男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか

男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか トンデモ裁判傍聴レポート

男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか トンデモ裁判傍聴レポート

 強烈なインパクトのタイトル。「トンデモ裁判傍聴レポート」というサブタイトルまでついている。表紙や挿絵イラストはノホホンとした雰囲気。きっと裁判傍聴の記録を笑える感じに紹介した本だ、と思って読んでみたら…かなり違った。

 何が「違った」かと言うと、見かけと裏腹に真面目な本なのだ。
 扱っている事件は殺人から万引きまで色々。傍聴記録は法廷内での実際の会話が中心で、ツッコミは抑えめ。雰囲気がよく伝わってくる。なんか新聞記事みたいと思ったらそれもそのはず、執筆は産経新聞社会部取材班じゃないか。

 読んでいると、重たい。エッそれがそんな罪に?と思うような事件もあれば、被告の勝手な言い分にムカッとくる事件もあり、逆に被告がひたすら不幸な人に見えてくる事件もある。自分と違う世界の理屈で生きている人相手に、一筋縄ではいかない。一言で言えばリアルだ。それも、罪を犯した側のリアル。

 犯罪の被害者になるというのは、突然、理不尽にひどいことが降ってくるという状況だ。誰にでも可能性があるし、ある意味では想像できなくはない。もちろん実際の悲しみや衝撃は想像が及ばないけれど。
 一方で自分、あるいは親しい人が加害者になる事態というのは想像しにくい。報道に接しても「世の中には変なヤツがいるんだな」と思うだけで、自分には関係ないと思いがちだ。
 もちろん、事情を知ったからといって分かるわけではない。この本を読んでも結局、男はなぜパンツ一丁で郵便局に押し入ったのか、理解はできない。理解できないけれど、自分が理解してない、ということは分かる。

 同時に、裁判は「犯罪者を刑務所に入れたらそれで完了」ではない、という当然のことを実感する。刑務所に入った人は基本的にいつか出てくるし、その後も働いて生活していくのだ。そんなことを考えると、人を裁くって並大抵のことじゃない。傍聴に行ったことはないけれど、きっと実際に行ってもこういう感想だろうと思う。

 ということで、裁判について考える入り口になる良い教科書。ただし、やっぱり外見と内容のギャップは気になる。最初から真面目な顔しててくれたら、そのつもりで付き合ったのに。て感じ。