アントネッラ・アンニョリ氏講演会「知の広場ー新しい時代の図書館の姿」に行ってきた。〜後篇

 前の記事の続き。繰り返しますが、xiao-2が聞きとれて理解できてメモできて、かつ思い出せた範囲。項目立ては適当。誤記・誤字ご容赦。
 後半は質疑。たくさん質問が出ていた。

  • フロア
    • 日本でも図書館の「居心地の良さ」が追求されているが、ハコとしての図書館は既にあるのでゼロから考える訳にはいかず、コンテンツを充実させることもお金がないと難しい。カフェやラウンジスペースの設置など、ソフト面でどうするかというところに注目する場合が多いのだが、ハード面ではどのようなことに気をつけるべきか。
  • アンニョリ氏
    • 新しい図書館を作る時、図書館に関わっていくひとたちに参加してもらうこと。具体的には以下のような人々。
      • 技術者。建築家、図書館員、テクノロジーに携わる人々。
      • 政治をやっている人にも強い意志がないと、実現が難しい。
      • 最終的に図書館を使うことになる市民。
    • 特に市民は外せない。どういうサービスがあってほしいか、聞かずには作れない。ミラノで図書館を作るにあたって市民の意見を聞いたことがある。自分も長くこういう活動をしてきたのでたいていの意見は予想の範囲内だが、「料理を作って友達を呼べる場所が欲しい」という意見が出たのは意外だった。
    • また、図書館を作るプロジェクトグループの人を色々な図書館へ連れていって、見ること。いいところも悪いところも見えてくる。私もこれほど見ていなければ、こんな仕事はできない。
    • 優れた場の特長としては、フレキシブルで色々な形で使えること。自然光が入ること。大きさのディメンションが適切であること。階段のような場所も、人の集う場所になりうる。
  • フロア
    • 日本で、運営自体をプライベートセクターに任せる図書館が出てきている。最近ではレンタルビデオの企業に任せた事例もある。図書館はどのような財源で実現すべきか、公営でなく民営にして収益事業化することについてはどう考えるか。
  • アンニョリ氏
    • TSUTAYA図書館のことですね*1。日本に来てからどこでもそれを聞かれる(会場爆笑)。どの人にとっても重要なのだろう。
    • 自分はよく知らないが、調べた範囲でコメントする。書店と図書館とカフェの一体化自体は、心配していない。図書館が書店に近くなっていくのも、本屋が図書館に近くなっていくのも、あっていいことだと思う。素敵なソファでコーヒーを飲みながら本が読めることは良いと思う。
    • ただし気になったこととしては、カフェ・図書館・書店が同格にあってほしい。この三つの組み合わせの中で、図書館が強力であってほしい。書店側からでなく、図書館からこの提案が出て欲しいと思う。
    • <スライドで図書館利用風景を投影*2>図書館のソファに人々が座っている。画面に映っているのはホームレスの男性。手に本は持っているが、寝ている。隣にも女子学生が同じように寝ている。TSUTAYAは、こういう状況をどのくらい受け入れるだろうか。
    • 昨年、サラ・ボルサ図書館は10周年を迎えた。その際利用者に「なぜあなたはサラ・ボルサが好きなのですか?」というアンケートをした。よくあった答えは「一切お金を払わずに、一日中居られる」というもの。現代社会においてはすべてが消費物。そういう社会において、お金を払わないでいい場所があることは大事。
    • TSUTAYA図書館に関して気になっていることはその点。カフェと図書館と書店が一体になったスペースで、カフェにも書店にもお金を払わない利用者がどのくらい受け入れられるのか。
    • また、そこで働いている人はどんな人なのか。図書館員の能力がある書店員なのか。書店員のような能力のある図書館員なのか。置かれる本はどう選ぶのか。TSUTAYAはそういうことも考えているのだと思うけれど。
    • 私が恐れるのは、行政が自分でやるのが面倒だからといって、本来行政のやるべきことをプライベートな企業に任せてしまうこと。もしそうなるとしたら危険。一方で、旧来の陋習をただ守る図書館というのも良くない。
    • 財源の話については、国や地方の行政が払うべきものと考える。健康や学校と同じように、図書館は社会福祉の一部だから。
  • フロア
    • 自分は実際見てきたので補足しておく。大部分の席で、スターバックスカップが机の上にないと注文を聞きにこられる*3。席にかばんを置いて30分以上離席すると注意の紙を置かれる。
  • アンニョリ氏
    • 気になっていた通りだ。
    • アメリカにはバーチャルな図書館ができつつある。しかしバーチャルというのは中身のことで、図書館という場所はちゃんとある。そこでは自分のPCを持参する必要もなく、館内からアクセスできる。無料でインターネットを使えるし、顔を突き合わせて話もできる。検索を助けてくれる人もいる。持ってきたお弁当を食べる場所もあるし、仮眠できるベッドもある*4。なぜこういう場所が必要なのかと問うたら、スターバックスに行ったらカプチーノに4ドル払わないといけないが、そうでない場所が必要だからという理由。そういう事態が図書館に起こることは受け入れがたい。
  • フロア
    • 自分は、まちライブラリという活動*5をしている。図書館内に本がない状態からスタートし、来た人が本を持ってくる。色々な集まりに使えるスペースがあり、たとえばジャズの集まりがあればジャズの本が持ち寄られるといった具合。同じような試みはあるか。
  • アンニョリ氏
    • 自発的な人々の活動により作られる図書館プロジェクトは色々とあるし、これから増えていくことが大事。仙台に行った時には「みんなの家」プロジェクト*6というのも目にした。イタリアにも似た取り組みはある。
    • みんなのための色々なサービスが増えていくべき。と同時に、逆に言うとそれは行政でのサービスの不足を意味することでもある。
    • 南イタリアにはPublic Libraryがないのだが、数年前にAssociation(「守る会」)が生まれた。これはスローフードや、絶滅の危機に瀕する貴重な食べ物を守っている団体で、読書会等をやっている。場所は個人の家だったり、カフェだったり、書店だったり。
  • フロア
    • 市民の社会参加に関する勉強会をやっている。討論の場を持ちたい人が、図書館での開催にいかにこぎつけるべきか*7
  • アンニョリ氏
    • 図書館の態度次第。図書館員の性格による。
    • ペーザロ図書館を作った後、自分はそこで8年間学術ディレクターを務めた。その時の目標は、その図書館をみんなの家にすること。市民から「図書館のスペースを使いたい」と要望があると、とりあえず必ず話を聞く。ただ場所を貸し出すだけでなく、図書館は地域と共に活動すべきだと考えるから。
    • やって来る人には幅がある。たとえば医師会のシンポジウムの会場にしたいと言われたら、それは地域の活動とは少し違うということで、有料で貸す。市民活動は無料。なぜ無料であることが大事なのか。そもそも市民は税金を払っている。従って、本来受けるべきサービスであるから。
    • ただし自分がペーザロを辞めてから人が変わり、建物は同じだが、ソーシャルな性格はだいぶ後退したと思う。そういった要望を受け取れる人が働いていることが大事。
    • <再度スライド投影>これはアメリカの町で見た標識で、Gilpin Country Public Libraryのもの*8。モーテルの「空室あり」のような感じで「Free coffee,internet,notary,phone,smiles,restrooms & ideas」とある。無料のコーヒー、インターネット、電話、トイレ。notaryというのは弁護士に相談できるサービス。SmilesとIdeasが入っているのが良い。

 他にも質疑の手がたくさん上がっていた。が、時間がなくここまでで閉会となった。メモは以上。


 同時通訳つきの講演をきちんと聞いたのは初めてだが、予想以上にスムーズに理解できた。アンニョリさんは背筋がぴんと伸びて、視線がまっすぐ前を向いて、質問を受けるとすぐ回答が出てくる。いかにも自信に満ちた態度で、言葉は分からなくても人柄というのは伝わるものだと感心した。要するにカッコ良かった。
 通訳をされた方の力量も凄かったと思う。講演の部分もさることながら、質疑の対応ぶりもスムーズで、言葉の壁をほとんど感じなかった。通訳だけのために雇われた人でなく、主催者の一人として、話題への理解やアンニョリ氏とのコミュニケーションが行き届いていたためかもしれない。要するにカッコ良かった。

*1:参考:武雄市図書館-Wikipedia

*2:どこの図書館かメモし損ねたが、外国。サラ・ボルサ図書館だろうか。

*3:これについては案内の間違いだったというお知らせが出ていたので、この方が行かれたのはそれ以前かもしれない。

*4:これは驚いたが、どこだろう?

*5:まちライブラリ@大阪府立図書館

*6:「みんなの家」プロジェクト

*7:この質疑応答はもっと込み入った内容だったのだが、残念ながら自分の頭とメモがついていかなかった。

*8:図書館のホームページに、同じ標識の写真が上がっている。Gilpin County Public Library