ある素人の医療情報探索。

 最近、身近な人が病気になった。医学の知識なんてまったくない自分は不安で仕方がない。どんな病気で、どうやって治すのか、どのくらい危険なのか、注意すべきことは何か。得意でもないのに、情報収集というやつをやらなくてはならない状況に追い込まれた。
 そんな素人による、医療情報探索行動の生きた実例と感想を述べてみる。まとまってないのは常のことながら、あまり具体的にテーマを書けないのは当事者ゆえの心理だと思いねぇ。

  • まずはネット。

 病名でググってみる。かなりの数のサイトがヒット。だが眺めてみると、検索結果上位でも明らかに怪しげな代替治療や「病気の治る○○」の類が引っかかっている。誰もが不安に感じる問題だからこそ、怪しい情報も混じってきてしまう。もっとも、書籍でも状況は似たようなものだろう。
 ドメイン指定やファイル指定での検索もしてみるが、今度は専門的な報告書や論文の類が出てきて、素人にはハードルが高い。論文データベースの存在も知っているがもちろん基礎知識としては使えない。かえって、怪しい情報の方が誰にでも分かりやすく書かれていたりする。
 大量の検索結果に、より分ける意欲も削がれる。とりあえずWikipediaを一読。これもむしろ専門的すぎる説明が多く、分かったような分からないような気分。玉石混交のネットでまっとうな情報を見つけることの難しさを実感する。

  • ならば図書館だ。

 やはり体系立った知識がほしい。そのためには本だ。ということで近くの図書館へ。
 医学の分類の棚に行くと、素人向けの病気関連の本が何冊も並べてある。ざっと眺めて、その病気に関連するものを2冊借りる。時間がなかったのでOPACは叩かず、棚にある本だけをチェックした。それでも2冊あったのだから、労力の割には上出来。
 ただ、それも医学関係の本が図書館のどこにあるのか自分が把握できていたからこそのこと。何も知らなければ、そもそも役立ちそうな本が図書館にあると思いつきもしないかも知れない。それを思うと、たとえば「医療情報コーナー」のような棚が目立つ場所にあるのは良い。必要のないときに「ああ、ここにこういうのがあるな」と思っておいて、必要になったら見に行ける。
 帰って、借りた本を熟読。治療を受ける患者向けにやさしく解説されている。いずれも刊行年は2000年で最新とはいえないが、具体的な治療法ならともかく、大枠の知識はそう革新的に変化してもいなさそうだ。素人向けにはこれで十分。
 図書館が良書を判断するというのにはいい面と悪い面があるけれど、今回の経験について言えば、信頼できそうな基礎的な本ばかりを置いてくれていたのには大変助かった。基礎を踏まえた上で色々変わった治療法の本を読むのはいいが、逆から入ると混乱する。率直に言って、図書館が利益のためにやっている機関じゃないことのありがたさを感じた。

  • でもやっぱり書店だ。

 図書館の本で一応の知識を得たものの、やはり基礎知識はいつでも参照できるようにしておきたい。また当人やその家族にも読ませたい。そのためにはいつでも再現可能な、固定された情報源を所有しておく必要がある。ということで本屋へ。
 1軒目はジュンク堂。勇んで医学系の棚に行ったものの、この時は当て外れ。医者やそのタマゴの読むような本がずらり並んでいる。素人がいきなり読めるような本はあまり見あたらなかった。常日頃愛してやまない本屋さんだが、こういう目的の時はあまり向かないと分かった。
 むしろ2軒目に行った中型書店の方が、素人向けの本は充実していた。そこで基礎知識の本を購入。
 図書館の本で基礎知識を入れた上での購入という点がポイント。本屋の店頭で信頼できそうな本をいきなり見極めるほどの目利きは、素人には無理。だからと言って関係しそうなものを全部買い占めるわけにもいかない。

  • 感想。

 つくづく思ったのは、切実に困っているときに「正しい情報」を手に入れるのはかなり難しいということだ。
 なぜなら、そういう時の情報収集には強いバイアスがかかる。今回はそれほど大事ではなかったので割合冷静に情報を吟味できたが、もし余命○ヶ月とかいう状況だったら、自分で正確に情報を集めることは難しい。絶対助かりたい、治ると書いてる本はないか!と思ったら、怪しかろうがそういう情報源に飛びつくだろう。
 一方で、レファレンス依頼にも抵抗がある。図書館の人を信頼するしないの問題ではない。当事者になってみて分かったが、○○病関連の本ありますか?という質問を他人に発することに、すでに抵抗があるのだ。いちいち聞くよりも、自分で探せるようにしてくれている方がいい。
 そして、あえて勇気を奮って打ち明けるなら、司書じゃなく医者に聞きたい。あるいはカウンセラーなりケースワーカーなり、実際手を貸してくれる専門家がいい。

  • そして妄想。

 では、図書館には何ができるだろう。
 考えたことの一つは、実際手を貸してくれる専門家との窓口になること。よその図書館で、「地元の病院の医師が選んだ本」コーナーを作っているのを見たことがある。利用する側としては、正直、図書館員が選んだ医療コーナーより信頼がおける。また医師としても患者に説明する上で、この本は先に読んでおいてくれるとスムーズでいいという本があるだろう。イメージとしては、情報リテラシー教育で教員と図書館が連携するような関係があるといい。

 もう一つは、切実な状況になる前に、切実な状況になった時のための知識を提示すること。普通、健康な人が、まだなってもいない病気について医者やケースワーカーに相談することはない。だが情報提供ならば常日頃からできる。別に押し売りしなくても、「医療情報コーナー」の棚が目につくようにして、こういう情報があると知らせるだけでも効果がある。病気そのものと同じ、いったん罹患してしまってから治療するのは専門家でないと無理。だが予防できるように、あるいは罹患しても不安が軽く済むように情報のセーフティネットを張っておくことは、多分図書館の仕事。
 「自殺したくなったら、図書館へ行こう」というフレーズを聞いたことがある。素敵なフレーズだが、本当は自殺したくなってからでは遅い。そうならないような、そうなった場合に役立つような知識を、元気なうちに仕入れる場所。

 以上、個人的体験をきっかけに思ったことでした。。