第9回ARGカフェ&フェストに行ってきた。

 今年の暑さにひっくり返っている間にもう九月。涼しくなってきたのでぼちぼちと更新してみる。

 昨日京都で開催されたARGカフェに参加してきた。今回はライトニングトーク14名。コース料理でもこんな豪華なのはそうお目にかかれない。食べきれるかと危ぶんだのだが、懐石料理さながら美味しく刺激的にいただけた。お陰で頭がちょっと活性化して、放置していたブログにメモを残そうという気になった次第。
 以下、自分による自分のためのメモ。xiao-2の理解できた範囲のみ、誤解・書洩らしあり。タイトルはメモがおっつかなかったのでARGブログに依る。→以下は自分の感想(および妄想)。

  • 岡本真さんによる前説。
    • 本イベントの心得。専門用語は駄目、身内で固まらない、人と人とをつなげること。
    • 2年間試行錯誤してきて、バージョンアップの必要性を感じている。
    • 現在の課題。図書館色の濃化と、常連メンバーの固定化。別に図書館が嫌いなわけではないし、常連が増えることで運営が安定するのは助かる。だが特定の色が濃くなりすぎると他の人が入って来にくくなり、メンバーが固定化しすぎると新しい出会いを提供しにくくなる。これは困る。
    • 今後の見通しとして、ライトニングトークを徐々に推薦制に移行していく。今回のトークで誰が立候補/他薦かは内緒。感想がどの程度違うか、見たい。
    • ARG社の業績報告。とりあえず税金は払えそう。
    • 会社のミッション「学問を社会に生かす」。経験・現場を盲信しない、知識インフラの整備。
  • 木津尚子さん「GLAM-WIKIへの招待−ウィキメディア・プロジェクトと図書館・美術館の協働」
    • GLAMとはGallaries、Libraries、Archives、Museums。社会で情報提供に関わる重要なステークホルダー
    • GLAM-WIKIは、上記4者に対してWikimediaから積極的にアプローチしていく動き。
    • 実践例。オランダ博物館から画像寄贈を受けてデジタル化。キャプションを翻訳、映っている地名やモノの同定作業。英国博物館でのWikipedianに対する無料開館日設定。

→LMAというまとめ方は聞いたことがあるが、そこにGも入るというのがなんだか新鮮。

  • 江上敏哲さん「海外の日本研究サポートのために−日文研からのメッセージ」(仮)
    • 国際日本文化研究センターとは、国際的に日本文化を研究する人をサポートする機関。
    • みなさん職場でサイトなり刊行物なり作る時に、英文表記・ローマ字表記を一言でいいから入れてほしい。
    • 統計情報等、日本語での情報の必要な人が、日本語を読めるとは限らない。

→ハングルのサイトを見せて、ほらインデックスだけでも英語になっているとほしい情報のありかが分かって助かるでしょ?という説明にものすごく納得。読めない人の気持ちは、読めないものを突きつけられるとよく分かる。

  • 石川慎一郎さん「ウェブはコーパスに代わるか?−サイバーコーパスの行方」
    • コーパスとはテキストデータを大量に集めたもの。英語で6億語、日本語で1億語のが作られているが、足りない。大規模に作るにはお金がかかる。
    • webにある大量の文字情報をコーパスの代わりに使えないか、検証してみた。*1
    • 結論。結構使えそう。データ量が膨大なお陰で自己均衡化しているのかも。

→門外漢の自分にもめちゃ分かりやすいプレゼン。知らない専門用語(コーパス)に冒頭でぶつかっても、心が折れずに最後まで面白く聞ける話はほんとにすごい。

  • 土出郁子さん「知の共有!オープンアクセスウィークに向けて」(仮)
    • 10月18日〜10月24日は、オープンアクセスウィーク。
    • オープンアクセスとは、学術研究成果を無料で、ネットを通じて世界中から利用できる状態にすること。
    • オープンアクセスについて語ろう、イベントしよう。サイトもあるから見てね。
  • 白水菜々重さん「イベント×Twitter×USTREAM−邂逅(わくらわ)の支援を目指す研究」(仮)
    • TwitterUSTREAMと連動したイベントでは、主催者−会場参加者−ウェブで見てる人、の三層コミュニティが存在。コミュニティスケールは後者ほど大きい。
    • ツールの充実により、ウェブで見ている人にも臨場感を得やすくなった。ではわざわざ来場するメリット、情報を発信するメリットは?コミュニティごとにメリットはある。たとえばウェブに流すことでより多くの人からのフィードバックを得やすい、等。
    • でもそれって本当?インタフェースでうまいことやるには?…ということを、ちゃんと調べて卒業研究にする予定。

→ネタ満載のスライドが楽しい。自分はイベントはナマで楽しみたい派なので、結論に興味。

  • 久保山健さん「どうなる?どうする?図書館システムとOPAC」(仮)
    • OPACとは図書館の蔵書検索。システムとしての歴史は長いが、取り残され感。
    • ユーザ会を作ってみたけど、活動は停滞。ベンダー単位でも横のつながりがあるといいな。
    • OPACを捨てて、町に出よう。外のものに目を向けよう。
  • 日置将之さん「矯正施設に対する図書館サービス」(仮)
    • 現在、刑務所・少年院に収容される人の数は一日あたり8万人。この人たちは自由に図書館に行けない。施設内の図書室は整備が進んでいない。本を差し入れてもらえない人も多い。自由な読書から隔てられている。
    • そこで「矯正と図書館サービス連絡会」を立ち上げた。公共図書館との連携により、施設内の読書環境を整備する。
    • これにより収容者の立ち直り、社会復帰に貢献。矯正施設に一人を収容するために必要な費用は年250万円程度。社会復帰を支援することは税金の節約にもなる。

→さりげなく最後のポイントに目配りしているところが、すごいと思う。高潔な理想だけでなく、行政を動かすにはこういうロジックがたぶん欠かせない。

  • 井上昌彦さん「図書館員の、図書館員による、自分のための営業活動」
    • ご挨拶がわりにスチール缶潰しを披露。
    • 4年ぶりの図書館勤務。自分ブランディングの必要性を感じて、営業活動開始。
    • 学術的な話等はできない。代わりに外に出かけ、人に会い、ウェットな部分の人間関係を築く。
    • 知り合えた人には必ずメール。ブログ*2Twitterへ誘導。会った一日後、一週間後、一か月後、半年後にメール:「1-7-30-180」ルール。
    • けっこう効果があり、色々なお話が来るようになった。

→外に出て人に会うということだけでも、手を抜かずに続けていればひとつの売りになるのだ。とつくづく感心。もっとも他に売りがないかのようにおっしゃるのは絶対謙遜だと思うが。

  • 河合英紀さん「未来検索とワークショップ」
    • 企業の研究所で検索エンジンを作ったり、web情報の解析をやっている。
    • 未来学という学問がある。未来を予測して当てようとするのではなく、起こりうる様々なシナリオを想定する学問。
    • 未来検索は、マーケティングレポートや報告書に記載された「×年後には△△になる」といった記述を抽出してまとめるもの。○○という語で検索すると、○○についての未来を年表形式で描くことができる。
    • この検索結果を基に、未来を考えるワークショップを開催している。
  • 村上浩介さん「デジタル情報の長期保存とアクセスに向けて」(仮)
    • 11月筑波で「デジタル情報保存に関する国際会議」が開催される予定。
    • たとえば最近入手した5インチのフロッピーディスク。読みだす装置がなく、実際読めるか不明、何が入っているのかも不明。
    • 平成21年に公文書管理法*3が整備され、政府や自治体の政策決定プロセスにかかわる情報を保存しなければならないことになった。
    • 外務省では30年後公開と規定されている。だが保存したものを30年後に読めるのか。5インチのフロッピーディスクはちょうど30年程度前のもの。

→5インチのフロッピーディスク、初めてみた。実際モノを見せられるとすごい説得力。

  • 越智洋司さん「教育工学とARG」(仮)
    • 教育工学。コンピュータ支援教育、e-learning、電子教科書、等を研究している。
    • 教科書や授業でなく、日常身の回りにあるものを活用して学習する「リソース活用型学習」を提言している。
    • 身の回りにあるウェブもリソースとなりうる。具体的に考えているのはウェブリソースの教材化(ex.サイトにふりがなをつける)、リソース共有(ウェブに何があって、どう使われているか)。
    • 図書館は学びの場だが敷居が低いという特徴がある。これを生かしたい。
  • 三浦麻子さん「Scienceのカレントがオンラインで読めないって…何なの?」
    • Scienceに読みたい心理学の論文が載ったが、所属している大学の図書館では最新一年分は読めない。
    • 研究者には最新情報が必要なのだ。なめとんか(←こうおっしゃったわけではない。意訳)。

→最新号が大学の図書館で読めないのには色々事情があるらしい。三浦さんご自身はそれを理解された上でお話しされているようであったが、自分はよく知らないので素朴に何故だろう?と思った。誰かに聞けばよかったなー。

→なんでY型じゃなくT型?とどうでもいいことが気になっていたが、なるほどと納得。最後の質疑でセミナールームの使用にお金がいるかどうか、申請をどうすればよいか等質問が集中していた。ハコモノ批判が盛んな昨今だが、大きくて使いやすいハコは、案外求められているのか。

  • 朝倉康仁さん「日本酒を語らない日本酒バーに集まる人々」
    • 木屋町御池で日本酒バー「あさくら」*5をやっている。100種類くらい揃えている。というとマニアっぽいが、集まる人は日本酒マニアではない。
    • 店で日本酒の話はあまりしない。マニアばかりが集まって内部サークル化するのを避けるためと、お客には偏見を持たずに各自の感覚で判断してほしいから。
    • 「店のおすすめ」はしない。どんな味が好きか聞いて選ぶことはするが、完全に店にお任せというのはやらない。それは思考放棄だと思う。自分で考えて選んでほしい。
    • 結果、おのずと自分で考える人が集まる店になる。情報も集まる。日本酒がコミュニケーションツールとして機能している。

→ARGカフェのトリにふさわしいお話。一番面白かったかも。お店、今度絶対行く。

 で、あとは例によって飲み会。がやがやわいわい、楽しゅうございましたー。

 以下、だらだらと感想。
 やはりこのイベントの最大の魅力は、新しい出会いだと再確認した。トークも、日頃馴染みの薄い分野の話の方が面白い。もちろん理解できなくては始まらないが、馴染みが薄くても理解できるトークというのは本当に質が高い。飲み会では、前から知り合いだった人と、その場で出会った人がつながる瞬間を目にした。まったく理系な人のお話に、文系な課題へのヒントを感じとったりもして、テンション上がる。
 ただ、何度か参加しているとだんだん知っている人の方が増えてきたのも確か。知っている人と話すのも充分面白いのだけど、新しい出会いを提供しづらいという主催側の思いは非常に理解できて、悩ましいところ。楽しませていただいているのだから新陳代謝に協力したいが、これという人脈もなく。うーん。

*1:検証方法の詳細はとても追い切れないし、オフレコでもあるようなので割愛。

*2:空手家図書館員の奮戦記 〜Library0.2からの出発?〜

*3:全文:公文書等の管理に関する法律(平成二十一年七月一日法律第六十六号)

*4:参照:はてなのミッション

*5:お店のブログ:日本酒バー開店日記