KU-ORCAS講演会「(東)アジア研究×図書館×デジタルヒューマニティーズ」に行ってきた。〜その1

 こういうのに行ってきた。

2018年8月9日(木)
KU-ORCAS講演会「(東)アジア研究×図書館×デジタルヒューマニティーズ」
http://www.ku-orcas.kansai-u.ac.jp/news/20180612_113/

  • 登壇者:

 聴衆は25名程度だったか。
という訳で、以下はxiao-2の聞きとれた/理解できた/メモできた/覚えていた範囲でのメモ。敬称は「氏」に統一。誤記・誤解ご容赦*1

  • マクヴェイ山田久仁子氏「ハーバード大学の東アジア研究におけるDHへの取り組みの現況と展望」
    • アメリカの学術図書館、東アジアを専門とする図書館で働いている。初めてライブラリアンになったのは20年ほど前。色々と幸せな環境で働くことができた。その視点から、Digital Humanities(以下DH)、Digital Scholarship(以下DS)について話したい。
    • 本日のOutline*2
    • アメリカの人文学研究、東アジア研究
      • Ben Schmidtが、7月27日のブログで、人文学の危機についての記事*3を投稿していた。アメリカの学生の専攻科目のバランスを調べたもの。
      • 彼は2013年にも同じテーマのブログを書いていた。その時は「心配ない」という結論に達していたが、今回は「やはり心配」という結論になっている。
      • それほど人文学は退潮傾向。多くのアメリカの人文学者の気持ちを表したもの。
      • また、アメリカの公共教育における第2外国語履修者の数を2006年、2009年、2013年、2016年の数値で比較したデータを見てみる*4。ヨーロッパやロシア語等は軒並み落ちている一方で、日中韓は比較的健闘している。東アジア研究への注目を反映。
    • ハーバード大学の取り組み
      • ハーバードにおいても、ここ数年で危機感が非常に強まっている。Digital Scholarship Support Group*5というものが作られた。ハーバード全体のDS関係者を横につなぐもの。
      • コアになっている組織がいくつかある。Academic Technology of the Faculty of Arts and Science*6はデジタル機器等を扱うところ。またIQSS*7はData driven science、データ中心の研究を推進する組織。
      • このように、大きな傘の中にいろいろとある、という形。
      • 長いものでは80年代から活動しているグループもある。それらのグループを見ると、日本や中国のことを扱うセンターがいくつかあり、かなり早い時期からDHやDSに取り組んでいた。
    • ハーバード大学図書館の取り組み
      • さきのグループの中には、Harvard Library Office of Scholarly Communication*8やLibrary Technology Service*9等、図書館系の組織も含まれる。オープンアクセス等に取り組んできた。
      • 中心的な取り組みはおもに3つ。
        • デジタル・リテラシーの拡大
        • 研究のためのデジタル活用法、その積極的なサポート
        • デジタル基盤の構築。"well-integrated"、つまりお互いに馴染むよう。互換性のないものをデザインしない。
      • これらを達成するために、デジタル教育フェロー*10が設けられている。8月にFoundations Seminarを開催。たとえばDigital Teaching Method等を扱う。
      • ハーバードのLibrary Technology Serviceは、伝統的に図書館の中に置かれていた。組織改編で図書館外の組織になったが、やることとしては図書館のサポートがメイン。
      • その中でデジタルに関連するものとしては、Digital Repository Service。少額だが料金をとっている。目標はハーバードのコンテンツを永久保存すること。永久保存が目的なので、サステナビリティ、セキュリティが重要。
      • 1ヶ月くらい前、秋ごろからDRSに入っているCJK史料のフルテキストサーチができるようにするという大学の方針が最近示された。最近のニュース。
    • 主要な東アジア研究組織の紹介
      • ハーバードの東アジア文明及び言語学部は、東アジアを専攻する大学院生81名、学部生53名が在籍。文化や言語等を研究。
      • イェンチン図書館は東アジアを担当する図書館。もとはイェンチン研究所の付属図書館で、研究所は現在も独立しているが、図書館の方はハーバード大学図書館に移管された*11
      • イェンチン図書館にはEast Asian Digital Humanities Lab*12が設けられている。DHに比較的早い時期から関わっており、ラボの環境が整っていた。
      • ハーバード全体では70ほど図書館があるが、ラボを持っている図書館は他にない。
      • ラボの仕事は、従来の仕事と100%互換という訳ではない。自分の同僚のライブラリアンでパブリックサービス*13担当の人が一応監督はしているが、ラボの仕事は学生が中心。サイト管理等も。
      • このラボで、HYL DH Forumというイベントを2017年から実施している。2017年2月に初のミーティング。以後色々なトピックを取りあげている。Data visualizationが今注目のトピック。
    • イェンチン図書館資料電子化プロジェクト
      • 図書館資料はどのくらいデジタル化されているか。多くの種類の資料を所蔵している*14
      • 特に多いのが中国貴重書。本以外に写真等もある。日本関係では、Petzold Collection*15という掛け軸中心のコレクションなどもある。また満州国関連資料として絵葉書。これはデジタル化し、メタデータも作った。ひな形(デザインカタログ)など、見て面白いもの。
      • ビューアでこのように見られる。ちなみにこれはNaxi Manuscripts(ナシ語文書)といって象形文字の一種。
      • このシステム自体は古いが、IIIF*16に準拠しているので他の大学のコンテンツ等ともあわせて見られる。
      • ブラウザ上のメニューから"Cite"でサイテーションを表示すると、永続的リンク(Persistent Link)を見ることができる。
    • Japan Digital Research Centerの取り組み
      • 日本や中国の研究所は、早くからデジタルのサポートが充実していた。その一つがJapan Digital Research Center*17。元はライシャワー研究所の下にあり、デジタルと紙の本の両方を扱っていたが、後者はイェンチン図書館へ移管され、デジタル一本になった。Faculty Support等を行っている。
      • Japan Digital Scholarship Librarianに就任しているのはKatherine Matsuura氏。イェールで論文を書いている人。Digital Fellowという制度も新しく設けられた。
      • 主なプロジェクトの一つはConstitutional Revision Research Project(憲法改正研究プロジェクト)*18。ウェブアーカイビング。2005年頃から行っている。世の中のアーカイブとしては割と早い時期からなので、フレームワークやオープンリソースの扱い等、今見ると問題がいろいろある。
      • もう一つは、Japan Disasters Digital Archive*19東日本大震災に関するツイートやコンテンツ等を記録したいという目的のもの。
      • データを収集するのでなく、リンクを張っている。リンク先は国立国会図書館や大学等。APIを経由して一元アクセスできる。ツイートやコンテンツをマップ上に表示して、どこで発信されたものか見ることもできる。登録ユーザが自らキュレートすることも可能。
    • DS関連プロジェクトの紹介
      • Japan Disasters Digital Archiveは、GISの研究に関わっているLex Berman氏*20が震災後に作ったもの。
      • Donald Sturgeon氏*21による、中国の本のテキスト化プロジェクト*22。Digital Sinology*23
      • 上記プロジェクトを率いているのはPeter bol氏*24。中国大陸等のパートナーとともに。研究者でもあるが、今年まで大学の管理職でもあった。その他MOOCs*25を作ったりしている。
      • China Biographical Database Project (CBDB)*26。オンラインで自由に使える中国人物DB。唐から清までの人物をカバー。
      • Hedda Morrisonストーリーマップ*27。Morrisonは東洋文庫のモリソンコレクション*28を作った人。ドイツで生まれたあと、生涯で国を転々としながら活動していった。そのライフストーリーを地図上に示している。

 1つめのメモはここまで。続きはそのうち。

*1:ちなみに当日はネット中継があったらしい。そのうち動画で公開されることを(特に根拠もなく)期待。

*2:スライドでこのようになっていたが、ボケッと聴いていたせいでどの話題がどの項目か分からなくなった。以下はxiao-2のメモ準拠で項目立て

*3:Friday, July 27, 2018 Sapping Attention | Mea culpa: there *is* a crisis in the humanities

*4:このデータの出所はメモできなかった。先述のブログをきちんと読むと書いてあるのかも?

*5:Digital Scholarship Support Group

*6:Academic Technology of the Faculty of Arts and Science

*7:IQSS

*8:Harvard Library Office of Scholarly Communication

*9:Library Technology Service

*10:Digital Teaching Fellows(DiTHs)

*11:このへんの大学内の組織の説明は、外部の人間には呑み込みにくい部分がある。同じ方の別イベント登壇時のメモ(2016-06-26 シンポジウム「ライブラリアンの見た世界の大学と図書館〜図書館利用行動を中心に〜」に行ってきた。なども参照。

*12:East Asian Digital Humanities Lab

*13:図書館の世界における「パブリックサービス」の意味は下記参照。図書館サービス|コトバンク

*14:Research Guide for East Asian Studies

*15:ブログを書くためにPetzold Collectionをググったら紹介動画を発見。

*16:IIIFって何?という方はこちらを参照。2016年4月28日 digitalnagasakiのブログ|今、まさに広まりつつある国際的なデジタルアーカイブの規格、IIIFのご紹介

*17:Digital Research Center

*18:Constitutional Revision Research Project

*19:Japan Disasters Digital Aschive

*20:Lex Berman

*21:Donald Sturgeon

*22:Chinese Text Project

*23:Digital Sinology

*24:Peter K.Bol

*25:ChinaX: China's past, present and future | edX

*26:China Biographical Database Project

*27:Story Map JS:Hedda Morrison

*28:モリソン文庫の詳細はこちら。 モリソン文庫の渡日 東洋文庫15年史 - 公益財団法人 東洋文庫