「図書館戦争」の、本当にあるところ。

 友人のNさんと一緒に映画「図書館戦争」を見に行った。Nさんは別に図書館関係者ではない。原作は読んだけれど、ずいぶん前なのであまりよく覚えていないそうだ。
 そんなNさんと鑑賞後にしゃべっていて、「え、あれフィクションじゃないの?」と驚かれた部分がいくつかあった。逆に図書館関係者からすると「え、フィクションだと思ってたの?」と驚かれるだろう。けれど、そう言えばそういう「当然のこと」を真正面から説明した文章は案外目にしないように思う。
 という訳で、Nさんと話したことを文章に書いてみる。★映画等のネタバレが気になる人は以下は読まないでください。★

  • 「図書館法」は本当にあるよ。

 図書館戦争の世界で図書隊の設立根拠になっていた「図書館法」。同名の法律は実在する*1。昭和25(1950)年にできたもので、目的は以下のとおり。

第一条 図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定め、その健全な発達を図り、もつて国民の教育と文化の発展に寄与すること

 目的のとおり、図書館というものをどのようにしなくてはならないか、ということが決められている。たとえば図書館に入るのに入場料を取られないのは、この法律のお陰*2

 さてこの法律は、実際には「総則」「第二章 公立図書館」「第三章 私立図書館」という構成になっている。フィクションなのは、これに「第四章 図書館の自由(通称「図書館の自由法」)が追加されたという部分で、この部分が図書隊の根拠になっている。

 「図書館法」の第四章はフィクションだが、ここで登場している「図書館の自由」の本文は完全にフィクションという訳ではない。というか、ちゃんと元ネタがある。元ネタはこちら。

図書館の自由に関する宣言日本図書館協会 1954 採択 1979改訂
図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。
この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。
第1 図書館は資料収集の自由を有する
第2 図書館は資料提供の自由を有する
第3 図書館は利用者の秘密を守る
第4 図書館はすべての検閲に反対する
図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。

 これは法律ではなく、日本図書館協会という団体が作った宣言。最初に作られたのは1954年に、協会の総会で採択された。その後1979年に改訂されている。全文はもうちょっと長いが、説明が多くて意図が解りやすい*3
 法律でないならどういうものか。正確な説明はものすごく難しいのだけど、まあプロとしての心構えというか、図書館の人たるものこういう姿勢でお仕事すべしというスローガンのようなものと言えばいいのか。個人的には、たとえばジュネーブ宣言と似たような位置づけのものだと思っている。

  • 「見計らい」ってどんなことか。

 映画の中で、図書隊の人が書店に飛びこんで「それらの書籍は〜(中略:権限と根拠法規)見計らい図書とする!」と宣言し、良化隊に本が押収されるのを食い止める場面がある。この「見計らい」は、実際に図書館で使われる言葉だ。
 図書館では継続的に大量の本を買うので、いちいち書店に行っていては間に合わない。かと言って、他のものを仕入れる場合のようにカタログで型番だけ指定して一括購入という訳にもいかない。できれば、実際の個々のモノを見て選んだ方がいい。
 ということで、書店の方から出張してきてもらう。大量の本をいったん図書館に運んでもらい、図書館の人が実際に本を見て*4確認して、買うか買わないか選ぶ。これを見計らいという*5

 映画の中での「見計らい図書」の意味は直接の説明がなかったが、見計らい宣言をした次の場面で「お前のせいで余計な予算を使うことになった」といった発言があったように思う。ということは、見計らい宣言=購入決定を意味するのかもしれない。実際の「見計らい」は選ぶ作業の一環で、「見計らい図書」は選ぶために運びこまれる資料(つまり、まだ買うかどうか分からない)を指すので、ここにも若干フィクションは混ざっている。

  • 最後に、Nさんとの会話。

Nさん:図書館の自由宣言というものが本当にあるのは分かった。でも、何のためにそんなこと宣言するの?図書館の人が自分たちだけで気をつけていればいいのでは。
自分:いやー、「ちゃんとこうやります」と明らかにしておいた方が、使う人が信頼して使えるということじゃないのかな。
Nさん:でも私、今それ知ったんだけど。使う人が知らないと意味なくない?
自分:君のよく行く図書館の入口にもポスター張ってあった気がするけど。
Nさん:ポスターだけあっても、説明されないと分からないよ。というか、やっぱり趣旨がよく分からないよね。なんで図書館?
自分:えーと、つまりそれはね…(以下、ぐだぐだになったため省略)


 教訓。せっかくなら観に行く前に、連れに淀みなく説明できるくらい勉強しておくとよいでしょう。

*1:図書館法

*2:第十七条 公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない。

*3:図書館の自由に関する宣言

*4:「見て」なので、別に通読はしない。

*5:参考:大阪府立中央図書館 「としょかんせんなりびょうたん」2007年特別号より「資料情報課のしごと〜本が棚に並ぶまで