電子書籍にまつわるあれこれ。

 あるところで、電子書籍サービスを導入している公共図書館の人からお話を聞く機会があった。興味深かったので、許可を得て骨子をメモ。→以下は自分の感想。

  • 契約の方法
    • 買い取りモデル(普通の本と同様、いったんお金を払ったらずっと見られる)か、オンラインDBモデル(契約している間だけ見られて、契約が切れたら見られなくなる)か。
    • 買い取りモデルの方が、監査での説明はしやすい。一方、プラットフォーム業者との契約が切れたり、現在コンテンツを載せているシステムが更新されても、継続して見られることの保証が必要になる。継続の方法は、なかなか契約当初からうまく定められない。最悪の場合、同じコンテンツを紙で買って納めさせるという方法もありうる。

→契約形態については、以前電子辞書の話を聞きにいったとき*1にも話が出てきた。実体はなくてもモノとして扱う方が、制度をあまりいじらなくてよい、ということだろうか。

  • 評価・フィードバックの難しさ
    • たとえば統計の数値。紙の本ならば何日の営業時間内に、何人が何冊借りたといった数値が取れる。もちろん借りて5分で返す人もいるだろうし、借りずに館内で読んだ本はカウントされないが、一応それを統計の数値とすることには誰もが納得できるだろう。
    • 電子書籍は、クリックひとつでカウントされる。読むつもりでクリックしたのか、手が滑ってクリックしたのか、プログラムで機械的にアクセスしたのかも分からない。それを貸出冊数と同じに扱ってよいのか、あるいは別枠で考えるべきか、定義されていない。
    • さらに集計のタイミングはどこで区切るか。24時間アクセス可能なのだから0時で区切るのがよいだろうが、たとえばサーバが遠隔地にある場合はどこの時間帯でカウントするのか、等。
    • リアル図書館の場合、数値以外にも司書の感覚で利用者の傾向を把握することができる。電子図書館だと、それができない。こちらから数値を取りにいかなくては分からない。

→評価そのものが難しいというより、誰もが納得する基準が決まっていないことが難しいようだ。クラウド利用だとさらに面倒くさいかもしれない。

  • 事務処理の問題
    • 内部での事務処理において、電子書籍をどの枠で読むかが難しい。内容によっては自治体の法規担当とのすり合わせが必要になる。
    • たとえば、資料の管理運営規則。「貸出は一人あたり○冊まで」の冊数は、電子書籍と紙を含むのか、それとも別々か。
    • モノとしての扱いは、備品か、消耗品か、オンラインDBのようなものか。
    • 支払う費用は図書館資料費か、情報システム導入費か、それ以外か。

→費用の細目なんてユーザ側は誰も気にしないだろうが、役所ゆえの面倒な点なんだろう。モノとしての扱いで導入した場合には、数年後に「廃棄」するのだろうか?

  • コンテンツの確保
    • 電子書籍ステークホルダーが複雑になる。契約相手であるプラットフォーム側はコンテンツ数の増加をある程度見込んでいても、実際には出版社との調整が難航して想定どおりにいかなかったりする。
    • 出版社も図書館への提供にはかなり慎重。他の公共図書館電子図書館プロジェクトに載っているタイトルなら大丈夫だろうと思っても、出版社側では個別の契約ごとに管理したいので了承しないといったケースもある。
    • ちなみに電子書籍コンテンツとして青空文庫を利用しているケースがあるが、タダではない。単純にテキストで見るのは無料だが、電子書籍コンテンツにするのにはお金がかかる。

→普通の図書館の場合、5万冊はないとユーザは「借りたい本がない」と感じると聞いたことがある。電子書籍のタイトル数はまだまだそれに及ばないから、増加は喫緊の課題だろう。そう言えば今年の夏に講談社が新刊を電子書籍で出すとか聞いたが、どうなのだろう?

  • 市販コンテンツと地域コンテンツ
    • 電子図書館システムに搭載されうるコンテンツには、市販の電子書籍と、たとえば地域資料などをデジタル化したものがある。両方が同じシステムに載っていると、システムが一つで済むし、タイトル数が増やせる。
    • 困った点もある。市販コンテンツは契約の関係上、図書館の登録利用者しか使えない。一方、地域資料はなるべく全国に発信したい。同じシステムに両者が載っていると、システム側でそういった切り分けができない。資料IDごとにアクセス可否を設定できる機能が必要となる。
  • 電子図書館とリアル図書館の関係
    • 同じ自治体の中に複数の分館がある場合、各館がそれぞれ特色を出して競争する。児童サービスに力を入れる図書館は子どもを持つ人にとって便利だし、地域資料に力を入れる図書館はそういうニーズの人にとって便利。
    • 電子図書館も、そういう複数の分館のひとつと考えればよい。来館できない人のために移動図書館があるように、図書館が遠いとか開館時間に来られないといった理由で来館できない人のために電子図書館があればよい。メリットはいつでも使えること、デメリットは(今のところ)コンテンツ数が少ないこと。そういう特色を使い分ければよい。
    • 電子があればリアルは要らないとか、その逆ではない。選択肢を増やすということ。

 メモは以上。
 これまでなかったものを導入するというのは、やはり大変なこと。今は導入している公共図書館が少ないから、各館手探りで進めているのだろう。こういう情報をざっくばらんに共有できる場所があるとよいのだが。ともあれ、語ってくださった方に感謝。