続・平成24年度近畿公共図書館協議会研究集会「地域資料とMLA連携〜地域資料を集める・提供する・伝える〜」に行ってきた。

 前回のイベントレポートの続き。例によってxiao-2が聞きとれてメモできて理解できてかつ覚えていた範囲、のメモ。誤記・誤解はたぶんあり。敬称は「さん」に統一。→以下は自分の感想。項目立ては適当。

  • 事例発表1「地域資料のデジタル化−兵庫県立図書館の取組について−」(兵庫県立図書館 谷口充利さん)
    • 兵庫県立図書館*1の紹介
      • 明石公園内にある。1974年開館。1995年に「フェニックス・ライブラリー*2」を開設。これは震災関係資料を集めたもの。
      • 基本方針は資料保存、調査相談、相互協力の三本柱。職員数は館長含め34人。蔵書冊数は開架約12万冊、書庫約45万9千冊。
    • 資料デジタル化の経緯
      • 厚生労働省の重点分野雇用創造事業*3。これは地域の失業者に新たな雇用機会を創出し、地域ニーズに応じた人材を育成して雇用に結びつけるための事業。
      • この事業の枠組みを活用して、郷土地域誌電子化事業を外部委託で行った。具体的には郷土雑誌のデジタル化と、阪神・淡路大震災関連図書のデジタル化の二本。
    • 郷土雑誌のデジタル化
      • 資料の選定にあたっては、いくつかの条件を考慮した。一つ目は事業期間の制約。国の事業基金による事業なので、期間内に完結する「テーマ」としてまとまりのあるもの。
      • 二つ目は、資料保存の観点。破損しやすいものや、保存の必要性が高いもの。
      • 三つ目は、利用の観点。郷土雑誌は記事名で検索できるものが少ないため、検索可能になることで利便性が増す。
      • 四つ目は、将来性・発展性。郷土雑誌の一部は「郷土資料雑誌記事索引」を既に作成している。デジタル化した資料をこれにリンクさせたい。
      • 郷土雑誌記事索引*4の紹介。兵庫県内の歴史・地誌を扱った雑誌の記事を、キーワードから検索できる*5
      • デジタル化の仕様について。原資料から直接デジタル化し、マイクロ化はしない。なぜかというと事業の枠組みが人材育成なので、従事者の資格取得が条件。電子化ファイリング検定などを取って、今後の雇用につなげてもらうという目的があるため。
      • オーバーヘッド方式スキャナ、240dpi、カラー。フォーマットは保存用がTiff、提供用はjpeg。目次データはテキスト化し、画像データと目次データは同一ID。国立国会図書館国立国会図書館資料デジタル化の手引2011年版」を参考にした。
      • 対象資料は、兵庫県内の歴史・地理などについて研究する団体が発行した雑誌。著作権保護期間が満了したもの。「兵庫教育」「郷友」など。デジタル化処理を終えたのは、2012年3月31日現在で232タイトル・2,670冊。
    • 阪神・淡路大震災関連図書のデジタル化
      • 資料の選定の観点は、郷土資料とおおむね同じ。「フェニックス・ライブラリー」とデジタル化資料のリンクを目指す。
      • フェニックス・ライブラリーについて。阪神・淡路大震災に関する資料や記録を残すために1995年11月に開設。図書2,300点、雑誌400点、チラシ・パンフレット4,900点。その他ポスターやビデオなどもある。
      • デジタル化の仕様も、郷土雑誌とほぼ同じ。
      • 対象資料は、「フェニックス・ライブラリー」が所蔵する図書のうち、デジタル化に係わる許諾が得られたもの。兵庫県行政資料や、兵庫県関係団体発行資料を優先した。一例は「図書館の1.17」「被災世帯健康調査報告書」など。3月31日現在で、デジタル化を終えた資料は304タイトル。
      • デジタル化の許諾について。デジタル化を終えた資料304タイトルは、デジタル化して保管することの許諾を得て行った。そのうち、デジタル化した資料を東日本大震災被災地の公共機関や団体などに提供することの許諾が得られたのは230タイトル、図書館のHPで公開することの許諾が得られたのは200タイトル。
      • 許諾を得る上での課題は、組織の再編や学校の統廃合により、誰に許諾を求めたらよいか分からないケースがあったこと。
      • 許諾を得られなかった理由としては、たとえば小中学校の文集で、書いた当時の児童や生徒すべてに許諾を取るのが困難なケース。あるいは写真が載っていたり、自宅の住所が載っているといったもの。
    • 今後の計画
      • デジタル化した郷土雑誌、阪神・淡路大震災関連図書について、平成24年度に兵庫県立図書館内限定での提供を開始する。25年度からは「郷土資料雑誌記事索引」「フェニックス・ライブラリー」とそれぞれリンクさせてインターネットで提供。
    • デジタル化の課題
      • システム構築については国の補助金助成金を活用した。一方今後のシステム運営については継続的に費用が必要になる。これは財政当局に予算要求していくことになる。
      • 媒体やハードウェア、フォーマットが古くなっていくのに合わせて、定期的な入れ替え(マイグレーション)が必要になる。
      • デジタルアーカイブに関する専門知識を持った人がいつまでもいるとは限らない。ノウハウの散逸。
  • 事例発表2「聖徳太子歴史資料室を開室して−町立図書館での地域資料の収集・公開・レファレンス−」(斑鳩町立図書館 磯田真理さん)
    • 自己紹介および斑鳩町立図書館*6の紹介
      • 斑鳩町立図書館の聖徳太子歴史資料室*7は平成22年度に開室し、この5月で2周年となる。
      • 図書館自体は平成9年にオープン。自分はそれ以来ずっと司書をしている。歴史資料室を担当しているが専任という訳ではなく、他のサービスと並行。
      • 斑鳩町の奉仕人口は28,612人。昼間の人口は夜の半分くらいで、典型的なベッドタウン。蔵書は約16万冊。年間の貸出は42万冊。割合貸出密度が高い。平日でも70ー100人程度の利用者が常に館内にいて、カウンターは2名。かなり慌ただしい。
      • 法隆寺のある斑鳩町ということで、歴史がある土地というイメージがある。実際レファレンスの記録集を出したことがあるが、半分は歴史関係のレファレンスだった。過去には法隆寺中宮寺からの資料寄贈も受けている。
      • 地域資料に関するサービスが大事という認識はあり、相談カウンターもある。
      • ただ、利用者から見ると必ずしも使いやすくなかった。「職員は親切」と言ってもらえるが、他の業務と兼務でやっているので限界がある。また地域資料は管理上書庫に入っている場合が多く、「いちいち出納するのが不便」「探しにくい」といった声があった。
    • 歴史資料室開室の経緯
      • 2009年、文化財センター*8ができるのに合わせて、図書館の2Fにあった藤ノ木古墳出土品のレプリカがそちらに移動した。その後の部屋に聖徳太子法隆寺関係の本を置く計画が浮上。予算には平成21年度地域活性化・経済危機対策臨時交付金*9を当てた。事業費は約1千万。
      • 施設整備にあたって、小さな図書館なのでノウハウがない。そこで奈良県立図書情報館に相談したところ、古典籍をたくさん所蔵している天理大学附属図書館を紹介された。50年後、100年後までの保存を考えたノウハウを教えてもらった。町立図書館にはない視点。施設はできてしまうと後からは直せないので、助かった。
      • 2010年5月に聖徳太子歴史資料室をオープン。変えた点がいくつもある。
      • 以前は図書は書庫に入れていたのが、貴重書だけ専用棚・展示ケースに入れ、それ以外は原則として手に取れる場所に置くようにした。代わりにBDSを導入。
      • 閲覧席はブース型の狭いものだったのを、大きな机にした。複数の資料を広げたり、大きなサイズの資料の閲覧ができる。たとえば「条里復元図*10」は、以前は広げられないので利用者が閲覧を遠慮してしまっていた。机が広くなったことで、じっくり使ってもらえるようになった。そういった資料の扱いの変化が起きている。
      • 職員体制。以前は相談カウンターは交替制だったが、臨時だが専任職員をつけた。これに加えて、兼務の正規職員。
      • 資料の内容。和書の貴重書、法隆寺修理報告書。また斑鳩町にあった鵤(いかるが)故郷舎という出版社の出版物。法隆寺高田良信氏からの寄贈書。市町村史。町内在住者の著作や、俳句結社の本など。
      • よく使われる参考図書は、「斑鳩町史」「国史大辞典」「法隆寺史料集成」等々。これらは調査には非常に役立つものだが、慣れない人にはハードルが高い。重い、分厚い、字が小さいといった物理的ハードル、使い方が分かりにくいといった内容的なハードル。調べものの初心者の方の正直な感想として、そういった声があった。
      • それらの資料を利用してもらえるよう、色々な工夫。初めはパスファインダーを作ることも考えたが、それ以前の段階、参考図書に触るのもおっくうな人向け。目次だけを並べた補助ツールの作成、奈良県立図書情報館から資料を借り受けて展示したり、講座を開催したり。

 磯田さんのお話の中盤だが、本日はここまで。次回予告「歴史資料室開室によって、利用者がどう変わったか?」と、質疑応答。…単に眠くなっただけで、引っ張っている訳ではありません(笑)