阪南市立図書館へ行ってきた。

機会があって、大阪の阪南市立図書館*1へ行ってきた。2018年3月某日、いち利用者としてのレポート。

  • アクセス、周辺環境

南海電鉄尾崎駅から歩いて5分ほど。道路は2車線、歩道との間には路側帯のみ。両側に飲食店や家具屋などが建ち並ぶ。ただし空きテナントやもう営業していないらしい店もあり、やや寂しい印象を受ける。
市役所の脇の道を少し入る。途中から石畳風になっていて、奥には集合住宅のようなコンクリの建物も見える。阪南市立文化センター「サラダホール」の中に図書館がある。

  • 入口

グレーの建物。正面入口は自動ドア、桜の季節らしく花びら型に切った色紙が飾られている。入ると、2階分を吹き抜けにしたロビーがある。入ってすぐ右はホールの事務所、右側は催し物等をやる大ホールへ続くようだ。
左側奥に、図書館への入口がある。ここも自動ドア。ドアの脇に、利用案内パンフレットや市の催しのチラシ類が置かれている。ここで目を引いたのは、図書館の利用案内パンフレットに、日本語だけでなく英語・中国語・韓国語のもの*2もある点。それほど大きな図書館ではないのに、これだけ対応されているというのは熱心なことだ。掲示によると、これらのパンフレットは阪南市国際交流サークルの協力で作成しているらしい。どういう団体だろうとググってみると、関西国際センター研修生支援協議会という団体のサイト*3がヒット。そういえばここは国際交流基金関西国際センター*4とも近い。そういうご縁か、と納得。
なお、パンフレットスタンドの陰の壁にはめ込まれた「定員表」という表示板も発見。建物を建てた時のものだろうが、それによれば定員280名とある。建築者側の想定する定員というものをあまり意識したことがないので、ちょっと面白かった。

  • リサイクルブック「つながり」

図書館はいったん後回しにしてロビーに戻り、建物出入口すぐ左側の部屋へ向かう。阪南市立図書館では、図書館と市民の協働事業としてここで週1回リサイクル本販売を行っている。今回この図書館を訪れた目的のひとつ。
部屋はさほど広くないが、天井が高いので案外閉塞感がない。赤みがかった柔らかい光の照明が、天井から下がっている。BGMが流れている。床は茶色のフローリング、二辺の壁に作りつけの白いスチール書架が3つ。木製のすじかいで補強されている。部屋の中央にブックトラックが3台、三角形になるよう置かれている。その他、壁際に配置された折り畳み長机にも本が並ぶ。別の長机がレジらしい。座席は見当たらず、中で読むというより、選んで持ち帰ることに特化した感じだ。
書架とブックトラックに本が置かれている。マンガ単行本や雑誌がブックトラック、それ以外が壁際。壁際の本は読み物とそれ以外に分けられている。NDCではなく、ゆるく分類されている。分類を記した厚紙の見出しが所々差し込まれているが「小説」「スポーツ」「ビジネス」等に交じって、冊数が少ないのに「人権・反戦」「宗教」などの見出しがあるのも面白い。
書架には本だけでなく、おもちゃや手作りらしいポップアップカードも飾られている。また上から桜の花を模したのれん風の飾りが下がっていたり、長机の上の本はバスケットやブリキ缶に入れるなどファンシーな感じ。本は基本的に除籍本なので、ブッカー*5が掛けられ、天に「リサイクル本」の印が押されている。中にはブッカー無しで帯つきのもあった。後で調べたら除籍本以外に寄贈本も扱っているそうだ。価格は30円、50円、100円。100円のものはごくわずか。
スタッフが3名。エプロンに名札をつけた女性2名と、男性1名。本の整理や値付け、お金のやりとりなどをするらしい。訪れた子どもとのんびりおしゃべりしている。近所のおばちゃんとしゃべっているみたいな雰囲気で、和やかだ。お店とは違う、この距離感は市民活動ならではだな、と思う。図書館の場合、働く人とユーザの距離が近いのは良いことばかりでもなく、たとえばデリケートなテーマの本を探す時この距離感だと使いづらい。だから図書館はあくまで従来の距離感で存在して、別途こういう付帯設備が存在するのがちょうどよい。
それにしてもこの空間は何だろう。内装こそ手作りらしいが、入口のすぐ横という良い場所で、フローリングや天井の高さ、音響施設など妙に快適な空間だ。後で建物案内図を見て謎が解けた。ここは元レストランで、その跡地でやっているらしい。

  • 図書館入口と閲覧室全体

「つながり」を出て、図書館へ向かう。入口は自動ドア。入ると左手に展示ケースがあり、図書が展示されている。ガラスの天板に、下は面陳できる斜めの台。単なる展示コーナーにしては立派なケースだが、何かの転用だろうか。横に小さな手洗い場がある。
図書館はワンフロアで、横長の空間。天井の高さが入口付近と奥の方で異なっている。入口付近は普通の高さ。奥に行くと2階分の高さで、天井と壁の間がカマボコ状に丸くしてある。広く見える工夫だろうか。書架は明るい色の木製。
入って右手に貸出返却カウンターがある。カウンターは部屋の内側を向いている。カウンターに向かって立ち、閲覧室の中から見ると、右側が児童コーナー、左側が一般書コーナーで、カウンターの右脇から人が入ってくる感じ。

  • カウンター

カウンターの右脇に、青いコンテナが2つ置かれている。ひとつは寄贈本受け付け用と書かれている。図書館での寄贈本というのは微妙な扱いで、有難いものもあるけれど、欲しくないものを持ち込まれるケースもあるので悩ましいと聞く。こうして寄贈本を置ける場所が常設されているのは珍しい。これも「つながり」があり、つまり図書館として所蔵できない本の行き場が確保されているからできることだろう。
さらに興味深いのが2つめのコンテナ。「再リサイクル本」とある。説明を読むと、買ったリサイクル本が要らなくなった場合、ここに寄贈して再度リサイクルに回せるということらしい。これは良い。「つながり」を覗いた時にも思ったのだが、ブッカーが掛かって天地印が押された本というのは、読んだ後の処分に結構困る。ずっと手元に置くほどでもない場合、人にもあげにくいし、古本屋さんも喜ばないだろう。再度リサイクルに回せるというのは良い。
カウンターのすぐ近くにCDの棚がある。また蔵書検索用の端末が3台。蔵書検索は立って使うようになっているらしい。全般的に座席は少ない。

  • 雑誌コーナー

カウンターの反対側、奥へ行くと雑誌コーナー。雑誌の展示架が数台、その横に低めのソファがコーナー状に設置されている。CDを視聴できる一人掛けのソファも2台。コーナーの中央には机があり、「いきいきライフコーナー」という資料展示がある。新聞や雑誌を読みに来る年配者向けに、そういう層向けの実用書等を集めてあるらしい。周辺に生け花が飾られているのも目を引く。これは後でまた触れる。
雑誌書架はビニールカバーを掛けた最新号が面陳され、いくつかの雑誌のカバーに事業所名や人名のテプラが張られている。いわゆる雑誌スポンサー制度*6を導入している*7のだ。この制度自体はあまり珍しくなくなってきたが、面白い発見が2点。
1つめは、まだスポンサーのついていない雑誌のカバーに「この雑誌は2018年3月末で購読停止予定です。雑誌スポンサー募集中」といった表示を出し、積極的に呼びかけていることだ。すでに購読停止になったタイトルについても、本来なら最新号が面陳されている位置に、同様のスポンサー募集の呼びかけが掲示されている。実際に歯抜けになった雑誌架を見ると訴えかけるものがある。
2つめは、「図書館利用者様」とだけ表示された雑誌がかなり多いこと。さきの図書館ホームページにあったリストで数えてみたら、25タイトル中14タイトルまでがこれだった*8。通常雑誌スポンサー制度というのは、資料の購入代金を負担してもらう代わりに、広告表示等、スポンサーの知名度を上げるのに貢献する仕組み。「図書館利用者様」ではスポンサーにとってメリットがない訳だが、スポンサーというより純粋に寄付制度として機能している様子が見てとれる。

  • 児童コーナー

カウンターに向かって右側は児童コーナー。書架は高さ140センチくらいの3段(文庫本は5段)。絵本の棚は高さ60センチくらいで2段。書架の上に「カーリルタッチ」のPOPが出ていた。カーリルタッチの説明は以下。阪南市立図書館のタグ*9というのもあるようだ。

カーリルタッチは、図書館の本棚から、様々なインターネットの情報に簡単につながる仕組みをつくるプロジェクトです。
自分のスマートフォンを棚のマークにタッチするだけで、テーマにあわせた様々な情報にナビゲート。本棚を眺めたあと、貸出中の本もすべてチェック。読みたい本を予約できます*10

その側に「としょかんにいこう! その1」というタイトルの本が展示してある。表紙はいかにも子どもの描いた絵とタイトル、製本はホチキスという簡易なもの。添えられた解題によれば、図書館利用者「ゆーちゃん」(おそらくお子さん)の作品だそう。これも貸出可能だそうで、OPACを見たら登録されていた*11。その1ということはシリーズ化の予定があるのか。頑張れゆーちゃん。
壁際の一角に面して「おはなしのへや」がある。絵本の棚とガラスの壁で区切られ、靴を脱いで上がるようになっている。絵本の棚は高さ60センチくらいの2段。所狭しと面陳しているが、きれいに整頓されているのであまりうるさくない。童謡の歌詞を書いた大きなパネルが壁に張られている。
読み物の書架も工夫されている。基本的にはきっちり詰まっているのだが、ところどころあえて1段抜けを作って、面陳してある。また書架の上にはポップアップカードが飾られている。「つながり」にあったものと同じだろう。手作りといえば「ページをめくるときつばをつけないで」という注意書きの円柱が書架の上に立ててあった。材料はラップの芯のよう。

  • 図書館フレンズ

壁に「図書館フレンズ」の活動を紹介した手作りポスターが張られている。「図書館フレンズ」というのは阪南市立図書館のボランティア*12。児童コーナーにあったパネルやポップアップカード等も、ボランティアの仕事かもしれない。
また、この図書館全体の特徴として、至るところに植物が飾られている。雑誌コーナーには、桜に似た花を枝ごと活けた花瓶や、鉢植えの観葉植物。一般書コーナーの書架の上にも、多面体のかたちをしたガラスの鉢から寝ているポトス。窓際にはもう少し背の高いドラセナの鉢。これらの飾りつけや手入れも、ボランティアの活動内容として挙げられている。

  • 一般書コーナーその他

カウンターを正面に見て左側に、一般書が置かれている。壁際に小説の棚、8段で3メートルくらい。その他の本は床置きの書架で、高さ150センチ程度4段のものと、高さ180センチ程度6段のものがある。
うろうろしているうち、いくつか張り紙を発見。一つは、タブレットの貸出*13をやっているというもの。もう一つは「長期延滞すると貸出停止になります」というお知らせ。電話やハガキが来ても返さない長期延滞者には、返してからも3ヶ月間貸出不可期間が設けられる上、予約やリクエストも取り消しになるらしい*14。延滞本を返さないうちは新たに貸さないとする図書館は多いが、返してもしばらく貸さないというのは、はっきりペナルティとしての位置づけ。苦労されているのだろうか。
別の場所にはヤングアダルトコーナー。壁際の作り付けの棚と、ブックトラック2台分。ライトノベルが中心。ほとんど文庫なので小さく、3メートルくらいのところに11段入っている。読み疲れやすい本にしてはきれいな状態が揃っている。まめに入れ替えをしているのだろうか。また棚が抜かれてガサガサになっていなくて、整然としているのも印象に残った。

  • 全体の感想

手入れの行き届いた、愛されている図書館という印象。特に印象的だったのは、繰り返しになるが館内あちこちに置かれた植物。緑があると見栄えが良いのはもちろんだが、置いてあること自体より、これらがきちんときれいな状態にメンテナンスされていることが凄い。
生け花は水替えが必要。鉢植えには水やりしなくてはいけないし、埃も積もる。それはポップアップカードでも同じことで、紙細工はすぐ傷むからまめに取り換えないといけない。そもそも鉢植えであれ飾りであれ、書架の上に何か置くということは、そこの埃を払う時にひと手間かかるということでもある。モノだけ真似しても、手入れが悪ければかえってみすぼらしくなるだろう。
そういえば、花を活けるのは図書館の防犯上良いと聞いたことがある。スピリチュアルな話に聞こえるがそうではない。その場所に人目をひきつけ、手を入れるようになるので、悪いことをしにくくなるという実際的な効果だ。
おそらく図書館職員だけでなく、ボランティアの手がかなり加わっているのだろう。というより、こういう部分に手をかけるのは、むしろボランティアの方がいいのかもしれない。単に無償の労働力としてでなく、自ら手入れすることによって愛が深まる。雑誌スポンサーで匿名の利用者の寄付が寄せられていることとも、いくらか関係があるように思う。

*1:阪南市立図書館

*2:図書館ホームページにPDFで掲載されている。

*3:関西国際センター研修生支援協議会

*4:国際交流基金関西国際センター

*5:参考:日本ブッカーホームページ|ブッカーの張り方

*6:図書館で、雑誌の購読料を企業や団体に負担してもらう代わりに、雑誌のカバーに印刷等を表示するもの。

*7:阪南市ホームページ|阪南市立図書館 雑誌スポンサーを募集します

*8:2018年4月6日確認

*9:阪南市立図書館のタグ一覧

*10:以上、カーリルタッチのページの説明文より引用

*11:請求記号:/K015/ /、資料コード004218120

*12:阪南市立図書館ホームページ|図書館ボランティア

*13:2016年9月のシステム更新時に導入されたらしい。

*14:詳細をリンクしたいところだが、図書館のホームページでは探せなかった。