ICタグ導入のお値段。

 箕面市の図書館で、サービスを大幅にリニューアルしたらしい。

(報道資料)箕面市の図書館がサービス充実の全面リニューアル〜府内初、貸出・返却を完全に自動化/年間の図書購入費2倍に〜

 図書館の経費が減るのに図書館の数が増えて、図書購入費が増える?一見するとなんとも謎な話だが、この経緯については、箕面市の市長さん自らブログ*1で詳しくお話しされている。検討の過程で出来た基本文書が、以下の2点だそうだ。「たたき台」を元にした議論を経て、「アクションプラン」を決定した、という関係。

箕面市図書館8館構想たたき台(2011/3/7)PDF
箕面市・知の拠点づくりアクションプラン(2011/8/22正式決定)

 一方で、一連の動きに対して図書館協議会側からの慎重意見もあったようだ。会議録等は図書館のホームページ*2で見られる。
 要約すると、この計画の大きなポイントは、ICタグ導入と業務集中化で人件費を減らして、その分を新館建設や資料費に回す、ということらしい。なお自分は箕面市民ではないので、それが良いとか悪いとか言うつもりはない(というか分からない)。以下はあくまでケーススタディとしての興味に基づく。


 自分が関心を持ったのは、ポイントのひとつであるICタグ導入の費用。これって、いくらかかるんだろう。ということで調べてみた。

  • 基礎知識

図書館用ICタグの基礎知識-株式会社タックポート

 ざっくり理解すると(1)ICタグを買うお金、(2)ICタグを本に貼りつけたりデータを整備するお金、(3)ICタグを読み取る機械やシステムのお金、が要るということか。
 これを踏まえて、箕面市のホームページの入札結果情報*3を眺めてみる。

  • 導入にかかるお金

 これはよく分からなかった。

    • ICタグを本に貼りつけたりデータを整備するお金

 「ICタグ整備作業(契約番号H23-72-0)(PDF)」として、平成23年6月23日の入札で内田洋行株式会社が落札している。この作業の予算は総務省の「住民生活に光をそそぐ交付金」約7,200万円だそうだ。契約金額自体は約5,160万円*4。この作業の中に、(1)のお金も含まれてるのかもしれないな。その方が合理的だし。

    • ICタグを読み取る機械やシステムのお金

 最初の機器は、平成23年11月11日の入札で、東芝特機電子株式会社という会社が落札。

ICタグ機器(H23-181-0)(PDF)

 予定価格*5(約5,940万円)と落札金額(約2,820万円)にずいぶん開きがあったので、議会でちょっと質問が出ていたようだ*6
 その後もリーダライタ・アンテナや、蔵書点検機器等を購入している。

IC蔵書点検機器(H23-221-0)(PDF):約580万円
IC自動返却機用リーダライタ・アンテナ等(H23-250-0)(PDF):約710万円
IC自動貸出機用リーダライタ・アンテナ等(H23-251-0)(PDF):約800万円
業務用及び移動図書館用リーダライタ・アンテナ(H23-254-0)(PDF):約340万円

 11月入札のから合わせると、しめて5,200万円くらい。やはり機械の導入というのは、それなりにかかるのだなぁ。ちなみに納入した会社はすべて同じ。

  • 今後かかるお金

 ところで機械はこの後何年も使うだろうけれど、図書館というのは引き続き新しく本を買う訳だから、(1)(2)のお金は引き続き要る。
 今どのくらいの冊数の本を買っているのか数字が手元にないのだけど、市の報道資料を見ると「年間10,000冊の資料を新たに購入」とある。資料費が倍になるという話から考えると10,000冊は増分で、今後は年間20,000冊ということかな。一方、「図書館用ICタグの基礎知識」によると、ICタグのお値段は1枚数十円という。とりあえず50円とすると、(1)は年間1,000万円か。
 ただ、少なくとも今箕面市のホームページに出ている契約情報ではICタグの単価契約は見当たらないから、単独で買うのではないかもしれない。たとえばTRCでは、タグまで貼り付け済みの状態で納入してくれるサービス*7もあるようだし*8
 と思って見ていたら、代わりにこういう契約が出ていた。

箕面市立中央図書館資料整備等業務委託(H23-244-0)PDF

 3ヶ年契約で1,500万円。これにICタグ貼り付けや、タグそのものの費用を含めて委託するという方法なのかもしれない。内容が分からないのでなんとも言えないけれど。

  • 更新のタイミング

 さて、次に湧いてきた疑問。これ、今後どのくらい使えるものなんだろう?
 ICタグで全面管理するということは、ICタグが駄目になったら管理ができなくなるということ。いつかは更新をしないといけないけれど、そうなるとICタグの貼り替えや、読み取り機器の買い替えが発生するのだろうか。
 「図書館用ICタグの基礎知識」によれば、ICタグ自体の寿命は10年くらいだそうだ。ただ、実際の運用については図書館システム側の仕様に依存するという。箕面市の図書館システムはMDISのMELILらしい*9。導入は2010.3とのことだから、更新は3-4年後か。そのタイミングで何か作業が発生するかもしれない。
 読み取り機器の耐用年数は5年くらいだろうか。ICタグのフォーマット自体はある程度標準化されているそうで、特定のメーカーに統一しないといけない訳ではないのかもしれない。が、今回すべて同じ会社から機器を仕入れているように、やはり実際問題としてはバラバラだと問題が多いのだろう。ということは、5年後には買い替えかな。
 あと、先日読んだ「セキュリティ経営」との絡みで気になるのは、図書館用ICタグの調達の安定性。昨年の震災で東北のメーカーが操業できなくなり、そこの製品が仕入れられなくなったというニュースは時々聞く。図書館用ICタグなんて市場が小さいだろうから、作っている会社がどのくらいあるのかは気にかけておいた方がよさそうだ。まさか使っているタグが生産中止になったら周辺機器もすべて買い替えなくてはならないなんてことはないだろうけど、なんらかの対応にかかる費用は必要だろう。


 以上、色々と勉強になるニュースだった。
 ちなみに個人的な感想としては、自動貸出機は確かに便利。いくつか利用したことあるので、これは断言できる。
 一方、返却も自動でやるというのは珍しい。使う側としては自動の方が楽だが、管理サイドとしては返却の時に資料の切り取り汚損の確認もするケースが多いからだろう。ICタグ導入しても切り取りは担保できないしなぁ。まあ、貸出・返却を全面自動化している図書館は他にもある*10し、結局は市民のモラルの問題なので、気にするほどのことではないのかもしれないけれど。

*1:2011年09月08日小野原に図書館ができるまで(1)(2)(3)(4)(5)

*2:箕面市立図書館協議会/箕面市

*3:箕面市ホームページ:入札結果について(平成22年度、23年度入札分)

*4:めんどくさいので10万円単位四捨五入している。以下同様。

*5:予定価格とは-時事用語 Weblio辞書、根拠法令は予算決算及び会計令第79条とか。

*6:平成23年12月定例会(第4回)11月30日−01号。会議録はこちらで参照可能:箕面市議会会議録検索システム

*7:株式会社図書館流通センター図書館専用IC

*8:ただし、TRCが箕面市での図書館資料購入に携わっているのかどうかは分からないけれど

*9:こちらを参照:「公共図書館WebOPACの現在」リンク集 このリンク集は作成者の推測によるとあるが、確かに蔵書検索画面が他のMELIL導入館とそっくりなので同じものだろう。

*10:箕面市では、先行例として三鷹市等に取材されているそうだ。