支払う人と、使う人。

 たのしくない話をします。


 前の記事で触れた大量アクセスの件をきっかけに考えたのは、どこかの自治体の図書館といえどもWeb上でサービスを展開している以上、全国のあらゆる人からアクセスされることになるという当たり前のことだ。プログラム作って機械的にアクセスする人もいれば、何かのきっかけで全国からアクセスが集まることもあるだろう。
 自分としては、サービスがオープンになるのは嬉しい。自治体の枠を越えて自由な使い方ができるのは楽しい。カーリルさん大好き。


 しかし一方で、そういう使い方が盛んになると、図書館側ではそれに対応できるシステム/運用体制/予算/人の手当てが必要になる。集約すると先立つもの、つまり「お金」の話。これは、なかなか難しい。
 たとえば、くだんの件に関しては、ハードウェアやデータベースの作りが古いのでは?という意見があった。岡崎市の図書館が実際どうだったのか自分は知らない。が、残念ながら常にお財布も人材も不足しているのが図書館業界。古いハードウェアやシステムを使い続けることを余儀なくされている自治体はたくさんあるだろう、とは容易に想像できる。それを最新のものに取り換えて、全国からの大量アクセスどんと来い!とするには、当然お金が要る。

 そのお金は誰が支払っているか。
 基本的には公共図書館は利用料を取らないので、その自治体の住民の税金で運営されていると考えていいだろう*1。ものすごく単純に図書館のユーザ/納税者、を組み合わせると、以下の4種類になる。

1.税金を支払って、図書館を使う人。
2.税金を支払ってるけど、図書館を使わない人。
3.税金を支払ってないけど、図書館を使う人。
4.税金を支払ってなくて、図書館も使わない人。

 1.は一番普通に思いつく、その自治体住民の図書館利用者。2.はその自治体の住民で、図書館使わない人。4.の人はとりあえず関係ない。3.はたとえば相互貸借で他自治体から資料を借りる人や、Webサービスを使う人、と考える。
 すると問題に気付く。Webサービスが充実すれば3.の「使う人」はどんどん増えるけれど、それは1.や2.の「支払う人」の増加や、満足度の向上には必ずしも結び付かないということだ。
 自治体というのは「支払う人」の意向に左右されるようにできているし、そうでなくてはいけない。となると、「使う人」が増えるからといってひたすらコストをかけるわけにもいかない。


 この問題は、資料の相互貸借ではすでに表れていると思う。相互貸借というのは、自分の欲しい資料を地元の図書館で持っていない場合、持っている図書館から取り寄せてくれる仕組み。たいていの公共図書館で受け付けてくれる。ユーザにとってはとても便利だ。
 しかし貸す側から見るとどうか。梱包・発送の労力がかかるうえ、資料を貸し出している間は、自分のところのお客さんに提供できない。もちろん図書館の人はお互い様だということで理解しているけれど、そのコストを「支払う人」からすれば、自分の満足度が上がるわけではない。「支払わないけど使う人」からの相互貸借の申し込みがたくさん来て、そのコストが他のサービスを圧迫するようなことがあれば、「支払う人」は不満に思うかも知れない。
 実際、とある県の職員の人(図書館の人ではない)に相互貸借の話をしたところ、「うちの県民の税金で買った資料を、他県に貸すことのメリットは?ないなら貸さなくてもいいよね」という趣旨のことを言われたことがある。「支払う人」のことを第一に考えれば、当然こういう発想が出てきてもおかしくない。


 支払う人はローカルなのに、使う人はグローバル。支払う人は有限なのに、使う人は無限。非対称だ。
 これから電子図書館化が進むと、自治体の壁を越えて資料をやりとりするための物理的な制限はどんどんなくなっていくだろう。それでもコンテンツが無料にならない限り、お金の問題はついて回る。どこかでこの非対称を解決しなくてはいけない。
 一応、解決策は2方向考えられる。ひとつは「支払う人」だけが使えるように限定すること。図書館システムを囲い込んで、住民コードなり利用者登録番号なりを入れないと利用できないようにしてしまうなど。だが、どう考えても利用がめんどくさそうだし、第一そんなシステムばかりになったらつまらない。そういう方向には進んでほしくない。
 もうひとつの解決策としては、「使う人」の増加を収入に繋げられる仕組みの導入。たとえばアフィリエイト広告の掲載など、だろうか。公的機関で導入するのは、仕組み上ハードルが高そうだが。しかし果たして実効性があるだろうか。


 たのしくない話は以上。
 たのしくないうえに、単純化しすぎて乱暴な論であることは自覚しています、ごめんなさい。もっと冷静に考えて何か思いついたら、また書くかも。

*1:実際には、住民じゃないけど県内で買い物した人の消費税がとか、例外がいっぱいあるが。