たまたま買ったこの本が、きっかけだった。
- 作者: 室井まさね
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2013/08/29
- メディア: 新書
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…そして海と船の本を探すなら神戸・元町の「海文堂書店」
ここは海事専門出版社「海文堂出版の出店でインディーズ本も多彩だ!(第8章「お探しの本はここにあります」p81)
さらに章末のクイズにも「海文堂書店」が登場している。
これを見て自分は「あれ?」と思った。この本を買うより前の8月5日に、閉店のお知らせを聞いていたからだ。
2013/8/5 15:12 神戸新聞NEXT
神戸の海文堂書店、9月末閉店 創業100年目前 経営不振
http://www.kobe-np.co.jp/news/bunka/201308/0006222618.shtml
改めて本を見ると、「本書に掲載されている情報やデータはすべて2013年8月1日現在のもの」とある。発行日は8月31日、自分がこの本を買ったのは9月1日。なんと製作から読者の手元に届く前までに閉店が決まってしまったことになる。
本がどのくらいのスケジュールでできるものかはよく知らない。が、8月1日時点でデータを固め、マンガの筋*1を作り、作画して、校正して、レイアウトして、印刷・製本して、各書店に配布…という、モノを作って運ぶプロセスを考えると、仮に途中で閉店の情報が入ったとしてもどうしようもなかったのかもしれない。この手の本でデータの陳腐化は避けられないとは言え、作り手にとってはなんともタイミングが悪かったとしか言いようがない。
巻末には参考文献・サイトと取材協力者の一覧がある*2。海文堂書店は取材協力先に載っていない。ほんの一部の記述なので、二次情報をもとに書かれたのだろう。さすがに直接取材があれば、書店側の人も何か言ってくれたのだろうけれど。
ところで、これが書店に直接取材して書かれた本だったらどうだろう。無くなるお店の話は二度と聞けなくなるし、中の様子は二度と見られなくなる。閉店によって、その情報はむしろ貴重なものになったかもしれない。
…と思っていた矢先、こんな本の存在を知った。
海文堂書店の8月7日と8月17日
(発行社「夏葉社」のサイトに詳細あり:http://natsuhasha.com/)
この本は閉店決定後に作成されたもの。タイトルのとおり8月7日と17日に写真撮影があり、9月20日発行、21日に発売されたという。内容は、海文堂書店の一日を撮った写真集。本棚、売り場、バックヤード、働くスタッフの様子が淡々と撮影されている。言ってみれば、それだけ。
だが、それがとても素敵だと思った。改まったお店の歴史などは、後でゆっくり回顧してもらうこともできる。しかし、なんでもない普段の姿というのは案外残らないものだ。常連さんでも、もしかしたらお店の人でも、当たり前すぎていちいち記録していない。後で振り返るには、そういうものの方が貴重だったりする。
それをあえて出版するということにも、心意気を感じる。お店との別れを惜しむ人たちが写真を撮り、SNSやブログにアップしても、10年後までその情報がアクセス可能な形で残るかどうかは分からない。紙の本として売られたものは、誰かの手に渡って、その後もしかしたら人に譲ったり古書店に行ったりするかもしれないけれど、1部でもどこかに残っていれば見ることができる。
自分も1部買ったけれど、発行元の夏葉社さんが是非国会図書館に納本してくれることを願う。そうすれば、誰でもアクセスできる海文堂書店の記憶が少なくとも1つ残る訳だから*3。
という訳で、思わぬことで紙の本というメディアの限界と可能性とを再認識することになった。たまたまそれが書店についての本、それも閉店する書店についての本というところに、なんとも皮肉を感じてしまう。