多賀城市立図書館に行ってきた。

 機会があったので、宮城県多賀城市立図書館*1に行ってきた。武雄市に続いてCCCがプロデュースすると話題になっている*2ところだが、やはり現在の状況は見てみないことには分からない。以下は8月某日、いち利用者としての訪問レポート。記憶違いがあればご容赦。時間の都合上、本館しか訪問できなかった。

  • 周辺環境

 最寄りはJRの多賀城駅。駅内の観光案内所に入ると、観光案内パンフに交じって図書館だよりが置かれ、返却ポストもあった*3。駅の北側から出て、歩く。かなり起伏の多い地形で、距離の割に歩くのが大変だ。図書館のホームページでは駅から徒歩20分とあったが*4、寄り道したので30分ほどかかった。8月の日盛りだったため、歩行者にはあまり会わない。
 図書館の案内板が出ているところで、2車線の車道から中央線のない道へ入り、坂道を上る。近くに市民プールの看板も見える。坂道の周りは住宅街。左側には保育園。坂を上りきると正面に大きな建物。これか、と思ったらそれは市立小学校で、その門前で左に折れて少し入ったところに図書館があった。
 玄関前に立つと、きらきら光るものが漂ってきた。シャボン玉だ。図書館の玄関脇から裏手にかけて、林というほどでもないが背の高い木立がある。そのあたりに子供が数人、ボランティアらしいお揃いの青ジャンパーの大人が数人いて、シャボン玉を吹いている。夏休みのイベントか何からしい。いきなりほっこりした気分で玄関をくぐる。
 自動ドアではなく、手で開けて入る。さほど大きな建物ではないのに風防室がきちんと設けられているのは、寒い地域ならでは。

  • 全体の構造

 図書館は2階建ての独立した建物。玄関を入ってすぐに2階へ向かう階段がある。2階は調査研究室。1階は右側が児童コーナー、正面が一般書の閲覧室。両方を見渡せる角のあたりにカウンター。窓が大きくて室内は明るい。近隣の住宅を見下ろすことができ、図書館がけっこう高台にあることが分かる。
 構造は、以前行ったことのある日野市立中央図書館によく似ていると感じた。1階に一般書と児童コーナーを置くことで誰でも入りやすい空間を作り、かつ静けさが求められる調査研究室を2階フロアに置いて住み分けを図る。1階部分の座席は少なめにして、図書館内で長時間過ごすよりは貸出を充実させる。こういう図書館の作りは70-80年代頃の一時期に多く採用されたのだそうで、その走りが日野市立図書館だと聞いたことがある。図書館条例*5によれば1978年にできたようだから、まさにその時期。書架や全体の雰囲気にも、「市民の図書館」思想の影響が感じられる。

  • 入ったところ

 右手に2階へ続く階段があり、階段の周辺には七夕の笹が飾られ*6、壁には地元の写真クラブの写真が貼られている。
 階段の横には丸テーブル1台と椅子4脚、自動販売機がある。休憩コーナーらしい。図書館の周辺には、読書の合間にちょっと飲み物を買えるようなところが見当たらなかったので、ここにあるのはありがたい。飲食禁止の張り紙はなかったと思うが、飲み物を閲覧室に持ち込もうとする人も見なかった。奥には無料の冷水機もある。
 休憩コーナーに掲示板があり、図書館利用状況のグラフが張られている。人口当たりの貸出数は県内でも有数らしい。21年度の数字なので若干古いと言えば古いが、22年度は震災直後だし、23年度も7月まで通常開館できなかったそうだから、数字としては当てにならないだろう。
 玄関を入って左手、カウンターの脇にはトイレへ向かう廊下。トイレは男女+車いす用がある。手洗い場は当然各トイレの中にあるが、トイレ前の廊下には子ども用の手洗い場が別途設けられている。また車いす用トイレの個室には、片隅に幼児用のイスが置いてあった。一般用のトイレの個室はかなり狭くて、一人で用を足せない幼児と一緒に入るのが難しそうなので、そういった場合に車いす用を使えるのかもしれない。児童コーナーから近い場所にあることも含め、子どもに配慮された設計だ。
 そういえば休憩コーナーの掲示板には「授乳される方は職員に声をおかけください」という張り紙。わざわざこういう親切な案内が出ているのは、ちょっと珍しく思えて印象に残った。なおBDS*7らしいものは見当たらなかった。

  • 児童コーナー

 ウサギの形をした木製の子供用机2台と椅子が数脚、靴をぬいで上がれる絨毯のコーナー。その横に子ども用の四角いソファ。絨毯コーナーには本箱があり、絵本が入っている。
 壁面は天井まで書架。段数で言うと8段くらいまであるが、本が入っているのは下から6〜7段くらい。踏み台は見あたらない。たぶん子どもが登って遊ぶと危険だからだろう。従ってある程度上の段の本は子どもが自分で手に取ることはできないが、うまく考えたものでそのあたりには児童文学全集や「目で見る世界の国々」シリーズ、児童劇脚本集など、子どもがふらっと読みたくなるというよりは大人が子どものために選んでやるような本がメインで入っている。
 低い書架は1メートルほどの高さで3段、ただし書架の上にも本が並んでいるから実質4段として使っている。
 夏休みということもあるが、子どもの姿が非常に多かった。それも友達連れ。近くにいた小学生が「今日どうやって来た?」「一人で歩いてきた」「僕はお母さんに…」といった会話をしていた。毎日通う学校の隣だから、なるほど歩いて来られる範囲なのだ。
 児童コーナーの脇には、手芸・料理・育児・インテリアなど家事関係の本のコーナーがある。子どもを連れてきた親が、子どもを遊ばせながら自分もちょっと手に取ることができるという訳だろう。面白い。
 児童コーナーではないが、この日は2Fの視聴覚室でおはなし会があったらしい。階段のところに動物のかたちの立て看板が出ていた。時間になると20人くらい?の子どもが入ってきた。いかにもわくわくした顔で階段を上がっていく。七夕の笹と短冊がちょっとざわざわして、すぐまた静かになる。

  • 一般閲覧室

 入口から真っ直ぐ奥へ進むと、大人用の閲覧室。カウンターの脇には視聴覚資料コーナー、閲覧室に入ると新聞コーナーと雑誌コーナー。雑誌コーナーには1年分ほどのバックナンバーも並べられている。数人が座って新聞を広げたりしている。
 全体として、座席はかなり少ない。新聞・雑誌コーナーで10、書架脇に背もたれなしのスツールが4。それでも満席にはなっていなかった。人はひっきりなしに来ていたのだが、雑誌や新聞以外は、中で読むというより借りてすぐ帰る人が多いようだ。
 壁面は天井まで書架になっている。9段くらいだが、だいたい上の1-2段は空けてあるところが多かった。こちらには3段くらいの踏み台がある。踏み台に乗れば最上段にも届くが、小柄な人だときついかもしれない。こちらも高い場所に置かれるのは、シリーズものや全集などが多い。シリーズものであれば、遠くから見てもどこに欲しい本があるか分かりやすいからだろう。
 書架の様子は、少しデコボコしていた。スタッフが直している姿も見かけたが、さすがに繁忙期は来る人の方が多すぎて手入れが追いつかないのだろう。また、書架に並んだ本の上に横置きになった本がいくつかあった。あちこちの棚に見られることと、その本が入るべき隙間らしいものが見当たらないことからして、どうやら来館者が乱したのではなく元々そういう置き方をしているらしい。長く使われている図書館ではたまに見る風景だ。スペースの捻出に苦労している様子が窺われる。
 並べ方はNDC*8に基づいているが、書架に掲示されたユーザ向けサインには、番号でなくキーワードが書かれている。OPAC端末はカウンター付近など2台。
 壁面沿いにパンフレットホルダーがあった。「仕事・就職に役立つパンフレットコーナー」と示され、資格のチラシやジョブカフェのスケジュールなどが置かれている。このコーナーの両側にはNPO設立、ビジネス文書の作り方、株や税金の本などが配置されている。要はNDC順に並んだ関連資料のところにパンフレットを置いてあるだけなのだが、簡単な工夫ながら効果がありそうだ。この他、多賀城宮城県に関する本のコーナー、震災に関する本のコーナーなどもあった。
 立ち止まると、BGMがかかっているのに気づいた。チェンバロやピアノ、クラシックなど。天井埋め込み型のスピーカーから流れているが、飲食店よりかなり小さい。歩きまわっていたら気づかない程度の音量だ。積極的に雰囲気づくりをするというより、他の人の立てる音が気にならないようにするホワイトノイズだろう。

  • 調査研究室

 玄関の階段を上って、2階へ向かう。上がると休憩コーナーがある。左手には「視聴覚室」と書かれたドア。全国の電話帳と、コピー機が並んでいる。右手にはガラスのドアがあり、「調査研究室」と書かれている。
 「調査研究室」に入る。館内案内図によるとこの調査研究室はちょうど児童コーナーの真上らしい。左手にカウンターがあり、やや年配の男性スタッフが座る。ちなみに1Fのカウンターは全員女性で、お揃いの青いエプロンをしていたが、こちらは男性でエプロンもなし。何か役割分担があるのかもしれない。
 中に入ると、学習机が並んでいる。4つの机が卍形に並んだユニットが4つ、計16席。さらに折りたたみの長机が2台出ている。恐らく座席数が足りないので、後から増やしたものと思われる。学習机には手元用の灯りがついているが、コンセント等はない。単に立ち入って資料を見るのは自由だが、座席を利用するのには申し込みがいる。
 他にAV視聴席が2席。片方には、なんとレコードの機械が設置されていた。カウンターのすぐ前に、ユーザ用のインターネット端末がある。利用している人がいたので遠くから見ただけ。
 あとはぎっしりと書架が並んでいる。置いてあるのはいわゆる参考図書、辞書や事典など調べ物用の本が中心。1Fと同様、壁面には7段の書架。低書架の方は一般閲覧室よりやや高く、1.5メートルくらいか。
 ほとんど満席に近いほど利用者がいたにも関わらず、1Fとは打って変わって静かだった。BGMもこちらでは流れておらず、皆黙々と勉強している。窓から外を眺めると、木立が目に優しい。

  • 再び、周辺環境

 いったん多賀城駅に戻ってみる。駅前には店があまりない。駅前は再開発中らしく*9、工事用のフェンスなどがある。市の発表によれば「JR仙石線多賀城駅前に、地域文化の代表的施設である図書館を中核に据えた「東北随一の文化交流拠点整備」を実現」とのこと*10なので、新しい図書館はこの周辺にできるのだろうか。
 駅を越えて南側、メインストリートの国道45号線の方へ行ってみる*11。太い道路の両脇に、ロードサイド型の飲食店などが並んでいる。2キロほど?歩くとイオンがある。ここに書店があった。自分の確認できた限りでは、図書館から最も近い書店はここだと思われるが、ふらっと歩いて来るにはやや距離がありすぎる。

 後で、地元在住の知人に色々教えてもらった。
 3・11の時、多賀城市には津波が来た。内陸部なのだが、津波は川を遡ってくる。高台にある図書館は直接津波の被害には遭っていないが*12、駅より南側にはかなり被害が出た。45号線では車ごと流され、中で亡くなった人もいたそうだ。このことは、自分がいくら想像するよりもこちらを見た方がよい。

多賀城市 多賀城市内の被災映像
電子ブック「東日本大震災の記録」

 今はがれきも撤去され、壊れたところも修復され、元の状態を知らない目には普通の国道沿いの風景に見える。それでも地元の人の目からは、見えるのも見えないのも含め、傷跡があちこちにあるのだろう。ちなみにかつてTSUTAYAの店舗もあったが、津波で被害を受けて無くなったのだそうだ。あのロードサイド型店舗の続く眺めでレンタルビデオ屋が一向に見えないのは不思議に思ったのだが、そう聞いて納得。


 あの駅前にTSUTAYAとカフェができたら、たぶん間違いなく流行るだろう、と思う。競争相手がないからだ。他にDVDを借りたり、本を買えそうなところは遠い。国道沿いに喫茶店はあったが歩いていくにはやや距離があるし、ネットカフェやマンガ喫茶は見当たらなかった。だから、人は来るだろうし流行るだろう。
 そしてそれは、現在ある図書館とは、まったく異なった役割のものになるだろう。
 今の図書館は、ごく普通の地元の図書館という印象。たくさん本が借りられて、特に子どもが訪れる。近隣には小学校に保育園に市民プールに住宅地、という立地も子どもを意識している。建物内で本を読むよりは、本を借りて帰って家で読むのに便利な作りになっている。武雄市の場合にはもともと滞在型の作りだったが、多賀城市の場合には図書館自体のコンセプトが変わることになると思われる。そのことの良い悪いは、自分には分からない。


 児童コーナーで、幼児と一緒に本を選ぶお父さんを見かけた。図書館ができたのが1978年だから、お父さんが地元の人だったら、30年前はここに通う子どもだったかもしれない。駅前に新図書館ができたら、あのお父さんは子どもを連れていくだろうか。そして30年たってその子が親になる頃、新たにどんな図書館を欲しがるだろうか。

*1:多賀城市立図書館ホームページ

*2:2013年7月11日付 カレントアウェアネス記事:宮城県多賀城市とカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が図書館を中核とする「東北随一の文化交流拠点整備」に関する連携合意を発表

*3:自分は知らずに行ったが、後で調べたら広報もされていた。◆JR仙石線多賀城駅舎内 返却ボックス

*4:図書館の周辺地図

*5:ここから見られる。多賀城市例規集

*6:このあたりの七夕は8月に行われる。

*7:Wikipedia|ブックディテクションシステム(Book Detection System

*8:日本十進分類法(NDC)9版 2次区分表 - CyberLibrarian

*9:参考:多賀城駅周辺整備計画

*10:平成25年7月12日付多賀城市プレスリリース 多賀城駅前に「東北随一の文化交流拠点整備」を実現します

*11:Wikipediaによると、多賀城市の「町は街道(国道45号)沿いに発展してきたため、商店はロードサイド店が多く、“市の中心部が存在しない”という特徴をもつ。」2013/8/24確認。

*12:地震そのものでの被害は出ている。2012年まで通常開館できなかったことからも分かる。