第13回情報メディア学会研究大会発表パネルディスカッション「デジタル化を拒む素材とアウトリーチ」に行ってきた。〜その2
前の記事の続き、第2弾。例によってxiao-2が聞き取れて理解できてメモできて、なおかつ覚えていた範囲。項目立ては適当。敬称略。
前半のパネリストスピーチを踏まえ、休憩を挟んで後半はディスカッション。休憩中にフロアから質問票を集めて、司会が整理して話題を振っていくスタイル。なので各トピックの冒頭の司会の発言は、本人のご意見と質問とが混ざっている。
- 続けることについて
- 大場
- 国立国会図書館(以下、NDL)の場合、デジタル化から手を引くと自らの存在意義に関わる。続けていくしかない。生き残りをかけて、存在自体を知ってもらう、使ってもらう。
- 茂原
- 田中
- Japan Knowledge(以下、JK)の場合は商用データベースなので話はシンプル。お客様がいる限りはやる。ただ会社自体がなくなる可能性はある。そういったリスクの保障として、電子書籍については、データベース購入と同時にDVDで画像を渡している。検索はできないが、無いよりはいい。
- 後藤
- 古文書デジタル化の場合、最悪本物があればなんとかなる。
- 続けるのは自分でなくてもいい。機関がなくなっても、データが残っていればOK。そういう残し方もある。
- 公だから残る、民だから残らないというものではない。明治政府より歴史の古い企業だってある。要は維持できなくなったときにも引き継げるようなライセンスで作っておくこと。
- コストの問題。授業で学生に「消費税が1%上がる代わりに、日本のすべてのアーカイブが素晴らしい状態になるとしたらどうする?」と聞くと、みんな渋い顔をする。そういうものそういった社会的合意をいかにとっていくか。
- 江上
- データカタログサイト試行版*2のような話もあった。あれはむしろ公だから起きたことで、お金をとって契約しているサービスだったらあり得ない。逆に民だから保証されるという部分もある。
- JKや渋沢実業史センターのコンテンツがもし維持できなくなった時、NDLに引き継いでもらうという可能性はあり得るだろうか。
- 田中
- 大場
- データベースとしての保存と、個々のコンテンツの保存と言う2つの問題がある。NDLの建てつけとして、後者は馴染みやすい。それでも権利処理やフォーマット整備がしっかりしているという前提。前者は非常に難しい。以前D-navi*4というサービスをやっていたが、これも続けられなくなってやめている。
- 茂原
- 引き受けてもらえるのであれば嬉しいが、難しいだろうと思う。
- 江上
- 続けることは、100年後のユーザへのアウトリーチとも言える。
- 大場
- 人材育成
- 江上
- 90年代には「やれる人がやる」という風潮で、人材育成がなされてこなかった。今後育成をどうすればよいか。また海外で営業をできる人材にもtめられる要素とは。
- 大場
- 人材育成は難しい。システムに強い人材をどう育てるか。NDLのように大きなところでも、たとえばハードウェアの細かいところまで分かるような人は限られる。内部や外部での研修をやっても追いつかない。経験者に仕事が集中したり、CIO補佐官や外部研究者に協力を求めるなどすることになる。コンテンツの中身についての知識自体は、蓄積があれば分かるようになっていくが。
- 田中
- この分野は確立されていない。作って売っているベンダーの立場としては、全部できる人が欲しい。育てるのはほぼ不可能。コンテンツのことをやっている人に、隣の領域を学んでもらうといったやり方になる。
- 後藤
- 大学で教える立場として、古文書の扱い方といった資料保存のことは教えられる。一方それと別に、プログラミングや開発のことも教えられる。さらに、出来あがったシステムを運用していく能力が要る。実際に一番必要なのは、実現のための運用や交渉力であることが多い。これは必要だが、教えることが難しい。
- 学生についても、文系の子は数式を見ると逃げ出すし、理系の子は文章を書かせるとめちゃくちゃだったりする。
- 茂原
- コンテンツ、データベースを保持していくキュレータが必要。*5
- 江上
- 江上
- ユーザからのフィードバック
- 江上
- デジタル化したものについて、ユーザから褒められるとモチベーションが上がったりということもある。ユーザからのフィードバックについて。
- 茂原
- 大場
- 新しいサービスを始めた時の反応は3日程度というのは同意。新聞で取り上げられるともうちょっと長く続くので、しめしめと思う。そういう時の記事はサービス開始自体を取り上げるものが多く、コンテンツ自体に言及されることは少ない。
- 機能面では、ブログ等での反響は結構気にして、次回改善に取り入れたりしている。
- 田中
- うちはお金をもらっているのでもっとシビア。4月にリニューアルしたが、その後2週間くらい会社に行くのが嫌だった。毎日電話がかかってきて、怒鳴られたりもする。満足している人の方は何も言ってこない。
- 後藤
- うちは研究系なのでJKよりのんびりしている。使いにくいと言われることはある。
- 大場
- ちなみに、海外の人からは近デジはすごく褒められている。
- 江上
- 海外からの需要はあるということ。ユーザがどうコメントすれば改善しやすいか。どんなことを言ってほしいか。
- 田中
- データベースのコンテンツを集めるにあたっては、どんなものが欲しいかという図書館員の声を集めている。どんな声でも、もらえた方が嬉しい。
- 江上
- で、何がデジタル化を拒んでいるのか?
- 茂原
- 権利、ビジネスモデル、コスト等をすべて引き受ける人とカネの不足。
- 大場
- お金をどうするか。NDLの場合は税金を経由してお金をもらっている。これだけ払ってJKを契約してもいい、これだけNDLに予算を割り振ってもいい、と皆が思うこと。
- 茂原
- 満足したら、その旨言ってほしい。それもできれば組織の上の方に。
- 後藤
- 「デジタル化して何になるのか」と上司に反対されるようなケースもある。メリットをきちんとプレゼンできる必要がある。流出などのデメリットへの恐怖も大きい。内部の抵抗を潜り抜けるためにユーザの声が必要。
- 茂原
- アウトリーチ
- コンテンツ作成者との交渉
- 江上
- 大場
- 初めは、メタデータを人に渡すこと自体に抵抗を示されるケースがあった。現在はずいぶん抵抗がなくなってきているが、それでもNDLサーチで検索・表示されるまではOKでも、データ再配布は嫌がられるケースが多い。
- 田中
- 交渉は確かに大変。DBとして何かやる度に、各出版社に出向いて許可をもらわなくてはならない。しかし欠かせない、大事なこと。
- 大場
- 交渉は人の問題という部分は大きい。メール一本でいきなりお願いしても駄目。何度も話をして、繰り返しコミュニケーションするしかない。
- ユーザ理解
- 江上
- ユーザ理解をいかにするか。想定しているユーザ、していないユーザがいる。
- 大場
- 見えているユーザ像は一部でしかない。サービス側として想定するコアユーザはいて、そのひとたちをターゲットに考えるが、想定していないユーザは必ずいる。どんな風にも使える柔軟性を組み込むことが必要。
- 茂原
- ユーザの声は本当に知りたい。図書館として直接ユーザに触れる仕事をしている訳ではないので、やりとりするのは職員だけ。ただ博物館部分では直接ユーザに触れる*11。
- 後藤
- 田中
- 以前当社ではユーザと呼んでいたが、「お客様」と呼ぶようにした。社内でもそう呼ぶ。そうすると自分たちの姿勢が変わる。細かいことだが大事。
- 江上
- 情けは人のためならず。アウトリーチは施しではない。届きにくい人に届けることで、その人が何らかの成果をあげ、社会全体の礎になっていく。
- 江上
ディスカッションのメモは以上。あとはxiao-2が思ったことを走り書き。
- デジタル化資料の問題は、実は紙の資料と共通する?
- データベースの維持の話題が出てきていたが、本質的には紙の資料の場合とすごく似ていると感じた。たとえば有名な学者が亡くなったので、蔵書を図書館に寄贈したいというケースを考える。個々の蔵書ではなく、コレクション全体をそのまま維持すること(≒DBとしての保存)は、図書館にとってはけっこう難しい。まして公開できない所蔵者の私信(≒権利処理が微妙なもの)や未整理の紙束(≒フォーマット整備が微妙なもの)があればなおさら厄介。
- またアウトリーチにおける「インデックス整備=機械に読まれやすくすること」と、「コンテンツ紹介=人間に読まれやすくすること」という2つのポイント。前者は目録整備の延長、後者は言わば書評であり解題執筆でありキュレーション。違う能力が必要だ。考えてみるとこれもデジタルで初めて出てきた問題ではない。開架ブラウジングというとても強力な発見手段がない状態で、書庫内の資料をいかにアピールするか?と置きかえれば、図書館の人が従来知恵を絞ってきた問題になる。
- フィードバックと、コスト負担者への説明責任
- 紙とデジタルの一番の差は、後者は作る時だけでなく、その後もずっとコストがかかり続ける点。コストがかかるということは、そのコストをつぎ込むことの社会的合意を常に得続けなくてはならない。ディスカッションでは、モチベーション維持やコンテンツ作成への反映という面から議論が展開していたが、自分としてはフィードバックをいかに社会的合意につなげるかが気になった。
- 機関ホームページからでなく、Google等を介してコンテンツに直接アクセスする利用が多いという話があった。そうすると図書館はプラットフォームとかインフラという役割になる。大事な役割だが、それが成功すればするほど「図書館」の存在感は薄くなる。
- たとえば貸出・複写であれば、これだけの人がこの本を読んだ(読まずに返したかもしれないけど、ともかく一瞬手元に置きたいと考えた)とはっきり分かる。なんだかんだ言われながらも貸出件数が図書館の評価指標として使われ続けるのはそういう理由だろう。一方、デジタルコンテンツへのアクセス数にそれと同じだけの重みがあるのかどうかは分からない。アクセスは手が滑っただけでも増えるし、「何故アクセスしたか」を把握するのはプロでも難しい、というお話を聞いたこともある*12。たとえば転載の申請制度を取っていればどの論文でどれだけ使われたか分かるが、完全フリーだとそれも把握できない。その時、デジタルアーカイブは何をもって評価されるべきか。
- デジタル化資料=「無料で使える」ではない。なぜなら「デジタル化=無料で運用できる」ではないから。ユーザか財団か国民か、コストを払う人が誰かいなくてはいけない。従って払う人への説明がいつでもできなくてはならない。
もう眠いのでまとまっていないが、色々なことを考えさせられる充実したパネルディスカッションだった。
*1:Uniform Resource Identifier:統一資源識別子|Wikipedia
*2:政府のデータカタログサイト(2013年12月より公開)の試行版が、2014年3月31日に公開中止となった。詳細は以下の記事を参照。「データカタログサイト試行版」の閉鎖を受け、仮サイト「datago.jp」が公開|カレントアウェアネス-R
*3:どこだろう?
*4:国立国会図書館データベース・ナビゲーション・サービス(Dnavi)のサービス終了のお知らせ
*5:2014/7/3追記:パネリストの茂原さんからコメントをいただいた。「茂原の発言で「コンテンツ、データベースを保持していくキュレータが必要」というのは、デジタル資産のキュレーション(保守・管理)ができる人のこと。」
*7:2014/7/3追記:パネリストの茂原さんからコメントをいただいた。「「ユーザからのフィードバック」のところは、「ユーザーからのフィードバックがデジタル化のモチベーションにつながるか」という流れなので、「うちはフィードバックは全然ない」という発言は、「うちはフィードバックとモチベーションは全然関係ない」みたいな感じで読んで頂けると話がつながると思います。」
*8:国立国会図書館デジタルコレクションに収録された本から、面白いものを紹介する連載。|それいけ!デジコレ探索部「第1回 知られざる桃太郎」、「第2回 北斎のデッサン本」
*9:一例|大場 利康. ネットで愉しむ和本の魅力(11)『[曲直瀬攝菴本草雜記解説]』の謎.日本古書通信 / 日本古書通信社 [編].. 79(3)=1016:2014.3.25
*11:2014/7/3追記:パネリストの茂原さんからコメントをいただいた。「「博物館部分では直接ユーザに触れる」というのは、渋沢栄一記念財団には渋沢史料館という博物館「部門」があって、学芸員さん=ユーザーとは直接話ができる、という意味です。 私の滑舌が悪く、しゃべる内容も整理されていなかったに違いありません。申し訳ございません。 あと、最後に江上さんが発言されたことは、本当にその通りだと思います。」
*12:以下の記事での、佐藤先生のお話。2013-12-01 連続セミナー「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由」第4回「図書館記録におけるパーソナルデータの取り扱いについて」に行ってきた。〜後篇