滋賀県立図書館へ行ってきた。
機会があって、滋賀県立図書館*1へ行ってきた。以下は2015年5月、いち利用者としての訪問レポート。記憶違いがあればご容赦*2。
- 図書館までの道のり
JR瀬田駅*3からバスで向かう。バスだと10分ほどとのこと。交通量の多い太い道路だ。一方歩道の方はずいぶん細く、途中には勾配のきついところもある。徒歩ではやや面倒だろう。車が主な交通手段となっている土地柄らしい。
名神高速道路を越えて「文化ゾーン前」で下車。横断歩道を渡り、びわこ文化公園の広場を抜けて図書館へ向かう。公園内にもやや勾配がある。天気のいい日で、公園の緑が目に気持ちいい。
- 入口
- 見た目
図書館の外壁はベージュとも灰色ともつかない色をした、石風のタイルで覆われている。ガラスの二重扉を通って館内に入るとロビーがある。左手に貸出カウンター、正面に雑誌コーナー、右手にコインロッカースペース。
内壁も外壁と似たような雰囲気の、落ち着いた色の石づくり。ところどころにある円柱も石づくり、これは大理石パネルだろうか。床は御影石。什器はほとんどが木製。石と木がメイン素材という印象を受ける空間だ。木の色が明るめに統一されているので重厚になり過ぎない。定礎によれば1980年にできた建物らしい。ガラスとスチールが中心になった最近流行りのデザインとは、ずいぶん雰囲気が違ってくるものだ。
ロビーの天井は吹き抜け。屋外からは2階建に見えたが、中に入ると3階建で、吹き抜け部分は3階分をぶちぬいてある。このため天井が非常に高く、よく見るとそれほど窓が大きいわけではないにも関わらず開放感がある。壁の高いところには石の壁画がある。
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- 入口の案内
入口付近にはチラシ類を置く棚と、カフェにあるような床置きの小さい黒板がある。黒板にはチョークで、蔵書を紹介した小ネタが書かれている。自分が行った日はちょうど5月5日だったので、こどもの日がテーマだった。ということは、まさか毎日更新しているのだろうか。だとしたらなかなか凄いことだ*4。
入口には図書館案内図があり、配置図と簡単な利用方法が載っている。ユニークなのは、この図書館案内図は日本語以外に3ヶ国語で書かれていて、しかもそれが英語・中国語に加えて比較的珍しい言語であったこと。「図書館案内図」が「Mapa interno」となっていた。後で調べたら、図書館のホームページには英語・中国語・韓国語・スペイン語・ポルトガル語の案内がある*5。したがって上記の第三言語は、スペインかポルトガルのどちらかと思われる。語学力のないxiao-2には結局どちらか分からないのだが、以下、ひとまずポルトガル語と思っておく。
話を戻すと、この3ヶ国語対応は入口だけでなく館内の至るところで見られた。日本語しか表示のないところはあるが、英語の案内があるところには中国語・ポルトガル語の案内も必ず出ている。日々のメンテナンスの手間を考えると、語学ができるスタッフがいるのだろうか。
貸出カウンターは遠くから眺めたのみ。特徴的なのは、スタッフも立ったまま接客していること。これは館の方針なのだろう、2階でも同様だった。立っていることと関係があるのかどうか分からないが、目の配り方がずいぶん行き届いている感じだった。お陰で、あちこちじろじろ眺めてうろついている自分のような不審者はうっかり近寄れない(笑)が、困っている利用者を見逃すことはなさそうだ。
- 1F雑誌コーナー
一人がけのソファが13、2-3人がけのベンチが1。すべて壁際に置かれている。隣にはガラス張りの談話室。壁に張られた掲示物の中に「図書館の自由に関する宣言」*6のポスターがある。
- 児童室
貸出カウンターの脇を通ると、児童室へ行ける。
児童室本体の入口より手前に2つの小部屋があった。ひとつは授乳室、もうひとつは児童用開架書庫。授乳室は誰も使っていなかったので扉があいていた。使っている時はドアノブに「使用中」の札をかける仕組みらしい。そう言えば、館内に児童用トイレはあったのだろうか。トイレそのものは1階と2階にあったが、自分が見た2階のトイレにおむつ替え場所は見当たらなかった。1階にはあったのかもしれない。
児童室の書架はだいたい1メートルくらいの高さで、大人が立って歩けば顔が出る程度。床には赤いカーペットが敷かれていて、重厚な建物の中にも楽しげな雰囲気を作ろうとしているようだ。
通路がとても広いことに驚いた。1.5メートルくらいある。後で見た一般資料室はそこまで広くなかったから、何らかの設計思想によるものだろう。想像するに、両側の書架で親子連れが本を見ていても、通行できるようにという配慮だろうか。
座席は楕円の大きなテーブルを囲む20席、知識の本コーナーにベンチ型の座席が8席。書架の端に一人がけの椅子が少々。子ども用の高さに合わせたOPACが2台あったが、いずれも椅子はない。
堂々とした階段を上がって2階の廊下へ出る。正面に雑誌コーナー、両側が一般資料室と参考資料室になっている。
- 2F雑誌コーナー
雑誌コーナーは1階にもあったが、特に利用の多いタイトルを1階に、それ以外のタイトルを2階に置くという住み分けになっているらしい。バックナンバーは書庫にあるとのこと。
壁際に一人掛け席が13、2-3人掛け席が1、低いテーブル。後で調べると*7、もともとは椅子のないコーナーで、利用者からの要望で最近置かれたものらしい。そのためか空間の中で座席の存在になんとなく違和感がある。そのほか、OPAC端末が2台あり、端末の前には背もたれなしのカフェ風の椅子がある。
- 一般資料室
入口付近に、面白い工夫を二つ見つけた。
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- 新着図書リスト
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新着資料のリストをプリントアウトして簡易に綴じたもので、一般資料室に入ってすぐのところに面陳されている。中身はタイトルや出版者など書誌事項のみで、いちいち解題などはついていない。表紙には、リストに載っている現物の図書を並べて、背表紙を撮った画像が載っている。表紙画像は著作権の関係で使いづらいゆえの工夫かも知れないが、結果として現物の図書が書架に並んでいるのと同じ画像を見ることができるのでイメージしやすい。リストの表紙に「5月第1週」とあり、どうやら毎週分作っているようだ。OPACでなく紙で見たいという要望があるのだろう。
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- 館内用のカゴ
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入口付近に用意されているカゴ。カゴ自体は珍しくないが、スーパーのカゴのような素材と違い、ゴムのような柔らかい素材でできていて、マチがあるのに取っ手を寄せて片手で握れる。本のように潰れる心配がなくて重いものの場合、これは使いやすそうだ。他に、小型のカートなどもある。
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- 室内の様子
書架は6段、高さは2メートルくらい。天井が斜めになっていて、一番上では2階分ぶちぬきの高さがある。座席はカウンター前の背なしソファと、壁際に一人掛け椅子と板ベンチ。座席数は、部屋中合計して30くらいか。
図書のNDCは4ケタ表示。NDCの前にアルファベットがついている。この部屋にある本はGで、これは一般書。サイズの大きい本はBがつくらしい。裏表紙に紙が貼ってあり、そこにスタンプで貸出期限らしいものが押されている。紙がいっぱいになったら上に大きな付箋を張って、さらにスタンプ。中には5枚くらい張り重ねられているものもあった。さすがに超人気本になると適当に剥がすようだが。
入ってすぐのところに、料理・手芸など家事関連の本や、旅行本などをまとめたコーナーがある。市立図書館などではこうしたコーナーを児童書の近くに配置して、子ども連れの親へのアプローチを意識するつくりを時々見るが、ここでは児童室は子ども向けの本、それ以外は一般資料室とはっきり分かれているようだ。そういえばいわゆるYAコーナーがあったかどうか確認し忘れた。
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- 書架
開架を眺めた印象としては、整理がものすごく行き届いている。背表紙が見事に揃っているし、詰め込み過ぎたり横置きになっている本が一冊も見当たらない。蔵書が少ない図書館ではないはずだから、書架の新しさを維持しつつ溢れさせないためには、相当まめに開架の本を書庫に回しているに違いない。
整理の仕方もお作法が決まっているらしい。多くの棚は資料がちょうど自立できる程度の満杯になるよう整えられているが、スペースに余裕がある場合は、その棚の本を全体的に左側に詰めて、一番右の2-3冊を斜めに立てかけておく。あちこちに隙間があるよりもぴしっとして見える。
カウンターは最大で5つくらい窓口があるようだ。1階のところでも述べたが、スタッフも立って接客しており、カウンター内に椅子はまったくないらしい。カウンター奥に修理本コーナーが見えたが、利用者が途切れた合間にやる修理などの作業も立って行うのだろうか。
- 参考図書室
廊下を渡って参考図書室へ。
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- 室内の様子
入って右は参考図書、左は地域資料。ここにはインターネットが見られる端末が3つ、OPAC用端末が7つ。すべてタッチパネルではなくキーボードだが、OPAC用端末の1台は大型キーボードがついている。タイピングの苦手な人でも、これならタッチパネル的な感覚で使えそうだ。また、この部屋のカウンターだけは他の部屋と違い、スタッフも利用者も座れる。相談がメインだからだろう。
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- 参考図書コーナー、外国図書コーナー
まずは参考図書の方をうろつく。4人掛けの机が6卓くらい、24席。いわゆる辞書・辞典類など調べるための本に加え、外国図書が書架3連分ある。英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語など。英語以外の言語については、ラベルの色で言語が示される。この書架のところには英語で資料紹介した掲示物がある。外国語の蔵書があっても、資料紹介まで英語でやっているのは珍しい。
掲示物と言えば、この部屋に限らないが、カウンター付近や書架の間に資料汚破損防止を呼び掛けるA4の掲示が出ていた。犬にかじられた本や切り取りにあった本の写真とともに「あなたはこのような本を読みたいですか?」という言葉が印刷されている。この一文いいなぁ、と思った。破損本展示によく添えられる「本が泣いています」といったキャッチフレーズは愛書家には共感できるけれども、そこまで本に思い入れのない普通の人にとっては「可哀想」よりは「こんな本読むのは嫌だな」という気持ちの方がしっくりくるだろう。
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- 地域資料コーナー
部屋の左側の地域資料コーナーには4人掛けの机が2卓と、一人掛けの机つき席が4席。地域資料には「滋賀県関係資料」、琵琶湖の縁からであろう「水資料」がある。滋賀県資料は本のラベルにSとあり、水資料はY*8。分量もかなりある。自治体の刊行物は「地方行政資料」としてまとめられている。郷土資料の分類というのは図書館ごとに工夫を凝らしているものだが、この館では滋賀県の刊行物を課ごとのコード順に並べているのが面白い。
水資料の方は、滋賀県に限らず水に関する資料という基準で集めているらしい。琵琶湖の縁だろうが、川や湖だけでなくトイレに関する本まで置いてある。ところで「水」本といえば…とイタズラ心が湧いて、このタイトルでOPAC検索してみた。
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- 全体の感想
行ってみて受けた印象を大きく二つ。
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- ものすごく丁寧な運営。
開架の整理の行き届きぶりはただ者ではない。それだけ整理するくらいだから書架の間でしょっちゅうスタッフに出くわすのだが、カウンター内も含めてスタッフにいい感じの緊張感が漂っている。といっても敷居が高いのではなく、「スタッフはいま『営業中』である」という印象を与える緊張感なので、ユーザとしては声をかけやすい。個人的には和やかなのも好きだが、プロフェッショナルらしいこういう空気もいい。端々のちょっとした工夫も、細やかに気をつけていなければ思いつかないようなものばかり。
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- 非滞在型の図書館設計。
規模の割に座席が少なく、特に机つきの座席は参考資料コーナー以外にはほとんどない。自習はおそらくできないし、長時間かけて館内で何冊も読み比べるようなことは難しいかもしれない。しかし居心地が悪いわけではなく、「読みたい本をストレスなく見つけて素早く借りて帰れる」という機能に最適化して設計されているという印象を受ける。
余談。今回、利用者アンケート結果*9が公表されていることに後から気付いた。足を運んでみると、アンケートの結果が腑に落ちる点が色々ある。たとえばアンケートによれば7割の利用者が滞在時間1時間以内とあるが、実際に行ってみるとそれは空間設計と深く関わるものだと分かる。また自家用車での来館者が8割という結果についても、実際バスで行ってみると納得する。その図書館がどんなところかを見ずに数字だけ見てはいけないのだなぁ、と気付かされた。
*2:特に座席数などは数え落としている可能性もあるが、現地での自分の感覚で書いている。
*4:図書館の黒板と言えばここが有名(xiao-2の中で)。[ http://yoshidasouthlib.hatenablog.jp/entry/2014/07/25/173301:title=今日も逍遥館〜京都大学吉田南総合図書館のブログ|20140725 日本一楽しい図書館の黒板の描き方【イラスト編】]
*5:ちなみに、このへんを調べるのに便利なものがあった。リブヨ・ブログ|図書館の外国語利用案内リンク集 (2013.6.8公開、2014.11.29最終更新
*8:ところでYというのは何の略だろう?