被災地から離れた図書館に、できる(かもしれない)こと。
この度の災害で被災された皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。どうか一人でも多くの方が、一日も早く、安心して暮らせるようになりますことを祈ります。
…こんなところで書くのもなぁ、と思いながらも、やはりこの言葉を書かないと先に進めない。
自分はたまたま、特に被害のない地域にいる。被害の大きかった地域にあまり馴染みはなく、親類縁者友人に関しても幸い今のところ最悪な知らせは届いていない。それでもやはり不安ではあるし、悲惨な映像を見ればもどかしい。何かできることはないのかと足ずりしたくなる。
図書館界隈を見渡せば、やはり皆さん動きが素早い。
もちろん機関としての取り組みもある。自分が見つけたうちで早かったのは大阪府立図書館。被災地の人からのレファレンスにも応えることにしたという。素早い動きに感動したので、ちょこっと転載。
お知らせ(平成23年3月15日)
東北地方太平洋沖地震により、現地の図書館にも大きな被害が生じていることから、次の県にお住まいの方からも「全分野」のご質問をお受けいたします。
青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県
期間: 平成23年4月30日(土)まで(それ以降の扱いについては、状況により判断いたします)
大阪府立図書館 e‐レファレンスのご案内
他にも被災者の方向けの特別サービスを設けているところはいくつもある。地区外でも貸出に応じるとか、疎開してきた被災者向けの情報提供とか。いいぞいいぞ、と心で拍手。
で、さらに考えてみる。被災していない図書館が、直接被災者にでなく自分の地元に向けて(つまり通常のサービスの枠内で)できることは何だろう。義捐金やボランティア受付の窓口紹介等は、既にあちこちでされている。それ以外、中長期的にはどんなのがあり得るだろう。
ということで、以下は自分の妄想メモ。
- 「デマに惑わされないよう正しい情報を得る」ためのお手伝い。
当面これが最重要だろう。特に放射能関係。
もともと放射性物質に関してよく知っている人は世間にあまりいないから、何が危なくて何が過剰反応なのか分からなくなっている。もちろん本当に危ないものは避けなくてはならないが、問題のない産物まで風評被害でみんなが買わなくなってしまったら復興がますます遠ざかる。実際、自分の住む地域でも東日本産の農産物を急に見なくなった。農業漁業畜産業、大打撃だろう。
もっと怖いのは差別。今各県で被災者の受け入れを検討している。また、被害を受けた地域で生活できなくなって、やむなく別の地域に移住される方もいるだろう。その時に、たとえば原発の近くに住んでいたという理由で入居拒否されたり、子どもが学校でいじめられたりしないか。万一被曝した人がいても、その人に触ったら「放射能がうつる」訳ではない、という知識くらいはみんなが共有しておいた方がよいと思う。無知は風評被害と差別の温床で、それを防げるのは正しい知識しかない。
そして、こういう混乱した時に正しい知識を得るのはけっこう難しい。ネットには冷静な情報も流れているけどデマもずいぶん流れている。公共図書館のユーザにはネットでの情報収集に慣れていない人もいるだろう。しかもデリケートな問題だけに、本でもしばしば不安を煽るだけのトンデモ本が見受けられる。目利きの力が不可欠だ。
- 「被災地と被災者のことを知る」ためのお手伝い。
これは自分が東北にさほど馴染みがなかったから思うのかもしれないが、被災した地域はもともとどういう所だったのか?を知ることも必要。
身の回りの人の反応を見ると、たとえ被災地に知己がいなくても、その場所を旅したことのある人の方が災害をリアルに感じている。津波に飲み込まれたところにどんな町と文化があったのか、どんなきれいな風景があってどんなうまいご飯があったのか。失われたものの価値を知らないのと知っているのでは、理解の深さが違う。
また、疎開者の受け入れ下地を作るという意味もある。同じ日本人とは言いながら東北と西日本はやはりずいぶん離れていて、文化的にも違いがあるだろう。いくら良い人同士でも、文化の違う人を受け入れることになれば必ず摩擦が発生する。その時に相手の土地のことを知っていると、少しでも摩擦を避けられるのではないか。
もちろん土地だけでなく、大きな災害を経験した人がどういう心理にあるか、どう接すればいいか知っておくことも要るかもしれない。阪神淡路大震災関連の情報が役立つだろう。
- 「今後の不自由を迎え撃つ」ためのお手伝い。
今回の災害で、東北に拠点のあった企業等はかなり損害を受けたはず。当分物流も混乱するだろう。直接被災した地域でなくても、物が品薄になったり、お給料が下がったり、たぶんこれからいろんな面で、じわじわっと影響が出てくるだろう。それに対して何ができるか。…正直、これはまだ思いつかない。
もうちょっと卑近なレベルだと、製紙工場が損害を受けたのでこれから紙不足で出版物が出しにくくなるという話を聞いた。Twitterで流れてきた情報で裏は取っていないのだが。新刊書籍が出回らなくなると、図書館を利用する人が増える可能性がある。と言うより、図書館たるものここで頑張って「新刊出ない→本読まない→読書の習慣廃れる→出版回復しても売れない」という残念な展開を食い止め、出版界のために一肌脱いでくれたらカッコいいな。
- 「忘れない」ためのお手伝い。
そして、実はこれが一番重要かもしれない。
今これだけマスメディアでもネットでも被災地の情報が溢れかえっていると「忘れる」なんてありえないことのような気がするが、世間の忘れっぽさは恐ろしい。あの阪神淡路大震災の時でさえ、関東の人は数日後に起きた地下鉄サリン事件に気を奪われて震災の印象が薄れてしまったという。マスメディアの報道はどうしても東京中心なので、原発がうまく落ち着いて首都圏が復旧してきたら、東北がまだまだの状態でも報道が少なくなるのではないかと危惧している。
一時的な義損金はずいぶん集まったようだけれど、半年後、一年後、三年後にも、たぶん復旧のためのお金は要る。その時まだ募金を続ける人はどれだけいるだろう。
ずっと関心を持ち続けることが、一番基本で一番難しい支援。図書館には、そのお手伝いができる。
以上、どちらかというとユーザとして望むことを、思いつくまま書き流してみた。特別なことでなくても、日常の中でも、そしてささやかでも、図書館にできることはある。