図書館総合展に行ってきた。〜図書館政策フォーラム「東日本大震災からの復興と震災への備えに向けて」第3部「非常時からの復興、そして平時の備え」
総合展からひと月近く。今頃レポートをアップするなんて、六日の菖蒲というか26日のクリスマスケーキというか…であるが、めげずに書く。自分のために。
図書館政策フォーラム、第3部。毎度ながら抜け漏れ・誤解はご容赦、しかもひと月近く経ってから書いてるのでかなり忘れつつある。敬称は「さん」に統一。→以下は自分の感想および妄想。ちゃんとした記録は公式レポートを見るべし。
- 文部科学省 萬谷宏之さん
- 本日は社会教育施設担当という立場から話す。
- 東日本大震災における社会教育施設の被害状況。10月27日時点で物的被害件数は3,397件。県別の内訳は最も多かったのが宮城県で654件、ついで福島県で530件など。図書館も社会教育施設に含まれる。件数としては、3,397件中251件。
- 公立社会教育施設災害復旧費補助金*1について。第一次補正予算で87億円。これは阪神大震災の時の第一次・第二次補正予算を合わせたくらいの規模。それでも足りないので、第三次補正予算案として329億円を出している。
- この補助金は、被災した社会教育施設の復旧にかかる費用の3分の2を国が補助するというもの。図書館もこの中に含む。さらに3分の1は震災復興特別交付税で措置される予定であるので、実質的には100%の補助となる。
- 補助金交付にあたって、被災した施設を現地に確認に行く。数が多くて文科省の担当課ではとても足りない。他の課からも応援を頼み、毎日出張の連続。
- 申請手続きも簡素化している。が、それでも難しい。
- 「子どもの学び支援ポータルサイト」というサイトを開設*2。これは支援のニーズと提供側をマッチングする目的のもの。子どもの学びと銘打っているが、子どもに限らず図書館も含めた社会教育施設を対象としている。
- また図書館の災害対策等については、以前に委託調査による報告書を出している*3。
→社会教育施設の被害状況のスライドを見て、特定被災地方公共団体に指定された県が9つもあることを今さら実感する。西日本で見聞きする報道やキャンペーンでは震災=東北というイメージが強いのだが、実は茨城、栃木、千葉、新潟、長野も特定被災地方公共団体なのだ。しかも被害件数を見ると、岩手県(372件)よりも茨城県(521件)の方が多かったりする。もちろんこの数字だけから震災の被害の軽重は問えないが、関東にも注目すべきということは言えるだろう。
→「子どもの学び支援ポータルサイト」は4月1日付けで発表されている。3月11日の震災後に、情報の混乱と年度末の忙しさの中、たった20日間でこういうものを立ち上げたというのはひそかに凄いことだと思う。文科省にだって、自分や身内が被災した人もいただろうに。
- 総務省 白石牧子さん
- なぜ総務省と図書館が関係あるのか?と思われるかもしれない。が、総務省というのは情報を流通させることがミッションのひとつでもあるので取り組んでいる。
- たとえば電子書籍について、昨年6月にも「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」*4という共同懇談会が開かれている。その中の「オープン型電子出版環境の整備*5」については総務省がメインで担当することとなっている。
- この環境整備の具体的な内容のひとつに、図書館デジタルコンテンツ流通促進プロジェクトがある。鎌倉市の電子図書館*6等もこの取り組みの一環。
- 東日本大震災アーカイブ基盤構築プロジェクト*7。災害の記録を収集・保存・公開できる体制の整備を図るもの。国立国会図書館などと連携し、ルール作りやソフトウェア開発を進めている。これはかなり色々な人が参加している。3.11後の初めてのテーマは「災害と電子書籍」だった。
- 神戸大学附属図書館 稲葉洋子さん
- 1995年に阪神・淡路大震災が発生。当時の被害の様子を「震災文庫」デジタルギャラリーで紹介*8。この時は火災が多かった*9。
- 震災による神戸市の被害。人口は1995年1月1日の時点で1,520,365人。それが1995年10月の時点では1,423,792人。その後だんだん増加して、2004年11月時点で1,520,581人と震災前の人口に回復した。元に戻るのに9年かかったということ。復興の道のりは長い。
- 神戸大学附属図書館で震災資料の収集を開始したのは1995年4月。被災の記憶はどんどん風化していくし、被災地とそれ以外の地域での温度差ができていく。資料を集めて公開することは、神戸大学の責務であるとして決意した。この年は「ボランティア元年」とも言われ、Windows95の発売などもあって、市民が自ら情報発信を始めるようになった年であると感じている。
- 震災資料の定義は、阪神・淡路大震災関係の資料。公開を前提としているため、公開できるものに限る。目指したのは網羅的収集。これは対象にするとかしないとか、事前に枠を作らない。
- 作成者の情報を集めて、連絡をとって足を運んで、寄贈を呼び掛ける。ボランティア資料については、ネットワークやマスコミの力を借りる。マスコミ報道に最初に載ったのは1995年6月3日の神戸新聞。まず地元からということで、自分で記事を書いて載せてくれるよう頼んだ。
- 収書速報の発信。資料が届いたら、ただちにデータを作成してインターネットで発信できるようにする。これは文庫の広報も兼ねる。6月末までに、300件の資料のデータを作成。
- 分類と整理。NDCだと偏るので、独自の分類法を採用。装備もオリジナル。
- 1995年10月30日に一般公開。手作りのパンフレットも用意した。また公開に合わせて、メディアに積極的に情報発信。新聞等で取り上げてもらった。
- 翌年の1月には「1月17日を忘れない」として、図書館から売り込みをして行事を組んでもらった。知ってもらう、使ってもらうことが継続のために必要。
- マスコミで震災資料の保存の必要性が言われ始めたのは、震災から3年後。1998年の朝日新聞に載った。
- 1999年に文部科学省の予算がついた。それまで職員の手作りのシステムでデジタル公開していたのを、きちんと電子図書館システムに載せられるようになった。
- 1998年、デジタル化のための著作権処理を開始した。チラシのような一枚もの資料で、著作権処理のため手紙を送ると、著作権者が「こんなものも資料になるのか、では他のものも寄贈します」と言ってくれることがあった。思わぬ効果。
- 文庫継続のための予算確保。1995年には「田嶋記念大学図書館振興財団」という大学の記念事業で予算がついた。1995-1997年は学長裁量経費。1998年には文部科学省補正予算による電子図書館経費。1999-2003年は科学研究費補助金「阪神・淡路大震災マルチメディア・アーカイブズ構築」。98年以降は外部資金によって継続してきた。
- 2004年に震災文庫は独立。他の機関との連携を深めつつ、展示会への資料貸出や、利用希望者と著作権者との仲介を行っている。特に外国への仲介など。
- 2011年に2度目のリニューアルオープン。これからの課題もいくつかある。まずは資料増加への対応。また、カセットテープやフィルム、ビデオテープ等の媒体による資料の保存。全資料のうちデジタル化済みは1割程度。
- 今までこれだけ広報したつもりでいたが、東日本大震災が起きてみて、関東の方には知られていなかったと分かった。関心のない人には情報が届かない。大学として資料収集・公開を継続していくことはほんとうに難しい。
→資料を集めて保存することだけでなく、広報を重視していることが印象的だった。広報は結局予算確保と密接につながってくる。ただ保存するだけでは知られない。知られなければ使われないし、資料も予算も継続的に集まらない。知られることの重要性。
- パネル討議
- 白河市立図書館 新さん
- 司会
- 被災地では実際に、建物の半分にブルーシートがかかったまま、査定が済むまで手がつけられない状態のものがある。
- 萬谷さん
- 申請手続きは従来よりは簡素化しているが、なかなか難しいところ。たとえば査定が終わるまで修復工事に手がつけられない訳ではない。写真を送ってもらえば、事前着工も可能な場合がある。しかし申請する側は慣れていないので、そういうことがなかなか浸透しない。
- 本来「復旧」のためのものなので、新館建設といったプラスの状態にするために使うのは難しい面がある。
- 予算は通常単年度だが、数年分繰越できないか、といったことは考えている。
- 白石さん
- デジタル化について。市町村でなく、県レベルの自治体であっても、生活再建の方が優先される。民間企業や東北大での取り組みと協力して、市町村に負担をかけないようにやってゆきたい。
- 司会
- 白石さん
- 災害の記憶、記録を残していくということが目的。それぞれの司(つかさ)ごとに保存していくのが前提であって、その手段としてデジタルを使えるなら使えばいい、という発想。どう残していくかは、一緒に考えること。
- 司会
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- 司会
- saveMLAK 江草さん
- 自分が北海道で図書館向けの講演をした時にも対口支援については考えた。自治体同士の間であれば、どこの部署がどの事業を担当するといったかなり細かいレベルでの協定がある。図書館ではやっていなかったが、必要かもしれないと思った。
- しかし自治体の政策において、道路整備や病院等の命に関わることは優先するというコンセンサスが得られている。学校はともかく、基本的に文化施設についてはそのようなコンセンサスが得られていない。超法規的に何かやれる体制でない。
- たとえば地震で道路が壊れた場合、超法規的に通常の調達の仕組みを飛ばしてよい規定があったりする*11。図書館はそのようになっていないため、協定が結びにくい。
- なぜできないのかは外部からはなかなか分からないが、図書館自身がやろうとしていなかった、あるいは必要だと思われていなかったという面があるのでは。図書館も協定に入れてほしいと主張していないだけかもしれない。
- 福島県立図書館 吉田さん
- 司会
- 萬谷さん
→雑誌購入の件、似たような話を聞いたことがあるな?と思ったら、大阪府立国際児童文学館での職員さんのお話だった。継続購入しない雑誌でも児童文学関連の記事が載っている号は買う、児童文学については児童文学館で網羅できるようにするというお話*16。専門図書館とはつまりそういうものなんだろう。
-
- 司会
- 稲葉さん
- 今司会が提案されたような取り組みは、かつて兵庫県がやったこと。21世紀ひょうご創造協会という団体で雇用促進の予算をとって、データ入力作業まで行った。そのデータを人と防災未来センターが保存している。データの中には、プライバシーに抵触するなど公開できない情報もある。すべてのデータを図書館におくかどうかは別として、データはセンターで保存。
- 司会
- 単にデジタルアーカイブを作るだけでなく、現地雇用の問題も含めてというのはありうるか。
- 白石さん
- 司会
レポートは以上。
全体の感想としては、すごく大がかりな場を設けたなあ、と思う。「震災と図書館」というと被災体験だけが注目されがちなところ、支援する側や政策面のキーパーソンまでを集めて話してもらうというのはなかなか機会がない。それだけに時間も中身もボリュームがあって、聞く側もかなり疲れた。第一部が満員だったのに、第二部・第三部と進むにつれて聴衆が少なくなったのもそのためかもしれない。でも、通しで聞いた方が値打ちのあるフォーラムだったと思う。
また、司会自ら積極的に語る場面が多かったのも印象に残った。第一部の最初で宣言されていたとおり、単に集まって終わりではなく、わざわざ来てくれた被災地の方のために何がなんでも一定の成果を出そうという熱意が感じられる。お疲れ様です。
色々お話を聞いて、後で調べてみようと思ったこともいくつかある。そのうちまとまったらここに書きたい。
*1:文部科学省ホームページ「公立社会教育施設災害復旧事業について」と、その根拠法「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」および「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律施行令」
*2:東日本大震災 子どもの学び支援ポータルサイト、文部科学省ホームページ「Webサイト「東北地方太平洋沖地震 子どもの学び支援ポータルサイト」開設(東北地方太平洋沖地震における被災児童・生徒等支援ポータルサイトについて)」
*4:総務省ホームページ「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」
*5:文部科学省ホームページ「電子出版環境整備事業(新ICT利活用サービス創出支援事業)」
*7:参照:「東日本大震災復興関連事業チェックシート(PDF)」
*9:このあたりは、実際写真を見た方がよいと思う。震災文庫デジタルギャラリー
*11:具体的にどのレベルで規定されているものか分からないが、元々の根拠としては地方自治法施行令第167条の2で定める随意契約の規定「五 緊急の必要により競争入札に付することができないとき」に該当するのかな?(参考:地方自治法施行令(昭和二十二年五月三日政令第十六号))
*12:公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準(平成13年7月18日文部科学省告示第132号)
*14:「住民生活に光をそそぐ交付金」とは、平成22年度の補正予算に盛り込まれた「地域活性化交付金」のひとつで、これまで住民生活にとって大事な分野でありながら、光が十分に当てられてこなかった分野に対する地方の取組を支援するもの。使途の具体的な例として「図書館など知の地域づくり」が挙げられている。(以下より要約:『平成23年版 地方財政白書』2.地域力の創造と新成長戦略|第3部 最近の地方財政の動向と課題 (2)新成長戦略に基づく経済対策と地域の活性化)
*16:過去の記事参照「大阪府立国際児童文学館に行ってきた〜バックヤードツアー篇」