平成24年度近畿公共図書館協議会研究集会「地域資料とMLA連携〜地域資料を集める・提供する・伝える〜」に行ってきた。

 こういうのに行ってきた。

平成24年度近畿公共図書館協議会研究集会
5月10日(木)9:30〜17:00
研究主題「地域資料とMLA連携〜地域資料を集める・提供する・伝える〜」

 以下、例によってxiao-2が聞きとれてメモできて理解できてかつ覚えていた範囲、のメモ。誤記・誤解はたぶんあり。敬称は「さん」に統一。→以下は自分の感想。項目立ては適当。

  • 「知の循環とMALUI連携」(京都府立総合資料館 福島幸宏さん)
    • 自己紹介
      • 京都府立総合資料館*1で行政文書を担当している。
      • 新館構想にも携わっている。いわゆるアーキビストという仕事に加えて、予算に関わる仕事などもしている。
      • 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会*2という団体の事務局もしている。日本図書館協会の文書館版のようなもの。
      • デジタル文化財創出機構*3の委員もしている。
    • 京都府立総合資料館について
      • 京都府立総合資料館は1963年開館。京都に関する歴史・文化・産業・生活等の資料を総合的に収集・整理・保存・閲覧・展示し、府民の調査研究などの利用に供することが目的。図書・古文書・公文書・現物資料などを多く所蔵。所蔵するものの中で有名なのは、「東寺百合文書」など。中世史の必読史料。都道府県立図書館の郷土資料室の巨大版と思ってもらえればよい。
      • 現在新館を建てる計画があり、基本設計の最終段階。2015年春にオープンの予定。
      • 京都府立総合資料館は、博物館、図書館、文書館機能を兼ね備えていた。設置者は大英博物館をイメージしていたと言われる。1988年に京都文化博物館が開館し、現物資料はそちらに引き渡した。図書館機能としては歴史・美術に関する図書などを所蔵していたが、こちらも京都府立図書館に図書の半数を移管ずみ。
    • 2012年5月現在の文化資源をめぐる動向
      • 本日は文化資源という言葉を使っていく。これは図書館(L)・博物館(M)・文書館(A)が収集の対象とするものをひっくるめた概念。
      • 一つ目の動きは公文書管理法*4の施行(2011年4月)。この法律は不幸なきっかけで注目されることになった。というのは、2月頃に原発事故の対応記録が残っていないというのでニュースになったこと。公文書管理法は、国の文書の公開・保存を定めた法律。施行されていたが、守られていなかった。
      • なお公文書管理法は国の文書について定めたものだが、地方公共団体にも努力義務が課されている。
      • 二つ目は、学芸員資格の見直し(2012年4月)。学芸員というのは司書と同じように、年間1万人くらいが資格を取得している。でもその人たちが必ずしも就職できていないという現状も司書と同じ。ともあれ、養成課程での科目が増設された。新たに「博物館情報・メディア論」「博物館資料保存論」「博物館展示論」「博物館教育論」が加わった*5
      • 三つ目は、出版デジタル機構*6の設立(2012年4月)。複数の出版社が集まって、出版物デジタル化のスキームを作っていこうという組織。
      • 四つ目は、東日本大震災から一年になるということ。震災は言うまでもなく、文化資源に対する大きな打撃でもあった。図書館ごとなくなった地域もあれば、資料が亡失したり、文化の継承が断ち切られた地域もある。
      • ただしこうした問題は震災で起こったというより、むしろ蓄積されていた問題が震災によって顕在化したという方が正しい。これらの地域は元々過疎がちな地域であり、民間活力を発揮しにくく、復興も遅れている。文化継承が危惧されている。
    • MALUI連携とは
      • NPO法人「知的資源イニシアティブ*7による議論。「知的資源〜」では、日本のMLA連携の方向性を探るラウンドテーブルを2009-2010年にかけて行った。その成果が本になっている*8
      • また、一般財団法人「デジタル文化財創出機構*9」による議論。こちらでも議論の成果としてシンポジウムを開催した。記録や配布資料はネットで公開されている*10
      • MALUI連携とは、上述のような議論の中で提言されたもの。従来のMuseam(博物館)、Archive(文書館)、Library(図書館)に、University(大学)、Industry(産業)の2つのアクターを加えた概念。
      • なぜUとIを加えたか。一つの理由は単純に語呂合わせで、これらのアクターが「まるい」輪になって連携するイメージ。だが核心の理由は、政策議論でなく、実践的なムーブメントとするため。
      • 考え方の大枠は、青柳正規さんが提唱された。デジタル技術を適切に活用することで文化資源をつなげること。文化資源の「たなおろし」と、地域資源見える化することでみんなが使える形にする。
      • さらに、これにより経済成長型社会からの転換を目指すというものでもある。これは自分自身の世代感覚にも合致する。自分は第2次ベビーブーマー就職氷河期を体験した世代。日本は今後経済成長を見込むことはできない、社会の転換が必要であるという感覚を共通して持っている。経済成長を目標とするのでなく、そこそこの成長で、文化資源を「楽しみながら」生きられる社会に変えていくことが必要。
      • ただし、一方で多くの課題もある。一つ目は人材の育成。従来のような学者的なタイプでは駄目。養成のカリキュラム案を考える必要がある。
      • 二つめはコストの配置転換。アーカイブズ等の公的機関はみんなお金がない。京都府立総合資料館では、大学の研究費、設備、知恵を引っ張ってきて、資料のデジタル化を進めている。
      • 三つめは、文化資源を扱う上での哲学の確立。図書館、文書館、博物館の縦割りでなく、共通する考え方。
    • MLAの現状
      • 博物館、文書館は、日本では図書館に比べ社会に向き合えないまま発展してきた。資料の利用という点では図書館が先を行っており、博物館、文書館は図書館に学ぶべき。
      • 博物館は保存に重きを置いてきた。だが、保存と展示のバランスが重要。学芸員は自分を研究者と認識しているが、それだけでなく、同時にコーディネータであることも求められる。学校との連携なども必要。
      • 博物館資料の新しい分類が提言されている。これは東京都美術館の佐々木秀彦さんが言い出したもの。図書とか文書といった資料の形態でなく、情報の内容で分類する。価値判断と分離することが重要。たとえば有形資料と無形資料、固有資料と関連資料といった分類。
      • 文書館の現状。まず数が少ない。日本全国で96館しかない。利用者も少ない。文書だけ見に来る人は、一日あたり10人もいない。さらに、司書や学芸員のような専門の資格もない。圧倒的不在。
      • 存在感を増すためには、設置組織自体へのプレゼンスを高める必要がある。そのためには自治体が作った文書を積極的に引き受け、データバンクとしての役割を明らかにしていく。文書の収集・保存という役割を果たせるなら、単独の施設はなくてもいい。そういう機能を持ったものが設置できるならそれでよい。そう割り切る必要がある。
      • 評価基準も大事になってくる。外部から基準を決められるのは良くない。「予算÷人数or貸出冊数」といったような基準では適切に評価できない。外から決められる前に、自分から基準を決めていく必要がある。全国歴史資料保存利用機関連絡協議会で作った評価モデルでは、史料がどれだけ集まっているか、どれだけ公開しているかを評価基準として提言した。
      • 大学の現状。どこも厳しいとは言え、MLAに比べると大学にはまだ人材もお金もある。一方で、大学は社会にもっと開かれるべきだという考え方が広まっている。大学の側もオープンにしていく気はあるが、そのための回路がまだない。
      • 企業の現状。現在、どこも経営は困難。その中で、社会貢献を掲げて活動を行う企業が出てきている。
    • プレ文化資源
      • プレ文化資源の対概念が、パッケージ化された文化資源。たとえば整理済みの、メタデータがきちんと付与された書籍、絵画、古文書などであり、デジタル化も進められてきた。図書館の資料はほとんどがパッケージ化されたもの。
      • 一方でプレ文化資源は、まだ整理されていない紙の束や書簡の塊など。個人情報を含むものも多く、整理には労力がかかる。特に近畿圏ではまだまだこの手のものが多い。京都・奈良は有名だが、和歌山・兵庫でもたくさん出てくる。いまのMLAの議論からは、これらの整理という部分は抜け落ちてしまっている。典型的な例は、自治体史の編纂に当たって集められた史料など。
      • 資源として残す、という意識。時代によって残される量は異なる。古代・中世のものなら、ただの紙切れでも残す価値はある。
      • 一方、残す価値のあるものは古い時代に限らない。たとえば近代になってから明治維新ブームが起きたが、これは明治維新から60年くらい経った後のこと。世代が入れ替わり、知っている人がいなくなってから振り返られる。現代だと、戦後から経済成長期の文化情報資源が案外残されていない。意識的に残していく必要がある。
      • この実践事例をいくつか挙げる。愛知川では、町史や字史の編纂に図書館が関わっている*11
      • 北摂アーカイブ*12。これは豊中箕面でやっている。
      • 大阪市立自然史博物館*13。友の会*14が発展してNPO組織となり、主体的に活動している。
      • これらの実践事例の共通点は、地域の文化資源へのゲートになろうとしている点。
    • いかに地域資源を集めるか
      • ローカルレベル、リージョンレベル、ナショナルレベルという連携の三層構造を想定。この構造については著書*15で詳しく述べている。要は、いかにして文化資源を拾ってくるか。
      • 共有化に向けて大事なポイントは三つ。それを押さえれば、整理は大変なことではない。シンプルにやれる。
      • 一つ目は存在を知らせること。データベース等で可視化すること。
      • 二つ目は情報制御。特に個人情報を含むものは配慮が必要。
      • 三つめは保存。といっても、管理をいたずらに厳しくするのではない。逆に「してはいけないこと」を明確にすることが必要。
    • 「公共」概念の再構成
      • 「公共=公立」とは限らない。公立がすべての公共を担う時期は終わっている。そもそも公共とは、人間の生活を社会全体で支えるというものであり、公立に限ったものではない。だが高度経済成長期に、地域で行われていた「公共」的な活動が、すべて「公立」に回収されていっていた。今それが再び元に戻り、「公共圏*16」が形成されていく。中間団体の復権
      • そうなると、MLAとしても誰・何を対象に活動すべきかは変わってくる。目の前の利用者だけへのサービスから、公共圏の人々に向かってサービスへ。MLAが施設を維持するため、事業を回していくためには、その観点が不可欠。
    • 我々ができること
      • 予算削減等の困難な状況があり、長期戦略を立てることが難しい。ともすれば目の前しか見られなくなる。
      • しかしそこであえて大きな視点で、自治体が存在していくためにはどうすればよいか?で考える。
      • 時間を超えて「知の循環」を回せるか。「知」とは、受け継がれた文化資源。すなわち情報。プラットフォームは色々とできている。
      • Google化=全世界的な情報流通への対抗。Google化が進むほど、全世界的に強い情報だけが目立つことになる。そうではなく、個人と地域の営みとの間を結ぶことが、今私たちに課された役割なのでは。


 面白かった。が、もう眠気の限界。続きはまた今度…かも。気が向いたら。