アントネッラ・アンニョリ氏講演会「知の広場ー新しい時代の図書館の姿」に行ってきた。〜前篇

 こういうのに行ってきた。

京都外国語大学イタリア語学科主催講演会「知の広場ー新しい時代の図書館の姿」

知の広場――図書館と自由

知の広場――図書館と自由

今回の講演は、来日講演ツアーの一環。ツアー全体については以下の記事を参照。
【イベント】アントネッラ・アンニョリ氏来日講演ツアー(5/25・仙台ほか)

 講演は上記のご著書とかなり重なる内容だったから、アンニョリ氏の思想を正確に知りたい方はそちらを読むとよい*1。また当日の講演についても、既によそのブログ*2で的確な記録をアップされているのでそちらを読むとよい。この上記録は要らないのではとも思うが、メモしたいのは自分だから気にしない。
 いつものようにxiao-2が聞きとれて理解できてメモできて、かつ思い出せた範囲。項目立ては適当。誤記・誤字ご容赦。

  • 翻訳者・萱野有美さんによるアンニョリ氏の略歴紹介。
    • 37年間、図書館の再生事業に携わってきた方。ヨーロッパやアメリカでアドバイザーとして活動されている。図書館のハコを作る人と、図書館の中で働く人の橋渡しのような役目。
    • 今回初めて来日された。日本の有志でお招きした。2年前から活動を始めて、今回来日が実現した。

 以下、アンニョリ氏のお話。

  • 図書館を取り巻く状況
    • 現在、イタリアでも他の国々でも、諸条件のために図書館は姿を変えつつある。そういう時代にある。
    • イタリアは経済危機に直面しており、一方で新しいテクノロジーが入ってきている。使えるお金は少ない。そんな中でもうまく機能している図書館では、革新的な試みがされている。
    • イタリアの図書館の状況を言うと、中・北部では公共図書館が多く、南部には少ない。一方でイタリア全国に、歴史的な蔵書コレクションが存在している。
    • 50%くらいの人しか本を読んでいない状況。文化的な場所へ人が行くことが少ない。ゆえにお金を掛けてもらえないという状況。あいにく、現在図書館に来ていない人を呼びこむ工夫が少ない。本当はそういう人にこそ図書館に来てほしいのに。
  • 図書館の取り組むべき課題
    • 図書館が戦っていく主題としては、3種類の文盲*3がある。
    • 1つめは、テクノロジーに関わる文盲。
      • 全体の54%ほど。特にお年寄りでは、コンピュータが使えない、インターネットも見られない、メールアドレスも持っていない、もちろんiPadもない、携帯電話を使うのがやっとという方がいる。
      • そういう方に対して図書館が何をできるか。PCを設置するだけでなく、使い方を教えるファシリテータの役割。たとえばお年寄りが日本にいる孫にメールを送りたいと思った時、ネットカフェには行かない。図書館にそういう環境があればよい。
    • 2つめは、情報に関する文盲。
      • 必要な情報をネットでどう探していいか分からないという能力の欠落。これは特に若い人に顕著。インターネットをどう使うか、そこで出てくる情報は役に立つものかという判断。
      • 学校で先生が、本を使った調べ物のやり方を教える取り組みをされているのを見たことがある。本はまだやりやすいが、ネットに載っている情報が役立つかどうか見分けるのはとても難しい。
    • アメリカの調査によると、人がGoogleで情報を探すとき、検索結果の1ページ目しか見ないそうだ。1〜2ページ目までの情報で満足してしまう。そこに出てくる情報は、単に検索されている回数が多いというだけで、自分にとっての価値は不明。
    • この役割を担うことで、図書館員にとっては違う仕事の風景が見えてくるだろう。
    • 3つめは、機能的問題の文盲。
      • 書いてある文の意味が分からないという、読解能力の問題。
      • 大学まで行っても、その後本を読まなくなると読解能力は下がってしまう。経済危機に関する記事が新聞に載っていても分からない、といったことが起り得る。
      • 社会の中の多くの人が読解能力を失うということは、民主主義にとって問題。銀行に行って残高が読めない、生活に必要なドキュメントが読めないために自分の権利が理解できず不利な目に遭う。
      • イタリアの研究者トゥリオ・デ・マウロの著書で、「今イタリア人は頭でなく腹で考えるようになっている。なんとなく、感じで投票している」と危惧していた。イタリアの読書量は落ちている。人が本を読むようにしなければならない、でなければ図書館の地位も危うくなる。
  • 図書館サービスの傾向
    • 昨今の傾向として、図書館は大きい建物になっている。本だけでなく、色々な市民の要求に応えるようになっている。他の国でもそう。日本では市役所の中に図書館があるのを見たが、これも興味深い。
    • 現代は、みんな時間がない。生活していく上で必要な機能がばらばらに存在していると、回っていくのは大変。ショッピングセンターのように、ひとつの建物に色々な機能が詰まっているのがよい。
    • 従来型の図書館には未来はない。そういった図書館には、昔から出た本を保存する以外の機能がない。紙の本はまだ残っていくと思っているだろうが、PrivateでもPublicでも、図書館のデジタル化は進んでいく。どんどん複雑になる市民の要求に対応しないといけない。多様でフレキシブルな図書館になるべき。
    • 典型的な図書館サービスはどういうものになっていくか
    • カウンターにいる図書館員が、他の業務にも関われるよう、自動貸出・返却機を備えていく。私の著書の表紙にもなっているボローニャのサラ・ボルサ図書館では、一日に1,000冊の貸出がある。機械があれば、貸出はユーザが自分でできる作業。そういう作業のために人員を使うのは無駄。ユーザにとっても、何を借りたかという匿名性がより向上するので望ましい。
    • 音楽・映画のコレクション。サラ・ボルサ図書館では、当初たくさんのCDを所蔵し、非常に人気が高かった。しかし現在は利用が低下。なぜならオンラインやストリーミングで、音楽や映像を利用できるようになっているから。そうなると図書館のすべきことは、どうやればオンラインから音楽をダウンロードできるか、ストリーミングを視聴できるか教えること。デジタル化されたCDを聴けるサイトをまとめて、見せてあげればよい。図書館のホームページにリンクを作ってもいいし、図書館内のPCからアクセスできるようにしてもいい。お年寄りに対して、若い時に聞いていた音楽をまとめて聴けるようにしてあげるサービスというのもあり得る。
    • 同じことは映画でもあるだろう。アメリカにネットフィックスというサービスがある。これは月5ドルでストリーミング映像が見られるもの。
    • e-booksをどう貸すか、ということも、図書館が直面している問題の一つ。
    • いずれにせよこれらの問題を考えないと、図書館の未来はない。
  • 蔵書について
    • 蔵書についても、要らないものは棄てるという判断が必要。ここで言うのは、歴史的に保存すべき資料のことではなく、ユーザが関心を持たない古い本のこと。そういうものをずっと書架に出していられない。図書館の本の何割が貸し出されているかという研究がある。それによれば、3分の1貸しだされていればよい方だという*4
    • 借りられないのは古いからだけでなく、他にも理由がある。オランダの図書館で、現在最も先鋭的な仕事をしているとある館では、蔵書が書店のようにほとんど平積みになっている。これをやり出してから、驚くほど貸出しが増えた。
      • なお、ここで言っているのは大学図書館ではなく公共図書館のこと。大学図書館には古い資料を保存しておくという役割があり、同じではない。
      • ちなみに日本で面白いと思ったのは、明治大学の図書館等に行くと、大学図書館でも人がいて楽しいような雰囲気を作っていること。日本の大多数の公共図書館よりも楽しい。IFLA大学図書館のミーティングでは、大学図書館も出会いの場になるべきだという議論が出ていた。カフェやサロンのような場所を備え、静かでなく、話しながら勉強できるスペース*5
    • 蔵書の話に戻る。平積みにするのであれば、多くの図書は置けない。従って要らないものは省く必要が出てくる。本が多すぎると、読書家でなければ自分の読むべき本を探すことが難しくなる。図書館は、自館にどんな蔵書があるか見せるファシリテータの役割をつとめるべき。たとえば展示などの方法もある。
    • 日本でもイタリアでもそうだが、本の配列が堅い。昔からのやり方のまま。これに対して最近の傾向としては、人々の興味の向かいどころに沿って並べるという方法がある。これはドイツで実践している図書館がある。たとえばアウトドアとスポーツの本は一緒に置いた方がよい。
    • 所蔵すべき本には、いくつかのポイントがありうる。
      • 1つめは新刊書。
      • 2つめは人気のあるもの。たとえばアウトドアやスポーツなど。
      • 3つめは時事問題。本屋でもよくあるもの。
      • 4つめは今日の社会問題。
    • こういったものを揃えるには、新たな職能を持つ図書館員が必要。
  • 図書館員に求められる能力
    • 今日の、あるいは未来の図書館員のあるべき姿についてよく聞かれる。難しい質問だ。体質として、役人から文化的ファシリテータ*6に変わる必要がある。イタリアではこういう改革は難しい。地方行政は保身の態度を取りがち。アメリカの図書館員のように、図書館員自身が変えていかなくてはならない。
    • いま、図書館をどういう言葉で呼ぶべきか。ファシリテータ。本と人、情報と人、人と社会の様々なものをつなげる役割。
    • こういう図書館員が持つべき能力は、20年前に求められていたものとは違う。もちろん、本や映画や音楽が好きでなくてはならない。だがそれに加えて、複雑な問題に対処していく力、想像する力や変革する力が必要。
    • また、若い人と一緒に仕事ができる人であること。図書館にはティーンエイジャーが来ないが、それが当然ではない。現在の図書館が彼らに相応しいスペースになっていない。彼らにとって関心のある本や、彼らが普段聴く音楽がない。そこに居る人は「静かに!」と言うばかり。
    • アメリカにはティーンエイジャーがたくさん来ている図書館がある。なぜうまくいっているかというと、ティーンエイジャーと一緒に設計したから。どんなスペースを欲しがっているか。どんな椅子や家具を置くか。ビデオゲームWiiが欲しいか。どんな図書館員にいてほしいか。ティーンエイジャーにとっては、静けさや秩序を保つことにうるさすぎない、自分たちと近い趣味を持つ人が求められている。
    • これから必要になる図書館員の職能は、これまでと違う。年齢層もまた、これまで求められたものとは違うだろう。
    • イタリアで最近の図書館の傾向は2点。1点めはテクノロジーWifiの提供など。2点めはフレキシビリティ。同じスペースを色々に使える。たとえばコンピュータにしても設置型ではなく、貸出できるノート型にすれば、利用者は好きな場所に持っていける。
  • 他の活動の可能性
    • 図書館でできない活動なんてない。
    • ロンドンのIdea Storeという図書館がある*7。ここが成功した理由は2つあって、1つ目はまず建物が素敵なこと。2つ目は講習会を開いていること。講習会ではブルカをまとったイスラム教徒の女性が、配偶者に内緒でネットを使いにくることもある。裁縫や料理の講習会もある。特徴は、教えているのは地域の住民であるということ。
    • ボローニャの近くの図書館でも、老人ホームに入っているおばあさんにパスタ作りを教えてもらう講習会などがあった。
    • 料理の本が図書館に置いてあることと、本人が図書館に来て教えることはどう違うか。図書館には生け花でも裁縫でも、本はある。講習会を受けに来て本の楽しみを見つける人も、本を読みに来て講習会に参加する人もいるだろう。
    • 建築についての最近の傾向。図書館は、人が集まって楽しくできる場所。勉強する部分は静かにしなくてはいけないが、それ以外の部分は必ずしも分けていない。大学図書館でも公共図書館でも、勉強用の小さいスペースを設けるところがある。複数人でディスカッションするのに使う。あるいは失業した人が、自宅では狭いので、図書館を勉強の場やオフィスとして使うといったこともある。コワーキングスペースも提供している。市民が集まってディスカッションする場としても使われる。
    • 「知の広場」が日本語訳された時、ヨーロッパのことしか書いていない本なのになぜ日本で読まれるのかと不思議に思った。日本に来てみて分かった。人が集まって、一緒に何かするということに関心が持たれているのだと思う。
    • イタリアには、かつて教会など労働者が集まる場所があった。それが現在はなくなってしまった。「第三の場所(サード・プレイス)」という概念*8。カフェで集まってバックギャモンやトランプをしたり、散髪屋さんに集まって話をしたり。そういう場所は減っている。そうした時代に、図書館はどういう貢献をできるか。
    • 図書館は他のどんな場所よりもサード・プレイスに相応しい。なぜなら中立的な場所であるから。社会的、宗教的条件に関係なく利用できる。

<ここでスライド。アンニョリさんがこれまで見たり携わってきた図書館の写真を投影>
 映像なので、ここは印象に残ったところのみ。

  • フレキシブルに使える場ということで、書架を固定せず移動可能な状態にしている図書館。ブックトラックにすべて積んであるような状態。イベントの時には書架をどけて広く使える*9
  • ペーザロの図書館でのコンサート。この地は作曲家ロッシーニの出生地でもあるが、この図書館に来ている大半のひとはロッシーニを知らない。ピザの名前だと思っている*10。そういう人でも、図書館でのコンサートに来る。
  • 文化施設は、それを使える能力があることをユーザに要求している。文化的な場所の使い方に慣れていない人に、使い方を教えるのも図書館の役目。
  • 図書館での結婚式や、滞在許可証の申請が館内でできるところもある。

 この後は質疑。質疑が非常に充実していたのだが、疲れたのでここまで。

*1:こういう記事もある。CA1783 - イタリアの“パブリック・ライブラリー”の現状と課題 / アントネッラ・アンニョリ

*2:「知の広場ー新しい時代の図書館の姿」アントネッラ・アンニョリ氏講演@京都 20130606|egamiday3

*3:ニュアンスを変えない適当な言い換えを思いつかなかったため、そのまま表記する。以下同様。

*4:なお日本の公共図書館での調査があるのかどうかは知らないが、大学図書館ではこんな研究があるよと教えてもらった。松野渉ほか「大学附属図書館における貸出履歴の分析」

*5:ラーニングコモンズを指すのだろうか?

*6:自分のメモでは「アニメータ」となっていたのだが、いくらなんでも聞き間違いだと思うのでこうしておく。笑

*7:Idea Storeの取り組みについてはかつてイギリスでも議論になっていたようだ。静かな場所からにぎやかな場所へ、変わり行く公共図書館−英Times紙の記事に読者から賛否両論|カレントアウェアネス-R

*8:社会学者レイ・オルデンバーグが提唱した概念で、「家庭でも職場でもない居場所」といった意味だそうだ。

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和訳されてないのか…

*9:xiao-2感想:面白いとは思うが、残念ながら地震国日本のひとである自分は見た瞬間ぞっとした。

*10:そういうピザがあるらしい。