武雄市図書館・歴史資料館へ行ってきた。

 機会があって、佐賀県武雄市図書館・歴史資料館へ行ってきた。新図書館構想がネットで色々と議論の的になっているところだが、現在のものは見てみないことにはなんとも言えない。以下はいち旅行者としての現地レポート。個人の感想なので、不正確な点があったらご容赦。

  • 周辺環境

 最寄りのJR武雄温泉駅から歩く。駅からの道路は4車線でかなり広く感じるが、交通量は多くない。歩行者はほとんど見なかった。道路沿いに郊外型の大型店舗がぽつぽつとあり、大通りから少し入ったところにマンションなども見える。車移動が中心なのだろう、どの建物も大きな駐車場を擁しているから「ぽつぽつ」に見える。
 図書館のあるエポカル武雄の建物は不思議な形状をしている。館内にあった平面図を見ると、おおむね扇面型の左側に円をくっつけたような形になる。扇面の短い方の弧が正面。道路に面した側面には煉瓦づくりの円筒状の部分があり、ここは歴史資料館。図書館部分はガラス張りのモダンな雰囲気である。
 駐車場は大きい。建物の後ろにはとんがった山が見える。向かいに郊外型の大きなショッピングセンターがある。

  • 内装

 建物の中に入ると、左側が歴史資料館、右側が図書館エリアになっている。図書館エリアの入り口近辺には円形のPCコーナーがある。インターネットが使えるらしい。構造が複雑で一見わかりにくいが、よく見ると図書館に入るにはPCコーナーの横のBDSを通過する動線になっている。PCコーナー利用だけならBDSを通らなくても入れるという訳だ。
 PCコーナーの前には箱がいくつかおいてあり、要らなくなった雑誌のバックナンバーを自由配布していた。

 図書館エリアに入る。建物はできてから10年目と聞いたが、真新しくて綺麗である。古い図書館によくある本や人の匂い(自分は嫌いではないが)もあまりない。
 外に面した壁はほとんどがガラス。ブラインドはあるが、陽射しが入ってきて明るい。その分、照明は天然素材のランプシェードで柔らかな光にされている。内部の壁はコンクリートの打ちっ放し。天井を支える梁と柱、書架や什器の類は木製。モダンな感じだ。
 扇面型の閲覧室全体に、書架が整然と並ぶ。書架の高さは150センチくらいと170センチくらいの2種類、隙間なく本が入っている。閲覧室の中心にビデオブース(4個)の区切りが設けられたり、出っ張ったり引っ込んだりした部分があるので、空間が細かく区切られ、全体の見通しはあまり利かない。しかし圧迫感はなく、明るく開放的な印象。高い天井と、自然光を取り入れるガラス張りのお陰だろう。さらに、書架の間の通路がかなり広い。正面から車椅子の人が来ても余裕を持ってすれ違えるだろう。
 1階には持ち込みPCを使える席が10個。閲覧席は書架の間の机や壁際のソファなど、多少散在する形で20〜30くらい。目を引いたのは、壁際にあった畳の閲覧席。玄関先のように靴を脱いで上がるようになっている。
 2階にテラス席があった。劇場の2階席のような具合で、1階閲覧室を見下ろす形になっている。ここには書架はなく、席のみ。自習したい中高生などはここを使うことになっているようだ。
 低い音でBGMが流れている。ピアノか何かのインストゥルメンタル。図書館にしては珍しいと思ったが、案外邪魔にならないものだ。

  • 児童コーナー

 図書館入口のすぐ右は児童コーナー。低めの書架に、子ども用の椅子や机。子どもの高さのカウンターにOPAC端末もあり、横には布の絵本などが置いてある。ボランティアグループででもこしらえたもののよう。紙芝居もある。借りると、紙芝居用舞台も一緒に貸してもらえるらしい。面白い。
 奥まったところに読み聞かせ用のスペースがある。靴を脱いで入る球状の空間で、部屋というより公園にある隠れ家的な遊具を思わせる。その横には子ども専用のトイレ。「子ども専用なので大人はご遠慮ください」とある。使われると困るというより、不審者対策だろう。

  • 書架の様子

 書架の間でしょっちゅうスタッフに出くわした。割合人数が多いのか、フロア作業がこまめにされているのか。書架は、全体に色々手をかけられている感じがした。たとえば、並んだ資料が整然としている。背表紙がぴしっと揃い、本が抜かれてガサガサになったり詰め込みすぎになっているところがない。
 他にも、資料を見せるための工夫が色々とされている。たとえば入り口付近に、選書委員の選んだ本を紹介する大きめのポスターがある。選書委員の名前と、おすすめ理由が書かれている。手書きなのが味わい深い。カウンターの前にも選書委員のおすすめコーナーとして、現物の資料が展示されている。
 また、「お仕事応援し隊」*1という仕事関係の図書コーナーがあった。起業マニュアル本や就活関連の本だけでなく、たとえば育児と仕事・介護と仕事の両立とか、パワハラ対策といったテーマの本も混ざっているのが、通り一遍でなく実践的な感じだ。
 職場の人間関係に関する図書の近辺に、さりげなく「職場の人間関係に悩んでいる方へ、自分は身体的・精神的にムリをしていると感じている方へ、○番の棚もごらんください」として、うつやメンタルヘルスに関する資料の棚への誘導がある。これは巧い見せ方だ。本当に辛い人が、自分の状態に気づくきっかけになる。
 地域資料のコーナー。書架2つ分くらいであまり大きくはないが、その背後に書庫があり、手前に「そうだん」カウンターがあるので、必要なら色々出してもらえるのだろう。貸出カウンターと完全に別なのが良い。地域資料として置いてあった中では、、チューブファイルに入った、武雄市に関する佐賀新聞のスクラップが興味深かった。この手のものはいざ開いてみると更新されていないといった残念なことがありがちだが、ここではきちんと最新までフォローされている。投書欄の武雄市民の投稿まで網羅している。
 地域資料コーナーの横に「いのちを大切にする本」というコーナーがあった。メンタルヘルス、いじめ、カウンセリング等々のテーマの本。横にはいのちの電話のパンフも配置。この種の資料は、切実に必要な場合ほど人前で手に取りづらいものだ。その点このコーナー名は、分かりやすくてかつ抵抗が少ない。他の棚に比べると利用の少ない地域資料の横に置くという配置も、良さそうだ。
 蔵書構成は、図書館自体が若いためか、くたびれた本の割合が少なく、全体に新しめの印象を受ける。かつ、調べもの用というよりは読むものが多い。個人的には、読みたいなと目を付けていた新刊がいくつか*2入っていたのでウホッとなった。これは自分の好みの話なのでさておくが、ともあれ各分野がバランスよく入っている感じだった。

  • その他

 館内に2種類の張り紙が目立った。ひとつは「子どもや荷物を図書館に置いたまま買い物などに行ってしまう人がいるが、事故や事件を防ぐためやめてください」という趣旨のもの。ショッピングセンターが真向かいなので、そういう人がいるのだろう。
 もうひとつは飲食禁止の張り紙。カフェみたいで快適な空間だし、死角が多そうなので、つい飲食してしまうのだろうか。いずれの張り紙も、自筆っぽい筆書きで迫力がある。誰が書いたのだろう。
 ちなみに館内は飲食禁止だが、「カフェコーナーでどうぞ」と案内されている。カフェコーナーはBDSを出た正面、歴史資料館の横。自動販売機と、6つくらいの机と椅子がある。珍しく感じたのは、無料の湯茶のサービス機があったこと。現在は節電と節水のため湯茶は出していないそうだが、水と紙コップは自由に使える。実際、水を飲みながら一服している人が何組かいた。

 2011年から始まったという電子図書館サービス、是非見てみたい。館内でiPadの貸出をしているそうなので、カウンターの人に頼んで体験させてもらった。iPadの待ち受け画面の武雄MY図書館のアイコンをクリックすると、本棚のような画面が立ち上がる。タイトルを選んでダウンロードすると「貸出」になり、それをタップすると画面内に見開きの画面が出てくる。
 タイトルは現在150冊だそうだ。市の広報と、あとは青空文庫青空文庫は何かリーダーを入れてあるのか、ちゃんと本のような見た目でページめくり機能がついている。村上春樹の「歌うクジラ」や「元素図鑑」などの新刊も読めるが、これは貸出用iPadのすべてではなく、特定のものにだけ入っているそうだ。ライセンスの関係だろうか。
 自宅にインターネット環境があれば自宅から読めるし、PCがなくても無線LANがあればiPadを借りて帰って読める。LANのない人は、図書館内でiPadに読みたいタイトルを「貸出」した状態で借りて帰り、自宅で読むこともできるそうだ。へーっと思ったが、落ち着いて考えると、それは通常の本の貸出と違わない気もする。本と同じく、iPadも返さなくてはならないし。場所は取らないが。

  • 休館のこと

 カウンターに、11月からの休館を知らせるチラシなどが置いてあった。休館中は文化会館に臨時図書館を開設して、一部の図書を貸し出すそうだ。それでも「図書館講座」などのイベントはやるらしい。
 もう一枚チラシがある。お隣の伊万里市の図書館のもので、武雄市図書館が休館中は伊万里市民図書館をご利用ください、という内容だった。ピンチヒッターをつとめるくらいだから割と近くなのか、ならばついでに行ってみようとカウンターで聞いたら、20キロほどあるとの回答で目をむく。「車ならすぐなんですけどねぇ」と済まなそうな口調でスタッフの方に言われ、ここは車移動が前提なのだと痛感。
 ちなみにスタッフの方は、その後わざわざ地図を出して行き方を調べてくださった。どの交通手段が早いとか、駅からの道はどうだとか、色々アドバイスもあって、突然現れた不審者(自分ですな)に親切極まる案内。ありがとうございました。

  • 再び、周辺環境

 図書館を出てから、向かいのショッピングセンターなど周囲をうろうろしてみた。
 ショッピングセンター内には書店があった。品揃えはコミックや小説の新刊が中心、CDやDVDも売っている。フードコートにはカフェ、またミスタードーナツもあった。ショッピングセンターを出てやや歩いた地点には、レンタルビデオショップもあった。コミックや小説のレンタルブックもやっている。車なら5分程度で行ける距離。
 正直ちょっと驚いた。新図書館構想の話が出てくるくらいだから、とても辺鄙な場所でDVD屋やお茶を飲める場所がないとか、現在の図書館があまりお洒落でなくて古い本ばかりとか、そういった状況なのだろうと勝手に思っていた。だが行ってみると、立地は割と恵まれているし、すでにお洒落で快適な空間だった。
 空間だけでなく図書館としても、蔵書の品揃えや見せ方など、中の人が丁寧に運営していることが伝わってくる。カウンターの人や、事前に電話した時対応してくれた人の対応も優しかった。単に丁寧なのではなく、優しい。そういったものは、HPからだとあまり見えないのが残念なことではある。
 いずれにせよ、現地や現物を見もしないで先入観を持ってしまっていたことは大いに反省。

  • 余談その1:歴史資料館

 ついでに歴史資料館の企画展『没後150年 先見の領主 鍋島茂義』を覗いてみた。これも面白かった。自分は蘭学に関する予備知識なんてまったくないが、色鮮やかな挿し絵つきの蘭書や、実験器具や武器などモノが多いので、眺めるだけでもけっこう楽しい。過去の展示での図録も置いてあったが、毎回企画展はずいぶん力を入れて作っているようだ。

 行きがけの駄賃ということで、行きましたよ、伊万里市民図書館。武雄温泉駅からJRと松浦鉄道を乗り継いで約1時間、さらに20分徒歩。ちなみに松浦鉄道は1時間に1本。交通費と時間を考えると、公共交通機関で通うのでは話にならない。普通の人は車移動だろう。
 図書館自体は、これはこれでとても素敵だった。あまり時間がなく、さっとしか見られなかったのが残念だが。
 レポートは省略するが、空間設計には武雄市図書館との共通点をいくつか発見した。基本的に平面の割に複雑な構造であること、片流れでとても高い天井の形状、テラス状の2階があること(ただし2階は閲覧席ではなく開架書庫)、BGMが流れていること、畳の閲覧席があること、など。武雄市図書館を作るとき、伊万里市民図書館を参考にしたのかもしれない。それとも地域や時代での流行りなのか。
 余談の余談。途中でたまたま道を尋ねたのがきっかけで、行きずりのおばあさんとしばらく世間話をする展開になった。その方は伊万里にお住まいだが車を持っていなくて、不便な場所なので町へ出てくるのが大変なのだそうで、「いつも移動図書館で本を借りて読むのが楽しみなんです」と言っておられた。たぶん「伊万里市民図書館 自動車図書館ぶっくん」のことだろう。実際にクルマを使わず移動してみると、有難みがよく分かる。必要以上に深く頷いてしまった。

*1:だったと思うが、うろ覚え。

*2:一例。

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