日本図書館協会図書館政策セミナー「非正規雇用とは?自治体の非正規雇用職員制度」に行ってきた。

 相変わらずレポートが遅いが、こういうのに行ってきた。

2012年3月5日(月)
図書館政策セミナー「非正規雇用とは?自治体の非正規雇用職員制度」
主催:日本図書館協会
講師:上林陽治氏(公益財団法人地方自治総合研究所研究員)

 講師の上林先生は、自治体の非正規雇用について研究されている方。*1
 参加者は50名くらいか。女性の方が若干多い。年齢層は、30-40代が多そうな感じ。
 以下、例によってxiao-2が聞きとれてメモできて理解できてかつ覚えていた範囲、のメモ。誤記・誤解はたぶんあり。講師のお話は親しみやすい口調だったし、レジュメは非常に分かりやすかったのだが、何しろ細かな法律の話だから誤解しているかも知れない。項目立ては適当。→以下は自分の感想。

  • 導入
    • 最初に、皆さんの任用根拠について聞きたい。
      • 非正規職員として勤務している人のうち、特別職として任用されているのは?(7名挙手)では、一般職として任用されているのは?(1名挙手)根拠分からないという人は?(1名挙手)
      • 次に、週あたりの勤務時間について聞きたい。(参加者の回答「21.75時間(常勤職員は38.45時間)」「29.8時間」「28.25時間」)
    • これからの話は、自分の勤務時間を頭に置いて聞いてほしい。
    • 言いたいのは、図書館で働く非正規職員はほとんどが常勤職員と見なせるということ。
  • 非正規化の現状
    • 地方自治体に採用されている臨時・非常勤職員数について、過去に行われた調査は2回のみ。1回目が総務省の調査で50万人、2回目が自治労の調査で60万人と推定されている。いずれも2008年の状況。
    • 地方公務員全体における、臨時・非常勤職員の割合は15-17%。民間に比べると低い。ただし、2005年から2008年の間に約4万人も増えている。割合で言うと1割増。
    • 一方、この間に正規職員の地方公務員は14万人減少している。それで非常勤職員が4万増えている。10万人分の差は、指定管理者や業務委託によるもの。
    • 非正規職員の割合は、分野により大きな差がある。一番高いのは相談員で93%。次に学童指導員、公民館職員と続き、図書館はそれに次ぐ。非常勤職員の割合が高い方の分野であると言える。
    • 自分は非常勤職員は急激に増えすぎていると思っている。数値と割合から見てみる。
    • 最初に数値。「日本の図書館*2」の統計数値に基づくと、図書館の専任職員は98年をピークに、あとはずっと減少している。一方で臨時・非常勤職員は1991年には3,000人、2010年には15,000人と5倍に増加している。図書館そのものの数は1991-2010年で1.8倍程度の増加、それに対して専任職員は1,000人程度減少。つまり最初から非常勤職員を当てにして新しい図書館が作られている。なぜこうなるまで放置していたのか。
    • 割合。1991年時点では、専任職員:非常勤職員の割合は8:2程度。2010年には44:56くらいになっている。日本の図書館は非常勤で持っていると言っていい。
    • 「日本の図書館」の統計で、臨時・非常勤職員と委託・派遣の数値を分けるようになったのは2005年。それ以降、臨時・非常勤職員の割合は増えていない。正規職員が減った分を、委託・派遣で働く人が埋めている状況。2010年の状況でいえば、専任職員が35%に対して、臨時・非常勤職員が44%、委託・派遣職員が21%となる。
    • 他の産業との比較。民間企業で非正規の割合が初めて30%を超えたのが2003年。一方、図書館で非正規の割合が30%を超えたのは1996年。民間よりも高い割合。おおむね3割を超えると、構造として逆戻りできないと言われる。そしてこの3割の人の労働条件は非常に悪い。
    • 日本社会は格差社会だと言われるが、図書館の状況は世間一般よりさらに深刻。格差を内部に構造化してしまっている。このままでは図書館という分野を維持できないかもしれない。
    • 非正規職員問題についてのもう一つの視点は、女性職場問題。図書館は女性職場化していると言われる。が、最初からそうだったわけではない。職種によって事情が違う。保育士はもともと女性が多く、その結果として非正規化が進んだ。相談員は最初から非正規を雇っているので、女性職場になった。図書館の場合は、非正規化を進めた結果女性職場になった。現在は非常勤で図書館に勤めている人の9割は女性という状況。
  • 非常勤職員の手当問題
    • 本日の参加者で、臨時・嘱託の人は?(半分くらい挙手)そのうち一時金や手当の出ている人は?(挙手ゼロ)
    • 手当の出ていない人は、職場にどう言っている?要求している?(参加者「手当は12分の1にして月々の給与に上積みする形。退職金は出ない。勤務は月16日、29.8時間。職場に言ったら、法的に払えないと言われた」)
    • ちょうど墨田区の議会でも、非常勤職員に手当を出すべきという請願が出されてもめている。役所側は「法律上払えない」という説明をしているが、本当か。
    • 大阪や兵庫では、非常勤職員にも手当を払っていた。これに対して市民オンブズマンが、支払いは違法として監査請求、訴訟になった。
    • 東村山市では、期末手当と退職金を払っていた。これも住民訴訟になった。住民側は支払いが違法だと訴えたが、裁判では「違法ではない=支払いを禁じる根拠はない」となった。
    • この問題を考えるポイントは3つ。
      • 第一に、法律上「非常勤職員」「臨時職員」の定義はなく、区分と要素がはっきりしないこと。
      • 第二に、非常勤職員に支払う給与・報酬は、条例に基づく必要があること。
      • 第三に、茨木市臨時的任用職員一時金支給事件の最高裁判決*3が出た後、これを踏襲した硬直的な考え方が続いていること*4
  • 「非常勤」「常勤」の区分
    • 地方公務員には3種類ある。
      • 第一が常勤職員、給与と諸手当を受け取る。
      • 第二が本来的非常勤職員、報酬と費用を受け取る。たとえば地域の消防団員や協議会委員など、それで生活する訳ではない人を想定。
      • 第三が常勤的非常勤職員、これは第一の常勤職員と同じような仕事をしている。
    • 常勤職員の給与は地方自治法(以下、自治法)の204条*5、本来的非常勤職員の報酬は自治法203条の2*6に基づいている。常勤的非常勤職員には、どちらが適用されるべきか。この解釈によって、非常勤職員には手当支給は不可とみなされてきた。
    • 自治法204条の2によれば、手当や退職金は条例に基づいて支給されなくてはならない。従って本来的非常勤職員に対しては、手当を出してはいけないという解釈。
    • 「常勤」的「非常勤」職員の、どちらの要素に重点を置くか。東村山市茨木市では「常勤」的という方を重視して手当を支給してきた。そうしたら住民から訴えられたということ。
    • そもそも臨時職員という定義ははっきりしない。「常勤職員より少ない=非常勤職員」という考え方もある。自分の知るとある自治体では、常勤職員より1日あたり3分少ない勤務時間で働く非常勤職員もいた。
  • 茨木市枚方市東村山市のケース
    • 茨木市臨時的任用職員一時金支給事件。この事件で非常勤職員として働いていた人は、臨時的だが週3日勤務していた。条例はなかったが、市長の決裁により一時金が支給された。これが違法ではないかということで、住民訴訟で争われた。
    • この時の裁判所の考え方は以下のとおり。
      • 第一。この臨時的任用職員は常勤職員ではない。従って自治法204条の適用外であり、違法。
      • 第二。給与について規定する条例がなかった。従って支払いの要件がなく、違法。
      • 第三。しかしながら当時、大阪でそうした条例を持っている自治体がなかった。従って、違法だということを知る手段がなかったので過失はなし。
    • これによって、週3日の勤務は常勤ではないという判断がなされた。
    • 一方、枚方市非常勤職員一時金等支給事件。非常勤職員への一時金支給の適法性が争われた裁判では、当該職員は自治法203条ではなく204条の適用対象であるという判決が出された。
    • 非常勤とか常勤とかいう職員の名称ではなく、勤務時間と、その人の収入における当該業務の割合を判断基準とした。後者の方が重視された。週40時間のうち30時間そこで勤めていれば、他の職場で仕事することはできない。週4日、もしくは月15日程度勤務していれば常勤と見なすという考え方。
    • まとめると、茨木市の事件では人事院規則*7での定義なども参酌し、勤務時間が常勤職員の4分の3までである者を非常勤職員としていた。枚方市の事件でも常勤職員の4分の3に相当する勤務時間、さらに内容が常勤職員のしていた業務であってそれを引き継いでいるという職務内容も勘案していた。
    • これらはいずれも参考にしたというだけで基準ではないが、勤務時間が常勤の4分の3という基準はその後の裁判でも踏襲されるようになった。これが、常勤・非常勤の判断要素の1つめ。
    • 東村山市の事件*8での裁判では、勤務時間よりも勤務実態を重視していた。争われた事例の中には、常勤職員の半分程度の勤務時間の人もいた。しかし、常勤職員と同じ仕事に従事していた。
    • たとえば再任用職員や任期付職員では、常勤職員と同じように本格的業務に携わることもある。法でそれを禁じてはいない。非常勤職員でも、同じ仕事に従事することはできる。
    • 従って判断要素の2つめ。常勤職員と同様の本格的業務をしている非常勤職員であれば、自治法204条で規定する「常勤の職員」と見なせる。つまり、手当支給は禁じられない。
    • ここまでは常勤職員と非常勤職員の区分について、常勤的非常勤職員は常勤職員と見なしてよい、という話だった。しかし実際に手当や一時金を支給するためには、根拠となる条例がなくてはいけない。
    • 大東市で争われたケースでは、非常勤職員への手当支給を定めた条例がなく、要綱を根拠としていた。要綱というのは内部文書で、市民には分からない。やはり条例に根拠を盛り込む必要がある。
    • ただ、そんなにぎちぎちに決めなくてもよい。「常勤職員に手当を出している規定を準用する」でも構わない。
  • 地方公務員法との関係
    • 公務員には二種類ある。特別職と一般職。法律上はすべて公務員であって、一般・特別・臨時・非常勤といった区別はない。
    • 地方公務員法*9が適用にならないのが特別職、適用されるのが一般職。
    • たとえば市長は特別職の公務員だが、職員ではない。非常勤司書は、特別職の公務員で、かつ職員。
    • これは裁判上も確定している。中野区の非常勤保育士事件*10などでは、非常勤職員の任用は地方自治法172条2項*11に根拠を求めるべきで、地方公務員法に根拠を求めるべきでないとされた。
    • 地方自治法172条1項「地方公共団体に職員を置く」の「職員」は、みんなに適用される。その定数は172条3項で定める。たとえば藤沢市では「定数外職員」として172条2項に基づいて非常勤職員を任用していた。
    • 任用の種類に3つある。
    • 三番目の場合、任用期間は更新することができないとされていた。このため、わざわざ再度の任用までに2ヶ月空けたりしていた。ただ今は、いったん任用期間が切れたことでリセットされるので、再度同じ仕事をしても構わないという総務省の通知が出ている。もう空ける必要はないのに、そのままの運用になっている自治体がある。
  • ここで質疑応答。
    • 質問:地方公務員法第22条の、臨時職員の更新が不可だったという件。現在は総務省の通知により更新してよいということだが、これは条例自体は変わらないが解釈が変わったということか。
    • 講師:そう。ただ現場は混乱している。なお国としては、解釈を変えたわけではないと主張している。なぜなら国が2ヶ月空けることを求めたことはないから、という理屈。
    • 質問:その通知は文書で出ているか。
    • 講師:平成21年4月24日に総務省自治行政局課長通知として出ている。この通知自体は各自治体に送られているが、入手は困難。関西学院大学のHPにPDFでアップしているので、ググれば出てくる*15


ここまでで前半終了。続きはまた今度。

*1:論文の一例/上林陽治.基幹化する図書館の非正規職員--図書館ワーキングプアを超えて.現代の図書館.49(1) (通号197) 2011.3

*2:日本図書館協会図書館調査事業委員会 編.日本の図書館

*3:最高裁判決は見つからなかったが、同じ事件の高等裁判所の判決と思われるものがあった。平成20(行コ)35 事件名 損害賠償請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成17年(行ウ)第146号)平成20年09月05日判決全文PDF

*4:関連しそうな論文:上林陽司.「非常勤」「常勤」の区別要素と給与条例主義-茨木市臨時的任用職員一時金事件・最高裁判決(平成22.9.10)、枚方市非常勤職員一時金等支給事件・大阪高裁判決(平22.9.17)を例に.自治総研 (389), 77-115, 2011-03

*5:地方自治法 第204条「普通地方公共団体は、普通地方公共団体の長及びその補助機関たる常勤の職員(中略)その他普通地方公共団体の常勤の職員並びに短時間勤務職員に対し、給料及び旅費を支給しなければならない」「2 普通地方公共団体は、条例で、前項の職員に対し、扶養手当、地域手当、住居手当(その他諸々、中略)又は退職手当を支給することができる」「3 給料、手当及び旅費の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない」

*6:地方自治法203条の2「普通地方公共団体は(中略)その他普通地方公共団体の非常勤の職員に対し、報酬を支給しなければならない」「4 報酬及び費用弁償の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない」

*7:人事院規則15-15(非常勤職員の勤務時間及び休暇)

*8:平成20(行コ)19 事件名 損害賠償(住民訴訟)請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(行ウ)第335号)平成20年07月30日 、判決全文PDF

*9:地方公務員法(昭和二十五年十二月十三日法律第二百六十一号)

*10:裁判所の判例検索システムではヒットせず。こちらを参照:地方公務員制度研究会 最近判例解説アーカイブス

*11:地方自治法第172条「(中略)普通地方公共団体に職員を置く」「2 前項の職員は、普通地方公共団体の長がこれを任免する」

*12:地方公務員法 「第3条 地方公務員の職は、一般職と特別職とに分ける」「3 特別職は、次に掲げる職とする。(中略)三  臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」

*13:地方公務員法 第17条「職員の職に欠員を生じた場合においては、任命権者は、採用、昇任、降任又は転任のいずれか一の方法により、職員を任命することができる」

*14:地方公務員法 第22条「臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、職員の採用は、すべて条件附のものとし、その職員がその職において六月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。この場合において、人事委員会は、条件附採用の期間を一年に至るまで延長することができる」

*15:という話だったのだが、うまく見つけられなかった…。