ベストセラー貸出を巡るあれこれ。
もうずいぶん前の話。2011年2月、小説家の樋口毅宏さんが、新刊「雑司ヶ谷R.I.P.」に図書館での貸出し猶予を求める一文を掲載したという話があった。図書館関係者の中でそれなりに反響が起きていたことを覚えている。
- 作者: 樋口毅宏
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/02
- メディア: 単行本
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・Togetter:図書館クラスタがつぶやく「図書館貸し出し猶予を…小説家が巻末にお願い」
http://togetter.com/li/106080
・Asahi.com 新刊貸し出し、半年猶予 高崎の図書館、作者の意向尊重(2011年5月12日)
http://book.asahi.com/news/TKY201105120091.html
・日本図書館研究会『図書館界』63巻2号 (July 2011) 図書館の「貸出猶予」を憂う−新刊書の貸出停止がもたらすもの−
http://www.nal-lib.jp/kai/v63/zahyo2.html
さて少し前、とある場でこの話題についてディスカッションしようというお題が降ってきた。準備のため、自分なりに材料を仕入れたのだが、都合によりその場自体がなくなってしまった。もったいないのでここにまとめておく。
- 刊行後半年間で、図書館で読まれる数は?
- 作家の印税は?
- 貸出し猶予が話題になった当時の、樋口毅宏さんのコメントは以下のとおり。
1年かけて書きあげた『R.I.P.』は初版が6千部。印税収入は96万円でした。昨年の収入は他の本が増刷されていても、300万円に届きませんでした。*2
- 本を作る・売るのにかかる経費は?
- 本もモノである以上、印税以外に色々費用はかかっているはず。この内訳が一般的にどんなものなのか。
- 小説ではないが、漫画本の場合の数字があった*4。本体価格515円、製作部数50,291冊の場合。
- 用紙代 1,725,210円
- 版下代 12,800円
- 凸版代 1,100円
- 写植代 28,700円
- 印刷代 853,705円
- 製本代 1,081,256円
- 加工、付録品代 201,629円
- 原稿料 8,000円
- 印税 2,589,986円
- 直接人件費 989,682円
- この内訳で項目になっていない(「直接人件費」に含まれる?)ものとしては、マーケティング、宣伝、実際にモノを運搬する費用、などだろうか。
- 上記の漫画本の場合は、だいたい原価は1冊あたり150円という計算。原価=その本を作って売るのにかかるお金。原価で売っては利益が出ないから、当然ここにいくらか乗ってくることになるはず*5*6。
- 作家が本を書くのにかかる費用は?
- 作家の方も、無から本を書く訳ではないだろう。最低でも時間と労力はかかる。また、ある程度の質を維持するには大量の下調べが必要だろう。程度の差はあれ、フィクションであっても要るはず。
- 前掲「漫画貧乏」p72には、佐藤氏の収入と支出の内訳がかなり生々しく書かれている。
- 収入:作成する原稿は年間450-500頁、原稿料にすると1500万円程度(p72)
- 支出:スタッフ5人抱えているので、人件費は年間1700万円。これに加えて画材費、取材費、事務所の維持費等。
- 上記の数字については、この人の配分がおかしいといった批判もあるようだ。これは考え方次第なので是非の判断はしない。
- 小説家でスタッフを抱える人がどのくらいいるかはよく分からない。
- さて、売れ筋本の賞味期限は?
- 余談。
- 今回調査のために「雑司ヶ谷R.I.P.」を手に入れようと思って、そこそこ大きめの書店に行った。棚に見当たらなかったので店員さんに聞いたら「そちらはいま在庫がありません」。…あー。その書店だけのことかもしれないとは言いながら、皮肉というか、なんというか。
- そのあと別の書店で買えたが、奥付を見ると初版。やはり増刷にはなっていないようだ。内容は面白かった。
*1:この試算は以下の記事に基づいている。根本彰. 図書館での貸出し猶予の意味. 出版ニュース. (通号 2240)
*2:出典:読売新聞「出版後、半年 貸し出し控えて」作家の樋口毅宏さん、巻末で図書館にお願い」2011年3月8日 朝刊
*4:以下の内訳の数字は、佐藤秀峰「漫画貧乏」p86による。
*5:以下の本に価格決定の仕組みが書いてあるという情報があったが、未見。1981 未来社「出版界の虚像と実像」
*6:こちらの調査結果も参考になるか。2006.3 社団法人 日本書籍出版協会「出版契約に関する実態調査 調査結果」(PDF)
*8:ソースは上に同じ