利用を想定しているのだろう。
  • 結論

 上記のように山ほど留保条件をつけて広域貸出密度を算出してみたが、その過程で、この数値だけで良し悪しを評価するのは難しいと実感した。
 広域利用をすれば貸出数が増えるだろうから、「貸出数÷住民数」の貸出密度は上がる。一方で、貸出数に占める住民の割合は下がるかもしれない。それが良いことかどうかは、結局地域の状況を踏まえて判断するしかない。自治体の境を越えて移動する人の多い地域ならば広域利用のできる方が便利だし、特にそういう生活パターンのない地域ならば自治体住民に限るとすることも合理的だ。また当然ながら図書館の性格や、蔵書の傾向、近隣に他に図書館があるかどうか、等によっても異なるだろう。
 …というわけで、ここまでやってきたものの、結論は以下。「個々の地域や図書館の状況を無視して「貸出密度」で一律に比較するのは、あんまり意味ないかも」

*1:加東市立図書館

*2:ちなみに「実質貸出密度」という語もあり、これは登録利用者数を分母としたもの。

*3:日本の図書館:統計と名簿

*4:厳密に言えば利用=貸出とは限らないが、住民以外は立ち入りも閲覧も認めない公共図書館というのはちょっと考えにくいだろう。

*5:全国市町村要覧

*6:『日本の図書館』2015年版は、この資料に拠って各図書館の奉仕人口を記載している。

*7:大阪狭山市立図書館

*8:高島市立図書館

*9:武雄市図書館

*10:ゆうき図書館