第13回情報メディア学会研究大会発表パネルディスカッション「デジタル化を拒む素材とアウトリーチ」に行ってきた。〜その1

 こういうのに行ってきた。

第13回情報メディア学会研究大会発表パネルディスカッション「デジタル化を拒む素材とアウトリーチ
http://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/13.html

 既にTwitterまとめがある上に、この会では全体の録画映像があるらしい*1ので、xiao-2は安心して自分の印象に残ったところだけメモ。ゆえに普段にもまして読みづらい&正確性低め。みんな録画を見るといいよ。→以下はxiao-2の感想。

  • 導入:司会 江上敏哲さん(国際日本文化研究センター
    • なぜデジタル化は進まないか。ユーザはどこにいるのか。
    • 自分の所属は国際日本文化研究センター。海外での日本研究をサポートする機関。海外での日本研究において、デジタル化された情報が不足している。CJK(中国語・日本語・韓国語)のコンテンツのうち、紙だと日本語は中国語に次いでそこそこの規模。しかし電子ジャーナルだと圧倒的に割合が低い。日本語の情報が要らないと思われているのではなく、そもそも契約できない。
    • 図書館業界ではアウトリーチという言葉がある。充分な図書館サービスを受けづらいユーザに対して図書館側からアプローチすること。ではサービスをうけづらいユーザとはどこの誰か。図書館の世界ではたとえば障害者、高齢者、遠方に住む人、病院や刑務所にいる人などを想定している。
    • しかしかつて指摘された若手研究者問題*2のように、図書館によるユーザ設定から漏れてしまう人もいる。これを何とかできる有効な手段がデジタル化。つくる・つたえる・つかうという3つの観点から、パネリストに話してほしい。
  • 大場利康さん(国立国会図書館
    • 自己紹介。もともとは科学史専攻。90年代、ネットが普及する少し前の時代に就職。今日は業務で来ているわけではないので、個人的な意見を述べる。
    • デジタル化の目的は、大きく言って2つ。
    • 国立国会図書館(以下、NDL)のデジタル化を支える政策。緊急雇用政策、知的財産政策、文化政策などによって支えられる。
    • デジタル化への不満も聞く。3点にまとめる。
      • 不便。通覧性は紙に劣る。
      • 不安。著作権保護の観点から、デジタル画像が勝手に流通することを恐れる声も多い。また改ざんや焼失の危険。
      • 不足。現物の情報が欠落する。
    • 一方で、デジタルで生み出されるデータの量は増加。今やスマートフォン等により大量のデータが作られている。それらを固定しようとする一つの試みが東日本大震災アーカイブ*3。ただ難しいことも多い。NDLは紙の本なら納本制度により集める法的権限があるが、デジタルについてはそういう権限がない。権限がないものを集めるのは大変。しかもコンテンツごとに色々な事情もある。
    • 権利関係のリスクもある。肖像権、著作権など。そうしたデジタル化のリスク、コストを誰が引き受けるのが良いのか。

→政策面の話をされていたのが印象的だった。そう言えば自治体等で行われているデジタル化でも、緊急雇用創出の予算に基づいているものが結構あるよなぁ。またデジタル化の目的を2つに分ける考え方は、基本的なことなのに曖昧になりやすいポイントなので改めて頭に刻む。

  • 茂原暢さん(公益財団法人渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター
    • 実業史研究情報センターは情報の資源化などを行っている。財団の中ではもっとも新しい部門で、閲覧施設を持たない。代わりにデジタル化、レファレンスツール作成に取り組んでいる*4
    • メルマガ、ブログ。公開サービスの実験場のようなもので、蓄積したものがレファレンスツールとして使えるようにもなっている。
    • 難しいことが2点ある。
      • 1.見つけてもらうにはどうすればいいか。ある人が渋沢栄一著作集が図書館になくて困ると言っていたが、実はうちで本文を公開していて、Googleで検索すれば出てくるのに、ということがあった。NDLなどの権威あるアーカイブに入っていない野良コンテンツは、どうすれば見つけてもらえるか。
      • 2.いつまで維持できるか。30年後に同じ状態で使えるのか。たとえばFlashを使って作ったコンテンツはもう見られない。URLにしても、いつまで同じでいられるか。
    • デジタル化してネット公開したからといって、すなわち誰でも使えるという訳ではない。つくる、つたえる、つかう、の三つの「つ」に加えて、四つめの「つづける」の「つ」が要る。
  • 田中政司さん(株式会社ネットアドバンス
    • Japan Knowledge(以下、JK)を提供している。かなり早い時期に普及した日本語データベースで、海外で広く使われている。どう使われ、何が問題か。
    • JKは2001年4月にサービス開始。当時はネットで使える百科事典のようなものが無かった頃。個人サービスのつもりで開始したが、ある大学図書館の人から「法人で使いたい」と言われて需要に気付く。
    • 現在は大学図書館には広まっている。公共図書館でもいくつか入っているが、当初はかなり難しかった。公共図書館の場合物納が基本であり、DB利用には慣れていない。「費目をどうすればいいか」と聞かれて困ったりもした。結局CD-ROMにマニュアルを焼いて、それを納品物とすることにした。
    • 海外ではアメリカで50、欧州で30、アジアで170の機関に使われている。
    • 普及した理由。辞書なので分かりやすい。2003-2004年頃は日本語のデータベースが少なく注目された。契約内容はなるべく柔軟に、コンソーシアムでの契約にも対応。商品名がJapan Knowledgeと分かりやすいのも海外の人に人気。
    • 海外での需要。日本研究をしている大学で利用されている。日本研究というのは日本語学習とは別で、日本の文化などを学ぶこと。
    • 学外からの利用についての需要が高い。海外の大学図書館に行くと、紙の本を開いている人はいない、皆パソコンを開いている。Wifiに繋げる環境を維持することなどが図書館の仕事のメイン。
    • 司書の決裁権が強い。会議などの場で会った司書に営業すると、その場で導入が決まったりする。いったん持ち帰って上司に相談、ということが少ない。
    • 紙の本の所蔵場所はどこも足りない。しかしCDやDVDはものすごく嫌がられる。貸出の管理が難しいこと、再生環境の維持。
    • 問題点。
      • 図書館システムとの親和性が求められる。APIディスカバリーサービスへの対応。ローマ字での書誌情報作成など。
      • 著作権に関する問題。海外では特にフェアユースの考え方があり、教育目的の機関であれば無制限プリントが当たり前に求められる。しかし出版者の方は嫌がる。
      • どちらの国の法律を適用するか。裁判になった時の規約として、日本の裁判所を指定している文言は絶対通らない。明記しないのが良い。
      • 日本の電子書籍は使いにくいとも言われる。縦書きが特にネック。
    • 外市場は魅力的なのか。
      • 実はそれほどでもない。単価の高いもの、たとえば復刻系の出版社などなら採算が取れるが。
      • 日本のコンテンツを理解してくれる現地アグリゲータの不足。
      • やりとりを英語でしなくてはいけない。海外の法律も分かっていなくてはいけない。小さい出版社では対応が難しい。
      • 日本語はマイナーな言語だという思い込み。
      • 日本の料金体系を提示して、高いと言われて諦めてしまう。日本の大学は数千人規模、海外の大学の日本研究者は十数名。環境が違うのだから、柔軟な対応が必要。
    • サービスベンダーから見たデジタル化の課題。
      • ビジネスモデルの確立。
      • プラットフォームが複数あること。乱立は困るが、競争できる程度にないといけない。
      • プロデュース力のあるアグリゲータ。
      • 電子書籍の価格について、印刷費が掛らないのだから紙より安くあるべきという考え方がある。一方で、紙の本を基本にしている出版社にとって電子書籍出版は余計なコストがかかるため、紙より高くなるという考え方もある。自分としては両方の立場が分かるので悩ましい。出版の初めから電子書籍ありきで作られるようにならないと、この問題は解決しない。
      • 人材の育成。大学にデータベースの使い方講習などで行くと、一緒に著作権やネットの使い方も教えてと言われたりする。

→以前、電子書籍を導入している公共図書館のひとに聞いた話*5と共通する点があって興味深かった。デジタル化すると海外からも見ることができるようになるけれども、すなわち海外からも使えるという訳ではない。「見られる」のと「使える」のは別で、「使える」ためにはクリアしないといけない問題がある。こうした具体的なノウハウの話はありがたい。

  • 後藤真さん(花園大学文学部文化遺産学科)
    • 他の方は図書館メディアの話が中心だったが、自分はそのちょっと前の話。
    • 自分は日本古代史が専門。京都国立博物館の研究員もしている。
    • 正倉院文書データベース*6。タームや基礎知識から文書そのものを見られる。
    • 人文科学ではデジタル化が遅れがちと言われているが、既に何らかの形では使われている。ただし機関に比べて、研究者はデジタルコンテンツを作ることに無頓着な傾向がある。一方的な消費者。
    • 歴史系デジタルアーカイブの現状。
      • 2000年代はテキストデータ中心。フロッピーディスク、CD-ROMなど。現在も使える状態のものはほとんどない。
      • 2010年頃はWeb+画像の時代。背景にコンピュータのストレージ増大、解像度向上。
      • 現在はテキスト回帰の動き。画像だと検索できないということで。ただ歴史系のアーカイブの場合、翻刻などテキストを入力する人の負担が大きい。
    • 多くの歴史系テキストには著作権はない。しかし問題はある。公的機関でなく個人所有のものも多く、紙そのものの財産権は所蔵者にある。著作権が切れていても、所蔵者がOKしないとテキストを出すことができない。
      • 京都府立総合資料館の東寺百合文書WEB*7はCC-BY*8で提供している。これは画期的なこと。自館で所蔵しているコンテンツなので、こういうことができた。
    • デジタル化資料が使われるための条件。
      • 1.発見しやすいこと。シンプルな検索で、そこそこ詳細な情報が出てくること。文書の場合、「○○文書の××番の…」と指定できる時には、だいたいその文書の中身が分かっている。もっと漠然と「これこれに関係ある文書」といった検索ができるとよい。
      • 2.データが突然変わらないこと。論文に文献を引いたら、リンク切れしてしまっているのでは困る。
      • 3.権利関係が明瞭であること。利用の許可を求める先がどこで、どういう利用までがOKなのか。
    • 人文学系のデータベースを所蔵している色々な機関の利用条件を比較してみると、書き方がばらばら。著作権がデータ作成機関にある場合、もとの著者にある場合。これらがはっきりしていないと使えない。
    • 導入で大学に所属していないと電子論文等にアクセスできない問題が挙げられていたが、所属がないとアクセスしづらいデータベースはある。利用には登録が必要で、利用区分によっては推薦者が要るシステムなど。機関ドメインのアドレスでないと登録できないところもある。デジタルアーカイブ格差が発生している。
    • もっとも提供側にも事情はあり、登録制にしておかないと所蔵者の許可が貰えないといったケースもある。
    • そもそもどこのデータベースにアクセスすればいいか分からない。ディスカバリーでも効果的なものが少ない。

著作権以外の権利が壁となる可能性に気付かされた。たとえばお寺などの所蔵しているテキストで、そのものが信仰の対象なので見せたくないといったケースもありそうだ。パブリックドメインかつ個人所有物というのは、考えてみると妙な話。
→そう言えばNDLの図書館向けデジタル化資料送信サービス*9も、利用には登録(送信先図書館での)が必要だった。デジタル化しても、利用資格の面で結果として絞りをかけている場面が多いということかもしれない。

 各パネリストのプレゼンはここまで。後はディスカッション。…だが、眠いので本日はここまで。