岡崎市中央図書館に行ってきた。
先日のパネル討論会で話題の中心となった岡崎市立中央図書館。近くだしとりあえず実際見てみようかということで、討論会前日に足を運んできた。
以下は先入観を捨て、一訪問者の目からxiao-2が図書館を見て感の感想。別にこれをもって事件についての対応を擁護する気も、批判する気もありません。ということは最初にお断りしておくよ。
- 建物
図書館の入っている建物、Libra。全体にガラス張りがメインで、明るいモダンな外観。中に入ると天井が高く、吹き抜けのある大きな交流スペースもあって非常に開放感がある。メインはモノトーン、ソファなどは緑や黄色でアクセントをつけている。
この建物には図書館以外にもジャズコレクションの展示室や市民活動総合支援センターもある。それぞれの間にあまり物理的な障壁がなく、図書館そのものも3つのスペースに分かれているので、ここからここまでが図書館という感覚はあまりない。最初入った時には総合支援センターが図書館のカウンターかと勘違いしたくらい。様々な文化的サービスを建物全体で行うという姿勢が見える。
この図書館は3つの部屋に分かれている。建物の1階がレファレンスライブラリー、2階にポピュラーライブラリーと子ども図書室。図書館スペースを区切る壁はほぼすべてガラス張りで、中がよく見える。床も什器も木地の色や白をメインにしている。しかもガラス張りだし天井が高いしで、とにかく広々と明るい、開放的な空間。
- ポピュラーライブラリー
2階の入り口から入ると、右手にカウンター、左手に雑誌・新聞コーナー。あいだの空間に利用者登録の書類の記入台や端末、「総合案内」と書いた囲いがあり職員が一人。カウンターと別に尋ねたいことができたら、対応してくれるのだろう。
奥に進むと、部屋の右側は、カウンターの隣に視聴覚資料のブース、視聴覚資料の棚、ティーンズコーナー、書架の列。部屋の左側は、雑誌・新聞コーナーの隣に展示コーナー、新着図書コーナー、書架の列。ざっくりそういう配置。なお「〜の隣に」と言っているが、書架や什器の間はかなり広く、実際見ると「隣」とは感じないと思う。
雑誌・新聞コーナー。ぱっと見た限り品揃えはかなり豊富。業界紙の類もある。雑誌の棚は最新号の表紙が見えるように表紙を見せて並べ、棚のふたをあけるとバックナンバーが入っているという図書館によくある棚。
棚の高さが妙に低い。よそで見るこの手の棚だと視線と同じくらい、下手すると踏み台が必要な高さまで資料が収められているのだが、ここのは1メートルくらいか。視線をちょっと下げる形になる。新聞の台や新聞を広げる台も座って閲覧する形になっている。閲覧室の向こう側を見渡すと書架も低めで、5段くらい。おかげで、部屋全体たいへん見通しがよい。
初めは、開放感ある空間にするためにこの高さに揃えているのかと思った。だが車椅子の利用者を見かけて、この高さだと車椅子の人でも手が届くのだと気付いた。そう言えば雑誌・新聞コーナーも、書架の間もスペースがやたらと広い。書架が高くないから踏み台も要らず、通路に邪魔なものがない。車椅子でも楽々すれ違える。ちなみに自分が滞在していた間に車椅子の利用者は二人見た。うち一人は介助者が押し、一人は自分で動かしていたが、いずれも動きに不自由なさそうに見えた。
障害者対応と言えば、入り口から入ってすぐ右の空間に録音図書コーナーが設けられていたのも珍しく思った。誰もが使うものではないからか、そんなアクセスしやすい場所に置かれているのはあまり見たことがない。目の見えない人が奥まで行くのは辛いから、入りやすい場所に置こうという配慮か。ただ図書館も含めLibraの建物内には点字ブロックが見当たらず、ちょっと謎だった。まあ外から建物入り口までは点字ブロックがあるし、お年寄りや車椅子の人には点字ブロックがかえって不便なこともあるそうなので、なんらか施設としての対応があるのだろうけども。
展示コーナーでは「本屋さんのカバー展」と題して、市内の本屋さんのブックカバー*1が展示されている。ケースはひとつだけでこぢんまりしているが、ユニークな取り組みで目を引かれる。こういうの好き。
書架に接近。一番入り口に近い書架に「新着コーナー」があり、新しく入ったらしい本が並べてある。同じ書架に新聞で取り上げられた本コーナー、利用者同士でおすすめの本を紹介するコーナーがあった。手前何列かは実用書、その向こうに小説など読み物の類。
本の並べ方が面白い。実用書はNDC*2ではなく、「くらし」「趣味」「スポーツ」「コンピュータ」といったカテゴリごとに分かれている。「くらし」なら料理、裁縫、家庭医学、といった感じ。普通のNDCだと料理の本と病気の本が並ぶなんてあまり考えにくいが、たとえば一家の健康を預かる主婦ならばこのカテゴリ分けは便利だろう。
読み物コーナーは文庫本、ハードカバーともに、大型書店くらいの量がずらり並んでなかなかの壮観。
実用書と読み物の間に、1列程度?洋書の書架がある。姉妹都市に関連した小さい展示がされていた。英語、中国語、ハングルの書籍に加え、新聞や雑誌が面陳されている。ポルトガル語のまである。南米から来た住民が多いのかな?
ティーンズコーナーに立ち入る。曇りガラスの低い仕切りで隔てられ、いくつか席がある。雑誌・新聞もティーンズ向けにいくつか揃えてある。雑誌はアニメージュ、セブンティーン、ファミ通など、新聞はまんたんブロード、CAMPUSSCOPE。ライトノベルなど小説類とともに、マンガの描き方やスポーツの本、進路の参考になりそうな軽めの職業紹介本など。10代にはラノベあてがっとけばいいんでしょというやっつけ感がなく、人気本と役立つ本のバランスを取りながら選んでるんだろうなという印象を受けた。
スペースは小さいが、中高生のための空間という雰囲気が漂っている。普通の閲覧室とは区切っているから大人がいないのも、自分が中高生だったらたぶん落ち着くと思う。それでいて仕切りは低く、完全に分離させるわけではないという距離感がほどよい。このコーナーを、子ども室でなくポピュラーライブラリーに入れておくところになんだか信念を感じる。
- 子ども室
ポピュラーライブラリーから出て、廊下を横切り、同じ2Fの子ども室へ。ここもとにかく広い、明るい。ガラスの壁を生かし、壁際に絵本が廊下の方を向けて展示されている。子どもの目線の高さに楽しげな絵が見えて、興味を引かれそうだ。
こちらの書架は当然ながらさらに低い。それでも天井は他の部屋と同じく高いので、いっそう広々として見通しがよい。壁際に色とりどりの低いソファがあり、お母さんが子どもに読み聞かせをしていた。
書架で特徴的だと思ったのは、岡崎市コーナーがきちんとあったところ。子ども室にも地域資料コーナーを設けているというのはあまり見ない。確かに、宿題で地域のことを調べてこいと言われた小学生がいきなり郷土史のコレクションとか「○○市史」に手を出すとは思いにくいから、別になっているのは使いやすいかもしれない。子ども向けのレファレンスブックもあり、これもわりと充実。
ティーンズコーナー同様、絵本さえあてがっとけばいいんでしょというやっつけ感がなく、図書館としてひと通りの要素がきちんと子ども向けに揃えられている。登録用紙記入台、椅子、机も子どもの高さになっている。インターネット、データベースの使えるPCもあって、この机も子どもサイズ。PCはカウンターのすぐ目の前にあり、画面の前に大きなボール紙の板が立てかけてある。使う時にはこの紙をカウンターに持っていってね、という方式らしい。なるほど分かりやすい。
つまりは、子どものための空間。部屋が完全に分かれているから、基本的に子どもと親しか来ていない。読み聞かせしても、大声出しても周りに気がねしなくていい。また子ども連れでない不審なおとな(つまり自分ですな)は、別に居づらくはないがちょっと目立つ。親の身になって考えると、これは安心だ。
- レファレンスライブラリー
いったん廊下に出て、1Fに降りてレファレンスライブラリーへ。こちらも明るく広いが、大学図書館みたいな落ち着いた雰囲気。
書架はポピュラーライブラリーより高い6段で、資料はNDCに基づいて並んでいる。レファレンスと題しているがいわゆる参考図書に限らず、小説類以外の多少堅めの本はこちらにあるらしい。小説でも、たとえば全集はこちらにあるという具合。置かれている資料も新しく充実している。こちらにも雑誌コーナーがあり、専門的なものはこちらに置かれているらしい。地図コーナーもあった。あまりじっくり見なかったが、地域資料コーナーもわりと広くて充実している模様。
そこここにOPAC端末が設置されている。施設紹介パンフレットによると他の部屋も合わせて18台らしいが、体感としては多く感じる。調べたくなったらOPACコーナーに行かないといけないのではなく、書架の間をうろうろしながら調べられる。「場所が分からなくなった本はこちらにお返しください」という台もある*3。インターネット席や、持ち込みPCを使える席がある。壁際にはガラス張りの会議室に個人研究室。
カウンターには貸出と別に、レファレンスコーナーがある。3つくらい席があり、自分が見た時には2名が相談中だった。使われている。またデータベースの使える端末のところで、通りがかりのスタッフに使い方を尋ねている人もいた。広いのに、書架の間で作業しているスタッフに時々出くわす。けっこう人数が多いのだろうか。お陰でものが聞きやすい。そういえばポピュラーライブラリーには子ども連れの姿もあったが、さすがにこちらではほとんど見かけなかった。
- 全体の感想。
念入りにデザインされた空間で、予想以上に魅力的だった。
あえて事件のことと結び付けてケチをつけるならば、対象者ごとに最適化されすぎていて、図書館側が想定しない使い方をしにくいという見方もできる。たとえばいい歳の大人が子ども向けの本を読もうと思うとちょっと面倒だとか、あるテーマについて堅い本から柔らかい本までざーっと見たい時には分かりにくいとか。だがそういうケチをつけてみてもなお、日常的に使うには便利だ。柔らかい本を読みたい時に堅い本は邪魔だし、集中して調べ物をしたい時に隣で子どもが大声で本を読んでいるとやっぱり気になる。
何より、利用者の多さが快適さを示している。自分が行ったのはど平日の真昼間だが、かなり人が来ていた。閲覧席で寝ている人、おしゃべりしている人をあまり見なかったのが印象的。皆さんおとなしく本を読んだり、調べ物をしている。平和で穏やかで、非常によく使われている図書館という印象だった。利用している人たちはくだんの事件のことを知っているのだろうか、気にしているのだろうか、どう思っているのだろうか。疑問に思ったが、もちろん知るすべはない。
まとまらない訪問記は以上。素敵な図書館で残念なことが起きた原因について、色々考えさせられた。Webや行政や司法周りの人はまた別かもしれないけれど、少なくとも図書館という観点からくだんの事件に着目する人は、実際にどんな図書館なのか知っておいて損はしないと思う。