大学図書館問題研究会近畿3支部合同例会「オンライン教材,教学IRと大学図書館」に行ってきた。〜その3

 ぼけっとしているうち、イベントから早や一ヶ月半。レポートとしては文字通り六日の菖蒲の風情だが、そんなことにはめげずに前々回前回の続き。xiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。敬称は「氏」に統一。

  • 「デジタル化された全学情リテラシー教育の現在 〜 学習情報の蓄積と共有を通じて〜」(大阪女学院大学LSC 小松泰信氏)
    • 自分は現在LSC(ラーニング・ソリューション・センター)に勤務しているが、以前は図書館にいた。今回図書館員の集まりで話ができることになり嬉しい。
    • 平成24(2012)年8月28日、中央教育審議会の答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて*1」が出された。アクティブラーニングを重視する姿勢。今後、初等・中等教育についてもこの傾向が広がっていくだろう。
    • 大阪女学院大学*2について
      • 英語学部、英語学科に力を入れている。卒業要件単位の65%は英語。
      • 学校の風土。ビッグシスター制度*3がある。2回生が1回生の世話をするもの。
      • 20-30名のクラス。1-2年次にはカリキュラム全体、3-4年次で専門職業への連動。オリジナル教科書を多用。
    • eラーニング化の経緯
      • 大学は2004年に開学。当初からiPodを全員に配布し、教育に導入。
      • 2011年にはワイヤレスLANを整備.
      • 2012年にはiPadを全員に配布。電子教材を利用した授業を開始。
      • 2013年にLSCへ改組、ユビキタスキャンパスへ。
      • 学習支援組織も2012年のiPad導入を挟んで変わっている。図書館はずっと図書館だが、CALL=情報システム部門とLRC=教育・学修コンテンツ部門が統合されてLSCになった。
      • LSCがユビキタス環境の整備を行っている。ICTを用いた教育・学修の実現がLSCの役割。
      • そのためにインフラを整備すること、学生に参画させること。デジタルネイティブたる学生に加わってもらうのが効果的。
      • 本学ディプロマポリシーの4つめに「種々の情報媒体を利用して情報収集、分析、発表ができること」とある*4
      • クラウドのコンテンツをiPad、PCで使わせるというのが、必修科目にある。情報リテラシー科目群、たとえば「情報の理解と活用」といった必修科目がある。
      • 1998年から「情報の理解と活用」など、情報リテラシー関係科目が必須。
      • APAスタイル*5で卒論を書くことが目標。
    • ブレンディッドラーニングとティーティーチング
      • 科目の一コマを図書館が担当するという一般的な形ではなく、LMS*6上に学習進捗状況を共有する方法をとっている。
      • LMSはMoodle*7を使用。ポートフォリオクラウド連携。リアルタイムでアクセス。
    • 必修科目「デジタルネットワーク基礎」
      • 事前ビデオで学生の負荷を軽減する。
      • アンケートだと、その授業自体にフィードバックできないという問題がある。
      • 事前テストと事前ビデオを受けてから、演習運営。ビデオは割とリッチな内容。施設紹介から、PCの出し方まで分かる。事例ビデオを使い、それをリアルタイム評価し、講義で補足説明。
    • 論文作成による科目「情報の理解と活用」
      • まず背景。起こりは70年代までさかのぼる。
      • 最初は「データベースの使い方」といった内容の科目だった。41名受講者がいたが、半分くらい脱落。
      • 単に使い方を教えるのでなく、学習する動きが含まれていないとうまくいかない。そこで障害物競争のような形にして、その過程で自然とリソースを活用するやり方にした。
      • 書き方の骨子は変わっていない。カードやExcelによるリレーショナルデータベースを作らせる。
    • 現在の学習過程
      • 1-3週はテーマ設定から、仮アウトライン作成。ここは図書館がサポート。
      • 4-9週は、できたアウトラインをスタッフが把握し、情報探索。
      • 5-11週で引用部分をデータベース化し、これも共有。リアルアイムでアウトラインを把握し、コメントする。
      • この方法は遠隔だけでなく、対面でも有効。iPadで文書を共有しながらリアルタイム編集。
      • 図書館、ピアサポータ等は様々な場で相談を受ける。
      • 学修コミュニティの形成。大学側である講師と学生との関係とは別に、ピアサポータ−学修者という関係や、学修者同士の関係もある。
      • ブログ記事のような形でアウトラインを作る。引用文献をデータベース化することで、動的に情報管理。
      • 学生の探索行動を見ると、情報がないというよりも、情報はあるのに探せないという実態。
      • eラーニングによるデジタル化。教材、進捗、コミュニケーション。
      • Moodleに登録してある教材の閲覧数を確認できる。アクセスランキングを見ると、一番見られているのは先輩の論文のサンプル。同じ学生の作った成果物が、教材としてもっとも有効。
  • パネルディスカッション*10(以下、敬称略)
    • 船守
      • 自分の話ではAnalyticsやオンラインを利用し、機械が自動的にアドバイスするようなやり方を紹介した。お二人の発表された事例を見ると、フィードバックは人がやっている。学生数が多く、教員が忙しい中でも可能だろうか。
      • 星野氏へ。数値について、パッと見て違いが分かるほどの差異は出ない。教員の側もその気で読み取る必要があるが、どのくらい効果がありそうか。
      • 小松氏へ。リアルアイムコミュニケーションまで可視化する方法が印象的だった。教員やサポータの負担はどのくらいか、継続性はどうか。
    • 星野
      • 船守氏へ。品質管理という点について。日本では大学設置基準により、ある程度担保している。アメリカでは基準が緩いか。
      • 小松氏へ。自律的学習者には効果高いが、そうでない場合効果が上がりにくいと思う。自主性。人数の多い大学だと、どのくらいやる必要があるだろうか。
    • 小松
      • 船守氏へ。学修成果物について。オープン教材は玉石混交、選択の必要性があるのでは。
      • どう品質をとらえるか。
      • 星野氏へ。いま自分たちがやっていることはまさにライフログポートフォリオと不可分。今後目指すポートフォリオのあるべき姿とは。
    • 船守
      • 品質管理について。
        • アメリカでは、認証評価により大学の質を担保。機関としての評価に加え、プログラムの評価もされる。後者がある分、日本より上。
        • 一方、大学設置基準のような行政の枠は弱い。自分たちで評価する、という仕組み。
        • もともとアメリカでは行政が弱い。現在も、大統領候補5名のうち3名が「教育省は不要なので潰す」と考えている。高等教育が弱っていることもある。現にカリフォルニアの教育行政は潰された。その中で品質管理も何も…というところはある。
      • 教材の品質。
        • 誰にとっての品質か、という問題。教員が重視するのは同業者によるレビュー。
        • 図書館の役割は?たとえば、図書館がコアとなって教材レビューのための助成プロジェクトを行ったり、教員に対してオープン教材を使うよう提案し、採用後はサポートする。オープン教材作成にあたっても、教員の尻を叩いてプロジェクトマネジメントを行うなど。
    • 星野
      • 教員による分析やサポートの負担。
        • 数値を活用できていない先生が多い。新任教員には「授業を実験だと思って、改善することを楽しんでほしい」そのためのツールとして提供している。
        • 今後目指すもの。オンラインの環境を整えること。乱立するシステムの統一。学生にとって使いやすく、学びが促されるような全学的システム。
    • 小松
      • 教員やサポータの負担について。
        • 確かに、何もやっていない場合よりもかなり負担はある。質問は夜中でも来る。対応しない時間は決めているが。
        • 学生サポータのスキルについては、モチベーションよりも情報過多が問題。
        • 2-3年やるとこちらも熟練してきて「このくらい提出が遅れたら、後はどう進めるのがよい」といったことが分かってくる。
        • 面白いことがある。論文の自動回答システム*11について学生に教えたら、「あれ、人間じゃなく自動で答えてるんですか!」と驚かれた。「人がやってくれている」という感覚があるのが重要なようだ。
      • 自律的学習者について。
        • 学習自体よりも、その周辺の生活全般まで把握する必要がある。
        • 一科目のサポータではなく、人生相談にまで乗ることになったり。
        • 自律性を持たせるにはそこまでサポートが必要。
    • 司会
      • そうすると、やはりかなり手をかける必要がある。大きい大学ではどうしたらいいか。ヒントを。
    • 小松
      • 教材開発。学習情報ログをもとに、最適な学習プログラムを作れるように。
      • 少人数だからこそできる、というのは本学の強みではある。
    • フロアからの質問*12
      • 船守氏へ。オープン教材、オープン教科書について。有料の教科書や教材が存在している中で、ビジネスモデルをどのように確立すべきか。教材作成にあたっては図書館が著作権処理などサポートすることがあるか。
    • 船守
      • アメリカでは、教材の著作権処理は図書館でやっている。教員は著作権を理解していない場合が多いため。
      • ビジネスモデルについては、出版社は教科書に副読本などをバンドル販売することで200ドル以上の価格で売っている。20年の蓄積があるので、やはり信頼はある。教員にとっても「自分はこれで習った」という意識がある。
      • OER(Open educational resources)は、当初は何でもパワーポイントやプリントだった。
      • ここでいうオープン教科書は、政府や財団からの投資を得て授業に使えるようになったもの。教員に協力してもらって品質を向上させる。短期的に採算をとるものでもない。
      • オープン教材自体のビジネスモデルがどうというよりも、既存の出版社がどう手を打ってくるかの方が大きな問題。
      • 日本の大学におけるオープン教材では、図書館が関わっているケースはあまり聞かない。
    • フロアからの質問
      • eポートフォリオのデータはどこまで共有するか。事務職員、やめた教員、企業、大学経営陣など?
    • 星野
      • アクセス権限は大事なこと。システム作成の時に話し合った。
      • 本学の場合、事務職員は見られない。学生アドバイザーや先生には見せる。
      • 外部には一切出さない。少なくとも生データを出すことはない。成績については、学生が自分で出力してどこかに提出する可能性はあるが。
      • 経営陣には、統計としては提出している。
    • 小松
      • アクセス権は、コンテンツを持っている本人が決めるべきという考え方。
      • 学生には、「アドバイザーに対しては初年次からのログを見せた方が役に立つ」と案内はしている。設定は本人が行う。
      • 今のところ、役割を基準にしている。できればもっとフラットに、友達申請のような形にしたい。
    • 船守
      • 在学中は見られるが、一般的には卒業後は自分のデータも見られないというケースが多い。
      • 昨年エストニアで行われた先進的なポートフォリオの事例。学生に自分のブログを立ててもらい、ポートフォリオに書き込む内容をブログに連携させる。これにより後日自分でも見られるし、就職活動の時企業に見せることもできる。
      • ただ、そうしたやり方には好き嫌いはあるだろう。抵抗感はある。

 メモは以上。