図書館総合展「首長が語る地方行政の現状と図書館への期待 Vol.3」に行ってきた。

 遅ればせながら、今年も行ってきました図書館総合展。こういうのを聞いてきた。

首長が語る地方行政の現状と図書館への期待 Vol.3
過去2回の開催と同様、行政施策全般の中での図書館の位置づけを語っていただきます。これにより、「自治体あっての図書館」という構図を明確にし、各自治体で抱える課題を踏まえたバランスのとれ、かつ持続可能な図書館政策を探ります。
発表者:
講師:神谷 学(愛知県 安城市長)
講師:塚部芳和(佐賀県 伊万里市長)
講師:藤縄善朗(埼玉県 鶴ヶ島市長)
司会:岡本 真(アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役/プロデューサー)
http://2014.libraryfair.jp/node/2087

 公式の録画とレポートサービス*1があるという至れり尽くせりぶり。お陰でxiao-2も安心して、すっかすかのままのメモ。みんな録画を見るといいよ。

  • 岡本氏
    • 今回、三名の方をお招きした。安城市は新館を準備中。鶴ヶ島市は新たな公共サービスを模索している。伊万里市は有名な図書館を持つ。各自治体の立場から多角的に伺いたい。
    • 自分の持論として、自治体はひとつとして同じではない。三者三様。
    • よくあるケースとして、図書館政策に力を入れる市長がいると、その時はありがたいが、退任後に一気に逆風が吹いて駄目になってしまう。図書館のことだけ考えるのではなく、地域の政策全体の中で図書館をどう位置付けるかを考える必要がある。
  • 安城市*2 神谷学市長
    • 安城市について。名古屋市豊橋市の間、東海道線三河安城駅がある。人口は約18万5千人。今時珍しく、人口も世帯数も増加中。財政規模は600億円くらい。財政力指数*3は25年度に1.18で、一応自立。
    • 中心市街地の病院跡地に「図書情報館」を作ろうとしている。平成22年3月に新図書館基本計画*4ができた。平成24年1月にアメリカ、平成26年5月に韓国へ、それぞれ図書館の視察に行った。
    • 図書館を作ろうとする理由は二つ。一つは、市内の公共施設の入場者数ランキングで現図書館が2位という集客力の高さ。二つ目は、現図書館のスペース狭隘。
    • 平成24年1月のアメリカ視察ではニューヨーク、ピッツバーグフィラデルフィアを回った。分かったのは、ICT化にあたってはソフト選択が重要であること、たとえ電子書籍になっても紙の本は当分続くので書架には余裕が要るということ。
    • 平成24年5月、再度アメリカのシアトルを視察。これは自分は行けなかったので、教育長や職員が行った。なぜシアトルにしたかというと、1度めの視察で訪れた他の図書館でシアトルの評判が高かったから。ここで学んだことは、中央館/分館の住みわけ、「調べる場所から創造する場所へ」の変化、司書の役割の重要さ。
    • 平成26年4月、韓国視察。ソウルの国立図書館などを回る。ICTの活用により、職員が相談・案内に専念。多言語サービスの充実によるグローバル化。分館や公民館などをネットワーク化し、総合的に管理。
    • 安城市の図書館サービス
      • 7つの市に囲まれている。市内のサービスポイントは10か所。貸出が盛んな図書館。
      • 安城市の図書情報館が目指すのは3つ。
      • 1つめは健康支援・子育て支援。病院跡という立地の特性もある。また核家族化が進む中で、子育て情報を得られる場所に。
      • 2つめはビジネスサポート。ビジネスマンに来てほしい。
      • 3つめはまちの魅力発見。具体的には新美南吉の童話の世界を町中に展開させる活動など。駅前へのモニュメント設置や、童話をモティーフにしたウォールペイント。
    • 中心市街地拠点整備事業の実施体制。清水建設スターツCAM・三上建築事務所の三者によるSPC(特別目的会社*5を設立し、ここと15年間の契約。
    • 図書館・立体駐車場・商業施設の3つの建物が複合的になった施設。土地の3分の1は広場。(以下、イメージ動画を見ながらの説明)5階建て、4階部分までは吹き抜け。ガラス張りの多目的ホールなど。2階は児童書コーナー、3階は打合せ等も可能なICTコーナー、4階は静かにじっくり読書をするためのスペース。
      • オープンは平成29年6月を予定。
  • 鶴ヶ島市 藤縄善朗市長
    • 鶴ヶ島市*6について。埼玉県、川越市の隣にある。池袋から電車で数分。いわゆる郊外で、急速に高齢化しつつあるところ。
    • 公共施設の老朽化が進んでいるため、「鶴ヶ島市公共施設等利用計画」*7を策定。総務省でも似た取り組み*8をしているが、総務省の方のは道路や橋が中心。
    • 鶴ヶ島市は1980年代頃に一気に人口が増えた。市になったのが23年くらい前だが、その頃にインフラも一気に造られ、そしていま一気に老朽化しつつある。
    • その中で、施設の総量を減らしていくことを考えている。高齢化が進みつつあるのは人間も施設も同じ、30年以上経過したものが多い。市内に小学校は8校、中学校は5校ある。人口が急増していた時期には8年に10校の学校を造った。
    • 若い人が住むように造られた町を、老人向けにしていかなくてはならない。スペースも少ないため、適正配置は難しい。民間手法を活用。
    • 図書館の利用者は、5年で17%減った。これを受けて、従来の図書館機能を見直す。フロント業務はTRCに委託し、来年度から指定管理がスタートする。サービス向上も目指す。いかに合意形成するか。
    • 方針として、大学と共同で鶴ヶ島プロジェクト*9という取り組みを行っている。ソーシャルデザインプロジェクトの一環。
    • 市民の無意識をどう出すか。大学でやるのは良い方法。行政が直接市民と向かいあう形だと、一方的に要求を突き付ける構図になりがち。学生が間に入ることで、市民が教師として学生に教える立場となり、主体となる。
    • 2011年、公共施設の高度利用に向けたアプローチ。2013年には未来との対話プロジェクト。企業、市民など色々な主体によるコラボ。多数決でなく、多様な主体の協働。2014年には中央図書館の改修計画。
    • 現在の図書館は1996年開館。先行する図書館を模倣した感じで凡庸。民間活力を導入し、超高齢化社会への対応、高齢者の居場所となること。ICT化、図書からデジタルへ。
    • ただし、地域の実情にあわせる必要がある。武雄市の図書館も参考にしたが、比較すると、武雄市蘭学などの長い歴史があるのに対し、鶴ヶ島市は近年開発された郊外。観光客でなく市民が対象。分室、学校図書館とのネットワーク。
    • 指定管理を導入するが、コストカッターとしてではなく、双方が豊かになるやり方をとりたい。
    • 高齢化とICT化に対応するため、というのは、課題に対してネガティブな考え方。そうではなく、町をこうするために図書館をこう変えるという考え方でなくてはいけない。何を目指すかが空白のままでは、曲がり角。
  • 伊万里市*10 塚部芳和市長
    • 現在の図書館は平成7年7月7日完成。自分が造ったのではない。平成3年以降に新たな図書館を造ろうという動きがあり、市制60年、3代目市長の時に図書館を造ろうとした。その市長が選挙で負けた時点で、既に基本設計までできており、凍結されそうになったりしながらも完成した。
    • 自分は市役所職員から市長になった、5代目。当初から図書館に興味があったのでは?と言われることがあるが、前はそれほど行かなかった。市長になってから行くようになった。
    • まず自分の図書館への思いを語っておきたい(「市長雑感(第337号) 図書館への思い」を朗読)。
    • 伊万里市は、佐賀県の西の方。人口5万7千人。お隣の武雄市が5万5千人だからだいたい同じ規模。名物は伊万里焼、ハウス梨、最近では牛や港など。
    • 図書館。平成26年度予算は1億1600万。うち1600万が資料費。職員は18名、うち司書は14名。
    • 住民との関わりが深い。図書館ができる時に、設計者・市民・行政が参加する図書館建設懇話会を作って話し合った。平成6年の起工式には200名の市民。毎年お祝いをして、ボランティアがぜんざいを振る舞ったり、合唱などもある。
    • 子ども読書への取り組み。いじめなし都市宣言*11ブックスタート。自動車図書館は貸出全体の29%を占める。家読(うちどく)といって、本を読んだ感想を語り合う取り組みなども行う。
    • 図書館フレンズというボランティアがいる。全体で400名ほど。年会費1000円。お話会や朗読などを行う。図書館本来の業務には関わらない。
    • レファレンスが充実。レファレンスをきっかけに有田焼万華鏡が開発されたり、起業に役立ったりしている。
    • 図書館で色んなイベント。星祭り。ボランティアが企画・準備から関わる。おはなし会は144席が満席となる。図書館ができて以来、市民の足が向くようになっている。
  • パネルディスカッション
    • 岡本
      • 人口減社会、財政的問題、高齢化など色々な課題がある。それらの中でどうバランスをとって図書館の政策を位置づけているか。
    • 塚部
      • 市民には色々な人がいる。図書館に充分予算をつけて、特別に重視しているという訳ではない。
      • 伊万里市の図書館の場合は、市民がボランティアで支援してくれている。図書館ができたことによってそういう精神がめばえた。市民に助けられている。
      • 自分としては目配りはしている。図書館に関わる人は、各分野でまちづくりに関わる人が多い。財政的に充分手当できるという訳ではなくても、心の充実は共有したい。
    • 藤縄
      • 難しい問い。教育行政の中に図書館はある。大きく転換しつつある。
      • たとえば公民館。30年くらい前は、30代の夫婦がいて、男性は都内で働き、女性は専業主婦として新しい土地に来ていた。いちからコミュニティを造る必要があり、その拠点として公民館が使われた。が、今では防災・健康の施設としての役割が大きい。社会教育施設という枠組みの中ではやりきれない。
      • 図書館も似た状況。財政的に縮減されざるをえない。教育予算は減らせないが、図書館は減らさざるをえない。図書館の役割を従来と違うところに広げていかないと説明ができない。
      • 取り得る方向としては、課題解決型。枠を広げるというのも、どこまでカバーすべきか。観光や起業・創業などの方向もある。位置づけは難しい。
    • 神谷
      • 若い層の読書離れが課題。本に興味持ってもらえる環境づくり。予算もなるべく充実させたい。
      • 安城市もボランティア活動が盛んなので、それがやりやすくなる環境整備をしていく。関わっている人が一番張りきるのは、市長自ら頑張っているということ。
    • フロアから質問*12
      • 自治体には社会保障など多くの課題がある中で、図書館の維持管理のコストは継続的に負担できるか?優先順位は?
    • 神谷
      • 少なくとも20年くらいは余裕をもって運用できるように計画している。
      • 視察で韓国のソウル郊外にある、安城市と同じような規模の市に行った。安城市の中央図書館くらいの規模の図書館が4つもある。過剰だと初めは思ったが、日本に帰ってきてみると、逆に日本の現状が貧しいのではないかと思った。
      • 日本は教育関係のお金を絞り過ぎ。韓国は過去に経済的に苦しい時代を過ごしている。またもともと資源も少なく、国も大きくない。そこで教育に力を入れることで世界のトップに躍り出た。安城の今の規模からして、図書館に力を入れないと未来がない。
    • 藤縄
      • 財政力からいくと、図書館だけを優先するということはできない。他の機能と融合したり相互乗り入れしていかないと、認められない。これは図書館だけではなく、行政サービス全般にいえること。
    • 塚部
      • 福祉には予算を出さざるを得ない。人づくりはやりたいがなかなかそこまでできない。ただ高齢者が図書館に集うなら、それは福祉サービスの一環とも言える。
    • 岡本
      • 図書館政策は単体ではない。自治体はどこも財政が厳しい。でも公務員は人員を減らし過ぎで、これ以上は無理。そこで市民協働という方向になる。
    • 神谷
      • 安城市では、市民で読み聞かせなどを頑張っている人を図書館職員が掘り起こし、紹介してスポットを当てる。あるいは民間企業の社員を派遣してもらって返本作業に当てている。
    • 藤縄
      • ボランティア活動は色々されていたが高齢化。元々活動は盛ん。子育て、福祉、防災に偏っている。高齢化が進んでいる地域で、必要に迫られてそういう団体が作られているが、なかなか市民が参加していくきっかけができてない。
      • 図書館については、まだ必要に追われてそういう活動が行われるに至っていない。行政だけではできない。市民、企業、団体などとの協働。
    • 塚部
      • 基本は行政が運営する。司書は本来の仕事をきちんとさせる。それ以外の、回らないところをボランティアがやる。ボランティアが多いので市民の関心が上がるという面もある。自発的ムードがあるのは幸い。


 以下は感想。もう眠いので適当に。
 同じ図書館政策を語りながら、話されることのトーンはずいぶん異なっていた。個々人の語り口もあるのだろうけれど、やはりそれ以上に人口の増減、財政状態などの自治体の現状が大きく影響してくるのだと実感した。いま人口が増えているまちも30年後には古くなり、高齢化や施設老朽化に悩むのかもしれない。大きなハコの運営を考える以上、そういう長期スパンでの視点を常に頭に置いておかなくてはいけないのだろう。
 それぞれの市長のお話で印象に残った点。

    • 安城市長は、質疑で教育に投資することの重要性をきっぱり断言していたことが印象的だった。いま人口が増えていて経済的にも安定しているからそれで良し、とするのではなく、いまこそ投資しておくという姿勢。
    • 鶴ヶ島市長は、対照的にあらゆる施設を小さく畳んでいくお話。本質を失わないように畳んでいく方法を模索する様子は、似た問題を抱えるどこの町にもヒントになりそうだ。日本のあちこちで郊外型のまちが一気に発展した時代は、それに応じた図書館が一気に発展した時代でもあり、したがって町が老いる時代には図書館も老いていくのだなぁ、と思う。
    • 伊万里市長のお話では、図書館ボランティアのことが印象に残った。特に「ボランティアは図書館の本来的業務はやらない」「図書館ボランティアに参加する人は、まちづくりに参加する傾向の強い人でもある」という2点。前者は、ボランティアの自主企画がとても盛んな他の図書館のトップの人からも同じ話を聞いたことがある。「労働力の代わり」にしないところがポイントなのかもしれない。

 質問したかったな〜と後で思ったこと。図書館を造る時には市民参加で盛り上がるが、できてしまった跡は立ち上げの時に居た人だけが残り、そのひとの高齢化と共に活動が鈍化するというのがありがちなパターン。伊万里市ではそうなっていないのだとしたら、どうやってボランティア間の世代交代ができているのだろう。