大学図書館問題研究会近畿3支部合同例会「オンライン教材,教学IRと大学図書館」に行ってきた。〜その2

 前回の続き。引き続き、xiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。敬称は「氏」に統一。

  • 大阪府立大学における、学びの可視化の取り組み」(大阪府立大学高等教育推進機構 高等教育開発センター 星野聡孝氏)
    • 船守さんのお話と異なり、個別の大学での事例紹介。
    • イントロダクション
      • そもそもなぜ学びの可視化が必要なのか。3つの観点がある。
        • 1つめは、質保証。言い方を変えると組織(大学全体)に関わることでもある。
        • 2つめは、教育改善の促進。
        • 3つめは、学びの促進。
      • 1と2にあたるのが教学IR(Institutional Research)の一環としての学生調査。データを見ることで教員の向上につながる。学びの促進まではゆかない。
      • 2と3にあたるのがeポートフォリオ
      • 一番は3が目的。本学の場合は2にもつなげており、そのデータは1にも使える、という位置づけ。
      • 大学における質保証
        • 時代による変化。昔は、大学の側には大学設置基準*1による事前規制で一定の縛りがあった。自由化により、大学にある程度任されるようになった。その代わり第三者評価などが求められる。いわば「品質管理」。
        • 一方、学生についても、昔は入学試験により事前に一定の質を求められるという縛りがあった。ユニバーサル化により、望めば入れるという傾向になりつつある。学生が前提として持っている知識が、高校ごとに異なるという状況。そこで「品質保証」が求められる。
      • 個人的には疑問も…。
        • 品質保証という考え方は、モノ自体の良し悪しだけではなく、求められる品質に対して充分満たすよう管理されていると示すこと。
        • 高等教育において、卒業生を卒業生をプロダクトと考えることが適当か。卒業生に求められる資格・能力は明確でなく、何に対して満たす品質なのか。
      • いずれにせよ傾向はTeachingからLearningへ。何を教えるかより、何を身につけて出ていくか。学修プロセスと、学修成果の管理が必要。
      • 学びの体系図
        • 「授業各回での学び→科目全体での学び」+「授業外での学び」=「半期全体での学び」。×8で「4年間全体での学び」になる。
        • eポートフォリオでカバーするのはこれら全体。学生調査でカバーするのは授業科目全体での学びから、4年間全体での学び。
    • 学生調査について
      • 大阪府立大学は、2012年に学部編成が変わった。学生調査はIRの一環として行っている。
      • 2007年、JCSS*2に初めて参加。
      • 2009年、「相互評価に基づく学士課程教育質保証システムの創出-国公私立4大学IRネットワーク」が文部科学省の戦略的大学連携支援事業に採択される。一年生調査を実施。
      • 2011年、IRシステムの運用を開始。他大学や同種グループと比較することで自学の強みが分かる。
      • 2012年、大学IRコンソーシアム*3設立。「教学評価体制(IRネットワーク)による学士課程教育の質保証」が文部科学省の大学間連携協働教育推進事業に採択される。
      • この間、大阪府立大学としては学域・学類制への変更*4をまたいでいる。
      • 学生調査の内容
        • IRコンソーシアムで一年生調査と上級生調査を実施。プラスアルファで卒業予定者アンケートというものを1〜4年生に行う。
      • 質問項目。学籍番号が入っているので、1-4年生の間に、その人がどう変化したか、学修経験との結びつきを把握できる。
      • 新カリキュラム導入の効果検証。2009-2012年の1年生の傾向はほぼ同じ。身につけた能力としては、プレゼン能力は向上している。他はあまり変わっていない*5
      • 成績(GPA*6)を用いた分析では、成績上位・中位・下位の3つの階層に分けて分析。上位と下位を分ける要素は、課題を期限内に完成できたかどうか、授業への出席状況。
      • 学習内容とGPA階層はあまり結びつかないことが分かった。
      • 学生調査により、効果の検証ができる。
    • eポートフォリオ
      • 通常の授業アンケートには色々課題がある。
        • 満足度ばかりが中心になりがち。
        • フィードバックに難がある。教員個人が自分でデータ分析をして授業に活かすのが難しい。
        • 授業を受けた学生本人にメリットがない。
      • そこで学生自身の学びを自己評価してもらう方向へ。
        • 2009年から取り組みを開始し、2012年にeポートフォリオの運用を開始。学習・教育支援サイトとして。
        • 学生が学びを自己評価し、それを半期ごとに記録して振り返ることで、自分の学習目標を設定して授業に臨む。
        • 一方、教員の方も、学生による自己評価の記録を振り返り、それを授業計画に反映させることで授業を改善していく。
        • 自己評価は「授業ふり返り」「半期ふり返り」の2つ。
      • それまで授業支援システム・出席管理システムなどバラバラに動いていたのが、eポートフォリオをポータルとして使えるようになった。
      • 学修情報の可視化。
        • 成績分布や平均値、累積、GPAの変化などから、色々な気づきが得られるように。
        • 教員からすると、担当した授業のデータが分かる。自分の担当する授業の学修情報を比較できる。
        • 大学全体としても活用可能。個人特定可能なデータなので、任意の属性を持つ学生集団について傾向を見ることができる。
        • 実際のデータとして、半期GPAと一番相関が高いのは授業への出席率だった。時間外学習と理解度にはあまり相関がない。

 という訳で、2本めの発表に関するメモは以上。
 なお、大阪府立大学高等教育開発センターニュース『フォーラム』*7では、22号以降継続して調査データの分析結果を取り上げているようだ。ありがたいことにPDFで見られる。発表と関係の深そうな記事を参考にメモ。

*1:大学設置基準 (昭和三十一年十月二十二日文部省令第二十八号)

*2:日本版上級生調査(Japanese College Student Survey)

*3:大学IRコンソーシアム

*4:大阪府立大学 学域制の紹介

*5:大阪府立大学高等教育開発センターニュース『フォーラム』22号で詳細が見られる。本記事の末尾参照。

*6:Grade Point Average

*7:大阪府立大学高等教育開発センターニュース『フォーラム』