大学図書館問題研究会近畿3支部合同例会「オンライン教材,教学IRと大学図書館」に行ってきた。〜その1

 こういうのに行ってきた。

2016年3月21日(月)大学図書館研究会近畿3支部合同例会「オンライン教材,教学IRと大学図書館
http://d.hatena.ne.jp/dtkosaka2010/20160301/1456809655
「高等教育におけるオンライン教材の現状、教学IRの実践事例、大学における情報リテラシー教育事例についてそれぞれご報告いただき、広い視野に立っての大学教育の全体像を知り、大学図書館の役割について考える機会になればと思います。」(当日配布資料より引用)

  • 参加者によるつぶやきまとめあり*1

 という訳で、以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。誤記・誤解ご容赦。敬称は「氏」に統一。当日の参加者は30名程度か。前半で3名の方から発表、後半でパネルディスカッションという構成。

  • 「オンライン教材の動向と大学図書館の役割 −米国の事例を中心として」船守美穂氏(東京大学教育企画室)
    • 東京大学を卒業後、三菱総研→文部科学省。2012年からMOOCなど、オンライン教育の動向を追っている。
    • 欧米にはオンライン教育の伝統があり、10-20年の実績がある。MOOCはその完成された形。日本ではいまのところ低調。
    • オンライン教材の定義
      • 1つめは学習教材。教科書のPDFファイル、副教材、参考図書など、本になりそうなものを電子ファイルで提供するもの。
      • 2つめは講義を含むもの。ビデオ講義など。アメリカのフェニックス大学*2などオンライン大学。何十万人という単位で学習。
      • 3つめは、LMS*3を含むプラットフォーム。日本では3分の1ほどの大学が提供。欧米では必須となりつつある。授業のパワーポイントをアップしたり、レポート提出をシステム上で行ったり。
        • 日本で普及しにくい理由。500人クラスなどの大人数教室があり、管理しきれない。また日本だと教員がメインで学生の教育を行うが、欧米ではシステム利用に慣れている若いTAなどが果たす役割が大きい。
      • 4つめは、それ以外。シラバスなど講義付帯情報の管理や、学修管理など。
      • 1〜4を総称してオンライン教材と呼ぶ。
      • プロバイダも色々ありうる。出版社、プラットフォーム提供者、オンライン大学、大学関係者など。ひとつのプロバイダだけでなくすべてが融合しつつあり、流動的な形。
    • 具体的な形
      • オンライン教科書
        • 実例。Pearsonという教科書会社が作成した物理の教科書。アニメーションを使って説明する。紙の教科書を買うと見られるようになる*4
        • 教科書本体だけでなく、概要、アセスメント、指導マニュアルなどをパッケージにして売っている。価格はかなり高い。
      • MOOC
        • オンラインで用意されたコース通りやれば、一通りの知識が身につくというもの。内容は硬いものが多いが、専攻外の分野でも学べる。
        • 知識の確認は選択式のテスト。ひとつのMOOCで、数万人単位の受講者がいる。
        • レポートはピアレビュー方式。自分のレポートを提出すると、他の受講者3人からコメントがつく代わりに、3人分のレポートをレビューする仕組み。レビューをしないと、自分のレポートについたコメントが見られない。
        • 実際に受講してみたら、3人からのコメントはまちまち。辛口のもあれば親切なのもあった。大学のレポートと異なり、先生ではなく同じ受講者からのコメントという点に意味。
      • オンライン教材のイメージというと、MOOCの講義動画が浮かぶことが多い。しかしオンライン教育自体には10-20年の歴史があり、今ほどネットワーク環境が発達していない頃には動画ではなく、テキストベース、文章が主流だった。この課題について何を学ぶかが説明され、Resourse Guideとして参照すべき本やデータベースなどが紹介されている。それらを自分で読み解いて学べ、というスタイル。
      • ハイブリッドな学習プラットフォーム。色々用意して、ユーザがカスタマイズする。
    • アメリカの高等教育の現状
      • 3つの課題に直面。
        • 高等教育のマス化、ユニバーサル化
        • 高等教育財政の逼迫
        • 学生の多様化
      • これらにより授業料が高騰し、学生ローン地獄などの問題が出てきた。高い学費を負担して高等教育を受けても就職が見つからない*5。知識基盤経済を揺るがす状況。
      • 3つの課題から導かれる2種類の要望。
        • マス化→財政逼迫→学生一人あたりのリソース減少。
        • マス化→進学率上昇→学生多様化→学生のやる気や前提知識にばらつき→きめ細かい学習支援。
        • つまり、より少ないリソースでよりきめ細かい支援が求められるようになる。
      • 大学の授業料高騰。4年制州立大学で、過去5年で3割ほどの授業料上昇。私立はもっと。
      • 一方で、2000年以降非常勤講師の数は減少。これは開講できる科目が減り、提供できる単位数が減ることを意味する。このため、入学しても履修ができないという事態が起きている。
      • カリフォルニア州立大学ロングビーチ校では、追加200ドルで優先的に履修登録できる制度が導入された。履修登録システムのオープン当日に満席になってしまい、必修単位が取れない。追加料金を払ってでも登録したいという現状。
      • 高い学費と困難な履修登録。こうした状況から、大学を続けられずドロップアウトしてしまうケースが増えている。アメリカの4年制大学において6年以内に卒業できる率は6割程度。
      • こうした状況において登場したのがMOOC。
      • 無料、大人数が受けられる、単位が取れる、という救いの神。ハーバード、スタンフォード、MITなどのエリート大学もMOOCを開講。
      • 実は、「MOOC登場で大学が要らなくなる!」と騒いでいたのは、大学よりも行政側。カリフォルニアではMOOC受講を正式の単位として認定しようという法改正の動きがあった。結局潰れたが、これも行政側の思惑が背景に。
      • それほど期待されたMOOCだが、一年くらいやってみると新たな問題点も出てきた。
        • 実際にやってみるとMOOCを受講しているのは学位取得者ばかりで、大学に行けない人の教育の補完になっていない。
        • 無料というのは受講者にとっての話で、大学としてはMOOC開講に3千万くらいかかるケースもある。
      • このため趨勢は、MOOC→オンライン教育→パーソナル学習支援の方向に。
    • アメリカの学部生の特徴
      • 73%がノン・トラディショナルな学生。いわゆる「トラディショナル=高校卒業してそのまま入学してきた学生」ではなく、家族がいたり、パートタイム学生だったり、フルタイムでの勤務についていたりする。
      • 仕事、子育て、介護との両立が課題。修了が困難。3年以内の中退率を見ると、ノン・トラディショナルの学生の方が高い。
      • ノン・トラディショナル学生は、9時から17時まで教室にいることが難しい。非同期的学習が中心となる。成績評価はレポート。受講時間による単位でなく、「できること」で単位を与える。Direct Assessment Programs。
      • 学習援助。州政府が「これなら教員なしで高等教育が可能になる」ということで運営交付金を出す。
      • 事例。ウィスコンシン大学のUW Flesible Option。「All you can learn」コースなら、3ヶ月間定額で学びたいだけ学べる。
    • ラーニング・アナリティクス
      • 教材の自動提示。この背景にはマス化した高等教育。マクロなデータにより、学習者に合わせたきめ細かな支援を行う。
      • アメリカの高等教育の課題として「少ないリソースで、きめ細かい支援を」を挙げた。オンライン化により教育コストが削減でき、Analyticsによりパーソナルな学習支援が可能となる。ゲイツ財団などがこの考え方に共鳴し、お金を出してくれている。
      • 事例。アリゾナ州立大学ではアダプティブ・テクノロジーを活用。
        • edXを活用した初年次教育。
        • 履修の自動助言システム。たとえば心理学は人気の分野だが、統計学の知識が必要になるということを認識せずに受講し、落第する学生がいる。落第の可能性が高い場合にはシステムが異なる専攻を提案したり、統計学の履修を奨めたりする。
    • アメリカの大学教科書事情
      • 教科書代が高騰。1冊200ドル前後もする。本体だけでなく、電子版、学習ガイド、ラボマニュアルなどを込みにして価格が上がる。フルタイム学部生の年間の教科書代は1100ドル。
      • なぜ高くなるかというと、副教材をバンドル販売すること、頻繁な改訂。
      • また一般的な市場と異なり、「生産者(出版社)−消費者(学生)」の間に教員が入る構造。教員は教科書の価格を知らされないため、高くても教科書として採用し、学生はそれを買わなければならない。
      • アメリカの学生団体のアンケートによれば、価格のために教科書を購入しなかった学生が65%いる。一方で「教科書がないと成績に影響が出る」と考える学生は93%。
      • 「オープン教材として提供してほしい」という学生の声。
        • ここでいっているのは、必ずしも電子版で出してほしいという意味ではない。調査の結果からも、学生自身は必ずしも紙よりも電子版教科書を好む訳ではない。ハードコピーは有料オプションで構わないから、とにかく見るのは無料にしてほしいという要望。
      • 教員はどのように教科書を選んでいるか。調査によれば、評価ポイントは、自分の評価と価格。一方でOER(Open educational resources)であるかどうかの優先度は低く、知らない人もいる。
    • オープン教材に向けた政策動向と事例
      • 連邦レベルでの政策はおもに3つ。
        • 教科書代開示の義務化(2008)。アンバンドル(教科書本体と副教材等はバラ売り)を義務付けるなど。
        • オープン教材作成のための助成プログラム。
        • テクノロジー活用。
      • 州レベルの活動では、カリフォルニアが進んでいる。オープン教材の作成に助成。
      • オープン教材は色々あるが、質も玉石混交という課題がある。そこで大学教員によるレビューを行う仕組みを導入。
      • Affordable textbook。教員に採用されれば助成金が出るという仕組み。教科書乗り換えのコストを避けがちな教員へのインセンティブ
      • 事例。Open Stax College*6。ライス大学のイニシアティブ。中身もしっかりしたものができてきている。
      • Open course libarary*7。30ドル以下で学べる教科書が基準。有料のものも含めたのは、無償のコンテンツに限ると今テンス数が制限されるため。
      • オープン教材は乱立状態。
    • 大学図書館の役割
      • OER採用について、学生から図書館に働きかけ。先生には直接言いづらい。学生の要望を図書館で集約する。
      • 教科書案内に、無料の教科書を提示する。これらが図書館のやること。
      • 日本への示唆
        • 日本の大学生の勉学費は右肩下がり。教科書代が高騰しているからOERへ、という流れは当面なさそう。
        • むしろラーニング・アナリティクスを用いた学習支援という観点からオンライン教材が求められるのでは。
        • リポジトリと同様に、ある程度予算がついて実行されることが望ましい。
      • なお、ここまでオンライン教材とオープン教材の事例を混ぜながらしゃべっているので混同しないよう注意。
      • 最後に宣伝。今年の7月に熊本でIR関係のカンファレンスがある。専門的能力を持つ職員による運営の実務について情報が得られるので、興味があればお越しを。

5th International Congress on Advanced Applied Informatics | July 10-14, 2016 | Kumamoto, Japan

 という訳で、1本めの発表に関するメモは以上。続きは気が向いたら。