日本図書館研究会第57回(2015年度)研究大会に行ってきた。〜その2

前回の続き。ここからがグループ研究発表。例によって、印象に残った数点だけメモ。誤記、誤解ご容赦。

  • 「学校司書養成カリキュラムについての各科目の内容の検討」図書館学教育研究グループ
    • 学校司書の養成カリキュラム案。2015年の大会では現行の司書課程等の科目に「独自科目」を加え、38単位の科目を示した。
    • 今回はさらに絞り込むこと、また科目名だけでなく内容を示すことが目的。
    • 生涯学習概論、図書館情報資源概論、学習指導などの科目を削除。またカウンターワークに当たる部分を減らした*1
    • テスト問題を作成することで、科目で求められるレベル・範囲を明確化。カードで1000くらい作成した。
    • 質疑
      • フロア:自分は某市の司書。学校司書は3月の議会の後に募集があって人を集め、1-2日で教えて送り出さねばならない現状。待遇も良くない。即戦力が求められる状況と、このカリキュラムは合っているのか。
      • 発表者:ここで提示したのは養成課程の案。現場の学校司書についての研修は、別に考える必要。
  • 学校図書館職員の職務内容及び養成・研修の内容について」学校図書館研究グループ
    • こちらは養成ではなく、現場の業務からどういう内容が必要か考えた。
    • 2014年に実施したワークショップで出てきた学校図書館の職務について、文部科学省学校図書館担当職員の役割及びその資質の向上に関する調査研究協力者会議*2」で示された「学校図書館担当職員が担うことが求められる職務の標準」に照らして分類。
    • その結果「職務の標準」に当てはまらない職務がいくつかあった。コミュニケーション、プライバシー保護など。
    • 学校図書館は一人職場の場合も多い。現職者研修の必要性もある。仕事として研修を受けられない待遇は問題。
    • 質疑
      • フロア:初等教育中等教育を分けることで、科目を軽減できる可能性は。
      • 発表者:小・中一括採用で、異動もあるので分けられない。初等の方が手がかかる部分もある。
      • フロア:研修と養成のどちらを中心に考えているか。
      • 発表者:もともとは研修をメインにしていたが、この仕事をするにはどんな知識が必要かと考えると養成の方にも関わる。
    • xiao-2感想:ひとつ前の発表ともども、養成課程と、現職者のリカレント研修の関係について考えさせられた。一人職場の多い学校図書館だと、確かに現職者が出かけて研修を受けることは難しいだろう。eラーニング等が充実すれば良いかもしれないが、そうなるとますます「業務として」研修を受けることを認められる可能性は低くなるだろう。最適解はどこに。
  • 「YAサービスの現状 −全国調査報告(2)−」(児童・YA図書館サービス研究グループ)
    • YAサービスの実態について、2014年に基本調査を実施した。この結果のうち、市区町村立図書館のデータを、文部科学省のデータとクロス集計。
    • もともと1993年に行われたパイロット調査があり、それとの比較を行った。ただし1993年は悉皆調査、2014年は中央館のみ。
    • 「YAサービスを実施している」という回答の割合は増えた。
    • 図書館体験、インターン、POP作成、ビブリオバトル等の活動。
    • 県立図書館ではYAサービスをやっているか、また県内市区町村図書館を支援しているか。これは色々なパターンがあり、県立図書館であまり把握していないケースも。
    • 委託・直営での差を見ると、委託されている館の方がYAサービスを行っている。ただし回答内容を見ると、「YA向けと思われる資料を配架しているだけ」というものが多く、直営館の方がサービス内容は多様。
    • 質疑
      • フロア:1993年のアンケートでは、YAサービスをやらない理由に「モデルがない」というものが多かった。2014年では解決されたか。
      • 発表者:回答からは、モデルがあるようには思えなかった。まだ模索中か。
      • フロア:委託館では「配架しているだけ」というのはバイアスのかかった見方では。根拠は。
      • 発表者:「〜しているだけ」は、回答の言葉をそのまま使ったもの。回答した館自身に、そのような認識があるようだ。
    • xiao-2感想:委託だと、仕様書に「YAサービスとして○○をやること」と書いてあって、そのとおりにやらねばならないといったケースがあるかもしれない。
  • 「転換期における『ひかり号』の検証:病院ボックスを中心に」(オーラルヒストリー研究グループ)
    • 2011年、千葉県立中央図書館でひかり号の関係資料が大量に発見された。これを整理し、あわせて図書館員へのインタビューを行った。
    • 1940-1950年代を中心に研究してきたが、『ひかり20年史』によれば1950-1960年代にひかり号の転換期があったという。1959年の廿日出館長退職などにより、理念・役割の変化。この時期を取り上げる。
    • 移動図書館への批判。1950年代には資源・計画性、60年代には団体への貸出等が批判の対象となった。
    • 50-60年代の見直し策。背景にはステーション数の減少など。
      • 見直し策1:町村運営委員会の再編成。
      • 見直し策2:職場ステーションの設置。労組、青年層対象。労使双方の教養向上。
      • 見直し策3:ステーション再編、合理化。
    • 病院における患者へのサービス。
      • 2つの時期。50-80年代までは、一般書を届けていた。90年代以降、医療健康情報に関する本を届けることが注目された。背景にはインフォームドコンセント、医療法改正。
    • 職場ステーションとしての病院という面もあり。
    • 質疑
      • フロア:労組からの要請でステーションを設置する場合があったとのことだが、病院の方は経営者からの要請か。受け手側の立ち位置の変化。
      • 発表者:ステーションマスターには労組側の幹部などもいたが、経営者側の人がなるケースもあった。実際の運用は色々。病院での運用はよくわからない。
    • xiao-2感想:図書館とエンドユーザの間に、第三者(労組、病院、ステーションマスター等)が介入するという関係は興味深い。決して一対一ではなかったのだなぁ。

 グループ研究発表の1〜4は以上。実際にはどの発表も細かい数字や考察をしながら進めていたのだが、自分の雑なメモではとうてい追いつけないのが悲しい。何度も言うけど、きちんと知りたい人は後日出る報告論文集*3を読もう。

*1:2016/2/23 コメント欄にご指摘あり。

*2:学校図書館担当職員の役割及びその資質の向上に関する調査研究協力者会議

*3:2016/2/24修正。本記事コメント欄へのご指摘による。