そのデジタル化資料を使うのは誰か。

 数日前のニュースだけれど、カレントアウェアネスでこんなのを見た。

佐賀県立図書館、「佐賀県立図書館データベース」(ベータ版)を公開
http://current.ndl.go.jp/node/20462

 古文書や古地図・絵図などの画像が見られるらしい。


 佐賀県立図書館では古文書の有名なコレクション「鍋島文庫*1」等の郷土資料を所蔵していて、ここ数年でデジタル化を進めている。

郷土資料のデジタル化事業について
郷土資料のデジタル化事業は、「図書館先進県づくり事業」(平成19年度から)により開始し、「郷土資料デジタル化促進事業」(平成21年度から23年度)により本格的な取り組みをはじめました。また、この事業費の一部として平成22年度は財団法人図書館振興財団助成金を活用しています。

 上に引用されている「図書館先進県づくり事業」とは、平成19年12月28日付けの文書。郷土資料に関する記述のみ引用する。

「図書館先進県づくりのための今後の方策*2
○郷土資料の収集・整備・活用
歴史資料(古文書資料等)は寄託資料も含めれば78,928点(平成18年度末)となり、九州各県の公共図書館では最大の所蔵館となっています。これまでも県立図書館所蔵の古文書資料を活用した書籍も多く出版されています。また、約18,000点が未整備であり、佐賀藩の先進性を示す多くの資料が含まれている未整備資料の公開・活用を図ります。さらに、「古文書機能」を持っている唯一の施設として、県下に所在する歴史資料の調査・収集・整備を進め古文書館機能を充実し、佐賀県の持つ貴重な歴史や文化が広く認識されるようにします。

 整備を進める過程で、「伊勢物語」の古写本が見つかったなんていうニュース*3もあったようだ。

 それらの成果の一つが冒頭で出てきた「佐賀県立図書館データベース」なのだろう。またこれに先立ち、平成21年から県立図書館のOPACで鍋島文庫の複製物が検索できるようになっている。

「鍋島文庫」(複製物)目録のWeb検索について
このたび、寄託者である鍋島報效会(なべしまほうこうかい)の協力を得て、鍋島家文庫の複製物の目録をWeb検索できるようになりました。


 さて。
 一方で佐賀県立図書館のホームページ等を見ると、上述のようなデジタル化とあわせて、古文書を読む講座も継続して行われている。

平成23年度 古文書講座(中級編)を開催します(PDF)
郷土について書かれた貴重な歴史資料である古文書を読むことによって、佐賀県の歴史と文化に対する関心を深めていただくため、下記のとおり、中級者向けの古文書講座を開催します。

 2012年3月からはWeb講座も公開されている。楽しそう。

くすクスくんのWeb版古文書入門

 さらに大学の研究所と連携して、古文書が読める教職員の養成を図っている。

ICT教育など2事業で新たに連携 佐賀大と県教委 :佐賀新聞の情報サイト ひびの

 こうした古文書が読める人材の育成については、実は県の総合計画に盛り込まれている。県の課題として取り組んでいると考えてよいだろう。

佐賀県政策カタログ2011
(12)古文書が読める人材の育成
 古文書には、その地域の歴史・文化が記されており、これを読み解くことで、歴史に対する理解を深めるとともに、文化の振興にも寄与するものです。県内にも多くの古文書がありますが、読める人が少ないため、埋もれた状態のものも少なくありません。
 このような中、古文書を整理・所蔵する県立図書館には高度な読解力をもった職員を配置していますが、その数は限られており、また、各地域においても、読める人材は少数にとどまっています。
 現在、活躍されている古文書を読める人も高齢化しており、古文書に触れる機会を広く県民に提供するには、古文書が読める人材を増やしていく必要があります。

 ちなみに佐賀県では本日(2012年4月1日)、公文書館もオープンしたらしい*4


 古文書や古地図の類のデジタル化は、いまやあちこちの図書館で行われている。保存の面でも、見つけやすくなるという面でも、とてもありがたいことだ。
 だがその陰で、ではそのデジタル化したものを読める/使える人はどのくらいいるのだろうか?という点を見過ごしがちなことに、気付かされた。いくら古文書の画像が「見られる」ようになっても、古文書を「読む」能力そのものはそれと別に要る*5。ただ崩し字を解読するだけでなく、意味を理解して活用する能力は、さらにそれと別に要る。佐賀県の取り組みでは、そういった部分まであわせて考えられているということなのだろう。
 デジタル化したものを本当の意味で生かすには、その資料を読める/使える人の育成まで意識する必要がある。もちろん、育成にどのくらい図書館が直接関わるべきかは状況によって違うのだろうけれど。

*1:佐賀県立図書館のホームページによると「「鍋島家文庫」とは、鍋島報效会から県立図書館に寄託されている肥前佐賀藩・鍋島氏の記録を集めたものです。宗門・人別・年貢・治安などの藩政史料、地誌・地図等も含まれています。」

*2:佐賀県:「図書館先進県づくりのための今後の方策」を策定しました。

*3:カレントアウェアネス2009-9-18佐賀県立図書館、『伊勢物語』古写本を発見

*4:●平成24年4月1日 佐賀県公文書館がオープンしました!

*5:こういった能力を「和本リテラシー」と呼んでいる方もいましたね。

和本のすすめ――江戸を読み解くために (岩波新書)

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