続・日本図書館協会図書館政策セミナー「非正規雇用とは?自治体の非正規雇用職員制度」に行ってきた。

 前回のイベントレポートの続き。上林陽治先生のお話。
 ※繰り返しますが、例によってxiao-2が聞きとれてメモできて理解できてかつ覚えていた範囲、のメモ。誤記・誤解はたぶんあり。

  • 第二部、「雇い止め」問題について
    • 非常勤職員とは何か。ここまでの定義をまとめる。
      • 第一は勤務時間。常勤であるか、非常勤であるか。
      • 第二は仕事の内容。本格的であるか、補助的であるか。ここで本格的というのは、必要不可欠である、その業務がないと仕事が回らないということ。
      • 第三は有期か否か。期間の定めのない雇用か、定めのある雇用か。以下では、この点を問題にする。
    • 期間が切れれば、雇い止めの問題が発生する。「雇い止め」とは、雇用期間が終わって、再度雇わないこと。解雇とは違う。解雇とは期間の途中で仕事を失わしめるもの。
    • 公務員の非常勤職員の雇い止めに関する学説は三種類。
      • 第一。民間労働者と同じ労働契約であるとする説。
      • 第二。行政の一方的な「任用」なので、任用上の地位を保護するとする説。
      • 第三。信義則にのっとって判断するとする説。
    • 非常勤職員には地方公務員法の適用がないとすれば、雇用契約として考えることになる。
  • 公務員の任用について
    • 前提として公務員の任用は行政処分であり、雇用契約ではない。雇用契約は私法上の取り決め。
    • まず雇用契約の場合、一年間雇用して、さらに働き続けていれば、民法629条*1により黙示の合意があったものと見なし、契約書を取り交わさなくても契約したと見なす。さらに、それが10年続いた場合には「期間の定めのない雇用」に転化し、それ以降に雇用を切ると「解雇」となる。これを解雇権濫用法理の類推適用という*2。具体的な事件としては東芝柳町工場事件*3
    • これに対し地方公務員法では、任用期間が一年を超えた場合も、再度任用しない限り任用できない。なぜなら任用は行政処分、相手(=雇われる側)との合意に関係なく行政が強制的に行うもの。生活保護などと同じ。「任用は合意のある徴兵制」と言う人もいたくらい。
    • 処分には必ず期限が決まっている。最初から期限があるという前提なので、一年が終わったところで「職を解きます」と言わなくてもいい。したがって黙示の合意が成立しない。
    • 裁判では後者(地方公務員法に基づき、黙示の合意が成立しない)の考え方をとる。
    • では行政処分で、10年連続で勤めたらどうなるか。自治体にもよるが、きちんと毎年任用の手続きをとらず、口頭確認のみのケースもある。
    • 判例によると、以下のとおり。
      • 長野県農事試験場事件*4:任期付任用を反復更新しても任期の定めのない任用には転化しないとした。
      • 名古屋市立菊井小学校事件:労働者側が当然に雇用が継続すると期待する「期待権*5」はあるかもしれないが、その期待権は法的に保護されるものではないとした。
      • 大阪大学図書館事務補助員事件:図書館のカウンター業務は補助的業務であり、解雇権濫用法理の類推適用はないとした。労働者側の雇用継続に対する期待は法的に根拠のないものであるが、ただしそのような誤った期待を抱かせたことへの損害賠償はありうるとした。
    • 3番目の事件以降、期待権への賠償法理を適用するケースが多くなった。任用という行政処分をしていないので「継続して雇用しなさい」と言うわけにはいかない。そこで代わりに賠償を払いなさい、という考え方。
    • この場合の訴訟形式は、行政事件訴訟法第3条第6項*6に基づく。
    • 裁判所は直接「任用」をすることはできない。任用の主体は行政庁であり、三権分立なので裁判所が代わりに行政処分を行うことはできないから。代わりに「任用する義務があるよ」と言うことはできる。
  • ここで質疑応答。
    • 質問:国家公務員法地方公務員法で違いはあるのか。
    • 回答:任用についての仕組みは同じ。ただし、国になくて地方公務員にだけある雇用の類型というものがある。「特別職の非常勤職員」という身分は、地方にはあるが国にはない。国の場合はすべての職員が一般職で、国家公務員法の対象となる。
    • 質問:期待権というのは法律で定められたものか、判例により成立したものか。また、公務員の任用関係に関する規定で、特別職は対象とならないのか。
    • 回答:一つめ。期待権判例上の概念であり、明示はない。普通の雇用契約の場合は労働契約法により、解雇は「客観的に合理的な理由があって、社会通念上相当であると認められる場合」でなければ許されない*7。この要件が揃うかどうかは、裁判で訴える側が証明しなくてはいけない。公務員にはこの法律が適用されない。育児・介護休業法*8なども同様。
    • 回答:二つめ。特別職は任用ではなく労働契約に当たるか、とのことだが、そうではない。そもそも地方公務員法では、公務員の種類しか決めていない。任用は地方自治法第172条*9に基づく。一般職か特別職かは関係ないし、労働法の適用対象でもない。
    • 回答:中野区非常勤保育士再任用拒否事件*10の場合は、原告は特別職の非常勤雇用だった。労働法の適用対象になりうるかと頑張ったのだが、裁判所が認めなかった。
    • 質問:裁判所が雇用を義務付けできるかどうか定まっていないというのはどういうことか。たとえば民間企業での労働関係の訴訟でも、復職させるのは裁判所ではなく会社のはず。
    • 回答:裁判所のすることは、事象認定。たとえば東芝柳町工場事件であれば、労働者の地位を裁判所が認定する。一方公務員の任用については、裁判所が認定できる「(行政上の)地位」は存在しない。行政処分だから。代わりに、行政庁に対して義務付けるというもの。
    • 回答:ちなみに、裁判で「却下」と「棄却」は意味が違う。前者は訴訟要件がない、つまり審査もしない。門前払い。後者は審査した結果認められないとするもの。行政事件では、重大な損害がないと訴訟要件が成立しない。
  • 第三部、ではどうすればいいか。
    • 公務員の非正規職員について4種類の偽装がある。
      • 第一:偽装「非常勤」。勤務時間からの観点。正規職員より3分だけ短い勤務時間を設定するなど。
      • 第二:偽装「非正規」。業務内容からの観点。以前からあって正規職員が担当していたような業務なのに、業務はそのままで非正規職員に置き換えるなど。
      • 第三:偽装「有期」。継続任用期間からの観点。継続して働いているのに、任用だけは2ヶ月ごとに更新するなど。
      • 第四:偽装「雇い止め」。任用更新時からの観点。実質的には解雇。
    • 役割、責任、業務内容は正規職員と同様なのに、処遇は良くない。すると労働者側のモチベーションが下がり、サービスの質が下がり、市民の満足度が下がる。マイナスの循環を食い止めるために、非正規職員の正規化が目標。
  • 色々な取り組み
    • 荒川区方式。荒川区では非常勤職務を役割ごとに分類し、報酬月額を定めている*11。基本は経験年数によって給与が決まる。任用の時には試験もやる。
    • 本日会場に来られている方で、荒川区にお勤めの方がいたと思う。こうした方式に変わって、職場の雰囲気に変化はあったか。(会場:結婚して子どもを産む女性が多くなった。前なら出産をきっかけに辞めてしまっていたケース。)
    • 2008年に人事院から、非常勤職員の給与に関するガイドラインが出た*12。国家公務員非常勤の場合は、職務経験で給与の上積みをするようになっている。
    • 自治体での事例としては、都立高校の時間講師に関する規則というのがある*13。経験年数を給与に反映させている。経験年数なので、いわゆる昇給とは違う。有期雇用に対応できるようになっている。
    • 町田市方式。
      • 98年には嘱託職員を10名採用。当初は、正規職員よりも嘱託職員の方が能力が高い「逆転現象」にならないよう、専門職制度を入れて正規職員で回そうとしていた*14*15
      • 2001年には嘱託職員が38名まで増えた。この年、人事異動基準が改定され、司書職の人は希望しない限り他に異動しなくていいことになった。正規職員の司書有資格者を増やそうと予算をつけて講習を受けさせたりしたが、資格をとっても異動してしまう。結果としてノウハウは嘱託職員に蓄積。
      • 一方で、嘱託職員の雇用更新切れが近づいてくる。そこで2003年に要項を変えて、任用更新可能とした*16。嘱託員に猶予期間を与えて資格を取らせ、有資格者については雇い止めをしない。嘱託員を基幹化した。2011年には、勤務時間換算すると嘱託員の方が多くなっている。
      • ただし、それでも常勤職員に比べると処遇は低い。
  • まとめ
    • 非常勤問題の分類
      • 第一は、入口。公務員は無期(期間の定めのない)雇用が建前、有期雇用は例外。補助業務、臨時の場合だけ許される。本格的な業務をやっているなら、それは公務員といっていい。専門的知識の必要なスペシャリスト=専門職公務員と、ジェネラリスト=総合職公務員というあり方を考えてもよいのではないか。
      • 第二は、内容。働く人が誇りを持てるような処遇を。
      • 第三は、出口。解雇や雇い止めの規制。
    • これらの問題をなんとかしないと、このままでは持続可能な良いサービスができなくなるかもしれない。
  • 最後の質疑応答

 ※このあたりから脳の容量を超えて、メモが追いつかなくなってきたのでスカスカ。

    • 質問:雇用の更新について。自治体によっては「更新は○回まで」と決まっているところがある。なぜか。そうしないといけないのか。
    • 回答:更新回数を制限する自治体は、確かに増えている。きっかけは大阪大学図書館事務補助員事件や中野区非常勤保育士再任用拒否事件等。判決で期待権への損害賠償発生が認められたので、「黙示の合意」がないよう、きちんとするようになった。ただ、法がそのように命じているわけではない。地方自治法などではそういった規定はない。
    • 回答:自治体側のロジックとしては、憲法27条を根拠にしている。すなわち、公務員には誰でもなれなくてはいけない*17。したがって一定の人に一定の職を与え続けるのはおかしい、という理屈。
    • 回答:住民への説明責任はいずれにせよ必要。任用を求めるのであれば、試験や実績評価を受け入れなくてはいけないかもしれない。
    • 質問:図書館というのは図書館法*18に基づき、専門職として認められているもの。専門性をキープする必要がある。図書館以外の非正規職員についても、図書館をモデルとして法体系の突破口が開けないか。そういう動きはないか。
    • 回答:同じ教育委員会の管轄でも、教員は学校、保育士は保育所だけで勤務する。なぜ図書館だけが自治体の、ジェネラリストとしての人事ローテーションに組み入れられているのか。切り離す必要がある。だが、専門職制として切り離す動きは見ない。日本図書館協会文部科学省でやるべきでは。
    • 質問:行政としては地方公務員法を前提として、荒川区のように事実上の昇給を決めたり、町田市のように嘱託員を基幹に位置づけたりしていると分かった。一方、20%を超える委託や派遣での職員についてはどうか。そちらの方が状況は厳しいのでは。どうすべきか。
    • 回答:確かに、委託・派遣職員への言及はしなかった。今回、行政の非正規職員をテーマとして主催者から指定されたため。ただし、民間の方が労働者として闘うには有利な面もある。
    • 回答:どうしたらいいか。できることはたくさんある。町田市や荒川区のケースも、労働組合の立場の人から見ると「安上がり」だという批判はある。本来正規化を求めるべきところを迂回したという批判。もう一歩踏み込む必要はある。
    • 回答:臨時職員・非正規職員の数は5倍になっている。その状況をなぜそのままにしておくのか、とは思う。ただ、行政から「あなたがいないと困る」というメッセージが発されることは重要。
    • 回答:今回民間委託の話はしなかったが、2011年の全国図書館大会では指定管理・業務委託の契約事務の話をした*19。考えられる方法は2つ。
      • 一つの出口は、公契約条例*20*21
      • もう一つの出口は、臨時職員が自らNPOを立ち上げ、指定管理を請け負うこと。ただ、自分としてはこれはお勧めしない。図書館業務はできても、図書館行政を担うことはできないから。


 メモは以上。
 法律に判例、情報量が豊富でいっぱいいっぱいだったが、整理されたレジュメと講師の方のフレンドリーな語り口のお陰でどうにかついていけた。決してわくわくするような話題ではないけれど、知らないと始まらないと思う。

*1:民法第629条「雇用の更新の推定等 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる」

*2:参考になりそうなサイト:独立行政法人労働政策研究・研修機構 個別労働関係紛争判例集(100)有期契約の更新拒絶(雇止め)

*3:独立行政法人労働政策研究・研修機構 【事件名】労働契約存在確認等請求上告事件

*4:同事件の高等裁判所の判決と思われるものがあった。昭和56(ネ)730 長野県非常勤職員雇用打切り 昭和58年12月21日判決 全文PDF

*5:参考:有期雇用契約・契約更新の期待権|総務の森

*6:行政事件訴訟法第3条「6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう」「一  行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」「二  行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき」

*7:厚生労働省|労働契約法について

*8:厚生労働省|育児・介護休業法のあらまし

*9:地方自治法 第172条「(前略)普通地方公共団体に職員を置く」「2 前項の職員は、普通地方公共団体の長がこれを任免する」

*10:高等裁判所の判決:平成18(ネ)3454 地位確認等請求控訴事件 平成19年11月28日

*11:参考:荒川区非常勤職員規則

*12:平成20年8月26日給実甲第1064号「一般職の職員の給与に関する法律第22条第2項の非常勤職員に対する給与について

*13:昭和49年03月30日 教育委員会規則第24号「都立学校等に勤務する時間講師に関する規則

*14:当時の町田市の経緯は、「ず・ぼん」という雑誌の1998年10月号で一度特集しているらしい。以下など。/都築正春. 専門職員の在り方を検討する. ず・ぼん:図書館とメディアの本.(通号 5) 1998.10.

*15:また、翌年にはこういう記事も出ている。/手嶋孝典. 町田市立図書館が嘱託制度を導入するまで. ず・ぼん(通号 6)1999.12

*16:どれが根拠規定に当たるのかよく分からなかったが、非常勤職員一般についての規定はこのあたりか/平成17年12月27日 条例第53号「町田市一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する条例」、平成18年03月07日 規則第8号「町田市一般職の任期付職員の採用及び給与の特例に関する条例施行規則

*17:…と聞いたのだが、日本国憲法第27条を見ると「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。3 児童は、これを酷使してはならない」とだけある。この条文についてそういう解釈があるのか、あるいは自分の聞き間違いかも。

*18:図書館法

*19:全国図書館大会2011 第8分科会「図書館職員の雇用問題

*20:図書館の公契約条例については、こちらを参照/日本図書館協会の見解・意見・要望 2010/09/01 図書館事業の公契約基準について(PDF)

*21:また過去の記事「日本図書館研究会特別研究例会「図書館の公契約基準の提起」に行ってきた。」でも、日本図書館協会の見解についてメモしている。